ビジネス トリップ ファンタジー[ 完結]

秋雨薫

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2.奇妙な仲間と喋る花

冷たい瞳

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  思わず声がした方に顔を向けると、そこには魔法使いの上司。いつも穏やかに笑っているその顔は無表情で、冷たく光る蒼い瞳がモウを見下していた。

「これ以上言うと……豚にして踏み潰すよ?」

  低い声は冗談を言っているようには見えなかった。

「…す、すまん」

  モウは顔を青くさせて謝った。

「……」

  ウィルは無表情のまま指を鳴らす。するとモウの身体はたちまち元の大きさに戻った。

「……あ、ありがとう」

  気まずそうに礼をするモウに目もくれず、ウィルは燈の手を取った。

「じゃあ行こうか、燈」
「あ、でも……」

  まだネックレスを、と言おうとする前にウィルがネックレスを奪い、モウに手渡した。

「彼の願いは叶えたんた。もう用はないよ」

  心の籠っていない声に、燈はビクリと肩を跳ね上げた。燈の手をいつもより強く引っ張る。転びそうになるが、ウィルは見向きもしてくれない。

「あ……」

  燈は後ろを振り返る。モウはネックレスを握り締め、こちらを見つめていた。つぶらな瞳には、同情と悲しみの色が混じっているような気がした。

「……」

  どういう事なのだろうか。ウィルの変貌に酷く動揺する。しかし、それをモウにもウィルに聞くのも出来ず、燈はウィルに引っ張られるままこの場を後にした。
  目の前のウィルはズンズンと歩いていく。燈が転びそうになっても、足を止めない。商店街を歩く人々の間を無理矢理ぬっていく。人々は迷惑そうにこちらを見たが、ウィルの顔を見た途端バツが悪そうに目を逸らした。

(何で皆ウィルを気まずそうに見つめるの?  何でウィルは怒っているの?)

  燈の頭の中に答えは無い。あの優しい彼が、あんなに冷たい表情をするなんて想像も出来なかった。蒼い瞳は冷水のように。いつも弧を描く口は真一文字を描き。別人だと思いたいくらい、彼は燈の知るウィルではなかった。今でもウィルは燈の手を強く引っ張り、背後を気にする様子はない。

「ウィル……速いよ…!」

  燈は思わず声を上げた。どうせ聞き入れてもらえない。正直駄目元だった。しかし……ウィルの長い足は動く事を止めた。

「……」

  目の前のウィルはピクリとも動かない。まるで彼の時間が止まってしまったかのよう。

「ウィル…?」

  不安になって、その背中に怖々と声を掛ける。ウィルはゆっくりと振り返った。
  あの冷たい無表情なのではないかと思わず身体を震わせる燈。……しかし、ウィルの顔は。

「初仕事、どうだった?」

  いつもの穏やかな笑顔だった。

「え、あ、え?」

  その笑顔に酷く動揺してしまう。変わらない笑顔。それが燈の不安を逆に煽った。

「初仕事どうだった?」

  ウィルがもう一度尋ねてくる。

「……助けられてよかったと思っているけど」

  燈は困惑しながらも小さな声で答えた。それを聞いて、ウィルは目を細めた。

「そう。よかった」

  ウィルの笑顔は人の気持ちを落ち着かせる力がある。この笑顔を見ていると、先程の顔は見間違いだったのかと思ってしまう。
  しかし、あの冷たい瞳が燈の脳裏から離れる事は無かった。冷酷に光る蒼い瞳。思い出し、燈は身震いした。

「君には私がつくよ。君のためにならないからそんなに助けられないけど…簡単な魔法なら使ってあげる」
「……うん」

  何事も無かったかのようにウィルは普通に話す。その姿はまるで燈にこれ以上詮索するなと言っているようだった。
  しかしーーモウの言葉が、燈の頭を離れない。

『ウィルは可愛そうな奴なんだぁ……』

  憐れむ様に言う牛が、ウィルの身に何かが起こったかのように言っていた。

『こいつは、昔魔女に』

(ウィルは…魔女に何かをされたの?  魔女って誰?)

  疑問だけが膨れて、破裂出来ずに燈の頭の中でひしめく。聞いたら、ウィルは答えてくれるのだろうな。モウの時のように、冷たい表情で見下すかもひれない。それでも、燈は聞きたかった。ウィルの笑顔の裏に潜む闇を……

「……あの、ウィル」
「ああ、もう日が暮れるね」

  ウィルは空を見上げながら呟いた。彼の言う通り、空は朱色に染まっていた。空の色だけは、燈の世界と同じだった。その色に、燈の心がきゅうっと締め付けられる。
  燈の住む世界より空が広い。しかし、燈はあの狭い空が酷く懐かしく感じた。高層ビルが立ち並び、人々が忙しく歩くアスファルトで塗り固められた道。綺麗とは言えないあの場所が、燈にとって大切な場所だった。

「早く戻ろう。今度時間が空いたらゆっくりとここを案内するから」
「……うん」

  ウィルに尋ねる事も忘れて燈は空を見上げる。空は朱色から藍色にじわじわと変わっていった。

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