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第三幕 学生期
238.匿名で楽譜を送った理由
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先に来場していたマジョルガ家の人々は混乱していた。
マジョルガ辺境伯
「どういう事でしょうか? 今日は...その...娘とアントニオ様のお茶会では!?」
マジョルガ辺境伯の一族に気が付いたカーン伯爵家の人々も驚く。
カーン伯爵家も、カヴィタとアントニオとのお見合い話ではないかと思っていたからである。
ただ1人、カヴィタだけが落ち着いている。
グリエルモ
「もちろん、御息女に対するお礼のお茶会です。ですが、実は、例のラブソングに関してお手紙を下さった方は複数名いらっしゃったのです。テオドラ様とカヴィタ様の御二方からも、お手紙を頂戴致しまして、お礼とともに、アントニオに下さったという楽譜の確認をして頂こうと思ったのです」
マジョルガ辺境伯
「楽譜の作者を名乗る方が他にも?」
アントニオ
「はい。実は、楽譜は匿名で届きまして、作者が分かっていないのです。そして、御二方から『私が書いた』という内容の手紙を頂きました。私のお預かりしている楽譜が、お嬢様方が私に下さるといった楽譜なのかを確認して欲しいのです」
マジョルガ辺境伯
「テオドラ! 嘘をついたのか!? 何という真似を!」
マジョルガ辺境伯は怒鳴り散らすと、手を振り上げ、カサンドラを打とうとした。
カサンドラ
「違う! ワタクシじゃない!」
マジョルガ辺境伯
「黙れ! この恥知らず!」
だが、マジョルガ辺境伯の腕はグリエルモの氷魔法で拘束され動かなかった。
グリエルモ
「マジョルガ辺境伯、落ち着いて下さい。話を聞いてあげましょう」
マジョルガ辺境伯
「し、失礼致しました。お見苦しいところを。テオドラ! 答えなさい!」
グリエルモはカサンドラに目線を合わせるためにかがんだ。
グリエルモ
「大丈夫だから本当の事を話してごらん」
カサンドラ
「ワタクシはテオドラではありません。カサンドラですわ! 楽譜の事はテオドラに聞いて下さい」
グリエルモ
「あ、これは、失礼!」
カサンドラは娘を間違えたマジョルガ辺境伯を睨んだが、マジョルガ辺境伯は間違えた事実をなかった事にして、娘に謝罪をせず、視線を逸らした。
テオドラ
「何故、皆様はワタクシが嘘をついていると思うのですか? 確かにワタクシは自分の書いた楽譜をお送りしていますのに! そちらの御令嬢にはお聞きにならないのですか?」
テオドラは鋭くカヴィタを睨んだ。
カヴィタはテオドラに視線を合わせたが、ゆっくりと静かに目を伏せて、視線を外した。
カヴィタ
「本日は演奏会にお招き頂き有難うございます。不協和音の音色は、音楽の可能性を豊かにし、解決する協和音の響きを何倍にも高めてくれるでしょう」
カサンドラは思わず吹き出して笑いそうになる。
頭のおかしな娘!
カヴィタの言葉は間の抜けた空気が読めない言葉に聞こえたが、気持ちが一歩引いたお陰で、その場にいた皆に、冷静に考える余裕が生まれた。
テオドラ
「何を仰っているのか分かりませんわ?」
カヴィタ
「誰かを疑う必要はありません。貴方様が歌をアントニオ様に献上し、私も歌を献上した。どうして誰かを疑う必要があるのでしょうか? アントニオ様の元には、異なる楽譜が二つ届いているはず。そうでなければ、不幸な事故で失われ、届かなかったのかもしれません」
アントニオ
「異なる楽譜が二つ...?」
リン
「確かに、複数の楽譜が届いていたな。演奏会で演奏して欲しいと」
ジュゼッペ
「そういえば、そのうちの一つに、名前を書き忘れている楽譜がありました」
アウロラが楽譜を収納したファイルを取りに行く。
リン
「だが、どうして匿名で楽譜を送った?」
テオドラ
「ワタクシは、うっかり名前を書き忘れただけなのです。そのことに気が付きまして、慌てて再度、先日の楽譜はワタクシが書いた楽譜ですと、お手紙を差し上げた次第でございます」
アントニオ
「そうだったのですね! 楽譜を下さって本当に有難うございます。犯人探しをしたかった訳ではなく、素晴らしい曲を下さった方を直接確かめたかったと言いますか...手紙で作者である証拠が欲しいと要求する方が、失礼にあたると思ったのです」
テオドラ
「もちろん大丈夫です。気にしておりませんわ!」
リン
「そちらの御令嬢はどうしてだ?」
カヴィタ
「初めは、名乗り出るつもりはありませんでした。ですが、欲が出たのです。一度でいいから歌を聴きたいと」
歌が聴きたいと言われて嬉しくない歌手はいないだろう。
アントニオ
「それは大変嬉しいお言葉。有難うございます」
アントニオが熱い眼差しをカヴィタに向ける。その様子を見て、テオドラは奥歯を噛み締めた。
完璧な作戦だったのに! 多くの作曲家が、自分を売り込もうとジーンシャン家に手紙を送っているという情報を掴んでいた。ワタクシはわざと名無しで楽譜を送り、後から、『楽譜を送ったのはワタクシです』と名乗り出れば、誤解が生まれる。ワタクシは嘘を吐いたわけではないから、バレても一切の罪には問われない。どう転んでも、確実に音楽の話題で親密になる事ができるはずだった。
まさか、ワタクシの他にも名乗り出る者がいるなんて! しかも、冴えない貧乏音楽家ではなく、よりによってカーン伯爵家の御令嬢!? 結婚相手のライバルになる可能性がある!
マジョルガ辺境伯
「どういう事でしょうか? 今日は...その...娘とアントニオ様のお茶会では!?」
マジョルガ辺境伯の一族に気が付いたカーン伯爵家の人々も驚く。
カーン伯爵家も、カヴィタとアントニオとのお見合い話ではないかと思っていたからである。
ただ1人、カヴィタだけが落ち着いている。
グリエルモ
「もちろん、御息女に対するお礼のお茶会です。ですが、実は、例のラブソングに関してお手紙を下さった方は複数名いらっしゃったのです。テオドラ様とカヴィタ様の御二方からも、お手紙を頂戴致しまして、お礼とともに、アントニオに下さったという楽譜の確認をして頂こうと思ったのです」
マジョルガ辺境伯
「楽譜の作者を名乗る方が他にも?」
アントニオ
「はい。実は、楽譜は匿名で届きまして、作者が分かっていないのです。そして、御二方から『私が書いた』という内容の手紙を頂きました。私のお預かりしている楽譜が、お嬢様方が私に下さるといった楽譜なのかを確認して欲しいのです」
マジョルガ辺境伯
「テオドラ! 嘘をついたのか!? 何という真似を!」
マジョルガ辺境伯は怒鳴り散らすと、手を振り上げ、カサンドラを打とうとした。
カサンドラ
「違う! ワタクシじゃない!」
マジョルガ辺境伯
「黙れ! この恥知らず!」
だが、マジョルガ辺境伯の腕はグリエルモの氷魔法で拘束され動かなかった。
グリエルモ
「マジョルガ辺境伯、落ち着いて下さい。話を聞いてあげましょう」
マジョルガ辺境伯
「し、失礼致しました。お見苦しいところを。テオドラ! 答えなさい!」
グリエルモはカサンドラに目線を合わせるためにかがんだ。
グリエルモ
「大丈夫だから本当の事を話してごらん」
カサンドラ
「ワタクシはテオドラではありません。カサンドラですわ! 楽譜の事はテオドラに聞いて下さい」
グリエルモ
「あ、これは、失礼!」
カサンドラは娘を間違えたマジョルガ辺境伯を睨んだが、マジョルガ辺境伯は間違えた事実をなかった事にして、娘に謝罪をせず、視線を逸らした。
テオドラ
「何故、皆様はワタクシが嘘をついていると思うのですか? 確かにワタクシは自分の書いた楽譜をお送りしていますのに! そちらの御令嬢にはお聞きにならないのですか?」
テオドラは鋭くカヴィタを睨んだ。
カヴィタはテオドラに視線を合わせたが、ゆっくりと静かに目を伏せて、視線を外した。
カヴィタ
「本日は演奏会にお招き頂き有難うございます。不協和音の音色は、音楽の可能性を豊かにし、解決する協和音の響きを何倍にも高めてくれるでしょう」
カサンドラは思わず吹き出して笑いそうになる。
頭のおかしな娘!
カヴィタの言葉は間の抜けた空気が読めない言葉に聞こえたが、気持ちが一歩引いたお陰で、その場にいた皆に、冷静に考える余裕が生まれた。
テオドラ
「何を仰っているのか分かりませんわ?」
カヴィタ
「誰かを疑う必要はありません。貴方様が歌をアントニオ様に献上し、私も歌を献上した。どうして誰かを疑う必要があるのでしょうか? アントニオ様の元には、異なる楽譜が二つ届いているはず。そうでなければ、不幸な事故で失われ、届かなかったのかもしれません」
アントニオ
「異なる楽譜が二つ...?」
リン
「確かに、複数の楽譜が届いていたな。演奏会で演奏して欲しいと」
ジュゼッペ
「そういえば、そのうちの一つに、名前を書き忘れている楽譜がありました」
アウロラが楽譜を収納したファイルを取りに行く。
リン
「だが、どうして匿名で楽譜を送った?」
テオドラ
「ワタクシは、うっかり名前を書き忘れただけなのです。そのことに気が付きまして、慌てて再度、先日の楽譜はワタクシが書いた楽譜ですと、お手紙を差し上げた次第でございます」
アントニオ
「そうだったのですね! 楽譜を下さって本当に有難うございます。犯人探しをしたかった訳ではなく、素晴らしい曲を下さった方を直接確かめたかったと言いますか...手紙で作者である証拠が欲しいと要求する方が、失礼にあたると思ったのです」
テオドラ
「もちろん大丈夫です。気にしておりませんわ!」
リン
「そちらの御令嬢はどうしてだ?」
カヴィタ
「初めは、名乗り出るつもりはありませんでした。ですが、欲が出たのです。一度でいいから歌を聴きたいと」
歌が聴きたいと言われて嬉しくない歌手はいないだろう。
アントニオ
「それは大変嬉しいお言葉。有難うございます」
アントニオが熱い眼差しをカヴィタに向ける。その様子を見て、テオドラは奥歯を噛み締めた。
完璧な作戦だったのに! 多くの作曲家が、自分を売り込もうとジーンシャン家に手紙を送っているという情報を掴んでいた。ワタクシはわざと名無しで楽譜を送り、後から、『楽譜を送ったのはワタクシです』と名乗り出れば、誤解が生まれる。ワタクシは嘘を吐いたわけではないから、バレても一切の罪には問われない。どう転んでも、確実に音楽の話題で親密になる事ができるはずだった。
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