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第010部 魔人達に捧げる禍つ謳

第05話 チナスと目隠し男

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『おはようございます、大河様、蒐集家』
「おはようございます、私は先に《島船》へ向かいます」
「ん、ああ…」
「昨日は楽しかったですよ」
「ああ…」
風早からの朝の挨拶が入りとっくに準備が終わっていた蒐集家がソファで眠る大河に声を掛け《島船》へと転移し、大河は生返事をして惰眠を貪…ない。
「ん?いつの間に寝ていたか」
『大河様、差し出がましい事ですが蒐集家に深入れしないように』
「風早…すまん。俺も何故アイツと関わろうとするのかよく分からない」
『大河様…』
『気持ちは分かるけど止めた方がいいわよぉーん』
「識か」
『おっはよん、大河ちゃんが良いならいんだけどぉ~貴方達には幸せになって欲しいの~』
『私もです、幸せになって欲しいです』
「…ありがとう」
風早と識の心配に大河が笑う、距離感をもう一度考えようか思いつつ蒐集家の植物の香りが残るソファに視線を向けた…。

「うっ…」
「これは…」
「痛くないの?」
「いたくないよー」
《島船》で車椅子を造りに来た崇幸、詠斗、目隠し男の付き添いで来た舵と蒐集家、まだチナスはおきないので先に目隠し男の方からという事になり目隠しをした黒い布を蒐集家が取り除けば黒い太い糸で瞼を縫い付けられた痛々しい姿が皆の前に顕になった。
「きもちわるい?ごめんね~」
『そんな事ない!』
「これは何かを封じている感じか?」
「…共生眼…」
「そうですね、千眼さん眼鏡を作って下さい。制御します、糸を切りますよ」
「ああ…」
収納から糸切り鋏と薬を幾つか出す、千眼が眼鏡を渡して糸に細かく施された文字を読み解き作業を始めた。
「…まずこれを口に入れて舐めていて下さい噛まないように」
「はーいあま~い」
「痛み止めです、瞼に麻酔薬を塗ります少し待っていて下さい」
眼鏡に千花の真珠色の魔鉄を取り出し魔力でフレームを作る
ボストン型のしっかりとしたフレームの物だ、抱えられたゴーレム達がハラハラと不安気にしている。
「切っていきます」
「は~い」
目隠し男は特に気にもしない、笑みを浮かべどちらかと言えばゴーレム達が小さい手で自分の目を隠していた。
「糸全て切りました、今回復札掛けます」
「あー綺麗に治ったよ!」
「おお、綺麗な目だな」
「良かったね、早くベルンちゃん達に見せに行こう」
「眼鏡はなるべく外さないように」
「は~い、ありがとう蒐集家さん」
開かれた目隠し男の眼が開く。そこには美しい花がくるくると舞っては散る…ゴーシュと近い眼なのだろうか、金色の花が美しかった。
「千眼さん、この文字読めますか?」
「…『我が子よこれは呪いと祝福なり 母 我が子』…名は私は言えない」
「そうでしたね、貴方の名はユインだそうです糸は返します」
「わあ、そうなのゴーレムさん達ーみんなー俺ユインだってー」
ゴーレム達がパチパチと手を叩く、蒐集家から受け取った糸はゴーレム2体の首に巻いて縛る、目隠し男ユインの瞳の花が散っては咲いた。
「そっちは問題無さそうだな」
「あ、舵ちゃんおはよ」
「おはよう」
「よし、ユインちゃんお祝いしよ。また後であの子の様子見に行くよ」
「ありがとう~」
舵がユインを連れてやって来た大河と入れ替わりでベルン達の元へ戻っていく、大河達はチナスの元へと足を運んだ。

「おはよう、眼を覚ましたぞ」
「……状態は悪くはないですね」
チナスの部屋にはオーケス、キート、ネズミと千華がいてベッドに座るチナスがぼんやりとしていた。
「身体のサイズ計っても平気かな?」
チナスは話しに掛ける詠斗を見上げてコクリと頷く、崇幸と詠斗がメジャーでサイズを素早く計り別室で車椅子を組み立てる為に出て行く。
「蜂蜜とミルクと果物は食べました」
「おいしかった…です」
キートが伝えチナスがたどたどしく話す、ラインで神樹を《島船》に植えたとあり、後で確認する事にし状態に問題無いと判断し後を任せる事にして森に向かった。

「小さいな…」
「まごうことなき神々の樹ですね」
「急いだ割には見事ですね」
「では、歌を」
「はい」
大河、蒐集家、千華3名で行けば森に住む動物達が恐る恐る、大河の腰程の瑞々しい樹を遠巻きに見ている、ゆっくりと千華が口を開き歌い始めた…。

「車椅子の組み立て終わったから試しに乗ってみてくれるか」
チナスがお茶をゆっくりキートとネズミ、オーケスとラヴィトリと飲んでいれば崇幸と詠斗と千眼が戻って来る。
「はい」
崇幸達が用意したのはスタンダードタイプの車椅子で、材質は神鋼を使い背もたれや座る部分はテトラやネス達に頼み革やクッションを使い身体に普段が掛からない様にし、介助と自走が出来るよう造られ、膝置きには魔聖石を埋め込み魔力で操作可能となっている。
「このぬいぐるみ達は俺が傀儡魔法で動かした、君の補助をしてくれる。常に側にいるし魔法も使える、この袋は収納袋で沢山物が入るから何かあればこの子達やゴーレム達に言ってくれ」
「はい…」
崇幸がチナスの膝に2体のきゅうモデルのぬいぐるみと、ウィンモデルのぬいぐるみがチナスを見ている、チナスはその2体を撫でた。
「乗ってみて貰えるか?」
「分かりました」
「失礼するよ」
崇幸がふわりと優しい手付きでそっと車椅子にチナスを座らせ、高さや座り心地を調整して船の中を歩いて見る事にした。
「どう?チナスさん?」
『旦那達すごい物造りやすね』
「俺達がいた世界にあった物だし、作るのは魔法があるから簡単だよな」
「そうそう、家とか車や船もねー楽々造れる」
「すごいなぁ、僕もお兄さん達と晴海ちゃんと公園作り…難しい…でも楽しい…」
「楽しいなら良かった…」
グローリーがキートの頭を撫でる、チナスは何処かぼんやりとしている、乗り心地が良くうとうとしゆっくりと寝てしまう、気付いたぬいぐるみとゴーレム達が毛布を取り出し膝に掛けてベッドに戻る事にした。
明日もグローリーとキートは様子を見る事にし、オーケスは
《ドーバン》に戻る事にし、ネズミとラヴィトリが様子を見守る事にした。

「やっと一息ついたす」
こちらは、ホテルのレストランでラウラス、トゥナー、テュフ、ロックス、懐記が集まり《島船》の炊き出し作りを終わらせ、昨日のパーティーの残りや炊き出しを食べながら休憩していた。
「皆さんもありがとうございます」
「助かったわ」
「なあに、力仕事なんかは任せてくれよ」
「部屋迄用意して貰って」
「あんなすごい部屋始めてです!」
炊き出しを手伝ってくれた、ダーグ盗賊団も一緒に朝食を摂っていた。
「気にしなくていいわ、助かったしー手際いいね」
「まあ色々やってるからな」
「ふうん」
「頭、おいら達も仕事しねえと」
「冒険者します?」
「ダンジョンあるし」
「ま、それがいいな。馴染みはまだ治療してるしな」
「ここ住み心地最高っす」
玉子サンドや肉サンド、スープ、サラダ、焼いた肉、キノコソテー、焼いた野菜、なんだかごちゃごちゃと…パーティーの残りを兎に角食べる盗賊達を眺めながら懐記は手際の良さやダーグの下統制された組織に目を付け、1つ提案を行った。
「あんたら、弁当屋やらない?」
『べんとーや?』
「そ、ま、飯食ったら説明するわ」
とまあ、懐記の発言から始まった弁当屋…後に爆発的に流行し大陸を跨いで広がり、今いるダーグ盗賊団の仲間達が各支店の店長『ダーグの弁当屋○○支店』として名を馳せる事は少し先の話し…。
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