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第二章 人間の国で
第十八話 アルバイト 教会掃除
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朝、今思いっきり伸びをしている。これから仕事に向かうのだ。クラウディアと一緒になんでも屋に寄って、バケツとか雑巾とかを借りて、お目付け役を連れてそのまま教会に向かう。
教会はこのドラフトの真北にある一番高い建物だ。……とはいってもせいぜい五階建てで敷地も広いわけじゃない。クラウディアが浮かび上がっててっぺんから水洗いしていっても……まあ、丸一日あれば終わる。
俺は、近くの井戸から水を運ぶ役目だ。力なら有り余っているからこのぐらいはなんでもない。むしろ、見ているだけよりも暇がつぶせていい。
見上げた先でクラウディアは浮かびながら水を操り、ついでに風を操って乾燥させている。
……魔法を三つ同時かぁ。同じ魔法なら三発同時撃ちもできるのだが、別系統の三種類の魔法を同時に操るなんて芸当は、俺ではできない。というよりやったことがない。
浮かび上がって炎の魔法ぐらい、二種同時の魔法ならできるのだが……。
「あっ、と、ちょっといいかな?」
……テレヴォイスか……、こいつ四つ同時に違う魔法が使えるのか。くそっ、俺に対してこれ以上技術を見せつけるな。
「聞いてる?
また水を持ってきてくれないかな?」
こっちは下から大声で「わかった」と叫んで、井戸に向かう。水の冷たさも問題ない。そのままくんで、バケツ二個で水を教会まで運ぶ。
教会につけば水がクラウディアめがけて飛んでいく。
「ありがと、また、水をくんでおいてくれる?」
舌打ちしながら大声で「わかったよ!」と繰り返す。クラウディアは俺の感情を理解していないのかそのまま仕事を続行している。
下から見ていてもクラウディアは優秀なのがわかる。手際の良さもさることながら魔法の使い方が上手い。一人で三役ぐらいをこなしている。仮に魔法の枷がなかったところで俺にできるのは一役まで、魔力総量を考えれば百人一役ってところだろう。
オリギナの魔道士が特別なのはお目付け役の少年を見ても当然だ。目を輝かせてクラウディアの技量を見ている。
「ああ、すごいな。すごいな。家の師匠なんかよりももっとずっとすごい」
「あの酒飲みだって、オリギナの魔道士だろう?」
「師匠だって飛んで水の魔法を使ったら、手いっぱいだよ。三種類複合なんてできるのかな? たぶんできないと思うよ」
クラウディアは四種類複合と言いかけて止めた。目の前でお目付け役の目の輝きが増すのはいただけない。
目付け役の少年は時々浮きながらクラウディアを見ている。おれも時々指示を受けて水を汲んでくる。
午前中には上層階の掃除が終わり残りは二階と一階だ。二階が終われば、一階は俺も手伝える。
今は、三人で昼食だ。パンにジャガイモと干し肉を挟んだだけのサンドイッチをほおばる。小一時間の休憩を終えたら最後の仕上げだ。
「あ~っ、疲れた。でも、あとちょっとだねぇ」
「一階の屋根から下は任せろ。棒を使えば届くからな」
「いいよ、無理しなくても。これは私の仕事だからね」
イラっとする。少なくともこの仕事は二人で受けたはずだ。クラウディアだけが活躍している現状を打破したい。それに俺が主役なのだ。俺にだって仕事をする権利がある!
「俺も、やるんだ! お前に“おんぶにだっこ”されるいわれはないぞ!」
俺の怒りを前にして、クラウディアが笑った。そっと体を寄せて、ギュッと抱きしめてくる。そのまま力づくで膝の上に乗せられた。
「誰が抱きしめろと言ったか!」
「いいから、少しこのままでさ、午後の仕事のことをゆっくり決めよう。ね?」
もがきたいが、もがくとクラウディアが傷つく、そして俺は二倍のダメージを受ける。こいつは華奢で、柔らかくて、傷つきやすい。やっていられない。コネクトペイン、しかも二倍の効果をつけられたら俺は大人しく我慢するしかない。興奮を抑えてクラウディアを説得する。
「俺も働くんだ」
「うん、わかった」
「わかってないだろう」
「今、どういう内容がいいか考えてる」
「掃除だろう? 窓ふき、壁のつたをはがして、壁を水洗い――」
「そうそう、後は草むしりかな。雑草を引っこ抜いてさ」
クラウディアが笑顔で俺の仕事を考えている。
「なんでもいいかな?」
「この俺が許可する。なんでもいいぞ」
「じゃあ草むしりにしようか。一緒に教会の周りを歩いてどこでどういうのを引き抜くか教えるからさ」
「それが終わったら?」
「ふふ、そうね……競争にしようか。早く終わったらそれだけ長く休めるってことで」
ほほう、それならば、勝って見せつける必要がある。俺が仕事でもすごいことを思い知らせる必要がある。
にやりと笑う。ここで俺様の仕事の能力を見せつけておくのは素晴らしく正しいことだ。魔力無し……良いハンデというものである。魔法なんかなくても俺はやれるということを示す。まずはこの女に見せつけるのだ!
教会はこのドラフトの真北にある一番高い建物だ。……とはいってもせいぜい五階建てで敷地も広いわけじゃない。クラウディアが浮かび上がっててっぺんから水洗いしていっても……まあ、丸一日あれば終わる。
俺は、近くの井戸から水を運ぶ役目だ。力なら有り余っているからこのぐらいはなんでもない。むしろ、見ているだけよりも暇がつぶせていい。
見上げた先でクラウディアは浮かびながら水を操り、ついでに風を操って乾燥させている。
……魔法を三つ同時かぁ。同じ魔法なら三発同時撃ちもできるのだが、別系統の三種類の魔法を同時に操るなんて芸当は、俺ではできない。というよりやったことがない。
浮かび上がって炎の魔法ぐらい、二種同時の魔法ならできるのだが……。
「あっ、と、ちょっといいかな?」
……テレヴォイスか……、こいつ四つ同時に違う魔法が使えるのか。くそっ、俺に対してこれ以上技術を見せつけるな。
「聞いてる?
また水を持ってきてくれないかな?」
こっちは下から大声で「わかった」と叫んで、井戸に向かう。水の冷たさも問題ない。そのままくんで、バケツ二個で水を教会まで運ぶ。
教会につけば水がクラウディアめがけて飛んでいく。
「ありがと、また、水をくんでおいてくれる?」
舌打ちしながら大声で「わかったよ!」と繰り返す。クラウディアは俺の感情を理解していないのかそのまま仕事を続行している。
下から見ていてもクラウディアは優秀なのがわかる。手際の良さもさることながら魔法の使い方が上手い。一人で三役ぐらいをこなしている。仮に魔法の枷がなかったところで俺にできるのは一役まで、魔力総量を考えれば百人一役ってところだろう。
オリギナの魔道士が特別なのはお目付け役の少年を見ても当然だ。目を輝かせてクラウディアの技量を見ている。
「ああ、すごいな。すごいな。家の師匠なんかよりももっとずっとすごい」
「あの酒飲みだって、オリギナの魔道士だろう?」
「師匠だって飛んで水の魔法を使ったら、手いっぱいだよ。三種類複合なんてできるのかな? たぶんできないと思うよ」
クラウディアは四種類複合と言いかけて止めた。目の前でお目付け役の目の輝きが増すのはいただけない。
目付け役の少年は時々浮きながらクラウディアを見ている。おれも時々指示を受けて水を汲んでくる。
午前中には上層階の掃除が終わり残りは二階と一階だ。二階が終われば、一階は俺も手伝える。
今は、三人で昼食だ。パンにジャガイモと干し肉を挟んだだけのサンドイッチをほおばる。小一時間の休憩を終えたら最後の仕上げだ。
「あ~っ、疲れた。でも、あとちょっとだねぇ」
「一階の屋根から下は任せろ。棒を使えば届くからな」
「いいよ、無理しなくても。これは私の仕事だからね」
イラっとする。少なくともこの仕事は二人で受けたはずだ。クラウディアだけが活躍している現状を打破したい。それに俺が主役なのだ。俺にだって仕事をする権利がある!
「俺も、やるんだ! お前に“おんぶにだっこ”されるいわれはないぞ!」
俺の怒りを前にして、クラウディアが笑った。そっと体を寄せて、ギュッと抱きしめてくる。そのまま力づくで膝の上に乗せられた。
「誰が抱きしめろと言ったか!」
「いいから、少しこのままでさ、午後の仕事のことをゆっくり決めよう。ね?」
もがきたいが、もがくとクラウディアが傷つく、そして俺は二倍のダメージを受ける。こいつは華奢で、柔らかくて、傷つきやすい。やっていられない。コネクトペイン、しかも二倍の効果をつけられたら俺は大人しく我慢するしかない。興奮を抑えてクラウディアを説得する。
「俺も働くんだ」
「うん、わかった」
「わかってないだろう」
「今、どういう内容がいいか考えてる」
「掃除だろう? 窓ふき、壁のつたをはがして、壁を水洗い――」
「そうそう、後は草むしりかな。雑草を引っこ抜いてさ」
クラウディアが笑顔で俺の仕事を考えている。
「なんでもいいかな?」
「この俺が許可する。なんでもいいぞ」
「じゃあ草むしりにしようか。一緒に教会の周りを歩いてどこでどういうのを引き抜くか教えるからさ」
「それが終わったら?」
「ふふ、そうね……競争にしようか。早く終わったらそれだけ長く休めるってことで」
ほほう、それならば、勝って見せつける必要がある。俺が仕事でもすごいことを思い知らせる必要がある。
にやりと笑う。ここで俺様の仕事の能力を見せつけておくのは素晴らしく正しいことだ。魔力無し……良いハンデというものである。魔法なんかなくても俺はやれるということを示す。まずはこの女に見せつけるのだ!
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