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第012部 空の旅は安心安全にみんなで会いにいこう

第011話 天敵

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「お待ちしておりました…どうぞ」
馬車に揺られ《グジャグ》に入れば街は静かだ、人は多く行き交っているが兵隊のように規律があるように感じる、少し進んだ先の宮殿といった言葉が相応しい門構えと広い庭園の先に広がる屋敷、門が勝手に開かれゴーレムの御者が入口まで馬車を乗り入れば執事らしき端正な容貌の青年に出迎えられ、ちらりとラジカがその執事を視界に入れて開かれた扉から千歳を先頭に中へ進む。
何人もの使用人達が並び頭を下げる、どれも彼も端正な容姿似たような背格好雰囲気を纏っていた。
「失礼いたします、お客様をお連れしました」
「どうぞ、ようこそ《グジャグ》へ歓迎しましょう、私が《グジャグ》の領主アガ二ータ・ハーベンダー・カゥドゥです。救世主たる魔王様と皆さんもお元気そうで何より」
応接間の扉が開かれ中の長いテーブル座っている男と真正面で笑みを浮かべて立っている男、間違いなくトラングの血縁者だという外見、足元まである長い濃いピンクの髪、左顔面は爛れているが髪で少し隠し編み込んでいる……片側だけ笑みを浮かべた姿は端正な容姿のトラングの完成形の様な妖艶さと妖しさを持ち、正しく毒の花と謳われる美しさだった…。
思わず千歳は隣のトラングとアガ二ータを見比べるように視線を動かす、大人びていると思っていたトラングがアガ二ータを前にすれば幼くさえ感じてしまう、椅子へどうぞと勧められ全員着席し、ラジカが座っていた男に視線を向けていた事に気づく。
「ああ、彼は《ラグライック商会》の支配人コーカスです、是非とも皆さんにお会いしたいと言うので特別に…私の友人でもあるので、構いませんか?」
「初めまして…コーカスと申します。そしてお久しぶりですね、トラング様、デュスノア様」
『…………』
トラングとデュスノアが思いっきり顔を顰める嫌な奴と会った、今日は間違いなくどうしようもない日だとトラングとデュスノアの目がそう告げていた。
「今、茶を用意しましょう。それと我が国の特産の酒も是非味わって頂きたいですね、トラングとライガル様も暫し見ぬ間に益々凛々しくなられた。トラングよく顔を見せておくれ、兄上に良く似て来た」
「だったら、自分の顔でも見てればいいじゃん双子なんだから」
「ふ…私のこの顔じゃ良く分からないだろう?」
「は、よく言う」
トラングの嫌味にもニコと笑って執事に支持を出す、白い服に身を包んだコーカスは先に出されていた茶を楽しみ、トラングとアガ二ータのやり取りには我関せずと言った風だった。
「ああ、そうだ先に此方を。私が用意した土地です、店はそちらが用意するとの事でしたので書類をどうぞ、後で案内します」
「ありがとうございます、譲って頂けると聞きましたが本当に良いんですか?」
「勿論です、トラングやライガル様やゴーシュ様、デュスノア様の信頼を得ているのであればどうぞ、私も《アウトランダーズ商会》とは親しくしたので」
「私も是非…親しくさせて頂きたいですね我が《ラグライック商会》も古いだけの商会ではありますが」
「よくもまあそんな事が言えたな、人身売買、奴隷、競売、闘技場、賭博…なんでもありの商会が」
コーカスがアガ二ータの言葉に重ねて此方もと伝えればデュスノアが吐き捨てるように言う、コーカスは涼しげな顔でガラス玉の瞳を伏せた。
「もちろん構いませんよ、うちの鑑定を受けてクリアして貰えれば…カジノタワーの商業エリアの店を用意させて貰います」
「では、後程よろしくお願いします」
「難しい話は少し置いて是非自慢の酒を少し味わって見て欲しいですね、1つ目の黄色い酒はエコン酒ですエコンという果実と薬草を特別に配合したもので滋養強壮に良いですよ。もう1つの茶色い酒はカトイ酒カトイという果実から作られていますこちらは火魔法と氷魔法の魔石で温度を管理しゆっくりと作らせています、水にもこだわりがありこの街の先に聳える山から水を運びその水で作られています。皆さんに出したのは20年物です」
「これは…美味ですね、僕はエコン酒が気に入りました」
「魔王殿に気入って頂けるとは、造酒家も喜ぶでしょう」
「これを出して頂けると」
「ええ、是非お願いします」
「分かりました、ではコーカスさんは何を商業エリアで売りますか?」
「それはこちらに纏めています、どうぞ」
「拝見します」
アガ二ータは酒2種を商業エリアで販売したい、コーカスはラジカに懐から筒に入れた書類を取り出し執事に運ばラジカは開けて確認ししばし眼が止まる。
「これは1度持ち帰り話し合いを行います」
「ええ、どうぞ。そうそうアガ二ータ様お願いがあるのでは?」
「ええ、実は今この国で困った事がありまして…是非助力を…」
「来た、自分の治めている国だろう自分でどうにかすればー」
「トラング…そんなことを言わないでおくれ、私も年なのだ。手が回らない場合もある、今回は深刻だコーカスにも助力を乞い問題を解決したい」
「おい、アガ二ータ。試すつもりか?」
「ライガル様の試験が終わっていませんね、では今回の件を解決したら試験を合格とします如何です?」
コーカスの取って付けた様な台詞、眉根を寄せて困る素振りを見せるアガ二ータに黙っていたゴーシュが口を挟むがライガルがピクリと反応した。
「内容によります、ライガルさんの試験の話は後で聞きますよ。何がこの国で起きているんです?」
「薬ですね、依存性の高い薬が出回っています。バラまいている者の捕縛をお願いします」
「これがその薬です、成分にはこの紙に記していますが…7種類のうち6種類まで何が使われているのか分かっているんですが残り1つがわかりません、その成分が何かを知り特効薬を作りたいのです」
コーカスが懐から薬包と紙を執事に渡しそれを千歳の側に運ぶ、鑑定に掛けても成分が混ざり過ぎて不明としか出てこない。
「薬を使用した人々は今はどうしているんです?」
「隔離場を造り薬を絶たせている状態です、一気に薬を止めてしまうと自我が崩壊するので体を固定、量を減らしていく位しか今の所対処方法はありません、薬草ダンジョンの薬も成分が全て分からない事には薬も作れませんし」
「万能薬等は依存性が高い物には効き辛いですから、使用者本人の強い意志も必要ですね」
ライガルの質問に困った表情を浮かべるアガ二ータと心配気な表情を浮かべるコーカス、白々しいとトラングは内心舌を出しデュスノアは面倒ごとを押し付けて来たなという不快さを味わい、ゴーシュは端からこうするつもりだったのかと内心舌打ちした。
「分かりました、成分とばら撒いた者の捕縛を引き受けますよ。ですが、上手くやれるか分かりません」
「引き受けて頂き感謝します、私も動きます」
「私もお手伝いさせて頂きますよ、友人の大切な国ですから」
「では、お願いがあります」
「何でしょうか?」
「バラ撒いた者、薬の製作者は僕に引き渡して下さい。それとこちらでも薬を使った人の症状を見たいので数人渡して下さい」
「………分かりました良いでしょう」
「では、患者は私が選定しましょう」
千歳の条件に少し考え了承するアガ二ータと依存患者を引き渡すと言うコーカス、今の所2人の言葉の端々に違和感は無い。
「では、明日患者の引き渡しを行いましょう。拠点も幾つか絞っていますから、それと…其方に《名も無き島》の支配人のタナトス支配人がいると情報を入手したのですが…もしいるのならば以前受けた依頼の品が手に入ったと伝えて頂けますか」
「分かりました」
コーカスが話を纏めタナトスに会いたいと言えばラジカが了承する、国の案内と店の場所へ連れて行くとの事で全員馬車に乗り込み移動する事にした…。

「ん?何かこの先で起きているな」
《ガーデン王国》へ移動中のバスの車内で昼食の準備を皆で行っていれば、モニターを見ていたチェカが異変に気付く。
「これは……様子を見て来ます、少し此処を離れますがお願いします」
「ああ、わかった気をつけろよ」
「外神さん…」
「晴海さん様子を見て来るだけです、すぐ戻ります…」
「うん、分かった…気を付けてね」
「はい…」
外神がモニター確認し外へ様子を見に行くと告げれば、晴海が心配そうにしているが止めずに走るバスの扉をスライドで開けそのまま飛び出し姿を瞬く間に姿が森の中に吸い込まれて行った。
『ぴぎゃ!』
「…?励ましてくれているの?ありがとう、外神さんなら大丈夫!お昼にしよ」
『ぴぎゃ』
晴海の側でウズラが励ますように足を軽く叩いてくれるので、何を言っているかは分からないが笑って皆の所で昼食を食べる、壺で焼いたジャム入りのおやきと肉を炒めた物を包んだおやき、焼いた芋と具沢山スープと果実水と果物を皆で分け合って食べる、大分互いに打ち解けていったのか子供達の笑顔も多く、話に花を咲かせつつ不安はあるが和やかな時間が過ぎた…。
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