上 下
56 / 107
第5章

おまけ5

しおりを挟む



〈短編1〉


「今回は一切戦闘が有りませんでしたね。修行すると言ってた様な気がしますけど。」

「俺は何も覚えてない。」


 お城の一室でノトと百合奈は話していた。ノトは頭の後ろに腕を組んで面倒そうな表情を、百合奈はお茶をカップに注ぎながら。


「...何か良い匂いするな。これは...お茶か?」

「気付きましたか! 最近莫大な金額をある人から押し付けられたので何時もより高めのお茶の葉を買ってみたんです。元の世界では一生飲めない様な代物ですよ。舌が肥えないことを祈るばかりです。」

「ふーん。別に何でも変わらんだろ。」


 ノトは注がれたお茶を啜りながら表情を変える事無くまったりとしていた。一方百合奈は匂いを嗅いだりして高いお茶の風味を楽しもうとしていた。ただ猫舌の為直ぐに飲むことが出来ず折角のお茶を楽しめないといった現状にちょっと残念さを感じていた。


「何ニヤニヤして見てるんですか。」

「いや、楽しめているのかなと思ってな。」

「こればっかりはしょうがないです。どうにか直したいですけど直るものでも無いですしね。」


 残念そうに下を向きお茶を見る百合奈にノトは若干呆れた様な声音で話し掛ける。


「ユリナさ、[青]魔法使えるじゃねえか。」

「それがどうしたんですか。」

「気付かないのか? [青]魔法の氷、冷気を使えば解決だろ。」

「? ...ああ。無茶苦茶過ぎません?」

「そうか? 使えるもんは使ってなんぼだろ。」

「確かにそうかもしれませんがこれはこれで良いですよ。常日頃困ってる訳でも無いですしね。」


 ふうふうと冷ましながら口を付けて飲み始めた百合奈をノトは何かを思い付いた様にニヤニヤし始める。百合奈はそんなノトの表情には気付かずに飲み続けている。


「ん?」


 百合奈は手を止めて首を傾げカップの中身を見る。しかし飲む前と大きな変化は無い様に見える。


「どうかしたのか?」

「いえ。.....気のせいかな(ボソッ」

「?」


 表情を変えた百合奈にノトは真顔で様子を聞く。百合奈は下を向いたままカップの中身を見続ける。そして何かに気付いた様にして顔を上げる。ノトと視線が合いお互い見つめている状態が暫く続く。


「何かしました?」

「....何も。」

「その間はなんですか。」


 間どころか更には視線を逸らし視線を遠くに投げている。百合奈の目がジト目に変わっていく。ノトは急に立ち上がり窓に近付いていった。


「何か居たたまれねえ上に暑くなって来たな。」


 そのまま窓を開けるとノトは振り返る。すると直ぐ真後ろにいた百合奈と目が合う。しかも服の裾をしっかり掴んでいる。


「ユリナ? 何故掴んでいるんだ?」

「心当たり有りませんか。」

「...特には。」


 しーんと再び静まり返る。だがそれも一瞬。次の瞬間ノトは凄まじいスピードで手を振り払い窓から外に繰り出した。百合奈は咄嗟の事で反応が遅れ逃がしてしまう。


「ハハハ、親切でやったと言うのに怒ること無いだろう。」

「っ! やっぱり師匠の仕業ですかっ! 戻って来て下さい。許しませんよ!」

「何言ってるんだ。冷やしてあげただけだろう? 飲みやすくなったし良いじゃないか。」

「そうですね。ただ冷やしただけだったら此処まで言わなかったでしょう。ですがっ! よく見たら凍ってましたよ! 限度が過ぎます!!」

「何の事やら~。」


 いかにも違いますとでも言いたげな表情でそっぽを向き口笛を吹いているノト。全て暴露したのにも関わらずそういう態度を取り続ける。[無]属性の『浮遊』を使っている為追いかけようが無い百合奈は部屋の窓から攻撃を始める。


「...今日こそ一発当てます。」

「まだ負けんよ。」


 今日もいつも通り攻撃魔法が飛んでいく。本当にいつも通りと言って良いのだろうか。今日とて一発も当たる事、かする事すら無い状況に上機嫌な笑い声といじけるいつもの姿が有ったそう。

 前と変わった事というと、


「....子供じゃないんで子供扱いするの止めてください。」

「その言葉とは裏腹に顔は緩んでるぞ。」

「っ! 頭撫でるのは止めてくださいよっ!」

「俺がユリナの様子見るの面白いからやめられねーわ。敗者は黙っていようね~。」

「くっ! 次こそは当てます。」

「期待して待っていよう。」





〈日常の一幕6〉


ユリ「んー。」
ノト「どうした?」
ユリ「最近[青]魔法が意図せず氷に変わってるんです。水の方が流動性の関係上、想像しやすく何でも形作りしやすいんですけど。」
ノト「そうなのか。」
ユリ「めっちゃ他人事。どうしたら良いか悩んでるから言ったのに。答えに淡白すぎる反応ですよ。」
ノト「そればっかりは俺がどうこう出来る問題じゃねえし。試行錯誤の繰り返しだ。」
ユリ「試行錯誤って便利な言葉だなあ。」
ノト「あ? どうせ俺は教えるの上手くねえんだよ。自分で試した方が良いだろうが。」
ユリ「すみません? ....私が謝る必要有ったかな?」
ノト「独り言が大きいぞー。丸聞こえだ。」
ユリ「聞こえる位に調整しましたし。」
ノト「最近、でもないか。俺への対応ぞんざいじゃねえか?」
ユリ「気のせいですよ。」
ノト「ふーん。そっかー。」
ユリ「.......。」
ノト「....。」
ユリ「えっと、師匠?」
ノト「....スースー。」
ユリ「!? このタイミングで寝るのっ!? まあ、疲れていたみたいだし仕方無いのかな。」





〈日記5〉


 先ずは大きな変化について書いておこうと思う。何と言ってもクラスメイト達の関係が改善?と言って良いのかは定かでは無いが前より関わりを持てるようになった。今だに戸惑うことや困惑してしまう場面があるけど千春ちゃんや美奈ちゃんがフォローしてくれたりして何とかやれている気がする。一度ゆっくり話したいと言ったときは憂鬱で不安でいっぱいだったけどちゃんと話せて良かったと思う。それで、一番気になっていた事を女子会の時に聞いた。何かって? それはそうやって師匠を陥落して私と話せるよう交渉したか。あの師匠が思わず苦笑いを浮かべるくらいには相当な事だったのだろうと思ったがその話を出した瞬間千春ちゃんと美奈ちゃんの表情が強張り汗を流し始めしどろもどろになった。そればかりか積極的に話を逸らそうとしていた。明らか過ぎて追及しちゃったんだけど。嫌々していたけど結局観念して話してくれた。どうやら必死になり過ぎて「お願いします。」と土下座をかましたらしい。それどころか足にすがったとかすがってないとか。流石にそれを聞いて最初は「マジか.....。」と呆れたけどどんだけ必死だったか聞いてその時は未だ蟠りが残っていた気がするけど何かイメージが崩れたと言うか話しやすいと感じ付き合いやすいかなあと思ったのは事実だ。

 師匠については過去の話をしてもらって8割方は真実を知れたのでは無いかと思う。何かその時はあまりの情報量に疑問に思ったところを聞けなかったと思う。例えば一つ書いておくとすると最後の方に話していた〝あるきっかけ〟というのが何だという事だ。後から整理して「あれ?」と首を捻った。聞くにも聞くタイミングが無くて結局分からず仕舞いに終わった。この辺バルディアでゆっくり話せたらと思う。

 今は兎に角今までの不幸せと感じていた思いを引っくり返せる様に楽しい思い出を作っていきたいと思う。今までの師匠の人生と今の私の付き合いの長さを比べたら圧倒的に短い私との関わりだがほんの少しでも良い思い出を作ってあげたい。上から目線みたいになっちゃったけどそう思ったのだから仕方がない。前に賢者様が言っていた少年の心のままの意味が何となくだけど分かった気がする。精一杯自分の出来ることをやっていきたいと思う。

 最近クラスメイトと楽しく過ごせているせいか自分達の住んでいた世界"日本"への望郷の念が強くなった。懐かしんで色々と話を膨らませる影響もあるだろうが.....





 何時までいられるのかな........。






しおりを挟む

処理中です...