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第1話
しおりを挟む退職届を提出してきた。というよりも、そうせざるを得なくなった。
俺の名前は阿部登真。21歳の営業職だ。最終学歴は専門学校。それ故に契約社員として雇われ、使い捨て同然の扱いを受けてきた。
そんな俺は今月で3ヶ月連続、ノルマを達成できなかったのだ。上司に呼び出され、自主退職を促される雰囲気。
俺は覚悟を決めた。今日でこんな日々は終わりにしてやる。
帰宅後、俺はスマートフォンで求人サイトを見ていた。目についたのは居酒屋のアルバイトの求人。
「接客業かぁ。」正直得意分野ではないが、従業員たちの写真はとても楽しそう。
自分もここに混ざりたい。だけどうまく溶け込めるだろうか。そんな風に考えていた。
思い返せば俺には青春らしき青春があまりなかった。専門学校も同級生の殆どが男。そして何より馴染めなかった。
アルバイトなら失敗してもいい。そうしたらまた人間関係をリセットして違う仕事を探せばいいだけだ。
そう思い、俺はその求人に応募した。
2日が過ぎた。今日は面接だ。実際に店舗に向かって行うという。少しドキドキしている。面接は苦手だ。
深く呼吸を吸って、吐いて。店に入ると店長らしき男性と対面。相手も俺の存在を認識しており、すぐに話が進んだ。
椅子に座り面接が始まる。応募した動機や週何日入れるかといった話をしていく。
ノルマが達成できなかったために勤めていた会社を半ば強制的に退社させられたことを話すと、店長も驚いていた。
「ウチはそんなことないから安心しなよ!」と満面の笑顔で言ってくれた。
俺はこの笑顔を信じようと思う。
今日から勤務開始。毎回この時は慣れない。何せ、既に働いている人たちの輪の中に飛び込んでいくのだから。
またも緊張しながら店に入る。
「お、おはようございます!今日からお世話になります、阿部です!よろしくお願いします!」緊張を紛らわすような大声で挨拶をした。
「よろしく!そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。」キッチンからこの前の面接で会った店長が出てきて俺に言う。
その後、店長が慣れているバイトの子を呼び出し、俺に諸々教えるように指示をした。
この店では苗字ではなく、みんなが下の名前で呼び合うらしい。名札もひらがなで下の名前が書いてある。
ザ・陽キャのバイトって感じで俺は少し戸惑いながらも、バイトの女子が作ってくれたという名札を胸ポケットにつける。
『とうま』。中学生以来だろうか。下の名前で呼ばれるなんて。
そうして働き始め、2ヶ月が過ぎた。3月某日、大学4年生のバイトたちの送別会が開かれることとなった。
卒業する大学生たちは4人。全員でメッセージカードを書いて、それを貼り付けた色紙をプレゼントすることになった。
これも本当、初めての経験だ。中学、高校と帰宅部だった俺にはこういったことも縁がなかった。
当日、いつもより早めに店を閉めて22時から翌朝まで飲み会。リア充だなぁ。
陰キャばっかだった専門学校ではこんなことも出来なかった。
時刻が12時を回り、日付が変わった頃、卒業生たちへのプレゼントタイム。嬉し泣きする卒業生たち。
本当に良いバイト先だったよなぁ。この先、過去の俺のようにブラックな企業に就職してしまったら迷わず辞めて戻ってくればいい。
そんな風に思った。
それからというもの、夜が明けるまでみんなで盛り上がり、コールをしたり、ジョッキを無理矢理飲まされたり。
ふと考えた。これ、俺にとっての青春やりなおしプロジェクトなんじゃないかって。
クソみたいな人生を歩んできた俺に差し込んだ一筋の光なんだって。
アホらしいけど本気で思ったよ。
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