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第一章
12.花は人々の記憶の中で揺れる
しおりを挟む邸から出た俺たちは、アンジェリカの両親が治めていた街へと向かった。
「あの……どうして、街に?」
ウィリアムにひっつきながら、一緒に来たアンジェリカが問う。やっぱり知ってる人の方が安心するのか、あの後直ぐにウィリアムにべったりになって離れなくなった。なんだか複雑だけど、話してくれるだけまだマシかな。
「君の事を調べる中で、ちょっと気になる事があってね」
邸に向かう前に確認した報告書に、街で一人の少女が行方不明になっていると記載されていた。しかも一体どういう姿でどういう子なのかもわからないという、何ともホラーのような行方不明事件だ。アンジェリカたちが亡くなりアカリが保護された時期と重なる事から、決して無関係ではない筈だ。しかも、今行けば面白いものが見られる気もする。
「面白いもの?」
「うん……アンジェリカ嬢への呪いが解けた今、真実の露見の結果を確認しなきゃだと思って」
「なんか、アルが急に嫌味な奴になっちゃったよ」
「でも気になるでしょ? きっとジュード家でも騒ぎになってると思う」
「……一度帰って確認したいのだが」
「ダメ。今ウィルが帰ると窮地に陥ったアカリが何するかわからないから、今日も王宮に帰るよ。アンジェリカ嬢の今後も相談しなきゃいけないし」
俺の言葉に、急に雰囲気がお通夜状態になってしまった。もうちょっと言葉を選べば良かったと思わなくもないが、本気で考えないといけないのも確かだ。避け続けていいものではない以上、言葉にして自覚しないといけない。
(天界にいけなくなってしまったアンジェリカには酷な話しだけど……)
俺だって心が傷まない訳では無い。アンジェリカの立場を考えれば、何とも言えない感情が込み上げてくる。
(こればっかりはディルクもどうにも出来ないって言ってたしなぁ)
もどかしさに喉を掻きむしりたくなる。
アンジェリカが呪いをかけらていた期間は比較的短い方だとディルクは言う。だが呪いの影響は凄まじく、アンジェリカの魂のあり方を変えてしまう程呪いの力は強かった。結果として彼女は天に召される……前世でいうところの成仏が出来ない状態になってしまっていた。
(本当ならあるべき場所に帰らせてあげる術を探すべきなんだろうけど……一人孤独に耐えた彼女へのボーナスとして、アンジェリカ本人に決めてもらう方がウィルも納得するだろうし)
邸を出るまで観察していて気付いたが、ジュード従兄弟に妙に違和感を覚えた。
アンジェリカがウィリアムにべったりなのはまだわかる。だがウィリアムもウィリアムで従妹の好きにさせているあたり、結構従妹に甘く感じる。無自覚だろうしあくまで兄としての認識しかいのだろうが、純粋に兄妹として見るにはどうにも距離が近い。アンジェリカが独り立ちすればまた変わるのだろうが、今の状態では何をどう説得してもアンジェリカ以外の話しは聞かないような気がした。「成仏させてあげよう」と言ったらどうなるのか、考えるだけでも恐ろしい。ならアンジェリカ本人に決めてもらった方が丸く収まると思う。決して丸投げしている訳ではない。
(現世に残っても使い魔の様な存在になってしまうなら、本人が納得する道を選んだ方が良い)
ディルク曰く、悪魔の影響をずっと受けていたせいで、アンジェリカ自身悪魔に近い存在になってしまったらしい。成仏出来ないのはそういう事のようだ。悪魔は消滅させる事は出来ても成仏させる事は出来ないのと一緒。アンジェリカも魂を消滅させる事は出来ても成仏する事は出来ないのだという。つまり命の循環……輪廻転生の輪から外れてしまった状態だ。たとえ現世に留まったとしても、俺たちだってずっと生きている訳ではない。最終的にアンジェリカはひとりぼっちになってしまう。そういう事も含めて選んでもらえたらと思う。
「まぁ、アンジェリカ嬢の話しはまた後でとして……街に着くよ」
ディルクに言われて前を見れば、ちらほらと民家が見え始めた。どうやら無事街に到着したようだ。
「広場に行けば何かわかるかな」
「取りあえず、行ってみるか」
街の中央にある広場へ向かう。すれば掲示板らしき看板の前にザワザワと人集りが出来ていた。
「……なんでしょう?」
「ん~……誰か泣いてるみたい」
異様な光景に、俺たちはその場に留まった。
「あああああ! マーガレット、マーガレットぉ! 」
号泣する男が、女性の名を半ば半狂乱になって叫んでいる。その異様な雰囲気に、アンジェリカがウィリアムの後ろに完全に隠れてしまった。ディルクは不愉快そうに眉間にシワを作っている。気持ちはわかるけど、状況を理解しているならせめてその顔は止めてほしい。
「どうして、どうして忘れてたんだ! 私の娘はマーガレットだ!」
中年の男性が、掲示板の一角に縋り付きながら、まるで獣の雄叫びの様な声を出して号泣しているのが窺えた。周囲の人々も困惑が混じった面持ちで男性を慰めたり静観したりしている。きっと彼らもあの男性と同じなのだろう。何故親しかった一人の少女を忘れていたのか、頭の中は混乱している筈だ。
「……帰ろうか」
「もういいの?」
「あれ見れば十分でしょ」
思い出して、いなくなってから既に何ヶ月も経っている事実に打ちひしがれる姿を見れば、今ジュード家で起きている事も手に取るようにわかる……二つの家庭を崩壊させた罪は重い。
「前世なんか思い出さなければ、幸せな人生が歩めたかもしれないのにね」
街を出る間際、民家の壁に貼られた人捜しのチラシを横目に、アカリの中に消えたマーガレットを弔った。
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