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第7章
第84話
しおりを挟む「これで障害物は消えた。」
天から幾つもの雷が降り注ぎ、数分間続いたそれでようやく全ての魔道具の破壊を終えた。幻術が消え、『魔の叡智』の拠点入口が現れる。
「では、僕は先に行きます。ついでに数を幾分か減らして敵が誘導している部屋へ障害なく付けるようにしておきましょう。」
「ああ。」
一瞬で姿を消し、シファルが入口から入っていくのをボケっと眺めていたがあまり呆けていられる状況じゃ無いので気を取り直して、下に降り改めて荒廃した地に降り立つ。
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「俺は願い下げだ。」
俺は目の前にいる二人にそう言った。言った瞬間、彼女は苦笑いを浮かべながら言葉を返す。
「確かに貴方にとって自分を大きく変えた出来事だったし、嫌なことも思い出される事だし。楽しくないものなのは充分理解してるわ。」
「じゃあっ!」
「だからこそ遺すべきだと私は思うの。」
まだ火の手が上がり煙が舞う戦場の跡地に視線を移し俺の意見を言わせることなく、静かに諭すように言葉を続ける。
「別にノトリアだけを責めたい訳じゃない。勿論悪くないとも思ってない。私もヴェロックもおかしい事には気付けたのにそれに対して何もしなかったのだもの。」
「.............。」
「だからこれは私達の戒め。忘れてはいけない私たちの罰をここに残すの。」
「俺は全てを無かったことにしたい。」
「オレはサラの意見に合わせる!」
「ヴェロックっ!?」
二対一だ。何を言っても駄目だろう。だから俺は二人の言葉を聞く。
「オレはノトリアの不調を知っておきながらサラを助ける為に即座に動くことが出来なかった。結果、お前には更に嫌な事を強いてしまった。同胞殺し、オレであれば止められたのに。」
「そんな後悔をする位ならっ!」
「だがっ!!! オレ自身が今後、道を誤る事無く最善を即座に選択出来るようにする誓いとして残したい!」
「私個人としては、私の弱さと何も出来なかった無力感を忘れないようにする戒めとして残す意味合いが強いわ。」
ヴェロックは【誓い】、サラは【戒め】。
俺は.....?
「俺は.......。」
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「っと、いけねえ。早く行かなきゃな。」
〈主様。〉
「大丈夫だ。いざとなったら奥の手を出すからよ。全く聖も魔も表裏一体とは言うが自分自身が持つとなると話は別だな。」
〈主様が望めば、多少の無茶は可能です。以前より私も思考がはっきりしておりますから聖剣の時の再現も可能ですよ。銘を言っていただく必要は有りますが。〉
「必要になったら、な。」
地下へと続く階段を一歩づつ確実に歩みを進め、降りていく。
「彼奴本当に容赦ねえな。」
〈呼んだのは失敗でしたか?〉
「いいや、俺が殺り損ねたのを殺ってるだけだし尻拭いという名の俺自身の負担軽減になってるから別に。本人が良ければ良いんじゃないか?」
暫く戦闘を行っていなかったシファルはここぞとばかりに出会い頭に殺していっている。というのも気配が一つ、またひとつと消えていっているのが証拠だ。
「シファルに任せて俺は誘われているあの場所へ。『祭壇の間』?だっけか。そっちに行くか。」
思ったより警戒しなくてもシファルが何とかしてるので駆け足になる。曲がりくねった場所を迷うことなく進み数分程で目的地に辿り着く。
既視感のある場所だ。
それもその筈で以前もサラが連れて行かれた場所が此処だったというだけだ。
魔王化の発動条件は五芒星を形どった魔法陣と大量の魔力。五芒星の中心に対象の人物を置くこと。古い文献でこの儀式を『叛逆譜』と名付けていた。
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「この一連は私たちが必要でやったことに致しましょう。」
サラは事後を見てそう言った。儀式は完全に成されなかったが半分暴走状態に至った俺はこの世界を半壊させたところで自信に昏睡させる魔法を打ち、終止符を打った。その後何とか保っていた理性で話を聞いていた。
「道筋をざっくりと説明するわ。古き魔法使い達は魔王を崇拝する者達で密かに高い魔力を持った魔法使いを魔王にする計画を何百年も続けていた。今回もある魔法使いが実験台にされて、魔王化の儀式を受けそうになったが途中で阻止することが出来た。が、身に余る魔力を制御出来ず暴走。」
「それだと俺たちは顔が割れてるだろ。」
「古きって言ったでしょう。私たちは否定し彼らを排除した。若き魔法使い達は、魔法という存在を禁忌とし、新たな術式、魔術を発展させる為に勉学に励むよう私たちが作り出した。」
「魔術ってのは?」
「詠唱を必要とする魔法。私たちじゃ絶対有り得ないと言われた詠唱を必須にして高い魔力を持たないように調整する。」
「ああ、だったらそれを確実に行える方法を俺は持っている。」
そう言ってから俺はその方法を説明した。
その方法によってこの世界の『理』を創り、一連の古き魔法使い達が中心に虐殺された魔王化の暴走を【魔女狩り】と呼ばれるようになった。
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「やっと来たね。」
最初に声を出したのはユウという名のアンデッド使い、否[黒]魔法使いだろう。
「そりゃあ奪われたもん奪い返しに来るだろ。後はてめえに限り容赦しねえことに決めてるからよ。」
「ハハハ、魔王様に覚えてもらってるとは光栄だよ。」
「まあ、詳しく話を聞きたいやつも居るしな。」
五芒星の魔法陣が輝いている。手前四つの点には遥か昔に老いた筈の爺や婆の魔法使い共が忽然と姿を消したユリナの同郷者4人を逃げないよう捕らえている。そして、奥の一点にガタイのいい男が間封じの枷によって抵抗できず黙っているユリナを捕らえていた。少し催眠を掛けられて意識は無さそうだ。その近くにユウが楽しそうにいるといったところだ。
「魔力の充填も完了してるって訳ですか。御丁寧な歓待だな。」
「一番は魔王様の弟子の魔力が高いことが計画を早められたんだっ! 魔法使いは本来年数を掛けて段々と魔力を増していくのにその過程を異世界人と神だか魂だかの祝福によって簡単に超えちゃうんだもの。嫌になっちゃうよ。」
「僻みか? こんな下らんことに時間を割いているから未だに魔力が低いの間違いだろ。」
「へえ。その言葉は僕たちの人生を否定しているよ?」
「興味無い。俺が興味あるのはお前だ。」
ユリナを捕らえている男を指さす。男は黙ったままだ。
「まあ、いい。後で奥さんと同じとこに送ってやるよ。」
「.......カリナリーをどうした?」
「ルギシニラの最下層の牢屋の中。自害してたら知らんがな。」
ピリッと殺気が放たれる。だがこれくらいであれば俺にとってはそよ風だ。その殺気を受けて異世界人である五人は目を覚ます。目覚めが最悪だろう。
「アララ、意識取り戻されちゃった。」
先ず、状況を瞬時に理解した女四人は兎に角喚いた。喚いても抵抗できない状況に混乱し段々と奇声に変わっていく。
「金切り声みたいでうざったいなあ。もう彼女たちは用済みなんでしょ?」
「や......めて....。」
「君は冷静だね。同い歳で同じ世界に生きていたと言うのに。まだ意識が混濁してるのかな?」
「ユリナっ!」
「? ノト.....さん?」
俺が声を掛けるとようやく俺の存在に気付き、言葉として発しなかったがその目は彼女らを殺させないで欲しいと懇願していた。
「優しい彼女の事だ。やめてって言ったのは殺さないで欲しいとでも思ってるんだね。散々酷いことをされたのに助けようと思うんだ。」
「......その線は......超えな...い。」
「うん。でも命を握っているのは僕らだよ。ねえ、魔王様? 彼女の望みを叶えたくば僕らの願いも叶えてよ。」
「良いぜ。お前らの言いなりになってやるよ。」
「.........え。」
拒否しなかった俺の返答にユリナは驚く。ユリナは自分がどちらを選択しても絶望しか待っていなかったのを理解したのだ。俺を生かすために彼女らを見捨てるか、ユリナの理念の為に彼女らを救い、俺を見捨てるか。どちらを選択するか俺に聞いた質問に間髪入れず返すとユリナは酷く動揺している様子だった。
「ふふふ、彼女のこと本当に大事なんだね。魔王様、貴方が儀式に自分から入ってくださるのなら彼女たちを解放しよう。」
「.........。」
剣を鞘に収め、何も言わずに中心に向かい歩いていく。コツコツと歩く足音だけが響く地下空間。中心に立ち腰に手を当てて焦る様子が全く無い俺の様子に苛立ちを覚えるユウだったが計画が順調に進んでいるのか余裕ぶっている。
「さあ、約束通り彼女たちを解放しよう! 生きるというしがらみから、ね。」
「っ!? やめっ.......てっ.......!」
「..............。」
四人は胸に一刺しの剣を突き立てられ苦しみながら絶命した。俺はこの状況になることを薄々感じていたので何も動かなかったし動く気も無かった。勿論ユリナの望みは出来るだけ叶えたいが、それによって危険に晒されるのであれば助けないという選択肢を取らざる負えなかった。
「さあ、『叛逆譜』を発動させよう。」
「なん.....で。」
「解放としか言ってないよ。逃がすなんて一言も僕は言ってないもの。」
足元の魔法陣が光り輝き膨大な魔力が俺に流れ込んでくる。魔王として覚醒して行くにあたって凡そ人とは呼べぬ異形へと既に変貌しかけていた体は更なる魔力によってその強さを増す。バサッと音を立てて開かれる翼。右眼からは血が流れ出るのが分かる。
「うふふ、さあ、僕達の悲願を果たしてよ 、魔王様っ!」
「ああ、そうだな。」
驚くユウを横目に次に瞬間、祭壇の間の様相は大きく変わった。
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