上 下
35 / 249
第二幕 幼少期

33.身体能力測定

しおりを挟む
 身体能力測定は、神殿敷地内の庭で行われた。

グリエルモ
「凄いぞ! トニーは私の子供の頃よりも足が速いんじゃないか?」

ロベルト
「そこまでではないが、素晴らしいタイムだ。」

アルベルト
「はい。去年のレオより良いタイムです。」

レオナルド
「去年の僕よりも足が速いの!?」

エドアルド
「兄上よりも速いの? 凄いねぇー!」

カリーナ
「すごい、すご~い!」

メアリー
「凄いわ! 走る姿が可愛いわ!」

 アントニオは毎日のように森や山を駆け回っていたので、気付かないうちに足腰が鍛えられていたようだ。

神官
「次は力の測定ですね」

 アントニオの握った握力計の数値は6歳児の握力を軽々と超えて成人男性に近い握力数値を叩き出した。

グリエルモ
「トニーは力持ちだね! こんな子供は他にいないのでは?」

ロベルト
「お前の子供時代は、もう少し高かったが...それでも立派な数値だ」

アルベルト
「握力もレオより上なのですね!」

アントニオ
「いつも木登りをしていたので、握力が強いのかもしれません」

メアリー
「まぁ! なんてこと!? 木登りなんて危ない遊びをしているの!?」

 メアリーが目をつりあげてアントニオに迫る。アントニオは堪らず、味方を募ろうとレオナルドの方に視線を向けた。

アントニオ
「き、木登りくらいはこの歳の男の子はするんですよ? ね? レオだってしているでしょ?」

レオナルド
「うん。してるよ」

エドアルド
「僕もしてる!」

グリエルモ
「私やアルベルトも子供の頃はしていたよ。」

メアリー
「そう...では、何故、アントニオの方が握力が強いのかしら...」

 それは恐らく、登る木の高さや登る回数が異なるせいだと思われるが、そんな事を言ったら、やっぱり危険だと言われてしまう。

アントニオ
「さ、さあ?」

メアリー
「やっぱり...」

 メアリーがアントニオを鋭い視線で見つめる。

 アントニオは、木登りを禁止されてしまうかと、ドキドキしながら、メアリーの言葉を待った。

メアリー
「ウチの子は天才なんだわ!」

 アントニオはホッとして息をついた。

 柔軟性のテストでも、アントニオは好成績だった。子供の頃からバレエを習っているからだろう。

 すべてが順調なように思われたが、次の反射神経のテストで問題がおきた。

神官
「飛んでくる球を避けたり、叩いて弾き返したり、斬って破壊したり、自分なりの対処をして下さいね」

アントニオ
「はい」

 アントニオのこれまでの優秀な成績から、神官は気をきかせて通常よりも速い速度に機械を設定した。

 機械から球が発射された球は、目にも止まらぬスピードで飛んできたのである。

 バシン!

 避けることが出来ずにないどころか、球はアントニオの顔面に直撃した。

 柔らかい球でも、スピードが出ている球はかなり痛い。

 体が痛みに耐えようとして硬くなる。そうなると動きが鈍くなって余計に反応が遅れる。するとさらに球を避けることは困難になった。

 ボールがバシッ!っと当たるたびに、痛みが走る。途端に、前世で受けた家庭内暴力学校でのイジメがフラッシュバックした。

 痛い! 怖い!

 アントニオはパニックになった。焦ってブース内で球から逃げようとするが、次から次へと球が飛んでくる。もはや冷静に対処することなどできなかった。

 本来ならば、6歳の子供であれば、もっとゆっくりした速度の球からスタートするはずだったのである。当然、球がゆっくりだったら、当たってもさほど痛くはない。それでも、避けられない子供には、速度を落として試験をし直す。

 だが、試験をする試験官も予想外の展開にパニックになっていた。球の速度を落とすということは、それ以上の成績はつかず、成績が下がることを意味している。

 機械の速度を緩めて、試験の結果が悪い評価になれば、勇者様と聖女様の面目が立たないのではないか?

 ふと、そんなことを考えてしまったのだ。

 試験官の判断が遅れたために、大変な事態が起きた。

 速い球が何度もアントニオの腕や脚にあたり、アントニオの白い肌がみるみる赤くなっていったのである。

 そんな息子の姿を見て、メアリーが冷静ではいられなくなってしまったのだ。

メアリー
「やめて! 今すぐ、止めて!」

 防御魔法でアントニオを包み込むと、駆け寄って治療を始めた。

 ようやく、慌てて神官は機械をとめた。

神官
「さ、最初から速過ぎたみたいですね。速度を落として、もう一度...」

メアリー
「馬鹿なこと言わないで! トニーの腕が、こんなに赤く腫れ上がっているのよ!? こんな危ない試験なんて、2度とさせないわ!」

神官
「で、ですが、それでは反射神経のテストが0点に...」

 あ、それは困るな。

 アントニオはメアリーの腕の中で、ようやく冷静になったが、もう、後の祭りであった。

アントニオ
「もう一度試験を...」

メアリー
「テストの点数なんて、どうでもいいわ! トニーに何かあったら、どうするの!? 世界の破滅よ!!」

 世界を救った聖女様が目を真っ赤にしながら、息子に治癒魔法をかけている姿に、鬼気迫るものを感じた。

神官
「へ、ヘンリー様...」

 神官は、神殿の幹部であるメアリーの父、ヘンリー・サントに指示を仰いだ。

ヘンリー
「うむ。グリエルモ殿、どうするべきか?」

グリエルモ
「別の方法で反射神経を測れませんか? 身に危険のない方法で」

ヘンリー
「他の試験では、比べる対象がなくて評価をだせない」

グリエルモ
「実体のない光の球で試験するのはどうでしょうか? それなら、怪我をすることもありませんし、試験の内容事態はほとんど変えずに済みます」

ヘンリー
「それなら問題ないだろう」

 そうして試験をやり直したが、アントニオにはすでに飛んで来るものへの恐怖が浸透してしまっていた。

 実体がないと分かっていても、光の球が飛んで来ると、怖くて目をつぶってしまい、避けることが出来なかったのである。

神官
「素早く動くものを目で追えないようです。動体視力が低いために、反応速度が遅れるという結果が出ています」
しおりを挟む

処理中です...