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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第3幕 第11話 夜の形

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「ただいまー」
「おかえり」
「可愛い!この子達どうしたの」
「お土産~お腹減ったし風呂入るからご飯よろしく~」
「あ、俺も連れてって」
「いいよ~話しはグリと妖精王、傭兵王から聞いてー」
トラングが舵を抱えたまま詠斗達用の浴場へ向かう、ラピスとグローリーとジラから海ダンジョンの詳細を聞く事にした。

「あーもう風呂にアルケール殿とナイデル殿とかもうー」
「えー面白かったけど」
職員用の浴場には既にアルケールとナイデルがカノリ酒を吞みながら一杯始めていたのに危うく巻き込まれそうになったのを、トラングが仕事だと嫌がり早々に風呂から上がった。
カジノのバイトに行く為制服に着替えたトラングと詠斗から借りた服を着て、厨房に戻れば魚の焼ける良い匂いが漂ってくる。
「みんなお疲れ!でも魚ダンジョンなんてサイコー!明日俺達も行くよ!」
「簡単なダンジョンだったからな」
「早速船と空間を繋げたよ、旅行から戻ったらカジノと皇国と畑にも空間繋げていつでも行けるようにしようか」
「肉ダンジョンは皇国と畑と繋げているし、魚食い放題はいいな」
詠斗が舵とトラングをホクホク顔で迎え、千歳が空間を繋ぎ船旅が益々飽きないようにし、大河も喜び、率と晴海は海精ヒュール達を抱っこしたりして可愛がっていた。
「ほら、先に飯食えよ。特別に懐記君特製海鮮丼だぞ」
「ん、良いわ便利な調理器具。グリ明日俺も行くわ」
「うん、詠斗達も俺のパーティ入る…??」
「入る入る!」
「勿論」
「ああ、よろしくグリ」
「はーい!俺も入る」
「僕も入りますよ」
「僕も宜しくお願いします、グリさん」
「俺も入れてくれ」
「うん」
詠斗達全員《黄昏の瞳》のパーティに加入する事になり、随分大所帯…そして《アタラクシア》最高峰のパーティが誕生した瞬間だった。
「いただきます~」
「綺麗な海鮮丼!写真撮ろ!では頂きます!」
「俺らは先に食わせて貰ったから、風呂行くわ」
「うん、懐記ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした。今日の夕飯にも海ダンジョンのドロップ品も並べるか」
「いいすね!この調味料と調理器具ヤバいすよ!」
グローリーが収納ショルダーバッグから出した数々のドロップ品、真珠はさておき食べ物関係は大好評だった。
「明日はお好みパーティにでもするか」
『お好み焼き!?』
海鮮丼を黙々と食べている舵以外の日本人メンバーは大興奮だ、この世界の海鮮丼は美味しいな少し温かい酢飯、白身魚と赤身魚刺身にダンジョンでドロップしたウニもどきの鮮やか黄金色の身…具沢山の魚介スープ………『おさかなおいしいねー』小さい時の自分の声と笑顔がふいに蘇る、可笑しい…そうだいつから自分は眠る事も食事も要らなくなったのだ?
「舵…おい舵?」
「え?あ?崇幸兄ちゃん…」
「どうしたぼーとして」
「ん?舵っち味分からなかった?」
「いや…違う…美味しい産まれて始めてこんな美味しい魚食べた…ありがとう懐記ちゃん。スープも美味しい!飯って美味いんだなって考えてた」
「そ、お代わりあるけど?」
「ならスープ欲しいかも」
「懐記~こっちにも、食べたらバイト行くー」
「ん、酒飲み過ぎるなよ」
「あはあは、飲むなって言わない懐記大好き~」
崇幸がほっとした顔を浮かべ懐記がお代わりを出す、何かを思い出しながら食事を確かめるように食べている舵を黄昏色の瞳と黄金の瞳を持つグローリーが少し離れた所から見ていた…。

「海ダンジョンの魚…」
「とんでもない物を食べているな…」
「昨日からですよ、カウン酒といい明日も行くそうですよ」
「こうしちゃおれん、早速買い取りの約束をしに行くぞ」
大食堂で仕事上がりに集まった《ズィーガー商会》の面々、大浴場で入浴を済ませ魚料理に舌鼓を打つ、カノリ酒や果実酒に蜂蜜酒に果実水上質な茶…どれをとっても人生の中で最高の部類に入るであろう食事、金をいくら積んでも食える物でもなければ他の支店の支配人、副支配人に従業員達とこうして食事が出来る時間も普通なら有り得ないだろう、それを可能としてくれたのは詠斗達だった。
「感謝してもしきれん」
「ええ、全く…。お陰様で《ズィーガー商会》は創業以来の大忙しですよ」
ユナイドが笑いながらカノリ酒を口に含む飲みやすさと淡い香りと果物の深み、魚料理に良く合うとしみじみ思った。

「すっかり夜だな、早いな」
「飯沢山食べたー魚ダンジョン良いね!」
「ふいーねむ…おやすみなさい…」
食事も終わり片付けもおりがみの子達とカノリとカウンをすっかり気にいったヒュール達が手伝ってくれすぐ終わり、風呂へ向かう組と大部屋に向かう組と個人の部屋に向かう(崇幸のみ)に別れ、現在大部屋で晴海はシャワーを浴びてそのベッドに寝入ってしまった。
今回風早が作った大部屋は、ベッドが15台にいつも寝ている布団も15組敷いてあり、舵が作ったゲームスペースと図書スペースはそのままテントから移動させていた。
各自自由に好きに寝ようという事で、晴海の隣の布団にはチグリスとその更に隣は《ガルディア》から戻ったニアも入り一緒に寝ている。
大河、千華、ラウラス、ライガル、ニジェルガは眼鏡を借り読書を行い、ティス、グローリー、ゴーシュ、舵はレーシングゲームで遊んでいた。
「お、今日のカジノのジャックポットはクローダーはナツとアキとモギトリオだって。じゃ俺もおやすみー」
スマホのラインを確認した詠斗もそれだけ言うとベッドにもぐり込んで、早々に寝入ってしまう。
「明日のおやつはホットケーキを沢山焼きましょうか」
「良いですね!僕も手伝います!あ、小麦粉足りるかな、お好み焼き用にも。ユナイドさんにラインしておこう」
ナイルと率も明日のおやつの計画を立てて、暫くしてからベッドに入り寝てしまう、夜はまだまだ長い…。

「わー夜の海は真っ暗!」
「さ、みんな寝ますよー」
『はーい』
「……」
「ラキ君外気になる?」
「いや…寝よう」
「うん…」
《トイタナ》の孤児院の子供達や職員達も船内に風早が大部屋を作り、そこで大きな窓から夜の海を眺めはしゃぐ子供達にアルケールやナイデル、手伝いに来た綴やジラも寝るように促す。
窓から複雑な表情で海を眺めるラキを隣で心配そうにライルが見つめる、ラキは小さく首を振ってベッドの中に潜り込んでしまった。
最初に比べ元気に走る事も食事も美味しく食べられるようになったライルが心配そうにラキのベッドを見て自分もベッドに横になる、満足に立つ事も大変だったライルを熱心に支えてくれたのは同じ年のラキだった。
海色の髪の少年にこの船は良く似合う、海を見ては嬉しそうに笑い時に苦し気にしているが彼がとても海を愛しているのがライルに伝わってくる、明日も皆と先生と笑顔で過ごせたらいいなと思いながら目を閉じた…。

『ゆき…ゆき…』
『兄ちゃん?』
『ゆき…俺は何処にもいない…』
『行かないで兄ちゃん』
『ゆき…泣くな…』
『じゃあ、ずっと側にいて!』
『ごめん』
「うう…にいちゃん…」
崇幸の部屋ベッドの上で魘され嫌な汗を掻いて涙をこぼす崇幸、黒い蝶の群れが窓の隙間から部屋に侵入し千眼魔王の形を造り魘されている崇幸の額に白い手を当てた。
「どうして…おいていくの?」
その言葉に千眼の眉がぴくりと動く、白い手から魔力を崇幸に注ぐと表情が柔らかくなった。
「ゆき」
千眼が名を呼ぶ、暫くの間ずっと千眼はそうしていた…。
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