調達屋~どんな物でも必ず手に入れましょう~

バン

文字の大きさ
11 / 20

11話

しおりを挟む
「約束の品だ」

 アリスによって記憶を失うまで飲まされてから数日後、ロイスは調達屋の仕事を熟す為にいつもの薄暗い部屋にいた。

 その前には衛兵の格好をした若者が少し怯えた様子で立っている。どうやら彼が依頼主の様だ。

 その衛兵にドクン…ドクン……ドクンドクン…と不規則に鼓動する何かが包まれた布を手渡す。

 衛兵が布を広げると鼓動していた物の正体が判明した。それは黒い心臓だった。

「こ…これが……悪魔の心臓……な、なんて禍々しいんだ」

 ドクン…ドクンドクン……ドクン

 悪魔の心臓の不規則な鼓動と共鳴するかの様に、衛兵の鼓動も不規則になっていく。

「あと数刻は鼓動し続けるが、加工するなら急いだ方が良い。効果が無くなるぞ」

 悪魔の心臓は、怪鳥と呼ばれる魔獣の心臓を鼓動している状態で取り出した物だ。
 乾燥させ、粉末状にすれば致死率100%の劇薬となり、解毒薬も存在しない。しかし鼓動が止まってしまうと何の価値も無いただの心臓へと成り下がる。

 悪魔の心臓に劇薬以外の使い道は無い。つまり衛兵は誰かを毒殺するつもりだ。

「わ、分かった…こんなにあっさり手に入るなんて…あんたに頼って良かったよ。ありがとよ」
「礼なら金でしてくれ」
「お…おう。じゃあこれを…250万ゼル入っている」
「…確かに」

 最近のロイスはある特技を習得した。それは多少の誤差はあるが、袋を持つだけで金が何ゼル入っているのか分かる様になった事だ。まぁ依頼主が報酬を誤魔化せば代償を支払わせるだけなのであまり意味は無いが…

「また調達して欲しい物があればここに詳細を書いた洋紙を置いておくと良い。素材だろうが人だろうが…どんなモノでも調達しよう」
「あ…あぁ……」

 衛兵は人も調達出来るという事を知らなかった様で、無意識に後退る。
 人を殺そうとしている者が怯えるというのも不思議な話だが、衛兵の雰囲気からして人を殺した事は無さそうなので、簡単に殺せるロイスとは住む世界が違う。そう考えれば後退るのも無理はない。

「ふっ…一つサービスしよう。これを悪魔の心臓を加工する時に混ぜると良い」

 ロイスは衛兵の初々しさに思わず笑ってしまい、手助けをする事に決めた。これは唯の気まぐれでしかない。

「これは…水?」

 衛兵に渡したのは小瓶に入った透明な液体。水と思われても仕方がない。

「それは珍しい魔獣の血液だ。混ぜると臭いを消してくれるから飲ませる相手に気付かれる事は絶対にない」
「そ、そんな便利な物が……一体幾ら払えば…」
「だからサービスだ。あんたの殺しが成功する事を願っている」

 ロイスはその言葉を最後に部屋を後にした。
 これで衛兵が殺しを成功させれば、またここに依頼を来る可能性が上がる。つまり定期的に金を落としてくれる好い鴨の誕生だ。

                                                                                                                                                                                                          



 仕事を終え、腹が減ったのでレオンの料理を食べようと思ったが、その前に寄り道をする。

「ここに来るのも随分と懐かしく感じるな」

 寄った先はカイレンの大通りにある小さな一軒家だ。
 
 何を隠そう、ここはロイスの本当の自宅だ。とは言っても此処で寝泊まりした事は一度も無い。

 ギギギィィィ

 玄関の扉を開けると、錆び切った扉の金具が悲鳴を上げる。

「いつ来ても…汚ねぇなー」

 家の中は廃墟の様に埃が溜まっており空気も淀んでいる。だが掃除する気は一切起きない。

「お…何通か来てるな」

 扉に郵便受けがついているので、床には手紙が散らばっていた。
 ロイスはこの家に住んでいる事になっているので、自分宛の手紙は全てここに届く。なのでこうして偶に手紙を取りに来ている。
                                                                                                                                                                                                      


 本当の家、レオンの酒場に戻ると手紙を一つ一つ確認していく。どれも興味のない内容ばかりだったが、1つの手紙に目が留まった。

 その内容はロイスに開拓者としての仕事を頼みたいというものだった。こういう手紙はよくあるのだが問題はその依頼内容だ。

「どうした?気になる手紙でもあったのか?」
「これ読んでみろよ」
「ん~どれどれ……剣の処刑林の開拓作業が難航、貴殿も開拓者として開拓に参加すべし…か………はぁ!?開拓!?」

 レオンは手紙に目を通すと目を見開いた。それは驚きよりも呆れに近い。

「トナードレイとハルシオンの共同作戦とは大がかりだよな。俺以外にも結構な数の開拓者が既に出張っている様だし」
「全然知らなかった。この国も馬鹿な事を…」

 ハルシオンはトナードレイの北側にある王国で、その間には剣の処刑林と呼ばれる未開拓地がある。

「まぁ確かにあの林を開拓出来れば国と国との交流はより盛んになる。今までは国同士を行き来するには迂回するしかなかったからな。けどなぁ…無理だろ」

 レオンの懸念は最もだ。そんな簡単に開拓出来るなら未開拓地など存在しない。
 剣の処刑林は国境に隣接しているので誰もが目にする事が出来る。だがその攻略難易度は高く、ロイスも行くのが躊躇われる場所だ。

「どうするんだ?行くのか?」
「行かないと開拓者としての評価が落ちる。それは遠慮したい」
「それもそうか。評価が落ちれば未開拓地に入り辛くなるからな」

 開拓者でなくとも未開拓地に入れるが、その場合は抜け道を通らなければならないので面倒だ。

「剣の処刑林に強い魔獣は居ないが…気を付けろよ」
「もちろん。レオンの教え通り未開拓地で警戒を怠った事は無い」
「ならいいが…後アリスに情報を聞いておけ。つい先日情報収集を怠った所為で面倒な事になっただろ」
「それは…」
「情報収集は必要なく、契約を破れば代償を支払わせば良い。それがダメだとは言わないが……何事も学習だぞ」
「…分かったよ。アリスに会いに行ってくる」
「あぁ、行ってこい」

 必要な物資を揃えたロイスは酒場を出た。まずはレオンの忠告通りアリスから情報を仕入れる必要がある。

                                                                                                                                                          

「ふぅ…まだ調達屋として、1人の人間として未熟だな。柄にもなく口出ししてしまったが…俺も甘いという事か」

 レオンは師匠の様な、親の様な目線で、ロイスが出て行った扉を見つめ続けた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...