ループ22回目の侯爵令嬢は、猫以外どうでもいい ~猫ちゃんをモフっていたら敵国の王太子が求婚してきました~

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父上と祖父上と猫(3)

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 久しぶりに、スクーカムは父・キムリックとふたりの夕食の席についていた。

 ふたりきりなのは、山賊を捕らえる前にソマリが魔女だという噂について尋ねられた時以来だろう。

(まあ、父上は基本的に連絡事項以外は話さないし。今回も静かな食事になるのだろうな)

 と思っていたスクーカムだったが。

「スクーカムよ。最近兵の中に様子がおかしい者がいるのだが……」

 食事が始まるやいなや、キムリックが口を開いた。

 いつも、尖鋭さすら感じられるほど険しい面持ちをしているキムリックが、珍しく困惑したような表情をしている。

「様子がおかしい者ですか……?」

 戸惑いながらもスクーカムが聞き返すと。

「ああ。なんでも『あー、早く見張りの仕事を終わらせて猫ちゃんを早くモフモフしてぇ』とか『今頃ニャンニャンたちは何しているかなー。お昼寝の時間かなー。俺も混ざりたいなー』とか『猫様のためなら命すら惜しくない……』とか……。だらしない表情でぶつぶつ呟く者を何人か見かけてな」
「…………」

 間違いない。猫に心を奪われて、離宮に通っている兵士たちだ。

「で、ですが父上。その者たちは、以前と変わらず……いや以前に増して、サイベリアンの兵士として勤勉に働いているはずです」

 猫に魅了された兵士たちは、守るものが増えたおかげか士気が上がっているはず。スクーカム自身もそうなのだから間違いない。

 だがキムリックは沈痛そうな顔でこう答えた。

「ああ、そうなのだ。だから最初は静観することに決めたのだが、最近そんな変な兵士が増えてきていてな……」

(離宮に通う兵士が増えたもんなあ……)

 と、心の中でこっそり思うスクーカム。

「兵士としての仕事をきちんとこなしているとはいえ、さすがに腑抜けた表情の者が増えるのはどうかと思い始めてな。『猫ちゃんかわいい』などという発言をするなんて、サイベリアンの軍人としてはあるまじき行為だと思わないか?」
「えっ! いや、まったく思いませんが。むしろ今まで以上に頑張れるのなら素晴らしいことではないですか!」

 遠回しに猫を侮辱された気がして、猫とソマリに魂を捧げているスクーカムは思わず声を荒げる。

 息子の突然の勢いにキムリックは気圧されたような面持ちになりながらも、こう言った。

「うーむ……。皆どうやら猫という存在に取り込まれているようだ。お前の婚約者が猫を操る魔女なのではないかという噂があったな? まさかあれ、本当なのか? 猫はやっぱり悪魔の使いで、皆操られているのでは……。」
「確かに離宮で三匹の猫と一緒にソマリは暮らしていますが、魔女ではないとこの前申したはずです。それに猫が悪魔の使いだなんて、でたらめな伝承ですよ」
「お前がそう言うのならそうなのだろうが。……しかし様子がおかしい兵士たちのことがやはり気になる。お前の婚約者とその猫達が、安全な存在であることをこの目で確認する必要がある」

 真剣な声でキムリックが言う。

「はあ。では明日、離宮を訪れますか? 俺も同行いたしますが」

 そのうち父とソマリが顔を合わせる場面を設ける予定だったし、ちょうどいい機会かもしれない。

 ソマリと猫達に会えば、父の懸念も消えるだろうし。

(まあかわいすぎるという点では、猫は恐ろしい存在ではあるが。骨抜きにされる以外は害のない存在だと分かってくれるだろう)

「うむ、そうだな。そうしよう」

 キムリックは頷いた。

(心配なのは、父上が猫のあまりのかわいさに驚き、卒倒しないかどうかだが)

 この場で「猫のかわいさは常軌を逸しているのですが、ご覧になる覚悟はおありですか?」と一応尋ねておこうかと考えたスクーカムだったが。

(いや。父は俺が出会った人間の中でもっとも精神力の強い人間だ。かわいいものを見たくらいで、心が動揺するわけはない)

 そう思い直した。それに今そんなことを説明しても、笑い飛ばされるに決まっている。

 猫は実物を見ないとそのかわいさの億分の一も伝わらない。キムリックに兵士が猫命になった理由を知ってもらうには、この目で猫を見てもらうのが一番説得力がある。

 そういうわけであくる日、スクーカムは父・キムリックと共に離宮を訪れる運びとなった。
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