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第7章

おまけ6.5

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【おまけ】




〈短編4〉


  ワタシの元々の名前は何だったかは覚えていません。何故なら捨てられてしまったから。

  何故捨てられたのか幼いながらにも察してはいました。けれど理解はしていませんでした。

  理解したらワタシ自身も、


「産まれてきてはいけない存在だと認めてしまう事に他ならないから。」





  ワタシの産まれはウィッチェの街に住む貴族と聞きました。ウィッチェ内でも発言力が高く、技術も優れた魔術師の家系だったそうです。その貴族の待望の第一子という事で性別が女性ながら期待されていたようです。このウィッチェでは力が強ければ男女問わず権力を持つそうです。この街の王も英雄サラ様の御指南を受けている魔術師だとか。スキルとして『老化では死なないような』物を持ちえているそうです。噂なので本当かどうかは分かりませんが事実100年くらいは王替わりはしておりません。

  話は逸れてしまいましたが期待の第一子が目を開けた日に畏怖されたそうです。魔王しか持たぬとされる父母譲りの色をそれぞれ受け継いだ、所謂オッドアイと分かってしまいました。ワタシは『忌み子』、そう蔑まれ孤児院に高いお金を払い押し付けたそうです。とはいえ、恐怖しながらも孤児院の人間たちはワタシを接待しました。


  けれどその孤児院の実態はお金を得るために子供たちを売っていたのです。奴隷商人達に。


  接待した理由は簡単で、最初から『忌み子』のワタシを売るために、良い状態を作り上げたと知りました。


  孤児院の人間たちはワタシを言葉巧みに騙して連れ出しそのまま劣悪な牢屋の中に奴隷として入れました。表向きは襲われたとされています。孤児院の人間たちは狡猾に演技をしたそうです。泣き叫び悲しんでいる様子を見せたそうです。


  奴隷として別の人間に売られる日が近付いてきた時はワタシはもうワタシとしての意識は存在しておらず人形の様になりかけていました。他にも亜人と呼ばれ蔑まれた存在達も一緒で最初は孤児院で教わった常識を信じ彼らを憎みました。けれど接してみると人間たちよりも優しい亜人たちの姿がそこにはありました。ワタシは吃驚しましたが亜人たちのお陰でワタシは最後のワタシという存在を保っていたと言っても過言では無いと思います。


  けれど売られる日が来て、非常にも絶望は襲ってきて。


  でもその絶望に一筋の光が差し込みました。


「てめえらか、こんなクソみたいな事をしてやがったのは。」


  ドスの聞いた低い声が聞こえたと思ったら品定めをしていた会場の観客席が吹き飛ぶのが見えました。


  そこに居たのは全身黒で包まれた男。男の背後には無数の剣が浮いている。


「『突き刺せ』。」


  静かに呟いたその言葉は会場に響き、まるで剣が生きているかの様に会場にいたワタシ以外を死へと導きました。凄惨な状況に何も考える事が出来ず、そのまま意識を手放しました。


  次に目を覚ましたらワタシは温かいものに包まれ、揺れを感じます。


「...んん。」

「!   起きたか。」

「っ!!?」


  ワタシは先程の男に横抱きにされていて身動きができない状態でした。人間は信用出来ない、その考えが根底にあったワタシは暴れようと動くと男の長かった前髪を弾いてしまいます。


「フフッ、仲間だな。」


  男の眼は黒と紅のオッドアイ。ワタシと色は違えど左右が違う色をしていたのは事実だった。


「.......お兄ちゃんは魔王なの?」

「そうだぞ。これから皆を攫って食べてしまうんだ。」

「っ!   させないの!」

「ククッ、冗談だよ。俺の街に招待するんだ。人間と認められない彼らの住処を。」


  ワタシも人間と認められない。けれどワタシは彼らとは姿が違うし、どちらかと言うと人間寄りで間違いない筈でした。


「大丈夫だ、君の事は此処に一緒にいた彼らに任されている。それに、魔力が高い人材をテキトーにぶん投げて置けないからな。勿論拒否権はあるし、君が嫌であれば人間で暮らしやすい場所を提供することも出来るだろう。」


  その表情に嘘偽り無かった。男のオッドアイは凄く目を引かれました。


「一緒にいても大丈夫なの?   ワタシは生きてて駄目な子って言われたから。」

「居たいだけ居れば良いさ。」


  男がそう言った後、眩しい光が差し込んできます。久々の外に出ました。そこは森の中。迷わず歩く男をじっと見ていると森を抜け発展した街の姿が見えてきます。


「ああ、そういえば言ってなかったな。俺がこの街の主で、ユキノトリア=ルギシニラ・ミルと言う。君の名前は?」

「ワタシは名前が有りません。捨てられた時に名無しとしたそうです。孤児院に居た時もワタシだけは特に名前は呼ばれませんでした。」


  今思えばワタシだけ呼ばれなかったのも全部お金にするためだったと思えてきます。


「それじゃあ、君を呼ぶ時に呼びづらい事この上無いなぁ。...........『ミリア』ってのはどうだ?」

「ミリア?」

「別に意味は無いがパッと思い付いた。嫌だったら良いんだが。」


  今迄名前何て無かったワタシはとても嬉しかったです。当然のように名前をくれて呼んでくれようとしているこの男の人を。


「いえ、ミリアで大丈夫です!   ありがとうございます!   えっと......。」

「ん?   好きに呼ぶと良い。今更敬語とか改められると面倒だし。」

「......パパ?」

「ん゛!?」


  凄く驚いた男の人は驚いただけで何も否定はしませんでした。歩けるようになったワタシの手を引いてルギシニラのお城に一緒に帰ったのでした。










〈日常の一幕8〉



ユリ「今更ですけど、」
ノト「何だ?」
ユリ「この街の種族って一応人族以外じゃないですか。」
ノト「そうだな。」
ユリ「その辺の境界が曖昧なんですけど、人型を取ってるのに亜人と蔑まれた理由がよく分からないです。」
ノト「ああ、詳しく言ってなかったか。」

  ノトや百合奈の様ななりをしていれば人間。今で言う四つの街に住む彼らの事を指す。

ユリ「結局自分と違うのを否定したいって事なんですかね。」
ノト「サバサバしてるなあ。」
ユリ「考えたって今どうにかなるものでも無いですし。」
ノト「..........。」
ユリ「な、何ですか?」
ノト「猫の獣人とか森人族エルフとかを見て、密かに興奮していた癖に何を飄々としているんだろうと思って。」
ユリ「っ!?」
ノト「そんな驚く事か?」
ユリ「......したか?」
ノト「あ?」
ユリ「出ていましたか?」
ノト「じゃなきゃ分からんが?」
ユリ「~~~~~っ!!!」
ノト「?」
ユリ「ノトさんの馬鹿ぁぁーーーー!!!」
ノト「理不尽っ!?」


  耳、尻尾、目の数等の外見的特徴が人間と違うだけで畏怖や力を振り翳す。そんなのは些末な事だと思う。外見がどうであってもそのヒトを形作るのは心だから。滑稽だと思われるかもしれないがわたしはそう信じている......。


ノト「何時までその調子でいんだよ。」
ユリ「..............さい。」
ノト「何て?」
ユリ「落ち着いたら街を散歩させて下さい。」
ノト「......お好きにどうぞ。」


  微かな笑みを浮かべ言葉を返すノトだった。








〈日記7〉



  彼女らと再会した時、私はとてもじゃないけど平常心では無かった。勿論薄々察しは付いていたからこそ下準備として気持ちはある程度整っていた。けれど、続く彼女らの勝手な言い分に関しては許すことは出来なかった。自分たちが正しいと思い込んで他者を排斥する。そんな行為が当たり前になり過ぎて、何も躊躇っていなかった。この世界での生活に慣れて私は『死』を身近に感じて感覚が麻痺していたけど理性がそれは駄目だと訴える。だから私は殺すことはしない。勿論、同じヒトに限ってにはなる。魔物に対しては彼らは害を成す存在の為、野放しには出来ない。魔物からすれば私らヒトの方を悪魔とでも思っているだろうけどそこら辺はお互い様だろう、多分。
この辺の自分の勝手な基準をノトさんに伝えた。ノトさんは肯定も否定もしなかった。実際に私が言うヒトさえも殺したことがあるから何も言えないとは言っていた。一つ忠告として「ヒトを殺せば修羅の道だ。」とは言っていた。後戻り出来ないからお勧めはしないと苦笑い気味に言っていたのを鮮明に記憶している。命のやり取りが多いこの世界でも奪って良い命などひとつも無いと私は信じたい。

  『血の盟約』について少し記しておこうと思う。一度使用したその効果の一つとして相互間の魔力譲渡が可能になるというもの。あの時は許可なく使用したがその辺は設定出来るらしい。ノトさんなのでテキトーでしたっていう話です。他にはサラさんやノトさんから説明された様な内容。長命だとか。この辺りはバルディアに居た時に詳しく書かなかったので思い出して書いている。目まぐるしく状況が変わっている為か曖昧な所も多い。が、多少の誤差は問題ないと思う。というのも然程困っていないというか。相手がどこにいるが何となく把握できるとか使い勝手が良いんだか悪いんだか分からないモノだと思ってしまうから。詳しく場所が分かる訳でもなし、体の一部が接していないと魔力の譲渡は不可能等々不便な所もあったりする。ノトさんにとっては面倒極まりない力だとは思う。
  では、何故あの時、離れた事に気付かなかったのか。それは私が気を抜いていたというのが一番で。ハードスケジュールをこなしたのだから疲れて当然で、寝室直帰の即寝でした。常に気を張っている事がいかに大変で苦痛なのかが容易に想像ついてしまいました。




  ここから少しパーティーで関わった人達についてメモしておこうと思う。と言うのも今後は忘れないためのっていう目的で。





エルシリラ


・ユグレシィバウカ=エルシリラ様


  エルシリラの街を治める王様。私達が召喚された街で、魔王討伐の任に関してこの方からも話された。温厚だが優れた指導者。戦闘はからっきしで頭脳戦が得意らしい。優れた人材を見抜く眼を持っている。エルシリラの歴史で一夫多妻や一妻多夫(女王世代)が多い中で正妃のみで側室はいない。子供に恵まれず苦労したが養子を取ったそう。最初は反対されたが(血が途絶えるという意味で)過去の歴史で何度か養子を取っている事実もあった事や優れた眼を持っているのが周知の事実だったため全てをねじ伏せた。


・カエルリラヴァレン=エルシリラ様


  カエラさんは優しくてお上品。エルシリラの王妃様。王様より歳上らしいのだが聞くと意味ありげば微笑みを返されるだけなので突っ込めない。正妃となり公務が多忙に従い体調を崩し倒れたそう。最高の腕を持つと言われていた医者に見せたものの原因が分からず治療という治療が出来ず延命処置の様な事が精一杯だった。段々と弱っていき死へと近付いた時に優秀で博識な魔術師が加入したとなり極秘で依頼。その男は状態を見て先ず溜息を吐いたらしい。人払いをした後直ぐに元気なカエラさんが部屋から出てきて誰もが驚いたらしい。結局治療方法は語られず暫く事後経過を見ていたが安定していたので終えようかと思ったらカエラさんが来て欲しいとお願いしたそう。公務をしなくなったせいか時間が空くため暇潰しに付き合って欲しいと言われたそう。今は月一の授業の時のみ会って話していたとの事。





スノーザド


・アイシール・クリエラ・スノーザド様


  スノーザドの女王。スノーザドは王位継承権や指名等は無く、全て実力で決まる。強いものが統べる事が出来る。が、強くても悪政と多数が判断すれば断罪でき新たな王の候補が争いを始める。鎖国のような制度を取っており遥か昔から独自の発展を遂げていた。寒い気候であるが故に寒いのには強い。麗しい美貌と豊満な胸がアイシール様というイメージ。
  スノーザドの迷宮の迷宮管理者の一人であるスノーさんと旧知の仲。スノーさんは昔は自由奔放だったがアイシール様の影響で堅物へと。ノトさんから見た二人の根本的な性格は同じく見えるとか。





バルディア


・ヴェローツ=バルディア様


  ヴェロックさんの息子さん。(子供いた事に吃驚した。)奥様はバルディアの王族が住む場所に住んでいたが数年前に亡くなったとか。元々はヴェロックさんが治めていたが柄に無いとか自分に指導力は無いとかで昔から決まっていた婚約者の奥さんに席を譲り女王として君臨していた。それから、息子であるヴェローツ様がそれなりの知識を身に付けた頃に譲った。
  腕っぷしもあるがぶっちゃけ言うとヴェロックさんより頭が回る。見た目からはあまり想像出来なかったというのが印象だった。





ウィッチェ


・リューエルン=ウィッチェ


  サラさんの魔術師としての弟子だった。弟子になった経緯は本人の希望だったとか。スノーザドと似て魔術師として強いものが治めるのが魔法使い時代からの習わしウィッチェとなった今も続いている。似ていると記したのは強いもの且つ指名制であるが故。現王の弟子入りしその中から選出される。
  魔術師として強いだけでなく頭も切れるが極度の方向音痴らしい。いつも付き添い人がいて今回は馴染み深いヴェローツ様と一緒に歩いているとか。









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