元オペラ歌手の転生吟遊詩人

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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第三幕 学生期

149.ダンスパートナー1 ❤︎

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 王宮にて、王太子一家は揃ってディナーをしていた。

 銀髪水色の瞳のジュン王太子、金髪水色の瞳のアンナ王太子妃。

 カレン王女(タイラの姉)は17歳で、銀髪水色の瞳だが、祖父である国王陛下の鋭くつり上がった目の形が遺伝し、意志の強そうな顔である。

 タイラ王子は14歳、銀髪紫色の瞳で1番国王陛下に似ており、やはり、つり目で意志の強そうな顔である。

 エリカ王女(タイラの妹)10歳は、金髪水色の瞳の薄い顔で、アンナ王太子妃に似ている。

カレン
「絶対に嫌です! 将来はどうせ陛下の決めた方と結婚させられるのでしょう! だとしたら、学生最後のダンスパートナーくらいは自分で選ばせてよ! 陛下も殿下もタイラだって、いつも、いつも、トニー様、トニー様! 何でもトニー様のことが最優先! 少しくらいはワタクシの幸せのことも考えて下さってもいいはずです!」

タイラ
「トニー様の何が不服なんだよ! 名誉なことだろ!?」

カレン
「そんなに言うなら、タイラが女装でもしてトニー様とダンスを踊ればいいでしょ! それに私は、トニー様が嫌いだなんて言っていないわ! 勝手に相手を決められるのが嫌だって言っているの!」

ジュン王太子
「勝手に決めていない! だから、こうして相談しているのだ。落ち着きなさい。」

アンナ王太子妃
「トニー様の相手はカレンでなくてはならないの? いくら高貴な方でも、12歳の子供がダンスパートナーだなんて、カレンが可哀想だと思いませんこと? それにトニー様は焦茶なのでしょう? ダンスパートナーくらい、美しくて背の高い殿方にしてあげて下さいな。」

ジュン王太子
「お前まで焦茶を馬鹿にするのか!?」

アンナ王太子妃
「差別するつもりはありませんが、見た目が悪いのは事実ですわ! 背が低いよりも、高い方がいいし、目が小さいよりも、大きい方がいいじゃありませんか! そんなことを言って、まさか、トニー様とカレンを結婚させようとか、考えているのではありませんよね!?

あんまりですわ! カレンは銀髪で美しく、魔力も優れているのですよ! 方々(ほうぼう)から釣書だって山のように届いているのです! あんな北国の気候が厳しい辺境の地に嫁がせなくとも、もっと見目が麗しくて、地位も名誉もある男性と結婚させればいいじゃありませんか!」

ジュン王太子
「私は、カレンの望まない結婚など、させないつもりだ! もちろん、利のある名家との政略結婚が望ましいが、相応しい身分の男であれば、好きな相手で構わない。」

カレン
「そうでしょうとも! あくまでも相応しい身分の男の中から選べと仰るのだわ! 陛下も仰っていたわ! 外国の不細工な王子達の写真を並べて、好きな男を選べとね! それで、誰も気に入らないなら、トニー様なのでしょう!? あんまりだわ!」

エリカ
「トニー様は、そんなに不細工なの?」

ジュン王太子
「そんなことはない! 勇者様にそっくりで、とてもカッコイイ!」

タイラ
「あんなに美しい人は他にいないだろ!? ちょっとだけ、髪の色が暗いだけだ。」

エリカ
「えぇ~、じゃあ、どうしてお姉様はトニー様が嫌なの?」

カレン
「ワタクシだって分かっているのよ! 政略結婚しなくてはいけないことくらい! だから、せめて最後のダンスパートナーくらいは、私の好きな相手を選ばせてよ!」

ジュン王太子
「好きな男がいるのか? 誰だ?」

 おいおい泣くカレン王女の背中を、アンナ王太子妃がさすってなだめる。

カレン
「...言えないわ。」

ジュン王太子
「どうしてだ? 平民の男なのか?」

カレン
「いいえ。身分のある方よ。」

ジュン王太子
「それなら問題ないだろう? 去年の相手か?」

カレン
「いいえ! 伯爵家より、もっと身分のある方よ!」

ジュン王太子
「遠慮しているのか? なら私から、その学生に頼んでやろうか?」

カレン
「本当に?」

ジュン王太子
「あぁ、もちろんだ!」

カレン
「約束してくれる?」

ジュン王太子
「あぁ、約束するよ。誰なんだ?」

 カレンは、今までの涙が嘘だったような、満面の笑みを浮かべた。

カレン
「レオナルド・ジーンシャン様よ!」

ジュン王太子
「な!?」

アンナ王太子妃
「殿下! 約束は必ず守って下さいね!」

 嵌(は)められた王太子が頭を抱えたのは、言うまでもない。


______


 翌日、ダンスの授業がある日。

 ダンスの授業には、ダンスパートナーが必要である。

 学年を問わず、試験で踊る相手を選ぶ事が出来るが、王立学校は男女比が均等ではない。戦士科はほぼ男しかいないし、魔法戦士科も7:3で男:女、魔法科は4:6で男:女だ。つまり、330人中、女子生徒は135人しかおらず、60人は男子生徒があまってしまう。

 あまった男子生徒は、男子生徒同士でパートナーを組まなくてはいけないという、恐ろしい現実が待っている。

 ダンスの授業は必修なので、落としたら留年である。つまり、あぶれたら、絶対に男子同士で踊らないといけないのだ。

 今日は、全校生徒がホールに集められ、一斉にガイダンスを受ける。

 本来は、このガイダンスの後から翌週の授業日までにパートナーを決め、ダンスの授業に履修登録をするのだが、去年、レオナルド・ジーンシャンが入学したことにより、今年は異常事態が起きていた。

 カレン王女に泣きつかれたジュン王太子は、カレンを伴いレオナルドの登校を待っていた。

 だが、レオナルドを待っていたのは、この2人だけではなかったのだ。

 20人程度の女子生徒が、列をなして馬車の停車する玄関前広場に集まっていた。

ジュン王太子
「今日は女子生徒が多いが、何かあるのか?」

カレン
「皆、考えていることは同じなのですわ。」

ジュン王太子
「目当ての男子生徒を待っているのか?」

カレン
「はい。恐らくはレオナルド様のことを。」

ジュン
「何!?  皆レオナルド・ジーンシャンを待っているのか!?  こんなに大勢!?」

カレン
「そうですわ。ですから、殿下のお力が必要なのです! 絶対にお願いして下さいね!」

 ジュン王太子は青ざめた。

 他の貴族ならいざ知らず、よりにもよってジーンシャン家の人間。王家の権威があまり通じない相手である。

 だから、王太子は、レオナルドに靴や時計などのプレゼントを買ってあげることで、去年のパートナーを断ってもらって、カレン王女の相手をお願いしようと思っていた。

 だが、この並んだ女子生徒達の数を見れば、その程度の贈り物で済む話ではないことが、容易に想像出来た。

「何で、王太子殿下がカレン王女と一緒にいらっしゃっるのかしら?」

「まさか、レオナルド様にパートナーをお願いするためじゃないわよね?」

「まさか! そんな卑怯な手を使うなんて有り得ないでしょ?」

 ジュン王太子は、『そのまさかです。すみません。』と心の中で唱え、胃痛がするお腹に手をあてた。

「きゃー! いらしたわ! どうしましょう!」

「レオ様ぁ~~!!!」

 ジーンシャン家の馬車が姿を見せると、広場は一気に、殺気に近いほどの色めき立ちを見せた。

 馬車が到着し、黄金に輝く美少年が降り立つ。

 ロベルト譲りの色気あるタレ目に、濃いスカイブルーの瞳が輝く。174cmの高身長でありながら、まだ13歳のあどけない顔をもつ。その甘いマスクは女性ならば、見惚れずにはいられない。彼こそが、ジーンシャン辺境伯、継承権第3位のレオナルド・ジーンシャンである。

 ちなみに、ジーンシャン辺境伯継承権第1位はアントニオ、第2位はアルベルト(レオナルドの父)だ。

 レオナルドが周囲を見渡して、流し目を送ると、騒いでいた女子生徒が急に静かになり、甘い溜め息をついた。

 ジュン王太子は、段々と強くなる胃痛に耐えながら笑顔を作った。

 レオナルドは、王太子に気が付くと一礼した。カレン王女もお辞儀を返す。

 レオナルドがそのまま、通り過ぎようとするので、王太子は慌てて呼び止めた。

ジュン王太子
「や、やぁ、おはよう! 元気にしていたかね?」

レオナルド
「おはようございます。病気や怪我をする事もなく元気に過ごしております。」

 ジュン王太子がレオナルドに話しかけたことにより、周囲を取り巻く女子生徒達から、一斉に非難するような視線が集まった。

ジュン王太子
「この子は、私の娘のカレンだ。」

カレン
「カレンと申します。」

 カレン王女が、頬を赤らめて挨拶すると、周囲からは呻(うめ)き声のような溜め息と非難するような囁き声が聞こえてくる。

 ジュン王太子は女子生徒達の怨念に気付きつつも、気が付かないフリをして、嫌な汗をハンカチで拭った。

レオナルド
「アルベルト・ジーンシャンの長男、レオナルドと申します。勇者グリエルモ・ジーンシャンの甥にあたります。」

 ジュン王太子は、すぐにでも、ダンスパートナーの件を提案したかったが、周囲の女子生徒達の圧が凄くて、本題を切り出すことが躊躇(ためら)われた。

ジュン王太子
「その...何か変わったことはないか?」

レオナルド
「...トニーの事ですか?」

ジュン王太子
「いや...あぁ、そうなんだ。トニー様は、ダンスもお得意だと伺っているが、パートナーはすでに選ばれたのだろうか?」

レオナルド
「私は伺っておりません。トニーに聞いてきましょうか?」

ジュン王太子
「あぁ、そうしてくれると助かる...」

 カレン王女が、王太子の腕に触って、早く本題を話せと無言で圧力をかける。

ジュン王太子
「そ、それで...だな...レオナルド君...君はどうなんだ? パートナーは決まっているか?」
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