おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第七十話:あばずれママの瞳は爛々と輝く

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 大通りでは酔っ払いが盛んに叫んでいる。
「おれは人妻とやりてえんだ。幸福な家庭を破壊したいんだ」
 修道騎士たちも負けじとスクラムを組んで酔っ払いの行方をはばむ。
「ダメです。この旅籠はたごのそばを離れないでください。街との協定です」
「なにが協定だよ、クソ。ここの売女ばいたは赤毛のデブの年増しかいねえじゃねえか。『ブロンドの巨乳がいる』っていわれたから黙ってついてきたのに。だまされたぜ。ふざけやがって。暴れさせろ。街の女を物色させやがれ」
「やれやれ、始まったわねえ」
 セリフとは裏腹に、フォルザの瞳は爛々らんらんと輝いている。
「お金とあなたたちがだーい好きなみんなの娘たちに向かって売女の年増とはなにごとよ。もっと尊敬なさい」フォルザは叫んだ。
「あーっ!」酔っ払いのひとりがフォルザを指さした。
「あいつだ! あいつがおれたちをだましたんだ!」
「詐欺師!」
「人殺し!」
「あばずれ!」
 フォルザに向けて次々と罵声ばせいが飛んだ。
 ついでに、空き瓶も飛んできた。
 フォルザは首をひねってかわす。空を切った空き瓶はコロンコロンと音を立て石畳を転がった。
「ちょっと、ちょっと待って。あなたたちの遊び代をあげたのはあたしよ。憶えてる? 詐欺師呼ばわりはひどいんじゃない?」
「そりゃもちろん……憶えているけど……」酔っ払いどもが口ごもる。「でもここの宿の女はブスばかりなんだもん」
「ですって市長。この街はわざわざ醜女しこめを集めているの?」
「いえ、そんなことはないですけど……」
 身体中の贅肉ぜいにくを揺らし、ようやくはせ参じた市長がこたえる。
「なにぶん、急な大勢のお客様でして……周辺の街からかき集めてくる時間がありませんでした……」
 市長が額からにじみ出た脂汗をぬぐいながら、言い訳する。
「街の女を出せーっ!」
「そうはいかないわ。占領地で兵卒が粗相そそうしたなんていいふらされたらあたしの輝かしい業績の汚点になるじゃない」
「おめーの業績なんかクソくらえだ! バカ女!」
「ああ、うっさいわね。こっちが下手したてに出れば図に乗りやがって。ちょっと騎士さま。あいつらをなぐって!」
「え?」そばの修道騎士がおどろきの声をあげる。
「ちょっと小突いてやりなさい」
「いいんですか? 味方ですよ」
「だからこそ愛のある規律が必要なんじゃない。それともアストレア将軍の命令じゃないと聞けない?」
「そんなことはないですけど……」
「じゃ、お願い」
「かしこまりました」
 騎士たちは恭しくお辞儀したあと、いっせいにベルトからサーベルを外す。
「なにが騎士じゃい。こっちも男よ。てめえら目にもの見させてやれ」
 酔っ払いたちは腕まくりした。
 
 戦いの趨勢すうせいは火を見るより明らかだった。
 泥酔でいすいというハンデを抱えた上、日ごろの厳しい訓練で鍛え上げられ暴力マシーンに酔っ払い風情ふぜいが太刀打ちできるはずもない。
 そのうえ騎士は武装している。鬼に金棒、虎に翼。
 酔っ払いたちは一ラウンドも持たず、あっという間にダウンしてしまった。
 口先ばかりで、だらしがないやつらだ。
「ふう、ご苦労さま。女とイヌと酔っ払いは暴力でしつけるに限るわ」

 飽きもせずその晩も市庁舎ではダンスパーティーが開かれた。
 フォルザは浮かない顔しているし、おれをダンスにも誘わなかった。
 おれは酔っぱらったリュネットと申し訳程度のタコ踊りを楽しんだ。

 翌日は朝からあわただしかった。市長と約束した退去期限の三日目だった。
 騎士たちが街中を走り回り出立しゅったつの準備をする。
 支度は昼前にようやく整った。
 先頭は騎士、続いてあざだらけの酔っ払いたち、最後にフォルザ一行が門をくぐる。
 市長と議長をはじめとする街のお偉方が十年に一度きりの満面の笑みで見送る。
 財布の膨れた厚化粧の女たちもだ。
「紳士たち、みて! 二晩をともにした金色のものに目がない愛しの彼女たちが手を振ってるわよ」
 フォルザが酔っ払いに向けて叫ぶ。
「品のない口を閉じろ、あばずれめ!」
 命知らずの酔っ払いが叫び返す。
「あらあら」フォルザは口に手を当てた。
「酔っ払いから品がないっていわれちゃったわ。なかなか光栄だこと」
 街を離れると、フォルザは馬を加速させ行列を一気に追い抜き、先頭に取りついた。
 おれたちの馬車も後を追った。
「将軍、ごきげんよう。街で骨休めはできた?」
 フォルザは一番前をゆくアストレア将軍に話しかけた。
 将軍はげんなりしたようすでこたえた。
「はい、といいたいところなのですが……地域の農民から飼い葉を買い上げるのに少々手こずりましてね。隙あらば値段を吊り上げようとするんです」
「ここではあたしたちは余所よそ者よ。仕方ないじゃない。気前よく払ってあげて。あたしたちただでさえ目立ってんだから狼藉ろうぜきでっちあげられて国王に報告されたらメンドウよ」
「……はい」
「やっぱり先頭がいいわね。鶏口けいこうなれど牛後ぎゅうごとなることなかれ。秋風が気持ちいいわ」
 道の両脇の収穫を終えたばかりの麦畑には、坊主頭のような刈りあとが残るばかりである。

「時に公爵代理閣下」キンキン声のバカが馬車の中からフォルザを呼んだ。
「ブラウンホークさん、なにかしら?」フォルザは馬上から振り向く。
「ファルケンハインです――ひとつ提案があるのですか?」
「どうぞどうぞ、ひとつといわず、みっつでもよっつでもどーぞ」
「地図を研究したところペンネの街を出て上流のキターラの街まで上り坂が続きます」
「キターラの街は山のふもとにあるからね。湖畔こはんに位置する風光明媚ふうこうめいびないいところよ」
「道伝いに積み荷を運び上げるのは大変です」
「そういう感想もあるわね」
「ですので、私考えました。積荷を、特に重たい大砲などの荷物は荷馬車から筏 いかだに移し替えて道に沿って流れるパスティリア川に浮かべて引けばいいのではないかと……」
 キンキン声のバカはただでさえ甲高い声をさらに半オクターブあげた。
「却下ね」フォルザは即座にこたえた。
「え?」キンキン声のバカは目を点にする。
「却下よ。聞こえなかった」フォルザはすでに前を向いている。
「な、なぜです!? 個人的には名案だと思ったのですが……」
「うん? 川の浅瀬に荷物が乗りあげちゃったらどうするの? 荷物を載せたいかだが波にあおられて転覆しちゃったらどうするの? 大砲は木製の組み立て式投石器トレビュシェットと違って水には浮かないのよ。このクソ冷たい秋の川底から荷を引っ張り上げるのはだれ? 修道騎士さま? それともあなた?」
「そ、そうなる確率は低いです」
「確率って……じゃあサイコロの目次第ではあたしたちは大砲と荷をあきらめてキターラの街に物乞いしにいかないといけないの? こうみえてもあたし運の悪い方よ」
「それは、考えれば打開できるかと……」
「あたし、脳に汗をかいてサイコロの女神さまにびを売るより、背中に汗をかいて先人たちの切り開いた確実な道をきたいの」
「はい……」軍師気取りのバカはキンキン声をひそめた。
 バカがしゅんとするのを見てフォルザは口調をやわらげた。
「ごめんなさい。少しきつい口調になっちゃったわね。でもめげないで。これからもアイデアをよろしくね。ブリンプルンさん」
「――ファルケンハインです」キンキン声のバカは肩を落とした。
「なんかねえ」フォルザは後ろを振り返った。「ごろつきども増えてない? 三百人が五百人に増えている気がするわ。分裂でもしたのかしら?」
「確実に増えてますね」アストレアが笑い声をあげた。
 「みんな勝ち馬に乗りたいんです。お給料もいいし、チャンスがあれば略奪もできる。腕に覚えのある者なら我こそはと荒くれの集団に加わるでしょうね。いいように使ってやりましょう」
「――面倒毎が増えなければいいんだけど」
「どのみち矢受けにしかなりません。安心してください」
「ねえ――」フォルザが目をひそめた。「なんかこの道、妙に静かじゃない?」
 いわれてみたら確かにそうだ。
 行軍の足音は高らかに響く。
 しかし、カルボニの街を離れて以来、つねに付きまとってきた好奇の目線が今はない。
 地平線の彼方まで道はおれたちだけに占拠されていた。
「三日間で情報が伝わったのでしょう。商人たちはわき道をつかってわれわれを避けたに違いありません。なーに通りやすくていいじゃないですか」
 キンキン声のバカがいった。
「まーそうなんだろうだけど。なんか不気味よね」
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