【連載版】聖女なんて真っ平御免です!

照山 もみじ

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第一章

08-2.閑話・不思議な夢2(ノエルの前世話) ★

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※2022/02/07に書き直しレベルの加筆修正をしました。




 義母となった女の言う通り、ミツキは今まで通っていた保育園を退園させられた。
 突然知らない女が迎えに来て、挙げ句唐突な退園に対し何の疑問も抱かない保育園に幼いながらに憤ったが、今ならわかる。面倒ごとは避けたいのは、誰だって同じだ。
 所詮そんなものなのだと、助けを諦めた。
 その後は、小学校に上がるまで本当に家から出してもらえずにいた。
『アンタ何処にも行かないんだから』と、朝から家事を押し付けられ、小さな身体で一日かけて熟すのがミツキの生活であった。
 どこぞの童話の不憫な少女だと、ミツキ自身思う程の扱いに、心はどんどん疲弊していく。
『負けない』と、何処かの海で眠っている父に誓ったものの、幼い身体には負担が大きすぎる。幸いにも、物心ついた時から手伝いをしていたお陰でなんとか熟してはいるが、それでも力のない身体では家事全てを熟すのは厳し過ぎた。

 正直、逃げたいと思った。亡き家族と同じ場所に行きたいと、何度も願った。
 だがそれでも毎日立ち上がれたのは、兄となった少年の存在が大きかった。

『俺が食器洗うから、ミツキはふきんで拭いていって』
『洗濯物干すのは俺がやるから、もう一回洗濯機回してきて』
『体調悪いんだろ? 俺がやるから、ミツキは寝てな。アイツら来たら俺が言うから大丈夫』

 優しさを素直に受け止める事が出来ず、何か裏があるのではと、笑顔の裏で勘繰る日々。だがある日、ショウも自分と同じ立場なのを知った。知って、心から支えようとしているのだと本心を確信して以降、徐々に気を許すようになった。
 対してショウは、初めて会った時から変わらず、義父母の目を盗んではミツキを手伝った。否、例え見つかっても、何食わぬ顔をして手伝うのだ。

『兄さん、無理しないで』
『無理なんて、なーんもないよ』
『でも、兄さんの立場が危うくなるわ』
『俺は上手くやっていけるから、大丈夫だよ』

 周りに差をつけて跡取りを可愛がる家は実際ある。可愛がるというより、将来自分たちを養ってもらえるよう甘やかしてると言った方が正しいのだろう。ショウはそんな義父母の態度を逆手に取って、ミツキをカバーするために行動していたのだった。

『本当は、今すぐ一緒に逃げ出せたらいいんだけどね』

 申し訳ないと言わんばかりショウの想いが嬉しくて、ミツキはそれだけで十分だった。
 しっかりした義兄だが、ショウだって年齢が二つしか違わない普通の少年だ。下手をすればショウの立場まで危うくなる。全部を庇う事は到底不可能だ。

『将来、絶対この家から連れ出すから』

 口約束でしかない。けれど彼の目は常に本気の色を浮かべている。
 おまけに、二人の目を盗んでは誰かと連絡を取り合っているようだった。もしかしたら、既に逃げた後の事まで考えているのかもしれない。
 何であれ、自分を気に掛けてくれる事が、ミツキには嬉しかった。

『……期待してるね、兄さん』

 そう返した時の、ショウの嬉しそうな顔に、安堵と、そして愛しさを覚えるようになっていった。

 月日は流れ、二人とも大人になった。
 大人になるに連れ、ショウへの愛も大きくなっていく。口では『兄さん』と呼びながら、心は兄とは思えずにいる毎日だ。
 義母の実家に居たらしい義妹――アカリは、さすが義父母の子といった体で、ミツキを平然と陥れようとし、ショウには迷惑な愛をぶつけるような子に育った。
 そいて相変わらず、義父母はミツキのためにソウヤが残した遺産を狙っている。
 ソウヤの遺言では、相続させるのは二三と独り立ちしてからだと明記していたらしい。遺言書の作成を依頼した弁護士も聞いているせいで、勝手に出来ないのだと喚いているのを、ミツキは聞いた事があった。
 もうあと二年で、ミツキは二三才になる。
 なるべく早く家を出て、義父母たちに見つからない場所に身を隠そうと、そう計画していた。だが一つだけ心残りがあった。

(兄さんは、家出ないのかな……)

 リビングでゲームをしているショウを見る。
 自分をずっと守って来てくれた義兄……という想い人を残して、一人家を出る事は出来ない。
 それに、『一緒に家を出る』と子どもの頃に約束した事も、ミツキは今でも大切にしている。出来るなら、ショウと一緒にこの家から出たかった。

(兄さんは、覚えてるかな……私のこと、どう思ってるんだろう)

 好意を寄せているのが自分だけというなら、まだ良い。昔の約束を忘れられている方が、ミツキには厳しかった。

 だがそんな不安は、当の本人によって綺麗に取り払われる事となる。

『家を出て、一緒に暮らそう』

 長年抱いていた想いを分かち合って結ばれた時、ショウはミツキにハッキリと言ったのだった。

『……覚えてたの?』
『忘れた事は一度もないよ。俺が自分で言ったことだし。あの時から、一生守って行こうって、決めてたから』

 告白というよりプロポーズになってしまった熱のある言葉に、『ああ、降参だわ』と胸も顔も熱くなったその日は、フジモトの姓になって一番の出来事となった。

 それから二人は、家を出た。
 本来なら、家を出るのはカンダの人間ではない義父母と義妹なのに、と思わなくもなかったが、これでショウと平穏な生活が出来るのであればと割り切った。

『それに、思い出は全部、持ってきたもの』

 2LDKのアパートで少ない荷物を解きながら、捨てられないようにずっと隠していた祖父母と両親の写真を丁寧に取り出して、リビングの一角に飾る。
 借りた部屋は、ショウの伯父が紹介してくれた。場所も伯父の家に近く、フジモト一家が居場所を探し出して突撃して来た時は避難するようになっている。何から何まで世話になりっぱなしだ。

『早く片付けて、夕食にでも呼びたいわ』

 ショウも同じ事を言うだろう。彼自身、影から支え続けてくれていた伯父に感謝している。夕食に誘うぐらいしないと罰が当たってしまう。

『先ずは、後から来るショウさんのために、片付け進めないとね』

 数日後に、ショウはあの義父母家族を捨てて、この新居に来る事になっている。
 きっと家を出る時は一悶着あるだろう。疲れてくる彼のために、少しでも片付けて負担を少なくしておきたい。

『きっと……大丈夫。幸せになれるわ』

 今も幸せだが、これから先はもっと幸せになれる気がして、ミツキはこれからを想像しながら片付けを続けた。

 それから暫くは、本当に幸せな日々が続いた。
 朝、ベッドの中で起きた時は、愛しい人の温もりに包まれている喜びを噛み締めた。
 夜は明かりが溢れる部屋を見て、嬉しさに目が潤んだ。
 時には肌を重ねて愛を囁き、手を繋いで寝る甘い夜を味わいもした。

『ねぇ、ショウさん』
『なーに? ミツキ』

 名前を呼び合って、そして微笑み合う事の出来る毎日が大切で、ずっとこのままで居たいと、心から願った。

 それでも、終わりは無情にもやって来た。

『アンタのせいよ!! アンタがいるせいで、わたしがショウさんと一緒になれないのよ!!』

 気になっていた店のディナーを食べに一緒に行くため、少し早く待ち合わせ場所で彼を待っていたミツキの前に現れたのは、もう関係のなくなった筈の義妹――アカリだった。
 鬼の形相で怒鳴り散らすアカリの言葉は、耳に入ってこない。感じるのは、思考を停止させる恐怖のみ。

 そしてそこからは、なんとも呆気ないものだった。

 急にしゃがみ込んだアカリの動作に動揺し、避ける事も阻止する事も出来ずに、ミツキはそのまま橋から落された。
 真冬の川の水が、一瞬にして衣服に吸収されていく。脱ごうにも冬服はそれだけで脱ぎにくく、もがいている内に、水面は徐々に遠ざかっていった。

 ゴポリ と、肺から酸素が逃げていく。冷たいと感じていた水の温度も、もうわからない。
 ああ、このまま自分は死ぬんだ。そう悟って、抗う事を止めた。

 そんな中、遠い光の中に泡立つ空気の中に、その人を見た。
 自ら川に飛び込んだのだろう。水を掻いて潜って来るのは、間違えようのない愛しい人だった。

(ダメ……もどっ、て)

 薄れ行く意識の中、大切な人にそう訴える。
 このままでは、ショウまで死んでしまう。自分はもう駄目だが、大好きな人には生きていてほしかった。

お願いです
誰でも良い、どうか彼を生かして
生きて、幸せな人生を歩ませてあげて……

 ミツキの意識は、ここで途切れた。

 完全なる無の世界に向かう瞬間、誰かの声が聞こえた気がした。

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