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第二章

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 フリードリヒは気を取り直し、再度説明を始めた。

「この計画は、昨晩、兄上やクリスチナ様からも同意を得ているのですが...」

「クリスチナ様がいいと言ったらいいのではないか?」

「そんなに簡単に決めてはいけない! 重大事項だぞ!?」

「だが、歴史的にみて平民の娘が側妃となった前例がある」

「側妃と正妃は違う!」

「だが、フリードリヒ様は第二王子で王になる可能性は低い!」

「万が一のこともあるだろう!?」

「いえ、ですから、エミリアとの婚約は...」

 会議室の扉がバーン! と開いた。

 立っているのはクリスチナのお産に立ち会っていた侍従である。

「王子様です! お生まれになったのは王子様でした!」

「おぉ!」

「素晴らしい!」

「何とめでたい!」

 一気にお祝いムードになる議会のメンバー達。

「あ、あの、ですから、婚約発表は...」

「良いのではないですか?」

「お世継ぎもお生まれになったことですし、王室の正当な血筋は守られるでしょう」

「平民も妃試験を通れば妃になれるとなれば、国民はシンデレラストーリーに熱狂し、王室の人気が高まるのではないでしょうか?」

「私は反対だ! 利権を貪りたい商人達が、実態のない平等を掲げ、革命を起こそうとするきっかけになってしまう!」

「いやいや、革命を起こさせないために、王室や議会が平民を尊重している事を示した方がいい!」

「では、卒業パーティーで婚約を発表してみて、若者達の反応を見てはいかがですかな? そうすれば、国民の支持が得られるか模擬テストが出来る。悪い反応があれば、今一度議論しよう」

「異議なし!」

「異議なし!」

「いやぁ~! それにしても良かった! クリスチナ様の出産された子が王子とは!」

「今日は皆で杯を上げましょう!」

「女王陛下! 王太子殿下! おめでとうございます!」

「贈り物は何にしますか?」

「記者に記事を書かせ国民に報せを出そう!」

「正式な発表の日程も決めなくては!」

「ですから...」

「フリードリヒ、その件は、また後日話そう、今は急を要する議題から進める」

 女王にそう言われては、引き下がるしかなかった。



________

 それからフリードリヒは何度も誤解を解こうとしたが、議会は生まれたばかりの王子ルドルフの議題で大忙しだった。

 というのも、クリスチナの処女判定がふんわりしていた事から、クリスチナの産んだルドルフ王子に、王位継承権を与えるかで問題が起きたのだ。

 すっかり、『偽の婚約発表』などという、ふざけた内容の提案をする雰囲気ではなくなってしまった。

 ルドルフの王位継承権問題は、大揉めに揉めたが、1カ月半が経ち、目が開き髪が生えると、どう見てもヴィルヘルムの幼少期そっくりで、無事に王位継承権が認められた。

 ルドルフ王子の王位継承権問題は解決したが、フリードリヒの計画が偽の婚約発表である事を議会で話せないまま、フリードリヒは17歳になり、卒業パーティーの日が来てしまった。
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