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第二十四話:あばずれ姫の結婚
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「ルーちゃん、とうとうフォルザさまが結婚なさるそうよ」
エレニア先生がそう告げたのは、春もおわりの陽気な一日だった。
アリスはワンころのシエラと小屋の中でエレニアが拾ってきた毬を転がし遊んでいる。
「六月の始めだって。あと二週間ほど」
「ふーん」おれは一心不乱に毬を攻撃するシエラを見ていた。
アリスとイヌがこの小屋に居ついてから、フォルザは一度も顔を見せなかった。
アリスの買取りは無事成功したのだろう。誰も文句をいってくるヤツはいなかった。
「ルーちゃん、気にならないの? あなたの後ろ盾が結婚しちゃうのよ。このお屋敷を立ち去るのよ」
先生がいう。
「別に……」
関心がないのは本当だ。フォルザの色恋沙汰にはまったく興味が持てない。
ただ、フォルザが去って生活がどう変わるのか気になった。
あまたのフィクションと違っておれには驚くようなすごい力とか、世界中の美少女にモテまくるといった特殊技能はない。
強いてあげるなら、人よりちょっと穴を掘るのがうまいぐらいだ。
ただ、人力勝負のこの異世界でおれの技能がどれだけ抜きんでているかはわからない。まあ、穴を掘るって仕事はどこの世界でも需要はありそうだ。キツいわりに低賃金だけど……。
なるようになるさ。どうせ人生の二周目だし。
だから、考えるのはこれでおしまい。
「別に……ってそれだけ? 嫉妬とか、やきもちとかないの?」
「いや全然」
先生はかーっとうめき、額に手を当てると天井を見上げた。
「これだから男は……」
フォルザについての話はそれで終わった。
祝賀ムードは日ごとに高まっていった。
住人だけでない、街そのものがお祝いを待ち焦がれているようだ。
エレニア先生もそわそわを隠せない。
用事もないなのに小屋を出たり入ったりしている。
街中でのんびりしているのは、おれとアリスとワンころのシエラだけのようだ。
突如、ばたばたとけたたましい足音がした。
ドアが勢い良く開いた。
どうせフォルザだろう。
「いとしのダーリン。元気?」
予想通り、大柄で大雑把な女伯閣下が戸口から顔をのぞかせた。
「ああ――」おれは口ごもった。
「祝福して。あたし、あした結婚するの。おめでとうっていって」
「――おめでとう」おれは突然の訪問に面食らいながらも祝福の言葉を返した。
「ありがとう」フォルザは予定調和のようにいう。
「つきましてはね。ルー、あなたの幽閉を解こうと思うの。恩赦よ。感謝して。ここにきたときは、まだひとこともこの国の言葉をしゃべれなかったわね。懐かしいわね。あなたのしゃべる外国語が坊主の念仏に聞こえたわ。たった半年で、互いの意思疎通はバッチリよ。よく頑張ったわね」
フォルザはおれを褒めた。
早口で続ける。
「あたし、これから数年間、婿殿の港町の住むわ。だから、あなたを自由にするの。あたしなしにこの離れに軟禁は可哀そうだからね。とはいっても、裸で放り出すような真似はしない。これからもあたしの屋敷に住んでね。もっとも、さっきいった通りあたしはいないけど。婿殿の領土についたら、ぽこぽこと子供を産むつもり。なんでかって。わたしと婿殿の男の子はこのカルボニとシグリアの港を両方相続することができるのよ。そうなれば、この街はますます豊かになるわ。もう港のたっかい関税にも悩むことがなくなるのよ。それって素敵じゃない」
フォルザは機関銃のように一気にまくしたてた。
おれは丸腰で集中放火を喰らった兵士のように立ちすくむほかなかった。
「さ、しばしのお別れよ。何年かして落ち着いたら、かならず一緒に暮らしましょうね」
フォルザはためらいもなくおれの唇にキスをした。
おれは目を白黒させた。
挙式を控えた花嫁がなぜこんな大胆な行動にでられるのか、おれには理解できない。
フォルザの瞳はかすかにうるんでいる。
彼女は伯爵との――あの春の日にみたひょろながい婿殿との結婚を嫌がっているのだろうか。
いや、そうにはみえない。口ではおれへの愛をときながら、おなじくらいフォルザは伯爵との結婚にも積極的だった。
フォルザはおれの両手を握りしめる。湯たんぽのように温かい。
「ルー、あなたはあたしの愛を疑わないで。離れ離れになるのはちょっとだけなんだから。かならず、あなたのもとにお戻りします」
フォルザはもういちどキスをすると、背骨が砕けるようなパワーできつく抱きしめた。
肺が締め付けられ酸欠で気が遠くなり始めたころ、ようやくフォルザはおれを介抱した。
結婚間近の花嫁は、婿でもないおれを名残惜しそうに頭の先からつま先まで眺めた。
「じゃ、あたしはこれで。また会いましょ」
戸口のところで彼女は振り返った。
「今夜、ちょっとしたサプライズがあるの。あんまりショックを受けないでね」
フォルザはおおげさなウィンクをすると、ばたんと扉をしめた。
なにもかもが唐突だった。
おれはぽかんと立ち尽くすしかなかった。
エレニア先生も同様だ。お互い無言で顔を見合わせるほかなかった。
フォルザの言動も行動もおれの理解の範疇を越えている
エレニア先生がそう告げたのは、春もおわりの陽気な一日だった。
アリスはワンころのシエラと小屋の中でエレニアが拾ってきた毬を転がし遊んでいる。
「六月の始めだって。あと二週間ほど」
「ふーん」おれは一心不乱に毬を攻撃するシエラを見ていた。
アリスとイヌがこの小屋に居ついてから、フォルザは一度も顔を見せなかった。
アリスの買取りは無事成功したのだろう。誰も文句をいってくるヤツはいなかった。
「ルーちゃん、気にならないの? あなたの後ろ盾が結婚しちゃうのよ。このお屋敷を立ち去るのよ」
先生がいう。
「別に……」
関心がないのは本当だ。フォルザの色恋沙汰にはまったく興味が持てない。
ただ、フォルザが去って生活がどう変わるのか気になった。
あまたのフィクションと違っておれには驚くようなすごい力とか、世界中の美少女にモテまくるといった特殊技能はない。
強いてあげるなら、人よりちょっと穴を掘るのがうまいぐらいだ。
ただ、人力勝負のこの異世界でおれの技能がどれだけ抜きんでているかはわからない。まあ、穴を掘るって仕事はどこの世界でも需要はありそうだ。キツいわりに低賃金だけど……。
なるようになるさ。どうせ人生の二周目だし。
だから、考えるのはこれでおしまい。
「別に……ってそれだけ? 嫉妬とか、やきもちとかないの?」
「いや全然」
先生はかーっとうめき、額に手を当てると天井を見上げた。
「これだから男は……」
フォルザについての話はそれで終わった。
祝賀ムードは日ごとに高まっていった。
住人だけでない、街そのものがお祝いを待ち焦がれているようだ。
エレニア先生もそわそわを隠せない。
用事もないなのに小屋を出たり入ったりしている。
街中でのんびりしているのは、おれとアリスとワンころのシエラだけのようだ。
突如、ばたばたとけたたましい足音がした。
ドアが勢い良く開いた。
どうせフォルザだろう。
「いとしのダーリン。元気?」
予想通り、大柄で大雑把な女伯閣下が戸口から顔をのぞかせた。
「ああ――」おれは口ごもった。
「祝福して。あたし、あした結婚するの。おめでとうっていって」
「――おめでとう」おれは突然の訪問に面食らいながらも祝福の言葉を返した。
「ありがとう」フォルザは予定調和のようにいう。
「つきましてはね。ルー、あなたの幽閉を解こうと思うの。恩赦よ。感謝して。ここにきたときは、まだひとこともこの国の言葉をしゃべれなかったわね。懐かしいわね。あなたのしゃべる外国語が坊主の念仏に聞こえたわ。たった半年で、互いの意思疎通はバッチリよ。よく頑張ったわね」
フォルザはおれを褒めた。
早口で続ける。
「あたし、これから数年間、婿殿の港町の住むわ。だから、あなたを自由にするの。あたしなしにこの離れに軟禁は可哀そうだからね。とはいっても、裸で放り出すような真似はしない。これからもあたしの屋敷に住んでね。もっとも、さっきいった通りあたしはいないけど。婿殿の領土についたら、ぽこぽこと子供を産むつもり。なんでかって。わたしと婿殿の男の子はこのカルボニとシグリアの港を両方相続することができるのよ。そうなれば、この街はますます豊かになるわ。もう港のたっかい関税にも悩むことがなくなるのよ。それって素敵じゃない」
フォルザは機関銃のように一気にまくしたてた。
おれは丸腰で集中放火を喰らった兵士のように立ちすくむほかなかった。
「さ、しばしのお別れよ。何年かして落ち着いたら、かならず一緒に暮らしましょうね」
フォルザはためらいもなくおれの唇にキスをした。
おれは目を白黒させた。
挙式を控えた花嫁がなぜこんな大胆な行動にでられるのか、おれには理解できない。
フォルザの瞳はかすかにうるんでいる。
彼女は伯爵との――あの春の日にみたひょろながい婿殿との結婚を嫌がっているのだろうか。
いや、そうにはみえない。口ではおれへの愛をときながら、おなじくらいフォルザは伯爵との結婚にも積極的だった。
フォルザはおれの両手を握りしめる。湯たんぽのように温かい。
「ルー、あなたはあたしの愛を疑わないで。離れ離れになるのはちょっとだけなんだから。かならず、あなたのもとにお戻りします」
フォルザはもういちどキスをすると、背骨が砕けるようなパワーできつく抱きしめた。
肺が締め付けられ酸欠で気が遠くなり始めたころ、ようやくフォルザはおれを介抱した。
結婚間近の花嫁は、婿でもないおれを名残惜しそうに頭の先からつま先まで眺めた。
「じゃ、あたしはこれで。また会いましょ」
戸口のところで彼女は振り返った。
「今夜、ちょっとしたサプライズがあるの。あんまりショックを受けないでね」
フォルザはおおげさなウィンクをすると、ばたんと扉をしめた。
なにもかもが唐突だった。
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