おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第五十話:口入れ屋になろう!

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 その夜、おれがベッドにもぐりこむとドアが開いた。
 燭台を手にしたローブ姿のフォルザが入ってくる。
「なにしにきたの?」おれはきいた。
「なにしにって。ここはあたしの部屋よ」
 そうだった。
「今までずっと書類仕事。つかれたわ」フォルザは思い切り伸びをした。
「ローソクのススで顔が黒くなってない?」
「そんなことはないよ」おれはフォルザの顔も見ずにこたえた。
「一緒に寝ていい?」
 どきりとした。口から心臓が飛び出すと思った。
 おれは舌で心臓をのどの奥へと押し返すと、平静をよそおい、こうこたえた。
「子どもたちと一緒にいなくていいの?」
「チビは乳母といっしょ」
「じゃ、好きにすれば」
「それならお言葉に甘えて」
 フォルザは燭台の火を吹き消すと、その巨体にしてはわりかしスムーズにベッドの中へと潜り込んだ。
 汗の香りが鼻についた。
 はじめてふたりきりになってしまった気がした。
「おい――」おれはずーっと考えてきた疑問を彼女にぶつけた。
「なんで、おまえはおれをこんなにも厚遇するんだ」
 返事はなかった。
 かわりにすーすーという寝息が聞こえてきた。
 ベッドに入ってからまだ三秒も立ってないぞ。
 試しに鼻をつまんでみる。
 ――起きない。
 たぬき寝入りではなさそうだ。
 まったく寝つきのいいヤツめ。
「――知らないわよ――むにゃむにゃ」
 しばらくして、彼女は寝息の合間にそういった。
 おれは寝返りをうってフォルザのほうをみた。
 あおむけの彼女は、規則正しく胸のあたりをかすかに上下させている。
 さっきのことばがただの寝言なのか、それともなにかの意図があったのかは、おれにはわからない。
 わからないなら放っておこう。
 暑苦しかった。寝苦しかった。
 もう一度、寝返りをうつ。
 カーテンの隙間から三日月が見えた。
 ナイフのように細い月をながめていたら、いつしかおれも寝入っていた。

 小鳥のさえずりが聞こえたもう朝か。
 おれは大きなあくびをし、半身を起こした。
 カーテンは開け放たれ、夏の日差しが照り込んでいる。
「おはよう」
 返事はない。
 ベッドの隣は空だった。
 フォルザのぬくもりもかおりも残っていない。
 朝食とともに女中が言づけを持ってきた。
「アストレア将軍が玄関ホールで待っているとのことです。朝食はどうぞごゆっくりともおっしゃられていました」
「フォルザは?」
「日の出から執務室にこもっております」
 そうか。早起きだな。
 ゆっくりといわれたが、おれは朝食を急いで食べた。螺旋階段を下り、庭に出る。
「はいはいはい落ち着いて――」
 馬に話しかけていたアストレアがこちらに向いた。
「ルー殿。おはようございます。ご機嫌いかがですか?」
 兜をかぶったままのアストレアが挨拶する。
 結局、四年間この女(万が一男かも)の素顔は拝んだことはなかった。
 怪しい奴である。
 アストレアは白黒二頭の馬を引いている。
「おはよう、将軍。きょうも暑くなりそうだな」
「そうでもなさそうです。午後から雷雨になると思いますよ」
「天気がわかるんだ」
「軍人ですから」
「で、なにをするんだ?」
「人集めですよ。とりあえずカルボニの街の酒場という酒場にこのチラシをはりつけましょう。徹夜でつくったんですよ」
 アストレアはチラシを見せた。小さい文字が紙を埋め尽くされている。
 ちかってもいい、誰も読まない。
「そりゃ、ごくろうさまで」
「馬には乗れますか?」
「なんとかね。セリーズに教わったんだ」
「彼女はどうでしたか? 度胸どきょう愛嬌あいきょうはあるのですが、なにぶん性格がいい加減で――」
「優しい人だね」おれは出まかせをいった。「あと元気がある」
 これは本心だ。
 おれはアストレアの手を借り、白いあし毛の背にのぼる。
 将軍はとなりの青毛にまたがった。
「ご安心ください。その馬は騎士団イチ賢い馬です。ルー殿は手綱を握っているだけで構いません。勝手にあとをついてきてくれますよ」
 将軍は馬首を屋敷の門のほうに回すと、馬の腹を蹴った。

「――正義と秩序を愛する諸君、今こそ諸君を愛する国家に報いる時だぁ」
 アストレアはまっ昼間の酒場でチラシをかかげ声を張り上げた。
 もちろん、彼女の拡張高い演説に耳を傾ける者はいない。実をいうとおれも聞いてはいない。
「うるせえぞ、クソアマ! ただでさえマズい酒がさらにマズくなる」
 どっかのバカが笑った。
 どっかのアホウがくしゃみをした。
 どっかのマヌケが屁をこいた。
 酒場の奥でふんぞり返っていたひげ面の男がコップの酒を飲み干すと、そいつをアストレア目がけて投げつけた。
 アストレアは首をひねってをかわす。
 コップは後ろの壁でねて、コロコロと床に転がった。
「さっさと出てけ、バカ野郎」ひげ面が叫んだ。
「なッ!」
 アストレアが気色ばむ。
「わたしに向かって野郎とはなんだ、野郎とは」
 左足を踏み出し、戦闘態勢を取る。
「今、罵声を吐いたバカはどこのどいつだ」
 アストレアは、酒場の奥のゴロツキに向かって怒鳴った。
「そこのクソ野郎だな!! どうやらぶっ飛ばされたいようだな!!!」
 ああ、野郎呼ばわりされてイラついたのね。
 将軍にも女心はあるようだ。
 アストレアはごつい金属の小手を見せつけるようにかかげ、つかつかとひげづらの男に近づいていく。
「なんだあ、てめえ? ひでえ物言いだな! 兜をかぶらなきゃおもても歩けぬブサイクめ。ぶっとばされるのは、てめえのほうだぞ」
 ひげ面も黙ってはいない。
「ちょっと待った。もう少し穏便に」
 おれはあわててアストレアを羽交い絞めにすると、酒場の外へ引きずり出した。

「将軍。あんなやり方じゃマズいよ」
「そうか、やはり多勢に無勢だったか。もうすこし味方を連れてくるべきだったな。あのクズどもを一網打尽いちもうだじんにすればよかったのだろう?」
「いやいや、そうじゃない。昼間っから酒場に入り浸るような連中を暴力で従わせてもめごとが増えるばかりだ。ここはおれに任せてくれ」
「ルー殿なら、もっとスマートなやり方でできると?」
「約束はできない。でも、なんかできそうな気がする」
「そうか……ルー殿。では、お願いしよう」
「悪いが、金貨を一枚くれるか?」
 そういうとアストレアは露骨ろこつに嫌そうな態度をとった。
「女伯閣下からあずかった大切なお金なんだが……」
「人集めには気前の良さが必要なんだよ。フォルザもいっていたじゃないか、相場で買え、暴力はいけないって」
「――仕方ないな。じゃあこれを持っていけ」
 アストレアは袋から金貨二枚と銀貨数枚を取り出すと、おれに手渡した。
「念のため二枚渡す。危害を加えられそうになったら急いで逃げてこい。わたしの腕前ならあいつらを四、五人お釈迦しゃかにするなんて朝飯前だからな」
「そうならないことを祈るよ」

「なあ、兄ちゃん」おれは酒場の奥でふんぞりかえったヤクザの一団に話しかけた。
 さっき、コップをなげつけたひげ面の男が一団のまとめ役ボスのようだ。
 丸太みたいな腕に竜の彫り物がある。
「酒はうまいか?」
 おれは手近な丸椅子を引き寄せ、腰を下ろした。
 上から目線でも下から目線でもなく、同じ目線で話しかけるのがコツである。
「うまかねえ」ボスがこたえる。「てめえ、あのアマの仲間か?」
「亭主! この店で一番上等な酒をこの方たちにお出ししてくれ。もちろんおれのおごりだ。いやこの方たちだけじゃない、この店全員だ。一樽だ。いちばんうまいヤツを一樽開けてくれ」
 おれはボスの質問を無視し、亭主にいう。
 がやがやとした酒場は、水を打ったように静かになった。
 亭主は糸のように目を細め、おれをみた。
「お客さん、虎の子はあるんでしょうね」
 おれはわざとらしくウィンクして、太陽のように輝く黄金のコインを一枚かかげてみせた。
 ため息とともに酒場の男たちの目が、金貨に注がれる。
 大昔の名も知れぬ偉人の横顔が彫り込まれた金貨はくもり一つない素晴らしいものだった。
 リュネットが夜なべ仕事で磨きあげたに違いない。
「亭主、これで足りるな」
「も、もちろんですとも」
 太った亭主は揉み手しながら布袋ほていみたいな笑顔を浮かべた。
「よし、キミたち。今日はおれのおごりだ。好きなだけ飲んでくれ」
 地鳴りのような歓声が酒場に満ちた。
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