元オペラ歌手の転生吟遊詩人

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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第二幕 幼少期

54.騎獣の捜索 ♣︎

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 数日後。

 バルドとリンは、魔族領にあるユニコーンの生息地に来ていた。

リン
「どれもパッとしないな。明るめの毛色でも栗毛のユニコーンじゃ、弱っちいもんなぁ? エストの歌に少しは耐えられそうな個体じゃないといけないしな。」

バルド
「そうだな。頼まれた仕事で、妥協などしたくない。」

 2人が悩んでいると、群れの長である白いユニコーンが近付いてきて、リンに何かを訴えている。

リン
「え? それは本当か!? 教えてくれて有難うな!」

バルド
「何だって?」

リン
「渡り鳥ならぬ、渡り馬? に、黄金のバイコーン がいるんだってさ。めちゃめちゃ強いらしいぜ。」

バルド
「黄金のバイコーン か!」

リン
「黄金はジーンシャンの色だし、栗色とそう変わらないだろ? それにエストは、そもそもユニコーンは嫌だと言っていた。バイコーンならきっと、エストも気にいるだろう。」

バルド
「流石、龍人! 色んな生き物の言葉がわかるとは便利だな。」

リン
「だろ? ただ、そいつは、いつも高速で移動していて、今は何処にいるか分からないらしい。」

バルド
「見つかるのか?」

リン
「ふ、愚問だな。世界中の龍人と鳥達に協力を頼めばいい。ユニコーンやペガサスの連中にも協力を頼もう。」

バルド
「そうか!.....ペガサスでもいいかもな。」

リン
「羽根がついてるのは足が遅くないか?」

バルド
「なるほど、動物の事になると、お前は詳しいな。」

リン
「当たり前だ! だてに298年も生きてないさ!」


_______


 神龍が黄金のバイコーンを探している。しかも、騎乗を望んでいるのは、何かと話題になっているジーンシャン領のローレライだという。ジーンシャン領のローレライは若くてピチピチしていて、虹色の瞳を持つ超絶美人の可愛子ちゃんらしい。

 この噂は、瞬く間に世界中に広がって、バイコーンのみならず、我こそは! という、美しくて強いユニコーン、ペガサス、ケルピー、ケンタウロスまでが、自分を使ってくれと現れた。

 馬系の魔獣達にとってローレライやセイレーンの相棒というのは、憧れの職業だ。毎日、美人と一緒に過ごし、その美しい姿を眺めながら、美しい歌を堪能出来るからだ。そして、彼等は自分の上に乗る主の美貌を自慢することが大好きなのである。自分の主を見せびらかして、相手と競い合うこともしばしばだ。

 バルドとリンは、流石にケンタウロスには早々にお断りを入れた。乗馬の授業でケンタウロスは流石に不味いだろう。しかし、目当てのバイコーン以外の魔獣でも、特に美しく強い個体は霊峰山に残ってもらった。エスト自身に自分の乗る個体を選んで貰おうということになったのである。


 王都での夏の休暇が終わり、アントニオがジーンシャン領に戻ったところで、人目につかないオルソの丘で、コンテストを開くことになった。

 アントニオ、グリエルモ、メアリー、リュシアンが飛竜でオルソの丘に降り立つと、そこには、バルドとリンが、見事な魔獣達を引き連れて待ち構えていた。


 薄紫色のボディに虹色のたてがみのユニコーン、銀色に輝くペガサス、黒いボディにオーロラ色のたてがみとヒレを持つケルピー、そして黄金に煌めくバイコーン。

 どれも神話級の個体である。

 アントニオは目を丸くして、歯を噛みしめた。

 んん? 2人とも俺の話をちゃんと聞いてた? どの子も白毛のユニコーンより派手だけど!?

 だが、バルドもリンも、魔獣達も何やら自信満々の様子。

 両親とリュシアンは、予想を遥かに超えるランクの魔獣達に、度肝を抜かれて、開いた口が塞がらない様子だ。

リン
「白くない明るい色で、エストのいう事を聞いて、身体能力が高い、という条件に当てはまる、スペシャルな皆様に集まって頂きました!」

 リンは得意げに紹介してくれる。

 白くないけど、白よりも目立っちゃいますけど!? 明るいというか輝いていますけど!? めっちゃ強そうですけど!? 希望と違うよ!!!?

 アントニオは突っ込みたかったが、バルドが小声でアントニオに耳打ちしてきた。

バルド
「リンがユニコーンの長から黄金の奴がいると情報を得てな.....黄金はジーンシャンの色だろ? ユニコーンじゃないし....だが、探しているうちに、自分に乗って欲しいという他の奴も集まってな。これでも厳選したんだ。せっかくだから、お前の好きな奴を選ぶといい。」

アントニオ
「え!? 乗って欲しいって言ってくれたの?何で? 俺みたいな焦茶のガキに???」

 アントニオは、自分から来てくれたという話を聞いて、突っ込みたい気持ちは消え失せ、とても嬉しくなった。

リン
「うぅ~ん。それについてはだなぁ~.....(美人が大好きというか、何というか).....こいつらも歌が好きなんだ! そうそう! まぁ、せっかく来てくれたんだし、一曲歌ってやってくれ。」

アントニオ
「あ、そうなの!? じゃ、2人で伴奏してくれる?」

 皆、歌が好きと聞いてアントニオはさらに嬉しくなった。

 バルドはヴァイオリンを、リンはフルートを魔法で取り出す。バルドはリュートも取り出してアントニオに渡した。

バルド
「何にする?」

リン
「ルサルカがいい!」

アントニオ
「ルサルカね!」

バルド
「了解した!」

ドヴォルザーク作曲 オペラ「ルサルカ」より“白銀の月よ”

 この歌を歌うルサルカも、ローレライに似ている森の精で、若者を歌で魅了しては湖の底に引きずり込む魔性の女だ。だが、この曲では、王子に恋をしたルサルカが、自分の苦しい想いを月に告げるという切ない内容になっている。

 実は6歳のときに皆で楽器を手に入れてから、ローレライを捕まえるために(アントニオは諦めていなかった)、ずっと練習していた曲で、今では、3人で演奏する定番曲の1つである。

 アントニオが軽やかにリュートでアルペジオ(分散和音)を弾きだす。

☆♫ ゚+..。*゚+ ♬♩.。✴︎+..。✳︎+. .♪。.♪。:+*♫ .。*゚

 続いてリンがフルートで前奏曲のメロディーを吹き始めると、昼の丘が、一気に夜の雰囲気を纏い始める。

 前奏の終わりに差し掛かると、バルドがヴァイオリンで加わり、水面の揺らぎを奏で出す。

 その音の流れにのって、アントニオが歌い出した。

「♪Měsíčku  na nebi hlubokém.....♪」
(空高く、白銀に輝く月よ!教えて!愛しいあの人は何処にいるの?どうか、あの人に伝えて!私がここにいると!)

 声変わり前だが、成長したアントニオの太いビロードのようなボーイソプラノが、明るい響きを奏でながら、どっしりと流れてゆく。

 ルサルカの歌に月が返事をするように、アントニオの歌にリンのフルートがメロディーを返奏する。それらのメロディーを、さざ波のような伴奏でバルドのヴァイオリンが支えている。空には夜がひろがり、オルソの丘は湖に浸る。辺りは幻想に包まれた。

 アントニオの無造作な焦茶の髪が風に揺らいで、色白だがソバカスが出来始めた頬の横で踊っている。

 歌って血が巡った頬が桃色に染まっていく。

 長い睫毛の下で、虹色の瞳が静かな光を湛(たた)えている。


 お集まりの魔獣の皆様は、すぐに誰がローレライなのかを理解した。夢中になって歌に聴き入りながら、自分こそが、ローレライに仕えたいと思うのであった。
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