【連載版】聖女なんて真っ平御免です!

照山 もみじ

文字の大きさ
15 / 51
第一章

05.試練 ★

しおりを挟む
※2021/12/06に加筆修正しました。




“自分は異世界転生者で前世の記憶を持っている”と友人たちに告白してから、既に二週間が経過していた。

(……ははっ)

 自分で好きで始めたので『疲れた』などと言えず、心の中で笑って誤魔化す。
 この二週間は、振り返るのも億劫になるほど怒濤の日々だった。

 ジュード兄弟以外が帰った後、ヴィクターたちと話し合ってまず行ったのは、ウィリアムの姉でありジュード侯爵家の長女・シェリルの保護だった。
 ウィリアム同様、彼女もアンジェリカ……アカリの酷い被害に遭っている。このまま家に居ても心身をすり減らすだけだ。ならウィリアムのように思い切って家から離れた方が良いという結論に至ったのだ。
 幸いにも彼女は心許せる間柄の婚約者がいる。相手方の家族とも関係は良好で、そこら辺の人間関係は問題ないとの事だった。
 当初。婚約者であっても未婚の、しかも未成年の令嬢を預ける事に気は引けた。だが被害を聞いた婚約者家族一同は『花嫁修業という体でうちで保護する』と受け入れる気満々で、逆にこちらが引くに引けない状況に苦笑したものだった。
 様子を聞くに、平穏無事に過ごしているようで安心した。ウィリアムもヴィクターも安堵していたようだった。預けて良かったと思う。
 唯一アカリの突撃が心配だったが、そこはヴィクターがなんとかするだろう。最悪邸を抜け出したとしても、家に仕える騎士たちが阻止してくれるだろうと、彼らを信じる事にする。面倒な子どもの相手をさせる事になりそうで申し訳ないが、彼らは主の命が全ての存在だ。アカリの我が儘は通用しない。

(家のゴタゴタが増えて爵位を継いだばっかりのヴィクターには申し訳ないけど、ジュード家には暫くそれで耐えてもらうしかないな。アカリinアンジェリカ嬢の出世と本当のアンジェリカ嬢の行方はこっちで解決するし)

 爵位継承に我が儘の化身・アカリの対処で精一杯なヴィクターは抜きで、アンジェリカ関連は俺とウィリアム、そしてディルクで解決する事に決まった。
 ヴィクターとウィリアムの証言を聞けば聞くほど、彼らは人外の力の影響を受けていると言っても過言ではない。記憶の干渉なんて出来る存在は限られている。
 彼らの記憶を隠す黒いモヤモヤの正体はハッキリとは言えないけれど、明らかに異常なのは確かだ。記憶を操作されるなんて怪し過ぎる。

(……なにかヤバいモノにでも手、出したのかな)

 アカリのやりかねない行動を頭に浮かべて……本当に有り得そうで身震いした。

(うわぁ~ヤダなぁ~アイツ本当にろくな事しないもんなぁ。今から既に嫌な予感でいっぱいなんだけど? いやちゃんと解決するけど……しますけど……きっと無事には終われないっ!)

 何に手を出したのかはさておき、誰かしらの力は借りないと、摩訶不思議な現象を起こすことは不可能だ。
 まだ始まったばかりだけど、後に待つ面倒ごとに今から頭を抱えてしまう。

 自分で決めた事だアルフレッド
 最後までやり抜けアルフレッド!

(それに、リオンたちも何かコソコソしてるし)

 どうやら他の友人たちも各々動いているらしい。
 昨日、リオンが『近い内に時間を作ってほしい』と連絡をしてきた。文を読むに、なんだかとってもゲンナリしている感じが伝わってきた。

(……まさか、餌に使われた?)

 想像して、しなきゃよかったと首を横に振って忘れようと努める。
 あのリリーシア嬢だ。リオンを使ってアカリの手口を実際見てみよう、なんて実行しそうで怖い。
 ヴィクターからアカリが出かけたなんて話しは聞いていないのであくまで予想でしかないのだけれど、思い切りが良いリリーシア嬢なら、自身で開いたお茶会に呼んで、自身の目で確かめようと考えてもおかしくはない。怖い。頼むから将来夫を支えるために身に着けた力を、当の本人を使って発揮しないでくれ。 

(あっちはどうしたのか気になるけど、今は自分の事に集中しなきゃだからね)

 皆の行動が気になるけれど、俺は今試練の真っ只中なのだ。他に気を配る余裕がまるでない。

「どうぞ、王子」
「ありがとう、フィン」

 紅茶を淹れてもらい、ゆっくりと持ち上げて音を立てないように飲む。紅茶の香りとハチミツの甘味が、読書続きで疲れた精神に染み渡る。
 だが筋肉だけ全く休まらない。
 四肢に付けている“重り”に反抗するように、カップを持つ手がプルプルと震え、飲んでいる褐色の液体を小刻みに揺らした。

(めちゃくちゃキツい!! だが俺はやる!! でも、キツい!!)

 心の中で大騒ぎする俺の四肢には、見習い騎士が鍛錬に使う筋トレ用の重りが付けられている。
 成人した大人なら余裕だろう。前世の俺だって普通に熟していたと思う。だがまだ十才の、筋肉もなければ成長段階の身体には厳し過ぎる。
 ウィリアムに『ウィルもこれやってるの? 大変だね』と聞けば『ああ、まぁ……そう、だな』と、目を泳がせて、煮え切らない言葉を口にした。

 なんだよ
 俺だけかよ!!

 ウィリアムの、良かれと思った、嘘が痛い。
 けれど彼の祖父であり、元剣士であるビル・ジュードに弟子入りするには、提示された条件を熟さないといけない。
 その内容は、常に重りを付け、木の棒を持って百回の素振り・腹筋・スクワットを一ヶ月間毎日続ける、というものだった。

(どうして俺だけ……って思わなくもないけど、逃げ回ってたアルフレッドを思えば仕方ないしね)

『殿下がやっとやる気になって下さり、儂は嬉しゅうございます』

 クシャ とした笑顔を浮かべたビルだったが、その目は笑っていなかった。しかも言葉には若干棘が混じっている。『今更か』という思いがヒシヒシと伝わって来た瞬間だった。
 そんな彼を前に、俺は全てを悟った。『ああ、嫌がって逃げてたんだな、アルフレッド』と、思わず遠い目をしてしまったのは、二週間前。

『まずは一ヶ月。この重りを付けながら生活をしつつ、且つトレーニングを毎日熟したら弟子として受け入れます。監視を付け記録も取りますので、あしからず』

 信用がなさ過ぎる。けれどアルフレッドが蒔いた種なので仕方ない。むしろ追い払わずに聞いてくれただけでも有り難かった。

「王子、背筋が曲がっております」
「あ、はい」

 監視役は、勿論フィンとウィリアムだ。
 特にフィンは従者として常にいるのに加え、順調にいけば兄弟子になる。見る目が厳しくなるのは必然で――

「厳しくても紅茶を波立たせてはなりません。カップを置く時も優雅に、音を立てないように。それとまた背筋が悪くなっております。受け答えもハッキリとお答え下さいませ」

 試練が始まってからというもの、ずっとこの口調が続いている。恐らくビルの指示なのだろう。澄まし顔でズバズバと指摘してくる。ビルの弟子としてのフィンを始めて見て、俺は何だか落ち着かない。
 でも、それぐらい乗り越えないと認めてもらえない、認める気はないと思われるほど、アルフレッドは怠け者だったのだろう。今までのアルフレッドではなくなったと言っても、何も知らないビルたちからすれば俺は甘ちゃん王子のままなのだ。必ずやり遂げて名誉挽回し、弟子入りしてめきめき鍛えて行かなければならない。

(ビルだけじゃく皆に認められる人間になるために、今以上に勉強もして、皆の中のアルフレッドの認識を変えないと……)

 ヴィクターたちとの話し合いが終わった後、俺がしたのは弟子入りのためにビルに頭を下げただけじゃない。
 王妃に頼み込んで、アルフレッドを操り人形にしようとしていた者が選んだ教師から、王妃が厳選した教師に変えてもらった。それに加え、今までの授業に加え帝王学や領地経営学、諸外国の歴史や言語、風習についても学び始めた。

 ビルの試練に勉学にといっぱいいっぱいだけれど、日々の勉学の合間に本を読む事を自分自身でねじ込んだりもしている。

 魔導書や召喚術・錬金術の本。薬草や毒草含む植物や、家畜やモンスターの図鑑類。純文学だけでなく、貴族や市井で流行っている大衆文学も読んでいる。
 何しろ俺は、この世界で誰もが持っている知識が圧倒的に足りていない。御伽噺の類いも全く知らなかった。前世の知識で活用出来るのは数学や理科ぐらいのものだ。他はゼロから学ばないといけない。学園入学までに全部学ぶには、休憩時間も使わないと不可能な計算だった。
 正直、なんで俺がこんな目に……と、思わない事もない。言ってしまえば、アルフレッドがもっとちゃんとしていれば、少なくとも俺がここまで苦労する事もなかったんじゃないか、という思いが浮かばない訳でもなかった。
 けれど、そんな事を言っていても何も始まらない。俺はもうアルフレッドとして生まれて来てしまった。全くの無関係という訳でもない今、やらなければ俺が終わる。ゲームのアルフレッドのような男にはなりたくない。それだけは嫌だ。

(それに……ミツキ――ノエルとも約束したしな)

 試練が始まって、まだ身体が悲鳴を上げていた一週間前。
 運命か、それとも神の悪戯か……俺は奇跡的な再会を果たした。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい
恋愛
悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜 「もっとゲームがしたかった……!」 そんな切実な未練を残し、山積みの積ゲーと重量級の設定資料集に埋もれて物理的に「尊死」した限界オタクの私。 目が覚めると、そこは大好きな乙女ゲーム『幻想のルミナス』の世界。しかも、推しカプ(王子×聖女)を邪魔して最後には無残に断罪される悪役令嬢・リリアーナに転生していた! 普通なら破滅フラグ回避に走るところだけど、オタクの私は一味違う。 「断罪イベントを特等席(悪役席)で見られるなんて……これって最高のご褒美じゃない!?」 完璧な婚約破棄を勝ち取り、二人の愛の軌跡を「生」で拝むため、私は悪役として嫌われる努力を開始する。さらに、転生特典(?)で手に入れた**『好感度モニター』**を駆使して、二人の愛の数値をニヤニヤ見守るはずだった。 ――なのに、視界に映る現実はバグだらけ。 「嫌われようと冷たくしたのに、王子の好感度が**【100(カンスト)】を超えてエラーを吐き出してるんですけど!? というか、肝心のヒロインまで私を姉様と慕って【200(唯一無二)】**ってどういうこと!?」 推しカプの二人は私を見るばかりで、お互いへの好感度は一向に上がらない。 果たしてリリアーナは、重すぎる全方位からの溺愛をはねのけ、理想の「婚約破棄」に辿り着けるのか? 勘違いとバグが加速する、異色の溺愛(?)ファンタジー開幕!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

いや、無理。 (本編完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...