元オペラ歌手の転生吟遊詩人

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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第三幕 学生期

78.王立学校へ入学

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アントニオ・ジーンシャン(エスト)12歳
バルド(ルド) 年齢不明(見た目20代)
リン 300歳
グリエルモ・ジーンシャン37歳
メアリー・ジーンシャン 40歳
ネハ・カーン 80歳
ジュゼッペ・サクラーティ 30歳
アウロラ・サクラーティ 21歳
リュシアン・フールドラン 28歳
アルベルト・ジーンシャン 34歳
レオナルド・ジーンシャン13歳
エドアルド・ジーンシャン10歳
カリーナ・ジーンシャン7歳
タイラ・カンナギ14歳
ヤン・ツヴァインツィガー14歳


 王立学校は12歳~17歳までの5年間、1~5年生まであり、魔法戦士科、魔法科、戦士科に分かれている。

 魔法戦士科は、剣術などの武術と、魔法の両方を習得する科で、魔力と身体能力の両方を必要とするクラスである。アントニオの父グリエルモや叔父アルベルト、ユニコーン騎兵長のキールも魔法戦士科を出ている。

 魔法科は、魔法に特化しているため、魔力が高い魔法使いのための科である。アントニオの母メアリーやアントニオの護衛騎士をしていた竜騎士のリュシアンも魔法科だった。

 戦士科は、魔力が少ないが身体能力が特化している学生が入り、あらゆる武術を習得する。そのほとんどは、真っ黒な髪に小麦色の肌をもつ民族で占められており、入学する人数も少ない。彼等は、常人離れした筋力や動体視力を持っており、そのほとんどが、魔法戦士達の剣術師範となるため、この科は別名、師範科と呼ばれている。

 師範科を卒業した戦士は王立魔導騎士団に入団する者もいる。しかし、魔素の濃い魔族領が隣にあるジーンシャン領の魔導騎士団では、魔力がなく、魔素に耐性がない戦士では採用されない。そのため、ジーンシャン領では、漆黒の髪をもつ人間には滅多にお目にかかることは出来ない。だが、王国では焦茶は嫌がられても、漆黒の髪を持つ人々は、あまり嫌がられていない。それは、彼等の多くがエリート魔法戦士の剣術師範となるからである。


 王立学校に入学するためには、年間約1,000万イェ二という大金が必要で、尚且つ、入学する為の試験は厳しい。筆記テストに加え、一定以上の魔力、もしくは身体能力の証明が必要である。その為、在籍する学生の殆どが、お金と魔力のある貴族である。

 ただし、例外があり、試験で飛び切り優秀な成績を収めれば、学費は免除となる。

 そのため、貧しい平民でも、優秀であれば入学出来るのだ。王立学校に入学出来れば貴族の目にとまり、養子の話や騎士団への勧誘がやってくる。かつての賢者ネハのように、平民から子爵家の養子になり、賢者として功績をあげ、伯爵家へ嫁ぐという、夢のような話が現実となる場合も、少なくない。

 また、逆に、王族や有力な貴族は能力鑑定書と推薦状があれば試験を受けずに入学することが出来る。

 ちなみに、王太子殿下の息子であるタイラ・カンナギ(14歳)や、アントニオの従兄弟であるレオナルド・ジーンシャン (13歳)は推薦入学で入った。

 ユニコーン騎兵長の息子ヤン・ツヴァインツィガー(14歳)は一般入試である。

 そして、もちろん、12歳になったアントニオも推薦で王立学校に入学することとなった。

 アントニオが入学するにあたって、王都にある王立学校に通うために、何処に住むかということが問題になった。

 母メアリーは、飛竜で自宅から通って欲しいという。片道に3時間かかるので、アントニオは、この案を早々に拒否した。

 祖父ロベルト・ジーンシャン(グリエルモの父)は、自分も住んでいる王都のジーンシャン邸、別名アルベルト邸(アントニオの叔父の屋敷)に住んでレオナルド(アントニオの従兄)と学校に通うように言った。

 祖父ヘンリー・サント(メアリーの父)は神殿に部屋を用意すると言ってきた。ヘンリーは、ジーンシャン領内で神の御使いとまで言われるようになったアントニオに『白き人信仰』に是非とも入信して欲しいと考えていたのだ。

 また、国王からも、王宮に住んで、タイラ(アントニオの再従兄)と学校に通ったらどうかと手紙が来た。国王は、魔王の封印があるアントニオに何かあってはならないと心配し、自分の管理下で手厚く保護したいと考えていた。

 アントニオは悩んだ末、昔、グリエルモがしたように、学校の寮に入って、学校内で生活する事にした。

 王立学校の寮は、貴族の学校だけあって、すべてお風呂付きの豪華な個室だし、防音もしっかりしているらしい。それなら、一人暮らしの方が、ルドやリンと過ごすのに、1番都合がいい。

 このアントニオの意見にグリエルモは「ルド様とリン様が一緒なら!」と賛成してくれたが、メアリーは泣いて「ダメだ」と訴えて大変だった。

 メアリーは「寮に一緒に住む!」と言い出したが、ルドとリンがいるからと言って何とか断った。そもそも、母上には領の公務があるので王都には同行出来ないのだ。

 アントニオ専属執事のジュゼッペと、その妻アウロラは、アルベルト邸に出向という形で王都に滞在する事になった。生活に必要なものがあれば、アルベルト邸に連絡を入れれば、ジュゼッペとアウロラが手配してくれる。

グリエルモ
「長期休暇の際には、必ず戻ってくるんだよ。」

アントニオ
「はい! 父上。」

メアリー
「毎日、お手紙を書いて頂戴ね!」

アントニオ
「毎日は....月に一回くらいは書きますね。」

メアリー
「うぅっ.....」

 メアリーは号泣して、ハンカチで顔を覆っている。

キール
「どうか、お身体に気をつけてお過ごし下さい。剣術でいい成績を収められることをお祈りしております。何かありましたら、ヤンの奴を使って頂ければと思います。あいつも寮に住んでいますから。」

アントニオ
「有難うございます。頑張って参ります。ヤンにはお世話になると思います。」

リュシアン
「それでは、王都までの道中をお送りして参ります。」

ジュゼッペ
「私達は馬車で、トニー様の生活に必要なものを持って追いかけますね。」

アウロラ
「まさか、私まで王都に行くことになるとは...」

グリエルモ
「ジュゼッペ、リュシアン、アウロラ、くれぐれも宜しく頼む。」

 リュシアンは、王都まで送ってくれたら、すぐにジーンシャン領に引き返してしまう予定だ。長年の子守の役目から解放されて、晴れて本格的な竜騎士としての仕事が待っている。

 王立学校内は、王立魔導騎士団が守っているため、基本的に護衛騎士や執事の同行は禁止だ。王都滞在中、アントニオの護衛はアルベルト邸に常駐する魔導騎士が行う事になっているが、あまり護衛をお願いする機会はなさそうだ。

 屋敷の皆に別れを告げ、アントニオはリュシアンと共に飛竜で、王都へと旅立った。


_______


 王都のアルベルト邸に降りたつと、祖父のロベルトをはじめ、叔父アルベルト、その妻オデット、その子供達のレオナルド、エドアルド、カリーナや、屋敷の皆様が迎えてくれた。

 今日はここで一泊してから、明日、学校の寮に持ち物を運び込む。

 ジーンシャン領から王都まで、飛竜では3時間だが、馬車だと1週間近くかかってしまうので、ジュゼッペとアウロラがやって来るのは、もうちょっと先になりそうだ。

オデット
「学生服や教科書などは、もう、届いていますよ。パジャマやお布団、歯磨き、お風呂セットなどの生活用品も、新品を用意してあります。明日は、召使いが馬車で同行して運びますので、ご心配はいりませんわ。」

アントニオ
「有難うございます! オデット様。何から何まで!」

アルベルト
「入学式までは、2週間ありますが、本当に、明日から寮に引っ越されるのですか? もう暫く、こちらに滞在されてもいいのに.....」

アントニオ
「はい。早く、寮での生活に慣れたいのです。授業が始まってしまうと、慣れない寮生活で何かあっときに、勉強が疎かになってしまいそうなのです。それに、自分のピアノも寮に置きますので。」

 一人暮らしは前世ぶりだ。前世も晩年は、自宅に弟子達が居着いていたので一人で暮していない。

 だが、もし、家族やジュゼッペなしで上手く生活出来なかったらどうしようか?

 何せ、アントニオはこの世界に生まれてから、殆ど1人の時間がない程、過保護に育てられた箱入り息子なのである。12歳なのに、1人で街で買い物をしたことすらないのだ。同じ年の子供と遊んだこともない。同世代で話をしたことがあるのは親戚とヤンくらいである。後の子供達は、高貴なアントニオを前にして、頭を下げるのが精一杯。挨拶ひとつままならなかった。

 ダメだったら、早々にアルベルト邸に引っ越しし直して、レオナルドと通おう。いや、でも、きっと、ルドとリンがいるから大丈夫!

 アントニオは新生活に、期待と不安で胸を膨らませていた。
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