おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第五十九話:祭りの朝

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 Xデーがやってきた。
 四、五日前に大雨が降って唐突に夏は終わった。
 朝夕はめっきり冷える。
 明け方はとくに冷えた。
 冬支度のすんでいないおれは身震いし、首をすくめた。
 その日、屋敷は夜明け前から祭りだった。
 武器やら樽やら木箱やらをつんだ荷車がひっきりなしに門から吐き出される。
 おれはリサと並んでそのようすを見守った。
「まるで引っ越しみたい」リサはいった。
 砲二門がごろごろと眠たげな音をたてロバにひかれる。
「ルー、なにボケッとしているの? あんたもあたしについてくるの」
 馬に乗ったフォルザが近づいてきた。馬上からおれに声をかける。
 右手で手綱を握り、左手では別の空馬を引っ張っている。
「え? おれも行くの?」
「当たり前じゃない。当たり前すぎてわざわざいわなかったけど」
 ほんの一週前は汗ばむ陽気だったのに今はもう鳥肌が立つほど寒い。
「怖いの。大丈夫。安心して、なにもないから。ただの散歩よ」
 フォルザはおれの震えを恐怖が原因と勘違かんちがいしたようだ。
 マジかー、おれもパレードとやらに参加しなければいけないのか。
 めんどくさいなー。
「ほらほら、あなたの馬も連れてきたわよ」
「えー、馬に乗っていくのー。馬車で行きたいよー」
 フォルザはため息をついた。
「ルー、まさかの幼児がえり? じゃ、ママの膝にのってく? 怖くないよ、あったかいよ」
 馬上でフォルザはぽんぽんと自身の膝を叩いた。
「あんたの膝に乗るくらいなら馬に乗る」
 おれはリサの手を借り、フォルザの連れて来た馬にまたがる。
「じゃ、あたしはしばらく留守にするから。その間の面倒ごとはお願いね」
「かしこまりました。どうかご安心して。おねえさま、ぜひとものんびりと『グリュニウス十四世閣下、公爵即位のお披露目ひろめの旅』を楽しんできてください」
 リサが堅苦かたくるしくも礼儀正しい笑みを浮かべた。
「ありがと」
 結局、会話の間もリサとフォルザは一度も目を合わせなかった。
 
 おれたちは屋敷の門をくぐりぬけ、丘の道を北へ下る。
 街は騒然そうぜんとしていた。
 朝早いというのに商人は通りに繰り出し、駄馬やらロバやらをひく荷運び人に酒や食い物やガラクタを売りつけようとする。
 人夫にんぷはそのたびに足をとめた。
「ちょっとちょっと人夫に声をかけるのはやめてよね。これじゃ明日になっても終わらないわよ。営業は停止! 営業は停止よ!」
 フォルザの甲高い叫び声は雑踏ざっとうに消えた。
「ちょっとそこの騎士さん」フォルザは馬に乗った修道騎士を呼び止めた。
 兜を背中に跳ね上げたショートカットの娘には見覚えがあった。
 元教育係のセリーズだ。
 セリーズは黒い鉄の棒をマントの上からくくりつけていた。
 日焼けしていて小麦色だった肌は薄桃うすもも色に戻っている。
「このあさましき泥棒どもを追っ払ってほしいんだけど」
「いいよ」
 彼女は気軽にこたえた。
 さっそくセリーズは腰から刀をはずすと鞘ごと振り回し始めた。
 道行く人々だれかれかまわずに殴りつける。
 ひええぇぇ!
 どよめきが上がった。
「おい、どけどけどけ! 邪魔だ、邪魔だよ! 通行の邪魔だ!」
 セリーズは道端に酒樽を起き営業している商人に目をつけた。
「おい、てめえ。なんの許可があってここで商売していやがる!」
 セリーズは商人に向け、問答無用で鞘付きの刀を振り下ろした。
「うわ!」
 叫んだ商人はカップを投げ捨て彼女の殴打をかわすと、反転して逃げ出した。
 カランカランと金属のカップが道端に転がり、こぼれた酒が石畳を赤黒く汚す。
「あら、もったいない」
 フォルザがひとりごとをつぶやく。
 それをきっかけに商人たちは脱兎のごとく逃げ出した。
「もうこっちに来るんじゃないぞ!」
 セリーズは商人たちの背中に向けて怒鳴った。
「いえ、また来るわ」フォルザはいった。
「商人たちは飽きずにくるわ。なんたって『商売』のことを『あきない』っていうぐらいだもん」
「ははは、それダジャレ? 全然つまんない。でもフォルザさまがいうとおかしい」
 セリーズは笑い声を上げた。
「喜んでくれてうれしいわ。あ、あのダニども、もう戻ってきた。騎士さん悪いんだけど、荷物が運び終わるまでお邪魔虫の整理をお願いできない」
「お安い御用で」
 セリーズは鞘付きの刀を振り回しながら、ちょっとやそっとじゃめげない商売人のほうに馬首を向けた。
 
 パスティリア川にかかるグランブリュッケ大橋は大混雑していた。
 列をなす荷車にまざって大勢の通行人が歩いている。
 いつもは詰め所で通行料をとっているのに今日はフリーパスだ。
 ガキどもが用もないのに飛び跳ねながらこっちの岸と向こう岸を往復している。
「通行人とパレード用の荷車、同時に通行料は取れないわ。通行料なしで自由に橋を渡れる――たまにはそういうときがあってもいいじゃない。だって今日はお祭りの日なんだから」
 フォルザは誰ともなしにそう口にした。
 橋をわたり、少し進むと広場があった。
 いくつもののテントが張られ、中央にはお立ち台がある。さながらサーカスだ。
 お立ち台にはロープが張られ、赤毛と黒髪のふたりの男たちが殴り合っている。
 赤ら顔の群衆がまわりをぐるりと取り囲む。
 鋭いパンチが繰り出されるたびに観客たちが歓声をあげた。
 底冷えする秋の朝だというのに、ここだけ真夏の熱気がある。
 見物の男たちは夜通しのどんちゃん騒ぎのはての余韻を楽しんでいた。
 吐き気をもよおすほどの男臭さだ。

 殴り合いは赤毛が有利に進めている。
 黒髪の男はすでに顔面から流血し青息吐息だ。
「おい、胴元。おれは赤毛に賭けるぞ」
「バカ野郎。勝ち負けがついてから賭けるアホウがいるか」
 胴元が叫ぶ。
 周りをとりまく男たちがどっと笑う。
「もう一息! ストレートよ、左のストレートをあほ面にブチ込んでやるのよ」
 おれの耳元でフォルザがカラスみたいな声で叫んだ。
 そのことばが耳に入ったかどうかはわからないが、赤毛はフォルザの注文通りに黒髪に左ストレートを見舞った。
 パンチをしこたま浴びた黒髪のガードはすでに胸のあたりまで下がっている。
 あわててガードを上げるも間に合わず。
 赤毛の拳が黒髪の顔面を打った。
 黒髪の鼻がひしゃげ、汗と血が飛び散る。
 致命的な一発だった。
 黒髪のからだはぐらつき――次の瞬間、ひざから崩れ落ちた。
 地鳴りのようなどよめきが広場に響く。
「勝者は赤毛のブラウンだ!」だれかが叫んだ。
「オッズは?」
「1.2倍」
「ちっ、しけてんな」
「あの貧相な黒髪が勝てると思ったのか?」
 群衆のうちのひとりがいった。

 馬上のおれの袖口を引っ張るヤツがいる。
「うん?」
 おれは振り向いた。
 視線の先には汚いイヌを抱えた少年がいた。
 靴も履かず、服はボロボロ、いかにも浮浪児といった様子。
「おっちゃん、このイヌ買わない? 結構強いよ」
 少年はイヌを連れている。貧相なイヌだ。
 売り文句とは裏腹に、とても強そうには思えない。
「坊や、イヌなんか連れてどうしたの? 何かこのあとあるの?」
 フォルザが少年を見下ろした。
「闘犬だよ。野良イヌ同士を戦わせてどっちが勝つか賭けるんだよ」
「まあ!」
 品よく驚いたフォルザは礼儀正しい貴婦人に見えた。
「闘犬はダメよ。野蛮やばんすぎるわ。この前、闘犬禁止の王国令が布告されたの知らないの?」
「十年連続十度目の布告だね。そんなのだれも守ってない。守っていないから毎年のように布告されるんだ。そもそも顔も見たこともないヤツの命令なんて聞きたくないよ」
「じゃ、面と向かってあたしがいう。闘犬はダメ。動物たちを戦わせるのはダメ。かわいそうじゃない」
「人間同士ならかわいそうじゃないの?」少年はへ理屈をこねる。
 フォルザは反論されて目をいた。
「生意気なガキね。ダメっていったらダメなの。命令よ。したがわないとるわよ」
 やすやすと論破できないと悟ったフォルザは安直に暴力に訴えることにした。
 馬の腹のそばでぶらつかせた足で少年を蹴る真似まねをする。
「クソ! 権力を盾に横暴しやがって。暴力女と付き合ってもいいことないな。どっかいこ」
 少年はあわてて飛びのき、肩をすくめるとイヌを連れてどっかにいってしまった。
 暴力女と付き合ってもいいことない――。ホントそう思う。
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