元オペラ歌手の転生吟遊詩人

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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第三幕 学生期

200.白銀のトニー様2 ❤︎

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 今日は必修であるダンスの授業がある日である。本来なら1週間の間に相手をみつけるのだが、学校が休校だったこともあり、多くの学生がパートナーを見つけられないでいた。

 ダンスパートナーの決まっていない学生達は焦っていた。今年は男同士で組んだ学生が多かったこともあり、特に女子学生が余っている。女子なのにあぶれるなんて不名誉なことになれば、その後の結婚話にどんな影響を及ぼすか分かったものではない。相手が決まっていない女子学生の焦りは大変なものであった。

 アントニオのクラスメイトであるリアナ・ジャニエスもパートナーがきまっていない女子学生のうちの1人だ。

 リアナは、王立学校に入ったが、男爵家を継ぐ気もなければ、騎士になる気もない。将来は花嫁希望である。王立学校の在学中に、少しでも条件のいい相手を見つけて結婚する。それこそが、リアナの目標であった。

 ダンスの授業がはじまる前に、なんとしてもパートナーを見つけないと! 望まない相手と強制的に組まされてしまうわ。不細工な男とペアを組むのも、女同士でペアを組むのも、真平ごめん! そんなことになったら、親戚達や家臣達からどんな目で見られるか!

 リアナが、本校舎に入ると、玄関に最も近いロビーに人が集まっているのが見えた。

 しまった! パートナーが見つかっていない人は、ロビーに集まって相手を探すのが恒例だったんだわ! 出遅れた! まだ、好物件の男子生徒が残っているといいけど...

 急いでリアナも、人だかりに近付く。

 あ、良かった! まだ、結構男子が残ってる!

 男子学生達が女子学生達を囲んでいるのだが、何故か女子学生達は男子学生達に目もくれず、ロビーのソファーのある辺りを見ているようだ。何があるのかは人が多過ぎて、背の低いリアナでは見えない。

 一体、どうしたのかしら? 何かあるのかしら?

 リアナは男子学生の輪の中に商家のマーク・ホワイトリーがいるのを見つけた。

 マークなら何か知っているかも。

リアナ
「おはようございまぁ~す」

 リアナが声をかけると、マークは嬉しそうにした。

マーク
「おはようございます」

リアナ
「どうしたの? あっちに何かあるの?」

マーク
「まだ私はペアが決まっていなくて、フリーの女子にダンスのパートナーをお願いしようと思ったのですけど、見たこともないほどのイケメンの王子様がいるとかで、女子は誰も相手にして下さらないのです」

リアナ
「うそ!? イケメンの王子様!? タイラ王子じゃなくて?」

マーク
「違うらしいです。でも、タイラ王子より明るい白銀の髪なんだとか」

リアナ
「本当!? ちょっと見てくる!」

 リアナは、人を押しのけて先に進んだ。

マーク
「あ! ちょっと、待って!」

 マークはリアナにダンスパートナーを頼めるかもしれないと思い、慌てて後を追う。

 最前列の学生を押しのけて前に出たリアナは、ロビーのソファーに座る男子学生と護衛騎士2人を発見した。

 王子様だわ!

 白銀のサラサラした髪。猫のようなアーモンドアイには宝石のようなスカイブルーの瞳がはまっている。スッと通った鼻筋、すらっとのびた手足、白い肌。まるで、御伽噺(おとぎばなし)の王子様が絵本から抜け出してきたような美しさである。

 白銀の王子様は、飛び出したリアナとマークに視線を向けると、笑顔になって手を振った。

 いや、王子様なんかじゃないわ! 天使! 神の御使(みつかい)様だわ!

 リアナは、夢見心地で手を振り返した。

マーク
「え!? リアナ様のお知り合いですか?」

リアナ
「知らない。」

マーク
「えぇ!?」

 だが、白銀の王子様は立ち上がると2人のもとへと歩み寄った。

白銀の王子
「マーク様、おはよう御座います。」

 一斉にマークに視線が集まる。

 マークは困惑し、キョロキョロとまわりを見渡した。

マーク
「はい!? 私!? あ、お、おはよう御座います?」

 声を裏返しながらマークがこたえると、護衛騎士のうちの1人が笑い出した。

 笑う護衛騎士を見ると、見知った顔がそこにあった。

 あ! この人はアントニオ様の護衛騎士の...

リッカルド
「やっぱり、色が違うだけで皆、分からないんですね!」

ヴィクトー
「あんまり笑うなよ。お前だって、人の事を言えないだろ?」

白銀の王子
「マーク様、すみません。部下の礼儀がなっていなくて...リッカルド!」

リッカルド
「申し訳ありません。トニー様。」

マーク、リアナ
「「ト、トニー様!?」」

マーク
「トニー様...ということは...アントニオ・ジーンシャン様なのですか?」

アントニオ
「はい。そうです」

 遠巻きに眺めていた女子達にも動揺が走る。

マーク
「ど、ど、どうしたのですか!? その...髪とか...」

アントニオ
「今日はダンスの日ですので、カレン王女に迷惑をかけないように、お洒落をして来ました」

マーク
「お、お洒落!?」

 目を凝らしてもカツラには見えない。髪の色を変えるなんて、お洒落の粋を超えている気がする。

アントニオ
「焦茶ですと、見すぼらしくて、カレン様にご迷惑をかけてしまうかもしれないと思ったのです。少しは見られるようになってますか?」

マーク
「見られるなんてレベルではないです! とてもカッコイイです! 何処の王子様だろうって話していたんです。ねぇ? リアナ様!」

 リアナは真っ赤になってコクコクと頷いた。

アントニオ
「ははは、マーク様は口が上手いな。流石、ホワイトリー商会の御子息ですね」

マーク
「いえ...お世辞ではないです...」

 アントニオの笑顔を見て、周囲の女子がよろめいている。

 マークは、そんな周囲の状況を冷静に把握しながら、一体、どういう事なのかを必死に考えた。

 考えてみれば、アントニオ様は聖女様の御子息である。髪が白銀でもおかしくはない。そして勇者様の御子息でもあるアントニオ様がスカイブルーの瞳でも、なんら不思議ではないはずだ。

 むしろ、焦茶で生まれる方が不思議である。

 そういえば、パパが言っていた。『ジーンシャン領に現れるローレライの正体は、次期領主のトニー様であると噂されている』と、ジーンシャン領を担当する部下の商人が話していたとか。

 歌が上手いからだと思っていたが、見た目も美しかったのだ!

 美し過ぎて、人心(じんしん)を惑わし、きっと色々な問題が起きたに違いない。

 そこで、あえて焦茶のカツラを被って、王立学校に入学し、ソバカスをいっぱい描いて、不細工を装っていたのだろう。

 あの焦茶がカツラだとは気が付かなかった!

 しかし、王女様とダンスを踊るのに、変装したままでは失礼にあたるから、変装を解いたという事だ!

 ウンウンと頷くマークの横で、リアナは気持ちがぐるぐると回っていた。

 ダンスパートナーを募集していた、あの時、何故、自分がペアを組むと言わなかったのだろう!?

 冷静に考えてみればアントニオ様は、身分も、お金も、身体能力も、マナーも、全てが最高級の王子様なのに、髪の色に惑わされて、本質を見抜けていなかった!

 プロポーションや顔の形も整っているし、タイプが違うけど、レオ様と同じか、それ以上にカッコイイかも!?

 あの時、誰も名乗り出なかった、あの時に、自分が名乗り出ていれば!

 せっかく、同じクラスになったのに、まだ、お知り合いにもなってもらっていない。それどころか、不遜な態度ばかり晒してしまった!

 どうして、あんな態度をとってしまったの!?

 今からでも遅くない? 私の可愛さをアピールしなくては!

 リアナが懸命にぎこちない笑顔を作りアントニオに笑いかけると、アントニオはリアナの変化に気が付いて嬉しそうに笑った。

 その顔面の破壊力が、あまりにも凄過ぎて、リアナは思わず顔を背けてしまった。

 しまった! 今のは感じが悪いわ! でも、無理! 火が出そうなくらい顔が熱くて、歪な形に歪んでいる気がする! 可愛い顔に戻して、もう一度、振り向きたいけど、体が言うことをきいてくれないわ!

 アントニオはリアナが不思議な動きをしながら、汗をかいているので具合が悪いのだと思った。

アントニオ
「大丈夫ですか? 具合が悪そうですよ?」

リアナ
「だ、だ、だ、大丈夫です。」

 どう見ても大丈夫そうではない。

アントニオ
「保健室に連れていってあげたいのですが、私はカレン様を待っていなくてはいけないのです。リッカルドかヴィクトー、どちらでも、いいから彼女を保健室へ...」

リッカルド
「申し訳ありませんが、あんな事件の後ですから、私達はトニー様の側を離れるわけにはいきません。」

ヴィクトー
「マーク君、彼女のことをお願い出来るか?」

マーク
「は、はい!」

 リアナは内心、『違ーう!』と叫んだが、『では、どうして、そんな態度を?』と説明を求められたら困るし、もはや心臓が限界だったので、はやく、その場を離れようと、具合が悪くなったフリをすることにした。

リアナ
「申し訳ありません。失礼いたします」

 リアナはマークに支えられて、その場を後にした。
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