おれのあばずれお姫さま――ノースキルで異世界転生。「大丈夫! 養ってあげる」おれは巨乳の姫のヒモになる

ほろのやかん

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第九十五話:骨肉相食む

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 森を抜けたときもまだアストレアの息はあった。大量朱けっつしていたのに――。タフな女だ。心底感服する。
 陣地にたどりついて治療を施せば助かるかもしれない。
 いや、助かるはずだ。だっておれが恋した将軍だもの。
 胸の内の期待がわずかにふくらんだ。

 森ですれ違った兵たちの話はウソだった。
 王太子はいまだ健在である。
「クソ女、売女ばいた淫売ビッチ、あばずれ、どこ行った。出てこい!」
 白銀色の鎧に身を包んだ偉丈夫は呪詛を吐きながら、王の死も、後続歩兵の壊滅もまるで関係なかったようにフォルザ陣地の中央で刀を振るっている。
 王太子率いる騎兵はすべて戦地に投入されたようだ。
 辺りは死体で埋め尽くされ戦列なんてクソくらえ、敵味方わからぬ乱戦になっていた。
 ひときわ目立つふたつの人影。
 王太子とフォルザ。
 フォルザは森から引っこ抜いたであろう落ち葉のついた木の幹を薙刀みたいに振り回し、敵騎兵を弾き飛ばしていく。
 落馬した騎兵には容赦なく金に目がくらんだ荒くれどもが襲撃する。
 血みどろの白兵戦が目の前で繰り広げられていた。
 王太子がとうとうフォルザを発見した。
 人の丈ほどある巨大な剣を片手にフォルザ向けて突進する。
 しかしそこにひとりの騎兵が横槍を入れる。
 騎兵はありふれた鎧兜に身を包んでいる。
 目印になるようなものは何も身に着けていない。
 すぐさま王太子と騎士の火花散る一対一の戦いが始まった。
 剣閃同士がぶつかり合い美しくも残酷な旋律をかなでる。
 あの騎兵はだれだ? 味方のはずだが記憶にない。
 修道騎士ならもっと軽装だし荒くれは馬には乗らない。キンキン声のバカがあんな見事な剣さばきを持っているとは思い難い。
 はて知らぬうちに応援でも頼んだろうか。
 王太子と謎の騎兵は一進一退の攻防を続けている。
 ――と王太子が間合いを取った。
 次の瞬間、馬を反転させバカでかい剣を両手持ちし袈裟けさ切りを放つ。
 謎の騎兵がサーベルを水平にかかげ防御姿勢をとる。
 火花とともに謎の騎兵のサーベルが根元からぽっきりと折れた。
 王太子はただちに二の太刀を振るう。きらめく剣閃がうなりをあげて謎の騎兵の頭部を襲う。
 兜が真っ二つに割れ、宙に飛ぶ。
 王太子は余勢を駆って謎の騎兵のかたわらを走り抜ける。
 斬られた謎の騎兵はどうと落馬――しなかった。
 騎兵は刃が触れる瞬間、首をカメのように鎧にひっこめ、剣筋から逃れたのだ。
 兜が外れた。謎の騎兵の素顔が陰り始めた夕陽に照らし出された。

 ジュリだった。
 将軍の隠し子、おれの弟分、新婚ホヤホヤのジュリだった。
 ときほどけた豊かな銀髪はオレンジ色に染まり、悠然と風に流れている。
 勢いのままジュリの後方まで進み振り返った王太子の剣の切っ先が力なく垂れた。
 王太子はヘビ女に見つめられた石像のように硬直していた。
「隙あり!」
 フォルザが両手に木の幹を抱え、戦場に立ちすくんだ王太子に攻撃する。
「敵将うちとったり!! がはははは!!!!」
 王太子の手が動いた。呆然としつつも無意識に王太子はフォルザを迎撃していた。
「あふん!」
 水平に振られた剣がフォルザを吹き飛ばした。
 手にした幹に一撃を受けたフォルザは落馬し、地面を三回ほど転がるとノビてしまった。
「お前はだれだ?」
 王太子が兜の奥からジュリに問う。
 そういえば王太子もジュリによく似た銀髪だった。
 この世界でこんな美しい銀髪なんて見たことない。まるで兄弟みたいだ。
 まさか――。そんなまさか――。
 ジュリが笑った。美しいほほえみだ。
「お兄ちゃん、初めまして。会えてうれしいよ」
 ジュリは折れた剣を捨てる。
「でも初めてあった場所が戦場とはね……しかも敵同士でね」
 腰の短銃を引き抜くと王太子にむけた。
「願ってもない機会だよ。運命の女神に感謝しなきゃ」

「――ま、まさか」
 王太子は面頬バイザーを跳ね上げた。
 弟と瓜二つの甘い美貌びぼうが兜の隙間からのぞく。
 しかし血走り飛び出さんばかりに見開かれた目は、十人の乙女のうち九人は恋に落ちるであろう彼の美貌を台無しにしていた。
 引き金にかかったジュリの指に力がこもる。
「さよなら、お兄ちゃん。罪深き女から、罪深き腹から産まれたお兄ちゃん……」
 王太子は剣を構え直し――
 撃鉄が落ちた。
 破裂音。
 王太子の鏡のような鎧の腹に大穴があいた。
 前のめりに倒れる。
 馬首を抱え何とかこらえる王太子の腕には、もはや自身と鎧を支える力はない。
 王太子はずるりと馬の背から滑り落ちた。
 
「殿下! 殿下!」
 取り巻きが飛んできた。
「殿下を救出せよ!」
「撃て! 撃て! 全員ぶっ殺すのよ」
 ジュリの銃声で目を覚ましたフォルザが叫ぶ。
 残存の修道騎士と荒くれが落馬した王太子にむけて突進する。
 また乱戦――

 お供の騎兵は主君のピンチに何万倍もの力を発揮した。
 修道騎士もならず者も吹っ飛ばし、あるじの身体を死体の山から、掘り出す。
 王子の鎧は、べちゃついた肉と血にまみれ、肉屋のオヤジのエプロンみたいに赤黒く汚れていた。
 取り巻きは主君の死体を担ぎ上げるとフォルザたちに背を向け去っていった。
「これで終わり……かしら」
 川と森と丘に囲まれた狭い平地は静けさを取り戻していた。
 屍肉を狙う飢えた猛禽どもが上空をゆっくりと旋回している。

 風が吹き、キターラのそばで起きた森林火災の焦げた匂いが漂ってきた。
 死臭と混じり合い吐き気を催すような匂いとなる。
 フォルザがお尻を地面につけたままいった。
 彼女の上気した表情に生気はなく、夢の中にいるようであった。
「勝利ってことでいいかな? あたしはまだ生きているし、邪魔者は去ったし……」
「いいんじゃないかな」
 ジュリが馬上からフォルザを見下ろしながらこたえた。
 手にした銃口からは紫色の煙が立ち上っていた。
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