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3. 古典的な求婚方法でも注意が必要です
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ドリスの祖父、シルバー公爵が主催するクリスマスパーティーには、今年もドリス宛のクリスマスプレゼントが山のように届いている。
しかし、今年のプレゼント内容はいつもとは違っていた。
ドリス
「ヘビ! トカゲ! カメ! ワニ! カメレオン! 今年のプレゼントはいったいどうなっているの!?」
ブラウン卿
「ニコラス様から贈られたコモドドラゴンをドリスお嬢様が大変気に入られたという情報が出回っているようです」
ドリス
「何ですって!?」
ブラウン卿
「また、気に入らない物を贈れば、公爵閣下の目の前で贈り物を燃やされ、名誉の公開処刑が行われるとささやかれております」
ドリス
「ふ~ん...」
ブラウン卿
「ドリス様を恐れた方々は、ドリス様に絶対に燃やされない物を贈ろうと考え、爬虫類を選ばれたのでしょう」
ドリス
「なるほど...つまり、ニコの所為ってことね?」
ブラウン卿
「そうかもしれません」
ドリス
「ニコは何処に?」
ブラウン卿
「あちらにいらしております」
ニコラスは会場の入り口で黒いフード付きマントを着て立っていた。同じような黒いマントを羽織る集団を引き連れている。
何だか嫌な予感がする。
ニコラス
「クリスマスプレゼントをドリちゃんに!」
ニコラスがそう言うと、整然と並ぶ集団の1列目がマントを脱ぎ捨てる。
「きゃー!」
悲鳴に近い歓声が会場の女性達から上がった。
ほとんど裸同然の筋肉マッチョな男たちが現れたのだ。
首や頭に葉っぱで作ったレイ(輪)をかけ、フンドシ姿の男達は、会場の中央を陣取ると、腰に手をあて、仁王立ちで動かなくなった。
2列目の集団がマントを脱ぎ捨てると、器楽奏者達が現れる。
リズミカルなドラム演奏が始まると、マッスルボディは気合の入った掛け声を発し、力強いステップを踏み始めた。
フラダンスのダンサー!?
褐色イケメンマッチョの腰が揺れ、太ももが開閉するたびに、貴婦人達から黄色い悲鳴が上がる。
ちょ、何してくれちゃってるの!? 公爵家のクリスマスパーティーで! 品のない踊りだと、お祖父様がお怒りになるはず!
ドリスが公爵の方を振り返ると、公爵は大爆笑していた。男爵の父と一緒に。
母は次期公爵であるバックス伯父様と目をつぶったままお茶をしているが、微かに肩が揺れている。笑いを堪えているような気がする。
ニコの両親は...一緒に手を叩いて喜んで見ている...止めてよ!
マント姿のニコラスがダンスの中央に歩み出る。
...まさか!?
マントを脱ぎ捨てるニコラス!
今日、1番の黄色悲鳴が会場にこだました。
上半身裸で腰ミノ姿になったニコラスは華麗にフラを踊った。13歳とは思えない見事な逆三角形のボディ!
ニコラスはステップを踏みながら、腕を交差して胸元にあてる動作を繰り返している。
ドリスは気が遠くなって頭に手をあてた。
ダンスが終わるとニコラスは腰ミノ姿のまま、ドヤ顔でドリスの前に立った。
ニコラス
「結婚してくれる?」
ドリスは笑顔のままニコラスの前に歩み出た。
ニコラスは期待に満ちた瞳をドリスに向ける。
ドリス
「これが返事よ!」
バチンッ!
ドリスが繰り出したビンタはニコラスにクリーンヒットした。
頬を押さえてよろめくニコラス。
ニコラス
「どういう意味? OK?」
ドリス
「OKなわけないでしょ! 何考えてるの!?」
ニコラスは腕を交差して胸元にあて、今度は交差をといて自身の胸元に手をあて、最後にドリスに向かって手のひらを差し出した。
ドリス
「な、何!?」
ニコラス
「愛してる、ワタシはアナタをって意味なんだ! フラダンスのハンドモーションだよ!」
ドリス
「そ、そう...でも、ダメ!」
ニコラス
「どうして? 人間の求愛行動だよ?」
ドリス
「求愛したからって100%OKなわけがないじゃない! フラダンスがダメだって言ってるんじゃないのよ!? 公爵家のクリスマスパーティーに場違いなの! 時と場所と場面を考えなさい!」
ニコラス
「え!? そうなの? でもパーティーの主催者である公爵様は喜んでるよ?」
ドリスが祖父の方を振り返ると、祖父はお腹を抱えて悶絶していた。
ドリス
「と、とにかく! ワタクシは気に入らないの!」
ニコラス
「そっか...」
ドリス
「大体、ニコが誕生日プレゼントにトカゲなんて贈ってくるから、爬虫類が好きだと思われて、クリスマスプレゼントが爬虫類ばっかりになっちゃったのよ!? プレゼントを受け取らないと家同士の関係に亀裂が入るっていうのに...いくら公爵家の屋敷が広くても、こんなにいっぱい飼えないわよ!」
ニコラス
「それなら、ホワイト領にドリちゃんの動物園を作るよ。ホワイト領は王都と違って、土地が余ってるし、入園料をとれば餌代とか飼育員のお給料とかも払えると思う」
ドリス
「そうして頂戴!」
ニコラスはダンサーや器楽奏者とともに会場を出て行った。
____________
その晩、ドリスは複雑な気持ちでベッドに入った。
ちょっと強く言い過ぎたかしら? ダンサー達にも悪いことしちゃったわ。いっぱい練習してくれたのだろうし...
でも、ニコにはあのくらい言わないとダメよね?
大体、紳士淑女のクリスマスパーティーに半裸の男達を引き連れてくるなんて、頭おかしいんじゃないの!? それで自分も半裸でプロポーズ!? あれでOKでもしようものなら、永遠に語り継がれる伝説になってしまう!
ニコが嫌いなわけじゃない。
だけど、あんな変態と結婚したら苦労するに決まっている!
現に天才と結婚したワタクシのお母様は大変苦労している。
美貌の公爵令嬢だったお母様は、平民出身のお父様と結婚した。
チビで痩せっぽっちのモサイお父様だけど、その素晴らしい才能が認められ、男爵にまで成り上がった。世界一美しい愛の言葉を詩集に綴るお父様は大変モテる。詩を自分へのメッセージだと勘違いする狂人女のファンも少なくない。
お父様宛に毎日届くラブレターや贈り物、屋敷まで押しかけてくる狂人女に、お母様はいつも苦しんでいるのだ。
ワタクシにとっては世界一のお父様だけど、ワタクシが結婚する相手は平凡な男がいい。
ニコみたいにイケメンである必要はないし、ニコみたいに金持ちのボンボンである必要はない。
いつも良い匂いがして、甘いマスクで微笑み、奇想天外な行動で周囲を惑わす天性のタラシなど、もってのほかだ!
そんな事を考えていると、鶏を絞め殺しているかの様な、悲痛な叫び声が外から聞こえてきた。
ドリスは恐る恐る窓から外を覗く。
ニコだ!
アイツ、帰ったんじゃなかったの!?
お洒落なフロックコートを着て楽器片手に奇声を上げている。クリスマスの寒空の下で!
何あれ? 歌のつもりかしら? 何でも出来ると思ってたけど、歌は下手クソなのね...というか、夜だっていうのに、迷惑にも程がある!
窓越しにニコと目が合うと、ニコは笑顔になって、ますます調子付いて歌う。
しかし、しばらくすると、歌はどんどんスローペースになって、より悲痛な叫び声になっていく。
とうとう、曲の最後になると、顔を真っ赤にして、最後の1音を信じられないくらい長く歌った。
息が切れたらしく、ニコはそのまま倒れて動かなくなった。
今日はもう寝間着姿だから文句を言いに行かないけど、今度会ったら、迷惑行為は辞めるように注意しなくては!
ドリスはそっとベッドへと戻り、眠りについた。
あの歌が、セレナーデ(夕べの歌)という求婚の歌であった事をドリスは後日知ることになる。セレナーデは歌が終わる前に女性が家から出てくれば婚約が成立するのだが、ニコラスの想いは届かなかった。
しかし、今年のプレゼント内容はいつもとは違っていた。
ドリス
「ヘビ! トカゲ! カメ! ワニ! カメレオン! 今年のプレゼントはいったいどうなっているの!?」
ブラウン卿
「ニコラス様から贈られたコモドドラゴンをドリスお嬢様が大変気に入られたという情報が出回っているようです」
ドリス
「何ですって!?」
ブラウン卿
「また、気に入らない物を贈れば、公爵閣下の目の前で贈り物を燃やされ、名誉の公開処刑が行われるとささやかれております」
ドリス
「ふ~ん...」
ブラウン卿
「ドリス様を恐れた方々は、ドリス様に絶対に燃やされない物を贈ろうと考え、爬虫類を選ばれたのでしょう」
ドリス
「なるほど...つまり、ニコの所為ってことね?」
ブラウン卿
「そうかもしれません」
ドリス
「ニコは何処に?」
ブラウン卿
「あちらにいらしております」
ニコラスは会場の入り口で黒いフード付きマントを着て立っていた。同じような黒いマントを羽織る集団を引き連れている。
何だか嫌な予感がする。
ニコラス
「クリスマスプレゼントをドリちゃんに!」
ニコラスがそう言うと、整然と並ぶ集団の1列目がマントを脱ぎ捨てる。
「きゃー!」
悲鳴に近い歓声が会場の女性達から上がった。
ほとんど裸同然の筋肉マッチョな男たちが現れたのだ。
首や頭に葉っぱで作ったレイ(輪)をかけ、フンドシ姿の男達は、会場の中央を陣取ると、腰に手をあて、仁王立ちで動かなくなった。
2列目の集団がマントを脱ぎ捨てると、器楽奏者達が現れる。
リズミカルなドラム演奏が始まると、マッスルボディは気合の入った掛け声を発し、力強いステップを踏み始めた。
フラダンスのダンサー!?
褐色イケメンマッチョの腰が揺れ、太ももが開閉するたびに、貴婦人達から黄色い悲鳴が上がる。
ちょ、何してくれちゃってるの!? 公爵家のクリスマスパーティーで! 品のない踊りだと、お祖父様がお怒りになるはず!
ドリスが公爵の方を振り返ると、公爵は大爆笑していた。男爵の父と一緒に。
母は次期公爵であるバックス伯父様と目をつぶったままお茶をしているが、微かに肩が揺れている。笑いを堪えているような気がする。
ニコの両親は...一緒に手を叩いて喜んで見ている...止めてよ!
マント姿のニコラスがダンスの中央に歩み出る。
...まさか!?
マントを脱ぎ捨てるニコラス!
今日、1番の黄色悲鳴が会場にこだました。
上半身裸で腰ミノ姿になったニコラスは華麗にフラを踊った。13歳とは思えない見事な逆三角形のボディ!
ニコラスはステップを踏みながら、腕を交差して胸元にあてる動作を繰り返している。
ドリスは気が遠くなって頭に手をあてた。
ダンスが終わるとニコラスは腰ミノ姿のまま、ドヤ顔でドリスの前に立った。
ニコラス
「結婚してくれる?」
ドリスは笑顔のままニコラスの前に歩み出た。
ニコラスは期待に満ちた瞳をドリスに向ける。
ドリス
「これが返事よ!」
バチンッ!
ドリスが繰り出したビンタはニコラスにクリーンヒットした。
頬を押さえてよろめくニコラス。
ニコラス
「どういう意味? OK?」
ドリス
「OKなわけないでしょ! 何考えてるの!?」
ニコラスは腕を交差して胸元にあて、今度は交差をといて自身の胸元に手をあて、最後にドリスに向かって手のひらを差し出した。
ドリス
「な、何!?」
ニコラス
「愛してる、ワタシはアナタをって意味なんだ! フラダンスのハンドモーションだよ!」
ドリス
「そ、そう...でも、ダメ!」
ニコラス
「どうして? 人間の求愛行動だよ?」
ドリス
「求愛したからって100%OKなわけがないじゃない! フラダンスがダメだって言ってるんじゃないのよ!? 公爵家のクリスマスパーティーに場違いなの! 時と場所と場面を考えなさい!」
ニコラス
「え!? そうなの? でもパーティーの主催者である公爵様は喜んでるよ?」
ドリスが祖父の方を振り返ると、祖父はお腹を抱えて悶絶していた。
ドリス
「と、とにかく! ワタクシは気に入らないの!」
ニコラス
「そっか...」
ドリス
「大体、ニコが誕生日プレゼントにトカゲなんて贈ってくるから、爬虫類が好きだと思われて、クリスマスプレゼントが爬虫類ばっかりになっちゃったのよ!? プレゼントを受け取らないと家同士の関係に亀裂が入るっていうのに...いくら公爵家の屋敷が広くても、こんなにいっぱい飼えないわよ!」
ニコラス
「それなら、ホワイト領にドリちゃんの動物園を作るよ。ホワイト領は王都と違って、土地が余ってるし、入園料をとれば餌代とか飼育員のお給料とかも払えると思う」
ドリス
「そうして頂戴!」
ニコラスはダンサーや器楽奏者とともに会場を出て行った。
____________
その晩、ドリスは複雑な気持ちでベッドに入った。
ちょっと強く言い過ぎたかしら? ダンサー達にも悪いことしちゃったわ。いっぱい練習してくれたのだろうし...
でも、ニコにはあのくらい言わないとダメよね?
大体、紳士淑女のクリスマスパーティーに半裸の男達を引き連れてくるなんて、頭おかしいんじゃないの!? それで自分も半裸でプロポーズ!? あれでOKでもしようものなら、永遠に語り継がれる伝説になってしまう!
ニコが嫌いなわけじゃない。
だけど、あんな変態と結婚したら苦労するに決まっている!
現に天才と結婚したワタクシのお母様は大変苦労している。
美貌の公爵令嬢だったお母様は、平民出身のお父様と結婚した。
チビで痩せっぽっちのモサイお父様だけど、その素晴らしい才能が認められ、男爵にまで成り上がった。世界一美しい愛の言葉を詩集に綴るお父様は大変モテる。詩を自分へのメッセージだと勘違いする狂人女のファンも少なくない。
お父様宛に毎日届くラブレターや贈り物、屋敷まで押しかけてくる狂人女に、お母様はいつも苦しんでいるのだ。
ワタクシにとっては世界一のお父様だけど、ワタクシが結婚する相手は平凡な男がいい。
ニコみたいにイケメンである必要はないし、ニコみたいに金持ちのボンボンである必要はない。
いつも良い匂いがして、甘いマスクで微笑み、奇想天外な行動で周囲を惑わす天性のタラシなど、もってのほかだ!
そんな事を考えていると、鶏を絞め殺しているかの様な、悲痛な叫び声が外から聞こえてきた。
ドリスは恐る恐る窓から外を覗く。
ニコだ!
アイツ、帰ったんじゃなかったの!?
お洒落なフロックコートを着て楽器片手に奇声を上げている。クリスマスの寒空の下で!
何あれ? 歌のつもりかしら? 何でも出来ると思ってたけど、歌は下手クソなのね...というか、夜だっていうのに、迷惑にも程がある!
窓越しにニコと目が合うと、ニコは笑顔になって、ますます調子付いて歌う。
しかし、しばらくすると、歌はどんどんスローペースになって、より悲痛な叫び声になっていく。
とうとう、曲の最後になると、顔を真っ赤にして、最後の1音を信じられないくらい長く歌った。
息が切れたらしく、ニコはそのまま倒れて動かなくなった。
今日はもう寝間着姿だから文句を言いに行かないけど、今度会ったら、迷惑行為は辞めるように注意しなくては!
ドリスはそっとベッドへと戻り、眠りについた。
あの歌が、セレナーデ(夕べの歌)という求婚の歌であった事をドリスは後日知ることになる。セレナーデは歌が終わる前に女性が家から出てくれば婚約が成立するのだが、ニコラスの想いは届かなかった。
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