オタク病

雨月黛狼

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第3話 私の彼氏になって……

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 昼休み。空馬は女子のグループで昼食を摂り、一ノ瀬も他の女子と一緒に昼食を食べている。俺はひとり席で弁当を食す。

 弁当を食べながらふと周りを見回すと久遠が目に入った。
 久遠もひとりで弁当を食べていた。白いヘッドフォンをしながらピンクの弁当に箸をつける。

 あいつもひとりなんだな。というか、今日の午前中見ていたがあいつが誰かと話したのを見た覚えがない。休みになるとすぐに白のヘッドフォンをして読書をする。席を離れるときもあったが、すぐに戻り同じようにヘッドフォンを着け、読書。

 まあ、社会性はなさそうだな。

 俺は空馬と、あと一応、一ノ瀬と話しているが、それ以外の人間とは話さない。

 空馬以外の誰かと趣味を共有したいと思ったことは特にない。
 それにこのご時世、二次元に興味を持っているというだけで社会性欠乏障害を疑われることもあるのでオタクは煙たがられている。

 本当、迷惑この上ない。

 この障害が社会で認知されてからアニメや漫画などの創作物も以前に比べて供給は減った。

 俺が小学生の頃はもっと色んな作品があったのになあ。
 俺はそんなことを考えながら弁当を食べ終える。

 まだ休み時間は豊富にある。昼休みはいっぱいラノベが読めるから好きだ。

 俺はトイレに用をたしに行き、教室に戻ろうとする。すると――

 長い艶のある髪が揺れる。
 肩には白いヘッドフォンがかけられている。
 後ろ姿だけでもわかった。

 久遠環だ。
 久遠は本を持って廊下を歩いてゆく。
 
 ひらり。

 久遠の本から一枚の紙のようなものが廊下に落ちた。
 ん? なんだあれ?
 凝視する。

 ……見覚えがある。
 もしかして、ポストカード?

 久遠の近くを歩いていた女子生徒がポストカードを落ちたことを認識し、手に取ろうとする。

「まっ!」

 体が勝手に動いた。
 俺はその女子生徒が取ろうとするところを奪い取るようにしてポストカードを取る。

「え、なに」
 女子氏生徒が俺に不審な目を向ける。
「あ、えっと……すみません」
 一ノ瀬以外の女子と話したことなんてほとんどない。どう話していいかわからない。
 俺はポストカードを持ったままその場を離れた。
 そしてポストカードを表にめくる。

「なっ」

 そのポストカードの表には『ボクの前ではみんな好き好き大好きっ子』のヒロインの全裸が描かれている。特定の本屋で買うとついてくる特典だ。

 あいつ、俺とおんなじラノベ読んでいやがる。しかも同じ場所で買っている。

 さて、これはどうしたものか。
 久遠はもうとっくにこの場にいない。いつの間にかどこかに行ってしまった。
 届けた方がいいってのはわかるんだけど、どうしたもんかな。

 あいつはライトノベルにブックカバーをしていた。ということはおそらく、周りにライトノベルを読んでいることを知られたくないと思っている可能性がある。そんなやつにどうやってポストカードを返すか。

 席に入れておく?
 下駄箱にいれておく?

 うーん、どっちも自分がオタクだと誰かにばれたことに困惑してしまうだろう。
 それじゃあ口頭で返すか。
 ふんっ、そんなこと俺にできるはずがない。

 俺のゼロコミュニケーション力でかつ、あいつを困惑させないように返す方法なんてあるか?

 いや、ひとつだけある。

   ×    × 

「そんじゃまたな宅也!」
「ああ」

 放課後。空馬はアルバイトのためすぐに教室を後にする。
 俺は少し席で待機している。

 一ノ瀬は俺に構わず教室を出た。

 危ねえ。あいつが俺の席に近づいたら面倒なことになってた。
一ノ瀬が教室からいなくなったところで俺も席を立とうとする。

 しかし、やつはきた。

「あなたが、猪尾宅也ね」
「あ、はい……、すみません」

 白いヘッドフォンを肩にかけた久遠が俺の席の前まで来て俺を見下す。俺は動揺を隠すように眼鏡を上げる。俺は一体どうして謝っているのだろう。

「これ、返すわ」
「お、おう」

 そう言って久遠はライトノベル『ボクの前ではみんな好き好き大好きっ子』の7巻、そしてその中にあるポストカードを受け取る。そのポストカードの裏には俺の名前、『猪尾卓也』と書かれている。というか、昼休みに書いた。

 俺が久遠にポストカードを穏便に返す方法。

 それは、『拾った俺が同類で、久遠がラノベを読んでいるということを知ったところで何も思われないと思わせる作戦』だ。
 長いですね。却下ですね。

 まあ要は、俺が直接話さず、ライトノベルを読んでいるとばれても久遠にとって問題ないと思わせればいい。

 だから、俺は自分の本と名前が書かれたポストカード、それと久遠が落としたポストカードを本に挟み、久遠の机の中に入れたのだ。

 事の真相を知った久遠はてっきり俺の机の中に俺の本を入れてくれると思ったんだが、まさか直接渡してくるとは思わなかった。

「屋上に来て」
「え」

 久遠はそのまま教室を去ってしまった。

 え、屋上? 俺、行かなきゃダメ? 作戦上手くいったと思ったんだけど失敗しちゃった?

 ええ、今から何されるんだろう。口止めのために脅されたりすんのかなあ。

 久遠は実はカラーギャングで、特定の色はない誰もが所属できる組織でメッセージひとつで相当の数の人間を招集することができる陰のリーダー的存在とかそういうやつ? 裏で情報屋と繋がっていて色んな事件に巻き込まれるとかそういう展開?

 怖いなあ、関わりたくないなあ。
 俺は気乗りしないまま屋上へと向かった。

 そして――――

 久遠は俺に向かって言い放つ。

「……っ、私と、付き合って。私の彼氏に、なって」
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