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第三幕 学生期
228.結婚してもいい? ❤︎
しおりを挟むアントニオ
「カレン様は、俺のダンスや歌を褒めてくれたし、いつも優しくしてくれていたんだよ? ...あれも、全部演技だったかもしれないってこと? 陛下やジュン様だって血の繋がった親戚なのに....何で俺を閉じ込めたいんだろ...やっぱり、魔王を封印していて危険な存在だから? 皆、優しくて、良い人で、俺の味方なんだと思ってたのに...本当は俺が嫌いだった? も、もしかして...タイラ様も?」
6歳のころから毎年、夏休みが来ると皆で仲良く遊んでいた。アントニオはそんな日々を思い出していた。
タイラ様とレオとエドとカリーナと一緒に笑って仲良く暮らしてきた。そんなタイラ様の全部が嘘だなんて信じられないし、信じたくない。
アントニオは顔や目の奥が燃えるように熱くなるのを感じた。それなのに、体が寒くて震えた。
バルドは、アントニオを捕まえると軽々と抱き上げ、赤ちゃんのときにしていたように背中をポンポン叩いてあやす。
この世は所詮、弱肉強食で、騙すか騙されるかの荒んだ世の中だ。そんなことを少しも理解しない、頭の中がお花畑のエストに苛立っては、アホみたいに咲いている花を全部引っこ抜いてやろうと思った。そういったことは一回や二回の出来事ではない。それなのに、実際に、エストの脳内花畑が踏み荒らされるのを目の当たりにしたら...花を散らした奴らが憎くてならない...もう一度、植え直して、エストの頭の中をアホみたいな花でいっぱいにしてやりたいとさえ思う。
バルドは矛盾を抱える滑稽な自分を笑った。
アントニオ
「むぅ~...何で笑うんだよ。」
アントニオは、バルドのお陰で落ち着くことが出来たが、ぐずる赤ちゃんがされる様な扱いをされたことで、進歩のない自分を情け無く思った。
12歳になって身長も170cmあるのに、精神年齢もルドより歳上なのに...恥ずかしい...
いや、前世では苦しい事があっても泣いたり、誰かにすがったりすることが出来なかったんだから、これはこれで進歩しいていると言ってもいいのかも!? うんうん、そうだ! 全く成長していないわけじゃないぞ!
アントニオが自身の顔をバルドの肩から離すと、半透明の粘りけのある水が糸を引いた。
アントニオ
「あ、ごめん。鼻水付けた。」
バルド
「は?」
慌ててバルドはアントニオを降ろし、つけられた鼻水を拭く。
それを見て、リンは笑った。
アントニオ
「リンまで笑って、何だよ? 全然、笑い事じゃないんだけど!?」
リン
「心配するな。国王と王太子は、エストのことを手元に置いて安心したいだけだ。あいつらも聖女と同じ血を引いているから異常な程に過保護なんだよ。あの2人はエストを神のように崇(あが)めているし、ルドや俺がエストと一緒に暮らしたいのと似たような気持ちを持っている。やり方がスマートじゃなくて俺は気に入らないけどな。でも、エスト、あいつらはお前の敵じゃない」
アントニオの顔に輝きが戻る。
アントニオ
「本当!?」
リン
「あぁ、だが、何度も言っているが、女性に愛されるのは、そんなに簡単なことじゃないぞ! 女性はいつも演技していて思わせぶりな態度をとり、男を誘導しようとするものだ。このくらいのことで泣いていたら、女性と結婚なんて出来ない!」
アントニオ
「えぇ!? でも、そっか...女の人って怖いんだね」
リン
「何を言っているんだ!? 自分の子供を産んでくれる女性は強くて賢い方が良いに決まっている! 怖いくらいの女でないと!」
アントニオ
「そっか...そうだね。でも、嫌われてるんじゃどうすることもできない...」
リン
「あのなぁ~、いいか? 女性は陰口を叩いても、その男を嫌いだとは限らない。第一王女はエストの悪口を陰で言っているようだが、結婚には同意しているようだ。言葉と行動、どちらが本心だろうな? 女性は好きな相手にこそ、些細なことで悪口を言ったり、結婚しない! などと叫ぶこともある。『好き』の反対は『嫌い』じゃなくて、『無関心』だからな。つまり、まだ悲観する必要はない」
アントニオ
「な、なるほど!そういえば、母上も父上の悪口をたまに言っている気がする...好きだから、全部分かって欲しい的な...じゃ、じゃあ、カレン様は本当は俺が好き?」
リン
「そうとも限らないのが女性の恐いところだ。結局のところ、女性の気持ちを推し量ることなど、俺達、男には出来ないのだ。大事なのはお前の気持ちだ! 相手の女性がお前の事を嫌いでも、無関心でも、お前が相手の女性の事を好きで、尽くしてすっからかんになって傷付いてもいいくらい、愛しているかどうかなんだ! 自分の子供を産んで育ててくれる雌に、それだけの価値を見出しているかどうか!」
アントニオ
「そっか! じゃあ、俺が王女様に対して、そういう愛情を持ってたら、婚約してもいいと思う?」
バルド
「ちょっと待て! こいつは、誰に対しても、尽くしてすっからかんになって傷付いてもいいくらい、全人類に愛情を持っていないか?」
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