おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第七十三話:あばずれママの戦力の再配置

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「王太子殿下あいてに意地を張らなくても……」アストレアが心配そうにいった。
「そうはいかないわ。あたしがここで引けば公爵の領地でも伯爵の領地でも王族が好き勝手できるっていう悪い前例ができるわ。あたしは引かない。メンツにかけて。いえ、王太子殿下の軍勢を蹴散らしてでもわが領土キターラの街に進軍するわ」
「正気ですか? たしかに現状の王太子殿下の手勢は街の前にたむろする親衛の騎兵隊と従卒だけ。軍を引かせることぐらいはできるかもしれません。でも、そのあとはどうするんです。諸侯を集めて報復にくるかもしれませんよ?」
「どうでしょうね。公爵代理風情に背中を見せる君主に諸侯は従うかしら? あたしはそう思わない。――いえ、この場で王太子殿下を捕虜にしてみせるわ。身代金ついでに報復しないことを条件にいれて解放してやりましょう」
「そんな簡単に王太子殿下を捕虜になんかできるとお思いで?」
 夢みたいなことをいうフォルザに対して至極まっとうな意見を述べる将軍。
「できるわ。ヤツらは根本的にあたしたちをあなどっている。殿下はご自慢のカビの生えた重装騎兵でちょっと脅せば、小娘ちゃんからなるあたしたちの軽騎兵なんか泣いて逃げ出すと思ってるのよ」
「事実では?」
「本当? 将軍もそう思ってる?」
「いえ」アストレアは自信ありげに腕を組んだ。
「時代遅れの重装騎兵どもを一網打尽にできる絶好の機会だと思っております」
「さすがアストレア。あなたが鍛え上げた修道騎士団の力を王太子殿下に見せてあげましょう」
「御意」
「ならば、相応の作戦が必要ですよ」
 キンキン声のバカがいった。
「ここは戦場に適した舞台とはいえません」
「どうして? 説明して。ここは見晴らしのいい絶好の高台だと思うけど……」
「高地――それは一概に悪くはありません。しかしここはよくない。見てください」
 キンキン声のバカは北を指さした。
 丘のふもとをはしる湾曲した川のずっと先のほうに街と王太子の軍勢が見えた。
 キンキン声のバカは街道を南側から北側へ空中でなぞりながらいう。
「いいですか? この丘をぐっと下ると道は左側から接近する川と右側から迫る斜面と森に挟まれます。文字通り隘路《あいろ》です。兵力の展開なんてできやしません。で、仕方なしにわれわれがお行儀よく行列を組んで森の道を行進していくと、いきなり王太子殿下の軍勢が弓を引いて待ち構える広場に出くわすってわけです。先頭から順繰りにぱくぱくと食べられてしまうわけですね。一列になってオオカミの口の中に逃げるヒツジみたいですね」
「ふんふん、話の要領は得ないけど、ようは道が狭すぎて突撃はできないってことね」
「そのとおりです」
「じゃあ、なにかいい案はあるの?」
「戦力の再配置です」キンキン声のバカは短くいった。
「戦力の再配置? それって格好つけていったつもりでも、つまり退却てことでしょ」フォルザがいう。
「いえ、戦力の再配置です」バカはゆずらない。
「ことば遊びにはつきあってられない」
「閣下、お聞きください。この丘はあたりを見渡せる絶好の高地と見えて実は攻勢に出るにはむずかしい地形。この丘には最低限の兵だけ残し、主力は丘のふもとまで下ろします。丘を下りると布陣できる程度にはスペースがあります。キターラの街へ続く道も隘路あいろですが、南へと下る道もまた険しい。われわれの主力はそこでじっくりと待ち構えます。かりに王太子軍が丘を占拠したとしても追撃は困難。無理を承知で突撃したところを待ち伏せしてやっつける。そんな寸法です」
「ふむ、そう聞くと戦力の再配置ってのも悪くはないアイデアね」
 フォルザがいう。
「そうでしょう」
 バカがドヤ顔で応じる。
「しかし、このアイデアにはふたつの問題点があります」
「なに?」
「ひとつは士気の低いごろつきを整然と麓まで後退させること。兵士にとって来た道を戻ることほどつらいことはありません。多くの兵の脱走が予想されます」
「騎士団がこん棒で士気を注入するからその辺はご心配なく」アストレアがいう。
「もうひとつ、南側には拠点にできるような大きな村落がないことです」バカがいう。
「加えてあの地域は人口もまばら。周辺の糧秣りょうまつはあらかた買い取ってしまいました」
 アストレアが小声で補足する。
「あまり長い間陣地にとどまることはできないでしょう。人はともかく馬が飢えてしまいます」
「短期決戦が必要っていいたいのね」フォルザは鼻で笑う。
「大丈夫、向こうさんをイラつかせらせる策ならいくらでもあるわ」

 日が落ちるころ、再び使者がやってきた。
「国王陛下も王太子殿下もお怒りでございますが、同時に懐の深さも見せております。本日中に武装を解き、兵を丘の向こうに下がらせるなら反逆の罪には問わぬと。明日になってもまだそれがなされぬのなら反乱とみなし武力行使も辞さないとのことです。くわえてもうひとつ。閣下の主張するパスティリア川流域の支配権に関し王家は疑義をいだいているとのこと」
「パスティリア公爵云々うんぬんはマッタリア王家には関係ないことよ」
「その件につきましては国王並びに王太子殿下に直接ご弁明願います。王太子殿下は伯爵閣下が民衆にいたずらに恐怖をばらいていると大層ご立腹です」
「勝手に怒っていれば? あたし、引く気ないから」
「では、そのようにお伝えいたします。よろしいですね」使者は念を押す。
「構いません」

 翌日――
 その日は雲一つない秋晴れだというのに丘には不気味な緊張が満ち満ちていた。
 湖の向こうののこぎりのような銀嶺があかね空を切り裂いている。
 陣営は明け方から大わらわだった。
 撤退というから、ただ騎士団とゴロツキを下がらせるかと思ったらそうではなかった。
 頂上の村落には修道騎士が集められた。
 騎士たちは村人を家々から追い出すと手当たり次第に村の建築物を解体し始めた。
 もちろん納屋やら倉庫やらに貯められた備蓄品も持ち出している。
 村長は噛みつかんばかりに猛抗議する――が武装した騎士たちは聞く耳をもたない。
 最終的にフォルザは金貨を積んで村長を黙らせた。
 接収された屋敷の代わりに村長一家にあてがわれた幌馬車から昨日までなついていた孫娘が顔だけ出して、恨みのこもった目線でフォルザをにらんでいた。

 昼過ぎまでに騎士団は解体工顔負けの働きで、家々の板材どころか基礎の石まですっかり運び出してしまった。
 村は魔法のように姿を消し、掘り出された基礎の跡が抜歯の後の黒い穴のように残っている。
 騎士団は村長の屋敷をそっくりそのまま丘の麓の広場に移設しそこを本営とした。
「あそこは大雨が降ると浸水するのですが……」
 村長の忠告に耳を貸すものはいない。

 ゴロツキどもは退却を嫌がった。
 来た道を戻ることほど屈辱的なことはない。
 ぶつくさ文句をいうし、酒ビンを抱いて手放さない。
 騎士たちはおどすようにベルトからサーベルを外し高々と掲げる。
 しかし男たちは肩をすくめただけ。ケツに根が生えたように一向に動こうとはしない。
 ひとりの騎士が突然、サーベルのさやで男を殴打おうだした。
 理由は……とくになさそうだ。目が合ったわけでもない。
 たまたま近くにいたのが運の尽き。
 男は叫びながら顔をおおう。
 別の男が駆け寄ってきた。
 騎士は無言でそいつにも一太刀浴びせた。
 にぶい音があたりに響く。
 ふたりの男はその場でうずくまった。
「立て! 根性なし」
 まわりの男たちは抗議するでもなく、ただ無言で憎悪の視線を騎士に浴びせかけるだけだ。
「男のくせに! 根性なしめ! 立て! 立たぬか!」修道騎士はキンキン声で叫ぶ。
 当たり所が悪かったのか、ふたりの根性なしは立ち上がることができない。
 騎士はもう一度、鞘を振り上げ……そこで手を止めた。
 何か思いついたようだ。騎士の口元に邪悪な笑みが浮かんだ。
「――おい、お前」
 騎士は目についた男に声をかけた。
「お前、そこで這いつくばってる根性なしを殴れ!」
「は?」
 不運な男は思いがけない命令に目をぱちくりさせた。
「だ・か・ら、このふたりを全力で殴れ! 聞こえなかったのか?」
「ああ……」不運な男はようやく命令の意味を理解したようだ。
 男は騎士とふたりの根性なしを交互に見つめる。
 騎士はサーベルを抜いた。
「さっさとなぐれ! それとも斬られたいのか!」
 男は操り人形のように、ぎくしゃくとした動きで右手をあげ、そこで静止した。
 騎士はほむら色に染まった白刃を男の頭上に掲げた。
「さっさとしろ! 耳、斬り落とすぞ!」騎士が叫んだ。
「わ、わかりました」
 折檻せっかん係を仰せつけられた男が甲高い声で叫びながら、根性なしどもを殴り始めた。
 二度、三度。
 黄色い大地に鮮血が飛び散った。
「ちょっとちょっとやめなさいよ、軍曹サージェント! やりすぎ!」
 見かねたセリーズが騎士と折檻係の間に割って入り、見苦しい暴力が終わった。
「軍曹さん、次のビンタ係はおれを指名してくれよ」
 ひとりの男が短気な騎士に近寄ると、声をかけた。
 騎士は目のはしで男をにらむ。
「おれはなあ、誰かを殴りたくて殴りたくて仕方ねえんだよ」
 くぐりぬけた修羅場と同じ数の頬傷をもつ男は右手をぐーぱーさせながらいった。
 酒と同じくらい暴力を愛する男だ。
 黄ばんだ瞳は奇妙な興奮でぎらついている。
「機会があったらな」騎士は抑揚のない声でこたえた。
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