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第三幕 学生期
198.採用結果
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アントニオ
「お帰りなさい。お仕事が上手くいったのですか?」
メアリー
「えぇ、実は王立学校の回復魔法の講師になることになったの」
アントニオ
「え......? 領内の公務は?」
メアリー
「ロベルトお祖父様とジュリアお祖母様に代わって頂くわ。だから、トニーは王立学校に通い続けていいわよ」
アントニオ
「王立学校に残っていいのですか!? やった! 母上有難う御座います! 」
アントニオはメアリーをハグして喜んだ。
学校側から辺境伯夫人に講師を頼むはずがない。きっと母上が自分から応募したに違いない。母上は俺の事を考えてくれたんだ!
アントニオは王立学校で勉強を続けられることも嬉しかったが、メアリーが自分を尊重してくれたことが嬉しかった。
アントニオが自分から抱きついてくるので、メアリーも嬉しかった。アントニオは生まれたばかりの頃から、どこか他人行儀な息子で、ほとんど甘えないし、我がままも言わない。
それでも、幼い頃は抱っこをさせてくれていたが、6歳を過ぎた頃から手も滅多に繋がなくなり、メアリーは寂しい思いをしていたのだ。
今まで、こんなに喜んでくれた事があったかしら? アウロラの言う通りにして本当に良かった!
アントニオ
「早速、寮に帰って明日の準備を...」
メアリー
「待ちなさい! ここから通いなさい。」
アントニオは、また、メアリーに過干渉されることを懸念したが、メアリーが自分のことを考えてくれたのだから、自分もメアリーのことを考えようと思いなおした。
アントニオ
「...わかりました。でも、授業と授業の間の待ち時間に寮の部屋を使ってもいいですよね? もう、寮費は払っていますし、タイラ様やヤンとランチをとるのに使用したいのです。そうでないと、混み合う食堂で食事しないといけないですし!」
メアリー
「もちろん、いいわ。その方が安全ですものね」
アントニオ
「有難うございます!」
大きな問題が解決しホクホク笑顔で過ごしていると、アルベルト邸の執事さんが手紙を持ってきた。グリエルモに手渡される。
王立学校からの封書だ。きっと用務員採用に関する書類だ!
グリエルモは、自信満々で封を開けて書類を確認する。
用務員として、自分よりも素晴らしい働きが出来る人間はいないはずだ! きっと採用に決まっている!
しかし、書類には無慈悲にも『不採用』の文字が記載されている
メアリー
「どうだったの? 当然、採用でしょう?」
グリエルモ
「......」
覗き込んだメアリーの目にも『不採用』の文字が映る。
メアリー
「な、なんで!?」
アントニオ
「父上も教員募集に応募されたのですか?」
グリエルモ
「いや、教員募集は回復魔法しか枠がなかったので、用務員の募集に...」
メアリー
「そんなに協力なライバルがいたの? 用務員のベテランさんとか?」
グリエルモ
「いや、私1人だった...たとえ、直後に応募があったとしても...何故なんだ!?」
この不採用通知は、グリエルモに生まれて初めての挫折を味わせるものだった。身分が高く、金持ちで、優れた容姿と身体能力を持ち、何でも誰よりも出来てしまうグリエルモは、信頼出来る部下や友人にも恵まれ、初恋のメアリーとも結婚したし、嫡子もいる。出来ない、手に入らない、不合格や不採用というものとは、無縁の人生だったのだ。
がっくりと膝をついて、項垂(うなだ)れた。
メアリー
「な、何をやらかしたの!?」
メアリーも動揺していた。
グリエルモの何が不足だというのだろうか?
グリエルモ
「さ、さぁ...?」
メアリーにもグリエルモにも、落ちた理由がさっぱり分からなかった。
騒ぎを聞きつけて、アウロラやジュゼッペもやってきた。
ジュゼッペ
「どうされたのですか?」
メアリーは、不採用通知をグリエルモから取り上げてアウロラに見せた。
アウロラ
「あ、ダメだったのですか。変装がバレてしまいましたか?」
グリエルモ
「変装? 変装などして行かなかったが?」
アウロラ
「え!? そのままで、行かれたのですか? それじゃあ受かるはずないですよ」
グリエルモ
「ど、どうしてだ?」
メアリー
「な、何でなの!?」
アウロラ
「用務員というのは、皆様のご用を聞く人なんです。それこそ、平民の学生さんがトイレットペーパーがないです~って言ってきたら、召使いのようにトイレットペーパーを変えてあげなきゃいけません。そんなこと、グリエルモ様には出来ないでしょう?」
グリエルモ
「私だってトイレの紙くらいは交換出来る!」
アウロラ
「いえ、出来ません。」
グリエルモ
「何故だ!? 教えてくれ!」
アウロラ
「はぁ~、面倒くさ...いいですか? そもそも、辺境伯様に平民の方は話しかけられません。平民どころか、騎士家や男爵家、伯爵家に至るまで、辺境伯様には話しかけられません。同じ辺境伯家の学生だって、爵位持ちではない学生さんや先生はグリエルモ様には話しかけられないのです」
グリエルモ
「事前に自己紹介すればいいのでは?」
アウロラ
「全校生徒や先生方に名乗られるのですか? 秩序が乱れます。絶対にやめて下さい」
グリエルモ
「あぁ...では、変装して、もう一度...」
アウロラ
「今更、カツラをかぶって、眼鏡をかけても、さっきの辺境伯様ですよね?ってなりませんか?」
ジュゼッペ
「なるでしょうね」
グリエルモ
「そんな!?」
アントニオ
「父上に用務員は向いていないと思います。マナーのルールがなくても、父上はジーンシャン領のトップなのですから、粗末な作業服を着て働く姿を人に見られるのはよくないです。皆、憧れの勇者様のそんな姿なんてみたくないですよ。それに、父上には姿を偽って働くのも厳しいと思います」
メアリー
「それも、そうね。グリエルモは嘘がつけない性格だし、変装しても、立ち居振る舞いでバレてしまいそうね」
アントニオ
「ところで、どうして用務員になろうとしたのですか? 」
グリエルモ
「そ、それは...私も、何かあったらトニーの元にすぐ駆け付けられる場所にいようと...」
アントニオ
「そんなことはしなくて大丈夫ですよ。いざという時はルドもリンもいますし。母上が教員で学校に勤めるのに、父上まで学校に勤めたら、皆に陰で何と言われるかわかりません。父上は叔父上のお手伝いでもしていたらいいじゃないですか」
ヤン
「護衛騎士の枠で勤めるのはダメなんですか?」
メアリー
「そうよ! そうすればいいんじゃない?」
アントニオ
「ちょっとヤン! 余計なことを言わないで下さい! 毎日、親同伴で学校に通うなんて嫌ですよ! 恥ずかしい! ヤンだって、キール(ヤンの父)が毎日一緒に学校に来たら嫌でしょう?」
ヤン
「うげっ」
アントニオ
「ほら! 父上だって、ロベルトお祖父様が授業について来たら嫌だったはずですよね? 母上だって、ヘンリーお祖父様やエミお祖母様が一緒だったら落ち着いて勉強なんて出来なかったでしょう? それに勇者様である父上がいらしたら、私以外の学生も授業に集中出来なくなります!」
グリエルモ
「では、私はトニーの助けにはなれないのか?」
グリエルモは叱られた犬のようにしょんぼりした。
アウロラ
「申し訳ありません。私が、グリエルモ様の性質をきちんと把握出来ていなかった所為で、無駄な手間と恥をかかせてしまいました。何でも、お出来になられるので芝居もお上手なのかと勘違いしておりました」
メアリー
「アウロラの所為ではないわ。ただ、この人も人間だということよ」
ジュゼッペ
「グリエルモ様は諦めて、家の手伝いをなさってはいかがですか?」
メアリー
「そうね。私だけじゃなくてルド様とリン様もいるし、トニーのことは何とかなると思うから、グリエルモは好きにしていていいわ!」
グリエルモ
「そんな...」
グリエルモは、初めて味わう挫折の苦味を噛み締めるのであった。
「お帰りなさい。お仕事が上手くいったのですか?」
メアリー
「えぇ、実は王立学校の回復魔法の講師になることになったの」
アントニオ
「え......? 領内の公務は?」
メアリー
「ロベルトお祖父様とジュリアお祖母様に代わって頂くわ。だから、トニーは王立学校に通い続けていいわよ」
アントニオ
「王立学校に残っていいのですか!? やった! 母上有難う御座います! 」
アントニオはメアリーをハグして喜んだ。
学校側から辺境伯夫人に講師を頼むはずがない。きっと母上が自分から応募したに違いない。母上は俺の事を考えてくれたんだ!
アントニオは王立学校で勉強を続けられることも嬉しかったが、メアリーが自分を尊重してくれたことが嬉しかった。
アントニオが自分から抱きついてくるので、メアリーも嬉しかった。アントニオは生まれたばかりの頃から、どこか他人行儀な息子で、ほとんど甘えないし、我がままも言わない。
それでも、幼い頃は抱っこをさせてくれていたが、6歳を過ぎた頃から手も滅多に繋がなくなり、メアリーは寂しい思いをしていたのだ。
今まで、こんなに喜んでくれた事があったかしら? アウロラの言う通りにして本当に良かった!
アントニオ
「早速、寮に帰って明日の準備を...」
メアリー
「待ちなさい! ここから通いなさい。」
アントニオは、また、メアリーに過干渉されることを懸念したが、メアリーが自分のことを考えてくれたのだから、自分もメアリーのことを考えようと思いなおした。
アントニオ
「...わかりました。でも、授業と授業の間の待ち時間に寮の部屋を使ってもいいですよね? もう、寮費は払っていますし、タイラ様やヤンとランチをとるのに使用したいのです。そうでないと、混み合う食堂で食事しないといけないですし!」
メアリー
「もちろん、いいわ。その方が安全ですものね」
アントニオ
「有難うございます!」
大きな問題が解決しホクホク笑顔で過ごしていると、アルベルト邸の執事さんが手紙を持ってきた。グリエルモに手渡される。
王立学校からの封書だ。きっと用務員採用に関する書類だ!
グリエルモは、自信満々で封を開けて書類を確認する。
用務員として、自分よりも素晴らしい働きが出来る人間はいないはずだ! きっと採用に決まっている!
しかし、書類には無慈悲にも『不採用』の文字が記載されている
メアリー
「どうだったの? 当然、採用でしょう?」
グリエルモ
「......」
覗き込んだメアリーの目にも『不採用』の文字が映る。
メアリー
「な、なんで!?」
アントニオ
「父上も教員募集に応募されたのですか?」
グリエルモ
「いや、教員募集は回復魔法しか枠がなかったので、用務員の募集に...」
メアリー
「そんなに協力なライバルがいたの? 用務員のベテランさんとか?」
グリエルモ
「いや、私1人だった...たとえ、直後に応募があったとしても...何故なんだ!?」
この不採用通知は、グリエルモに生まれて初めての挫折を味わせるものだった。身分が高く、金持ちで、優れた容姿と身体能力を持ち、何でも誰よりも出来てしまうグリエルモは、信頼出来る部下や友人にも恵まれ、初恋のメアリーとも結婚したし、嫡子もいる。出来ない、手に入らない、不合格や不採用というものとは、無縁の人生だったのだ。
がっくりと膝をついて、項垂(うなだ)れた。
メアリー
「な、何をやらかしたの!?」
メアリーも動揺していた。
グリエルモの何が不足だというのだろうか?
グリエルモ
「さ、さぁ...?」
メアリーにもグリエルモにも、落ちた理由がさっぱり分からなかった。
騒ぎを聞きつけて、アウロラやジュゼッペもやってきた。
ジュゼッペ
「どうされたのですか?」
メアリーは、不採用通知をグリエルモから取り上げてアウロラに見せた。
アウロラ
「あ、ダメだったのですか。変装がバレてしまいましたか?」
グリエルモ
「変装? 変装などして行かなかったが?」
アウロラ
「え!? そのままで、行かれたのですか? それじゃあ受かるはずないですよ」
グリエルモ
「ど、どうしてだ?」
メアリー
「な、何でなの!?」
アウロラ
「用務員というのは、皆様のご用を聞く人なんです。それこそ、平民の学生さんがトイレットペーパーがないです~って言ってきたら、召使いのようにトイレットペーパーを変えてあげなきゃいけません。そんなこと、グリエルモ様には出来ないでしょう?」
グリエルモ
「私だってトイレの紙くらいは交換出来る!」
アウロラ
「いえ、出来ません。」
グリエルモ
「何故だ!? 教えてくれ!」
アウロラ
「はぁ~、面倒くさ...いいですか? そもそも、辺境伯様に平民の方は話しかけられません。平民どころか、騎士家や男爵家、伯爵家に至るまで、辺境伯様には話しかけられません。同じ辺境伯家の学生だって、爵位持ちではない学生さんや先生はグリエルモ様には話しかけられないのです」
グリエルモ
「事前に自己紹介すればいいのでは?」
アウロラ
「全校生徒や先生方に名乗られるのですか? 秩序が乱れます。絶対にやめて下さい」
グリエルモ
「あぁ...では、変装して、もう一度...」
アウロラ
「今更、カツラをかぶって、眼鏡をかけても、さっきの辺境伯様ですよね?ってなりませんか?」
ジュゼッペ
「なるでしょうね」
グリエルモ
「そんな!?」
アントニオ
「父上に用務員は向いていないと思います。マナーのルールがなくても、父上はジーンシャン領のトップなのですから、粗末な作業服を着て働く姿を人に見られるのはよくないです。皆、憧れの勇者様のそんな姿なんてみたくないですよ。それに、父上には姿を偽って働くのも厳しいと思います」
メアリー
「それも、そうね。グリエルモは嘘がつけない性格だし、変装しても、立ち居振る舞いでバレてしまいそうね」
アントニオ
「ところで、どうして用務員になろうとしたのですか? 」
グリエルモ
「そ、それは...私も、何かあったらトニーの元にすぐ駆け付けられる場所にいようと...」
アントニオ
「そんなことはしなくて大丈夫ですよ。いざという時はルドもリンもいますし。母上が教員で学校に勤めるのに、父上まで学校に勤めたら、皆に陰で何と言われるかわかりません。父上は叔父上のお手伝いでもしていたらいいじゃないですか」
ヤン
「護衛騎士の枠で勤めるのはダメなんですか?」
メアリー
「そうよ! そうすればいいんじゃない?」
アントニオ
「ちょっとヤン! 余計なことを言わないで下さい! 毎日、親同伴で学校に通うなんて嫌ですよ! 恥ずかしい! ヤンだって、キール(ヤンの父)が毎日一緒に学校に来たら嫌でしょう?」
ヤン
「うげっ」
アントニオ
「ほら! 父上だって、ロベルトお祖父様が授業について来たら嫌だったはずですよね? 母上だって、ヘンリーお祖父様やエミお祖母様が一緒だったら落ち着いて勉強なんて出来なかったでしょう? それに勇者様である父上がいらしたら、私以外の学生も授業に集中出来なくなります!」
グリエルモ
「では、私はトニーの助けにはなれないのか?」
グリエルモは叱られた犬のようにしょんぼりした。
アウロラ
「申し訳ありません。私が、グリエルモ様の性質をきちんと把握出来ていなかった所為で、無駄な手間と恥をかかせてしまいました。何でも、お出来になられるので芝居もお上手なのかと勘違いしておりました」
メアリー
「アウロラの所為ではないわ。ただ、この人も人間だということよ」
ジュゼッペ
「グリエルモ様は諦めて、家の手伝いをなさってはいかがですか?」
メアリー
「そうね。私だけじゃなくてルド様とリン様もいるし、トニーのことは何とかなると思うから、グリエルモは好きにしていていいわ!」
グリエルモ
「そんな...」
グリエルモは、初めて味わう挫折の苦味を噛み締めるのであった。
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