おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第九十二話:将軍の秘策

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 呼吸を弾ませながらフォルザが戻ってきた。
 こめかみから出血している。
 こん棒は早々に砕けてしまったようで、今は大人の身の丈の二倍はありそうな枯れ木を両手で握りしめている。抜きたてほやほやで根っこには土がついていた。
「だれにやられた? 敵か?」
「あたしがあんなゴテゴテしい鎧の臆病者どもに一発喰らうわけがないじゃない。あたしがおっちゃんから敵の首級を横取りしようとしたらぶん殴られたの」
 そりゃ当たり前だ。
「あんちくしょうめ、味方の指揮官を殴るなんてどういる了見なのよ――あ、首はかなり収穫できたわ。見る?」
 フォルザは馬の鞍に吊るされている布袋を持ち上げた。
 ぎっしりと中身が詰まった布の袋から、ねっとりとした赤黒い液体で垂れている。
 おれはグロテスクな中身を想像し、あわてて首を振った。
「フォルザ閣下!」
 将軍が近寄ってきた。
 胸甲にも服にも血痕ひとつついていない。
 ずっと後方で指揮をしていたようだ。
「涼しい顔してるわね、将軍。まずは水を一杯」
 将軍が黙って革袋を差し出す。
 フォルザは袋を口に当て、のけぞりながらカバのように水を飲んだ。
「なにかいいたげね?」飲み終わるとフォルザはいった。
「中央の歩兵が左翼に移動したせいで右翼と中央が薄くなっております」
「まるでだれかさんの頭ね」
 フォルザはおれのほうをちらりと見た。
「その薄みに一斉突撃でも喰らおうなら、わが陣地は真っ二つの裂かれ形になります」
「あらあら、女の子の恥ずかしいところみたいになっちゃうわね」
「閣下、冗談はおやめください」
 将軍アストレアが冷めた目でにらむ。
「つまりは……なにがいいたいの?」
 フォルザは額の汗を手の甲でぬぐいながらいった。
「王太子軍の騎兵はまだ突撃が終わっていません」
 ふもとから丘の上まで白銀色のシルエットがびっしりと並んでいる。
 前の騎馬がすすむたびに物販の列のように行儀よく空白を詰める。
「見てよ、あの行列。細い小道でどん詰まりよ。予想通りじゃない」
「感心してる場合じゃありません。あの列が終われば歩兵の突撃です。正直なところわが軍の損耗そんもうは決して少なくありません。騎兵だけならともかく歩兵の大群まではさばき切れません」
「弱気ね」
「事実です」
「そうなったら総崩れ?」
「ええ、おそらく」
「聞きたくない言葉ね。右翼の兵を抽出して中央を強化したら?」
「気がすすみませんね。右翼は下馬騎兵が中心です。穴の中から銃を発砲し追い散らすことはできますが、白兵戦は得意とはいえま――」
「ほかに思い付く案は? それとも指をしゃぶってわが愛しの軍が崩れるのを見てるだけ?」
「あります」
「……なに?」
「ルー殿をお借りしたいと思っています」
 フォルザは、すっと目を細めた。
「そういえばあんたたち……最近ずいぶん仲がいいのね」
 フォルザの口調には毒が含まれていた。
「閣下!」
 将軍が叫んだ。
「冷やかしをいっている場合じゃありません! わが軍は崩壊の危機にあります。歩兵がすりつぶされています。目の前の死体の山を見てください。わが軍の兵士です」
 フォルザが不満そうに口をとがらす。
「将軍は勝確かちかくっていってたじゃない」
 アストレアは一瞬口ごもったあと、小さい声でこたえた。
「――敵軍が要塞砲を川に浮かべて運んでくるとは思いもしませんでした。ごうさえあれば敵の騎兵を足止めすることなど造作もないことでした」
 フォルザは将軍の肩をぽんと叩いた。
「自身の想像力の無さをいい訳にしないで」
 ぞっとするほど冷酷な声色だった。
 顔から血の気が引いたアストレアを無視し、フォルザは続ける。
「――で、危機を打開する秘策があるのね、ルーを使って」
「あります」弱々しいながらもアストレアはいった。
 顔色こそ蒼白ではあるが、その声は自信に満ちている。
 フォルザは信頼の欠片も感じさせないまなざしで将軍を見つめた。
「使っていいわ。ただし壊さないでね」

 フォルザの許可がとれた将軍は、すぐさまおれの首根っこをつかむと森へと乗騎を走らせた。
「どこに行くの?」
「丘を回り込んで敵の裏に回る」
「それから……?」
「後詰めの脇に出る」
「それで……?」
「竜の火勢で連中の士気をくじく。後続の歩兵は寄せ集めのうえ金払いの悪い指揮官どもに不信を抱いているはず。勝ち戦ならいくらでも勇敢になれる。が、よきせぬ一撃をくらえばすぐさま浮き足立つ。混乱した兵ほど扱いの難しいものはない」
「――強引な戦法だな」
「作戦は奇を以ってよしとすべし、だよ」
 将軍は木々を左右に交わしながら馬を飛ばす。
 傾斜を横切り、丘を駆け上り、くぼみを飛び越え、等高線上をひた走る。
「ところで竜の火勢ってなんだ? そんな秘策、聞いたことないぜ」
「ああ」将軍は前に乗ったおれのケツをぽんと叩いた。冗談めかした明るい口調だった。
「ルー殿の屁のことだよ」
「そこの騎兵待て! 許可なくこの林を通行することは禁止されている」
 おれの返事を待たずに、岩かげから、ぬっと数人の兵士が現れた。
「貴様、馬から降りろ。所属と部隊長の名を述べよ」
 兵士の盾には見知らぬ紋章が描かれている。
 将軍は意にも留めずに馬をせる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て」
 兵士たちがあわてる。
 アストレアはすでにサーベルを抜いていた。
「わ、わ、わ」
 兵士は反射的に盾を頭上にかざす。
「御免!」
 将軍は一声叫ぶとすれ違いざまにサーベルを振った。
 ほれぼれするような美技だ。
 刃は盾に触れる直前に急に向きを変え、盾の表面をまるで滑るかのようにかいくぐりと狙い、兵の鎧の継ぎ目を迷うことなく断ち切った。
 真紅の噴水とともに、兵が仰向けに倒れる。
 予期せぬ出来事に呆然とする兵士たち。しかしアストレアは攻撃の手を休めない。
 敵兵は瞬く間に斬り捨てられ、無数の死骸しがいが林に転がる。
 最後の一兵が、叫び声を上げながら、槍を捨て逃げ出した。
 将軍は馬を飛ばし、彼の背中に刃を突き立てた。
 断末魔の悲鳴をあげ兵は倒れた。
 将軍はそのまま何事もなかったかのようにそのまま馬を走らせ――
 突如とつじょ、馬はバランスを崩し、前のめりに倒れた。
 はずみでおれも将軍もやぶの中へと放り出された。
 視界がぐるりと回転した。身体は重力に従い落下する。
 辛うじて受け身を取りつつも、激しい勢いのまま背中から地面に落ちた。
 思わず奥歯を噛みしめたが、予想していたほどの衝撃はなかった。
 不幸中の幸い、地面に積もった落ち葉のクッションがおれの身体を優しく抱き留めていた。
 将軍も無事と見える。すぐに立ち上がりながら体についた木の葉を払っている。
「大丈夫か?」将軍がきく。
 おれはこくりとうなずいた。
 将軍はおれを一瞥いちべつしケガがないのを確認すると、続いて馬のそばに駆け寄った。
 馬の胸元には深々と剣が刺さっていた。
 傷口からあふれ出た血が落ち葉のカーペットを黒く汚した。
「敵ながらあっぱれだな」将軍はいった。
 逃げ出した兵は将軍のサーベルに背中を切りつけられながらも、捨て身の反撃を繰り出したのだろう。
「大丈夫そう?」
 馬は四肢で必死に落ち葉をいている。
 血濡れた木の葉が宙を舞う。
 将軍は首を振った。
「出血がひどい。切っ先が片肺を完全につらぬいている。長くはもつまい」
 愛馬が切られたというのに将軍は落ち着いていた。
 将軍はおれのほうをじっと見つめた。
 瞳はやるせない悲しみの色で染まっている。
 アストレアの背後で馬がごぼごぼと血を吐く。
「ルー、どうか後ろを向いてくれないか」
 おれは無言で指示に従った。
 肩越しにくぐもったが聞こえた。
「さ、行こうか」
 将軍が濡れた手でおれの肩を叩く。
「急ごう。ここからは徒歩だ。せっかく敵陣の脇腹をつつけるチャンスだってのに。その前にフォルザ閣下の軍隊が崩壊してちゃ元も子もない」
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