魔王の馬鹿息子(五歳)が無謀にも家出するそうです

何てかこうか?

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第二章 人間の国で

第十一話 アルバイト先

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 昼から夕方まで延々と歩き続けた。
 そろそろ限界が近い。足ではない。俺のプライドだ。
 一軒たりとて、五歳児が働ける環境がない。クラウディアだけなら両手に余るほどの引く手があった。それだけでも腹立たしいのに、この俺を働き手に雇いたいと申し出る店は無かった。そして、現実は無情だ。時間だけがどんどん過ぎていく。
 クラウディアが“今日は次で最後”と言って、目的の店を探して歩いている。
 俺は手を引かれて、ついていくだけだ。最初の五件までは俺が引っ張って歩いていた。でもダメだ。どこの店も年齢制限が……俺の約三倍の歳を要求している。それに加えて、身分証が無い。避難民なんて胡散臭い者を雇いたいって奴がいないのだ。
 今日最後の店、ウィンズ商会を訪れる。

「……なんでも屋、みたいだね」
「……」
 俺はうつむいて返事ができない。どうせここもダメだ。というより人間界では俺は絶対に無理だ。年齢制限……高々十年早く生まれただけの奴らなんかに俺は絶対に負けない……ちくしょう。俺なら金貨が山のように稼げると思っていた。現実にはスタートラインに立つことすらできない。

「ほら、店に入るから。スマイル、スマイル。笑顔を忘れないようにね」
 少しムッとした表情をぶつける。お前はいいさ。引く手数多だった。スマイルといわれてぶすっとした顔で店に入る。
 その店は……一言で言って散らかっている。今までに入ったどの店よりも汚い。う~ん、それは語弊があるか、正確には床はきれいだ。周りを見渡せば小ぎれいにまとまった本棚、古いが清潔なソファ、客に飲み物を出すであろうテーブルもピカピカだ。
 ただ残念なのは真正面のデスクが異常に汚い。酒瓶が五本は見える。書類は山と積み上がり、机の周りだけごみが散乱している。
 店に入ってまず目につくデスクがこのありさまでは汚いと思われるのも当然だ。
 雰囲気に唖然としている俺たちを、あり得ないことに十歳ぐらいの男の子が迎える。

「今すぐ、店長を呼んできます」
 クラウディアも少し驚いていたようだ。今までの店ではありえない年齢の子が働いている。俺にもこの店の異常さが十分に伝わった。
 クラウディアが強く手を握ってくる。

「……ちょっとこの店やばいかもしれない」
 クラウディアの言葉は的を得ている。だがその反面、俺はこの異常性に期待した。年齢制限がかつてないほど下がった。もしかしたらここでなら?
 店長と言われた人物が男の子に手を引かれて連れてこられる。……あ、ダメだ。こいつ酒くせぇ。
 わずかな期待が風に舞う木の葉の如く吹っ飛んでいった。……さっさと帰ろう。今日は運がなかった、そういうことにしよう。

「ん~、……何の用でしたっけ?」
 店長と呼ばれた人物が男の子に足を蹴られている。クラウディアもあきれている。それでもなお、一応の決まり文句を口にしたのは訪問してしまった通過儀礼みたいなものだろうか?

「いや……、あ、そうです。この子と一緒に雇ってもらえないかと思いまして……」
 酔っぱらった目で店長がクラウディアを見ている。その視線は主に胸に集中している。瞳孔が広がったのが確認できた。クラウディアがドン引きしたのが俺にもわかる。

「いいよ」
「ああ、そうですか……え゛!?」
 思わずクラウディアが二度見した。俺も耳を疑う。違う、店長の正気を疑う。はは~ん、なるほど、酔って頭がおかしくなっていたんだな?

「あの……私達魔界からの避難民で……身分証もなくて……おまけにこの五歳児も一緒で――」
 このクラウディアの暴言は聴かなかっとことにする。
 それより信じられないのは店長だ。

「ん、それも込みでいいよ。いつから働ける?」
 それも込みだと? お前……さては泥酔か!

「え。えと、働けるのは三日後からで一か月くらい……なのですが?」
 余りの勢いで話が決まってクラウディアの方が追い付けていない。

「ああ、一か月だけか……まあいいか、じゃあ三日後、朝八時からでよろしく。丁度、仕事があって、人手が欲しかったんだ」
 店長が男の子に指示して仕事を説明させる。お金は仕事の仲介料で銀貨十枚とられるが、手元に銀貨三十枚は残る。
 肝心かなめの仕事の内容は、魔法結界の修理と書いてあった。

「オリギナの魔法使いなら楽勝でしょう? お嬢さん? 
 仕事を得るならもっと胸の徽章をアピールしないと、ウェイトレスをやらされますぜ。オリギナの皇族親衛隊にそれじゃもったいない」
 店長の指示で男の子もついてくるそうだが、俺達には話が理解できない。相手はこちらの混乱に付け込んで、さっと前金を、銀貨十五枚をクラウディアに渡している。

「えっ? あ、あの、いいんですか?」
「いいも何も、今捕まえないと、あなたを他にとられる。商売敵にオリギナの魔法使いはいてほしくないんですよ。
 俺も元はオリギナの民でした。生意気にも大魔道士になるってオリギナの魔法学院にも通いましたよ。だからあなたの実力がわかるつもりです。
 大好きな魔法に好きなだけのめりこんでやっと平凡、あそこは化け物の集団でした。あなたはその中でも皇族親衛隊に特別選抜された人でしょう? 途中であきらめた俺とは比べられない。胸の徽章は俺も勝ち取ろうとしていたからよくわかりますよ。だから、どんな事情であろうと俺はあなたを雇いますよ」
 クラウディアが驚いている。俺もオリギナはそんなにすごいのかとぽかんとしている。
 とんとん拍子に話が決まり、わずか三十分後には公舎に向かって歩いていた。

「……オリギナって凄いんだな。あの“酒飲み”がポンと前金を渡すなんてな」
「私は後悔してる。あの店だけは選んじゃいけなかった。遠くの国だからオリギナのことを知ってる人はいないと思って油断してたよ。……仕事に失敗もミスも許されない……ちょっとしたことで“オリギナは大したことない”なんて思われたら、国の威信に傷をつけたことになる」
 ふ~んそういうものか? クラウディアはプレッシャーを感じているようだが、あまり俺には理解できない。どう考えてもそれは個人の問題じゃないか?
 この後、クラウディアはオリギナ大使館に手紙を出すと言い、俺はそれを了承して二手に分かれた。俺は公舎に向かう。朝のスープを温めなおして夕ご飯の準備をしよう。かまどの火は誰かに起こしてもらえばいい。

 俺が公舎に着いた頃には日が暮れていて、スープの火加減を調整しながらクラウディアを待つことになった。
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