ループ22回目の侯爵令嬢は、猫以外どうでもいい ~猫ちゃんをモフっていたら敵国の王太子が求婚してきました~

湊祥@書籍24冊発売中

文字の大きさ
10 / 52

サイベリアン王国での生活開始(2)

しおりを挟む
(それにしても。私に一目惚れ、ねえ……)

 求婚してきた時も、そして今も、スクーカムからはまったく熱っぽさが感じられない。ソマリのことを好きなら、もう少し照れたり浮ついたりといった反応があってもいいと思うのだが。

(嘘くさい気もするけど、一目ぼれくらいしかこの人が私に求婚する理由は無いわよね……)

 と、半ば無理やりソマリは納得する。

「そうですか……」
「何かおかしいか?」
「いえ、特に何も。あの、それで猫ちゃんの件なんですけど。この間おっしゃっていた通り、本当に自由にやらせていただけるのですよね? スクーカム様が支援もしてくださるとか……」

 スクーカムの鉄仮面がぴくりと動いたのが見えた。今日一番反応しているような気がする。

「無論だ。それが我々の結婚の条件だろう」
「それでは、私は王宮ではなく離宮で暮らしたいのでご用意をお願いします。そこまで広くなくて構いません」
「離宮? なぜ?」
「やはり、猫ちゃんを悪魔の使いだと嫌う方が多いですから。王宮に入れるのは問題でしょう」

 自分の命よりも猫が大事なソマリだが、猫愛を他人に押し付けるつもりはさらさらない。このかわいさを知らないだなんて哀れな人たちだなあとは常に思ってはいるが。

 するとしばしの間スクーカムは黙考した後、口を開いた。

「……なるほど、確かに」
「ご理解いただきありがとうございます。私につけていただく侍女もひとりいれば十分です。身の回りのことは自分でひと通りこなせるよう、両親に躾けられましたので」
「わかった。しかし、王宮には来ないのか……。猫が……」

 スクーカムの声がやたらと残念そうに聞こえたのは少し不思議に思ったが、離宮に住むことを了承してくれたことによる安堵感が大きく、追及する気になれなかった。

「そうですね。私は猫ちゃんと一緒にだいたい離宮に居ようと思います。これでたくさんの猫ちゃんと一緒に暮らすという私の夢が叶います。本当にありがとうございます……!」

 スクーカムの一目惚れ宣言をいまだに怪しんではいるものの、離宮を与えてくれる上に支援までしてくれるのだ。

 ソマリにとってスクーカムは、まさに救いの神だった。

「……と、なると。俺は猫に慣れねばなるまいな」
「え?」
「それはそうだろう。俺は君の夫となるのだから、離宮に通うことになる。その度に恐ろしい悪魔の使いと対峙するのだぞ。いちいち恐れおののくわけにはいくまい」

 淡々とした声でスクーカムが言った。

 もうじき夢が叶うことへの嬉しさのあまり、今の今までスクーカムと猫の関わり方についてまるでソマリの頭には無かった。しかし、言われてみればその通りだ。

「確かに。スクーカム様のおっしゃる通りですね」
「ああ。ちなみに、君の元に今猫はいるのか?」

 思っても見ないことを聞かれ、ソマリは言葉に詰まってしまう。するとスクーカムがさらにこう続けた。

「そこまで猫を愛しているのだから、すでに手元に置いているのではないかと思ってな。もしいるのなら、今すぐにでも拝見したいのだが」

 どこか緊張感のある声に聞こえた。軍事国家の皇太子とあれど、悪魔の使いと関わることには少なからず恐怖心があるのだろうか。

(うーん。回答に迷うわね……)

 応接間の隣のソマリの自室では、舞踏会の日に保護した猫――チャトランが布を敷いたバスケットの中でのびのびとくつろいでいるはず。

 ちなみに名前の由来は、柄が茶トラだったからだ。

 掃除は自分自身で行うようにしていたから、ソマリの部屋に家の者たちが入ることはないので、チャトランの存在はまだ屋敷の者には発覚していない。

 きっとスクーカムも、以前の自分と同様猫をこの目で見たことが無いはず。そんな彼が、チャトランを目にした時にどんな反応をするか未知数だった。

(私みたいに「かわいい」って好意的に思ってくれればいいけれど。無骨なこの人がそんなことを思う可能性は低いわよね……。「この姿はやはり邪悪な悪魔の使い!」なんて、騒いだりしないかなあ)

 しかし流麗の鉄仮面と呼ばれる冷静沈着な剣士が、あんな小動物を見たくらいで騒ぎ立てるとは思えなかった。いまだにどうして猫に悪魔の使いなどというふたつ名がついているのか、ソマリには理解できない。

(私の夫になるのなら、やっぱり猫ちゃんには慣れてもらった方が今後都合がいいわよね)

「――はい。実は私の自室に一匹おります」

 意を決したソマリが猫の存在を告げると、スクーカムはまたぴくりと動いた。どうも彼は、ソマリに対してよりも猫に対しての方が反応が大きい気がする。

「そうなのか」
「ええ。ご覧になるのは構いませんが、家族には内緒で世話をしているのであまり大きな声を出さないようにお願いします。猫ちゃんもびっくりしてしまいますので」
「……承知した」

 そういうわけで、ソマリはスクーカムを自室へ案内した。

「どこいるのだ」

 きょろきょろと鉄仮面を被った頭を動かし部屋を見渡すスクーカム。緊張しているのか、どこか今までよりも動きが機敏だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...