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第一章
03-1.仲間を作りましょう ★
しおりを挟む攻略対象と友人たちの相違点をまとめた翌日。
「……王子」
「なに?」
「何で一人でさっさと着替えちゃうんですかっ」
目の前には、自分の仕事を取られて不服を申すフィンの姿。
眉間に皺を作って睨んで来るが、悲しいかな。精神年齢が彼より上になってしまったせいで、そんな顔をされてもただ可愛いとしか思えない。
「自分で出来るからねぇ」
なにせ前世は成人した平民だったもので、というのは心の中に留めておく。
(前世モブ平民二三才が、突如として着替えの手伝いをされて戸惑わない訳ないでしょうに)
俺は今、前世と今世の立場から来る常識の違いに困惑していた。
「主の身支度を手伝うのも従者の務めです」
「そうだけど……効率悪くない? 一人で出来るものはさっさと熟した方が他の事が早く出来るじゃない」
前世の俺は平民。平民の中の平民だった。貴族が目の前に現れたら、たとえ末端の貴族相手にも平伏すぐらいには平民だった。
平民は自分の事は自分でするのは当たり前だし、駄々を捏ねて身支度を手伝ってもらえるのは幼児までである。
ところが今世では王子だ。国の中ではトップクラスの立場になってしまった。
自分に仕えてくれる従者は、王子の身の回りの世話をするのが仕事であり、着替えを手伝うのもまた彼らの仕事の内だ。
わかってる。それはわかってる。
でも俺は、その人に手伝ってもらう事がどうも苦手なのだ。
「それに、今日はウィルが来てくれるから、その準備の方を優先してって言ったじゃないか」
逃げのように聞こえるけれど、俺は事実そう指示を出していた。
寝込んでいた間、ウィリアムとは会えずにいた。呼ぼうにも面会禁止になっていたせいで呼ぶ事も出来ず、かと言って病人が文を書く事も許されなかったので、彼から届くお見舞いのカードくらいしかやり取りが出来ていなかった。
それが今日、やっと会えるのだ。彼には聞きたい事が沢山あるし、何よりアカリの被害に遭っていないかが気になって落ち着かない。
カードの返事も出来なかったので、今日は彼の好きなサンドイッチやスコーンといった、甘くないお茶会をしようと意気込んでいた。
だから俺の世話よりそっちの準備に集中してほしいのに、従者のこのふて腐れ様である。
「アル様のご友人をお招きする準備も大切な仕事ですが、僕の楽しみを奪うのはまた別の話だと」
「諦めないねぇ」
従者の隠しもしない本音に呆れる。
そんなにのめり込むほど感謝の言葉が嬉しかったのだろうか。
見捨てず慕ってくれるのは嬉しいけど、中毒患者みたいでちょっと怖い。
この数日でわかった事だが、フィンは本心を語る時は色々崩れる。
俺の事は表向きの王子呼びからプライベートの愛称になるし、一人称も私から僕になる。つまり、俺の指示より俺の世話を焼きたいらしい。従順な従者なようでそうじゃない感が凄い。
「それに、今までは何も云わず僕に任せっきりだったじゃないですか。それが回復されてからこうも変わってしまうなんて!」
「……そう、だっけ?」
冷や汗が流れる。
今までのアルフレッドの行いをすっかり忘れていた。
「はい。それに、ずっとご自身の事は『僕』と仰っていたのに」
「…………うぅんっ」
変な悲鳴が口から飛び出そうになった。
(さすが従者というか兄というか……)
鋭い観察力と言って良いのかわからない彼の指摘に唸る。
言われてみれば、確かに急に変わり過ぎなような気もしなくもない。
記憶の中のアルフレッドは、フィンの言う通り全て彼に任せていた。
一人称も『僕』だった。
それが急に自分で全部やるようになれば、そう捉えられてもおかしくはない。
「まるで自立していく子を見つめる親みたいで、なんか寂しいですよ」
「お前は親かっ」
どうやら、兄ではなく親気分だったらしい。
この数日、俺専属の従者たちは何かと甘やかそうとしてくる。それを過剰だとは思っていたが、まさかそんな親目線で見ているとは想像すらしていなかった。
やめてよ、素直に成長を喜んで。
「はぁ……じゃあ、明日からは脱いだものの片付けは頼むよ」
これが妥協点だろう。
提案すれば、フィンは納得したのか、良い笑みを浮かべてお茶の準備を再開し始めた。気持ちの切り替えが早いのは評価点だ。こっちは疲れたが。
「ねぇ、フィン」
「何でしょう?」
「俺が寝込んでる間、ウィルはどうだった?」
作業を始めた彼の背に向かって問う。
俺にウィリアムからのカードを届けたのはフィンだ。もしかしたら、彼に直接会っているかもしれない。
「申し訳ありませんが、私も会っていないので……」
「え、会ってないの?」
思いっ切り予想が外れてしまった。
会っていたこと前提で尋ねてしまったのが恥ずかしい。
「見舞いの対応時に顔見てると思ってた」
「あ、あれウィリアム様ではないんですよ。兄君のヴィクター様が届けに来て下さいました」
「そうだったんだ……ウィルのこと、何か聞いてる?」
「いえ、何も。そろそろいらっしゃいますし、ご本人に聞いてみてはいかがですか?」
フィンの言葉に頷くも、何とも言えない焦燥感が背を這うように襲いかかってくる。
カードを書く余裕はまだある、と捉えるべきか、それとも書く力しか残っていないと判断するべきか。
(多少無理を通して会っておけばよかった)
カードを読むくらいの力はあったのだ。なら少しの時間会う事も可能だった筈。
まだ何かあったと決まった訳ではない。しかし何かあったとして、大変な時にこちらを気遣ってくれる友人に対し、自分はなんと薄情だったのだろうと思う。
これはアルフレッドのせいではない。
明らかに俺自身の過ちだ。
(今日会って、礼を言って謝って、話しを聞こう。ここまで来てしまったんだ。それしかない)
反省と後悔を巻き返しの意志で乗り越えていれば、メイドがウィリアムの来訪を伝えに来た。
通すように伝えて、小さく息を吐く。
何事もなければ良いけど。
なんて、一瞬でも願ってしまった自分が恨めしい。
「…………うわぁ」
部屋に入ってきたウィリアムの、その酷い顔に思わず顔が引きつる。
十才には思えないほど生気のない色。
濃く出来た目の下の隈。
食欲がないのか、最後に会った時と比べて痩せた……否、やつれた様に見える。
被害に遭っている“かも”ではない。
間違いなく被害に遭っている。
「取りあえず、休もうか」
これはもうお茶会どころではない。
ウィリアムの回復が最優先だ。
俺はフィンに客間の準備をするよう指示を出すと、入り口で突っ立ったままの友人を椅子へ座るよう促した。
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