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最終話 リアルを、フィクションに!
しおりを挟む翌日の昼休み。新生徒会長の紹介を校内放送で行われていた。
新生徒会長は緊張で噛み噛みだし、きょどりまくってるし、本当にこいつが生徒会長で大丈夫かと心配になる。
たどたどしい抱負を言う中、放送委員がフォローする。
「本当に大丈夫かよ」
俺はひとりで笑みを浮かべ、昼食を自分の机に広げる。
しばらくして校内放送は終わった。
俺が昼食を食べ終えると、席の前にひとりの生徒が立った。
「よお、新生徒会長。笑える放送だったぞ」
「……馬鹿にしてるでしょう。私は精一杯やったのよ」
環は俺の前の席に座る。
結局、生徒会長の座は環が取ってみせた。
まあ、あんだけ派手にやって落ちたら笑いもんだ。
環の意思、理想が届いたんだ。少なくともこの学校というリアルの中に。
現実を理想に変えやがった。
「よくやったな」
「本当に一ノ瀬さんと織田くんには感謝が尽きないわ。あのふたりがいなかったらどうなっていたことやら」
「……うん、まあ、そうなんだけど。いいんだけどさ、俺は?」
「あなた何かしたかしら? ただ冷やかししていただけでしょう?」
「あのなあ、いやまあそうだけどさ」
誰がオタク病を差別してる連中の代表やったと思ってんだ。
本当なら、俺だってこいつの勇気に称賛の拍手と歓声を送りたかった。でも、それは俺がやっても仕方のないことだった。あそこでひとり称賛の言葉を投げかけてもあんな風には盛り上がらなかった。だから、俺は盛り下げた。
そうすることによって環への同情を得る。そしてそこで織田空馬という学校中に知れ渡るヒーローが参上。そうしてはじめて、盛り上げることができる。ちっぽけな俺は悪役。まあ、ちっぽけな悪役の俺だからこそできた芸当だ。そんで、ヒーローは環と空馬。いや、まるで空馬が主人公でヒロインが環みたいな感じだな。あれ、俺やっぱいらなかった……?
「あなたは主人公になれないと思ったら今度は悪役を目指したの? 完膚なきまでにやられてたわね。教頭先生に連れだされるあなたの姿とても滑稽だったわ」
「うるせえな。お前ちょっと俺の方に来そうだったじゃん」
「そんなことないわ」
こいつ、いけしゃあしゃあと。
一ノ瀬に止められてたくせによ。
「お前な、本当俺の前だと素直じゃないな。俺たちパートナーじゃないのかよ」
「パートナーよ。偽物だけれどね。そういう意味では、あなたの偽物の演説は面白かったわね」
「偽物でも、作り物でも変えられるもんがあるんだよ。お前がそれを一番知ってんだろ」
「そうね。すべて偽物。私たちがこよなく愛する偽物、フィクション、理想、二次元。でも、それが本物か偽物かどうかなんて関係ない。人の心を変える偽物もあるものね」
そうだ。俺たちがそうだ。二次元という偽物で救われたように、変えられたように、偽物を利用して学校中の人間の気持ちを変えられた。
「救ってくれてありがとうはないのか?」
「いつあなたが私を救ったの? 言ったでしょう? あなたがあんなペテンを働かなくても私は前に進めたわ」
「はいはい」
俺は肩をすくめてみせる。
「何よその態度。気に食わないのだけれど。そもそも、私の演説を妨害した謝罪がないわね。ほら、地に這いつくばりなさいよ」
「……お前な、ホントな」
「嘘よ」
環は俺から目を逸らす。
「……ありがとう」
少し頬を染め、聞こえるかわからない小さな声で言う。
「何もしてねえよ」
「本当その通りなのよね」
「おい」
「すごかったわね織田くん。あの中でよくあんなことできたものよね」
「まあ、俺の親友だからな。あれぐらいできて当然だ」
「何よ偉そうに。織田くんがいなかったらあなたどうする気だったの?」
「さあ、知らん」
「あなたね……」
環はこめかみを押さえる。
「そんで、こっからどうすんだよ」
「どうするって?」
「オタク病の差別をなくす。『全人類オタク化計画』だっけ? そんなんできんのかよ」
『全人類オタク化計画』。要は二次元コンテンツを世界中に広め、認めさせ、二次元コンテンツが悪だと思われる人間の思想を変えてゆく。
そして、二次元コンテンツ、今までオタクだと言われている人間の普遍を行ってゆき、差別をなくす、それと同時にオタクのコミュニティを広げ、オタク同士で社会性を抱かせ、社会性を多くのオタクにもたせる。そんなところだろう。世界規模の取り組み。そんな簡単にはいかない。
「できるわ」
環は即答する。
「すげえ自信だな。どっからくんだよその自信」
「あなたよ」
「え」
「……あなたが、私の自信。ふたりでならできる」
「…………」
「何よ。何か言いなさいよ」
環は俺を睨む。
「い、いや、急にデレたからどうしたのかと思って」
「デレてないわ。私がリアルの男にデレるわけないでしょう。それとも何? 今の私にあなたはときめいてしまったの? あら~? 一ノ瀬さんの色気に惑わされ、リアルの女も悪くないな、とか思っちゃったのかしら」
「ち、違えよ! そんなことねえよ!」
いやたしかに一ノ瀬には色んな意味でドキドキさせられたけど、そんなんじゃないからな!
「まあ、あなたのことはどうでもいいとして」
「どうでもいいとか言うな?」
「この学校の全校生徒がオタク病に理解してくれたわけじゃないわ。まだ、差別的な意識を持っている人たちもいる。私たちはその人たちに理解してもらうよう努力する。そして、他の学校、地域、メディアに私たちの声を届ける。そうして地道に進めてゆくのよ」
「私、たち、な」
「何よ」
再び睨まれる。
「なんでも。つーか、社会性がほとんどない俺たちにそこまでできるかね」
「できる。やってみせるわ」
環の瞳には決意に満ちていた。
はあ、俺も付き合わされんのか。
ま、パートナーと言われた以上、最後まで付き合うのが責任だよな。
『リアルには何も求めない』。俺の信条なんだが、なんかもう全然ダメだな。
いや、違う。
少し付け足されただけだ。
『リアルには何も求めないが、究極のフィクションは求める』。こんなところかな。
今という現実のままでいない。理想だと、フィクションだと思われるような世界を求めてゆく。
俺たちはそれに手を伸ばし続けるのだ。
それが、オタクだ。
偽物でも変えられる。フィクション、二次元によって救われ、変えられた俺たちだからこそ現実を越え、理想を掴んでみせる。
偽物、理想、二次元の力をなめんなよ、現実。
「やれやれ、しょうがねえな。付き合ってやるよ。いや、今度は俺の番だな」
「何よ」
「俺と付き合ってくれ。俺が一緒に世界を変えてやる」
環の頬が赤く染まる。
「……約束よ。この約束は嘘じゃないから」
「ああ、これは嘘じゃねえよ」
「……付き合うと言っても、また偽物の関係でしょう?」
環は上目遣いで聞いてくる。
「お、お前の好きな方でいいぞ」
「じゃあ偽物ね」
環は一切のためらいもなく即答する。
「えぇ……今なんかいい感じじゃなかった?」
これでふたり結ばれてハッピーエンド、ってなったらいいんだけど、俺たちはそういう訳にはいかないんだよな。
「私たちは簡単に変わらない。そのままの私たちは間違っていない。そうでしょう?」
「そうだな。精々、俺たちは俺たちらしく偽物でやっていくか」
結局、偽物の恋人関係だ。
でも、それでいい。
ときに偽物はリアルを越える。
待ってろよくそリアル。
俺と環でぶっ壊してやっからよ。
オタク病なんてもん、なくしてやる。
そんで、環のフィクションの世界に塗り替えてやる。
「必ず、フィクションの世界、理想を掴むぞ」
「ええ」
俺は環に小指を差し出し、環は俺の小指に自分の小指を絡める。
俺たちは変えてゆく。リアルを、フィクションに――――。
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