猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

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第一章 冒険の始まり編

第4話 推しキャラ

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 ゆっくり森の奥へと進む。


 足にはマテバシイの葉に似た形の大きめの葉を巻き、
 蔦でグルグルに縛っている。


「サクッとその辺の物で作った割に…うん、いい感じ。格好は付かないけど」


 踏みしめて確認する。

 しっかりした物を作ろうとすれば時間が掛かるので、この辺が妥協点だろうと、とりあえずは満足する。

 白のTシャツに綿のハーフパンツ、足首から下には葉っぱが巻いてある。
 なんて格好をしているんだと、知人がいたら間違いなく突っ込まれる。コンビニにも行けない風貌だ。


 ひなたが爪研ぎを開始してから十分程が経っただろうか、
 爪研ぎが漸(ようや)く終わり、青い石は結構たくさん落ちていた。
 どうやら樹の表面だけでなく、幹の中にも石は埋まっている様だった。それをひなたがほじくる様に爪を研いだ為に、靴(?)が出来上がる頃には予想よりも多く落ちていた。

 量で言うと百シーシーの計量カップ一杯分くらいか。
 一先ず謎の青い石はポケットに突っ込んである。
 袋の様な物があれば良いが、そんな物は勿論無い。


「それにしても、爪研ぎ長かったね。いつもは一分もやっていれば長い方なのにね」

「ニャ~」

(爪研ぎ?それとも青い石をわかってて掘り出した?いやまさかね…)


 いつもと違う行動に少し不思議に思うが、慣れない外にストレスを感じていただけかもしれない。
 そう勝手に解釈し、次の行動へと移る。


「う~ん…意外と深いかもな、この森」


 直径で二百メートルくらいだと思っていたが、外周を一周確認した訳では無い。
 半周もしていない為、もし縦長な森だった場合、縦断するように突っ切ると結構長いのかもしれないし、どこまで続くか分からない。


「次は簡単な武器でも探したいところだけど」


 手にはとりあえず拾った木の枝を握っている。
 長さで言うと一メートルくらいなので、多少戦うことは出来てもやはり心許無い。

 ひなたはというと、今度は善隆に抱かれず横を歩いている。抱き上げようとしたら嫌がるように身体を捩った為だ。


「ひなと横に並んで歩くなんて、こんな状況だけどちょっと嬉しい。無理しないでね」

「ニャ~」

(以前よりもよく返事をする様になったなぁ。何か思うところが有るのかな)



 ――その時。

 ダッ

 と、ひなたが急に走り出したのだ。
 それはもう物凄いスピードで、一瞬にして草や樹の向こう側へと姿を消してしまう。


「ちょ!ひな!待って!」


 人間が追い付けるはずもなく…


(ああぁ!やっぱり!猫なんてそりゃ逃げるよ!よくネットでも迷子猫を探してる人とかいるじゃん!ああ…抱っこしてれば良かった!)


「――ひな!お願いだから来て!」


 草を掻き分け、樹を避け全力で走る。
 ひなたと出会った時以来の全力ダッシュである。


(懐いてはくれてたと信じてるけど、だからって絶対に逃げないとは限らなかったんだよ。もっとちゃんと…)


「…………」

(くそっ!返事が無い)


 ひなたが無事に生きてさえいてくれれば、善隆はそれでいいと思っている。
 だが、今のこの状況では危険の方が多い可能性が有る。
 運良く今まで何も起こらなかっただけなんだ。

 次にひなたを目にした時には死体だったなんてことは絶対に避けなくてはならない。


「はあ…はあ…はあ…」


 見付からない。

 息切れが続く。


「はあ…と、とりあえず…はあ…少し歩きながら…」


 早い体力の限界だった。
 静かにしていればひなたの動く物音で分かるかもしれないとも考えて、善隆がペースを落として歩き始めると


「痛っ」


 右肩付近から熱を帯びた痛みが走る。
 どうやら走っている最中に樹にぶつけた箇所が切れて、血が出ているようだった。白いTシャツの袖部分が破れて赤く染まっていた。


「傷は後回しでいい。まずはひなを…」


 痛みを我慢し正面を向くと、そこで善隆は気付いた。

 正面、視線の先の樹の間から見える、開けた場所。
 未だ森を抜けた訳では無い様だが、森の中に開けた場所が有ったのだ。もしかしたらひなたはそこへ向かったのではないかと。

 淡い期待に心拍数を上げながら、ゆっくりとその場所へと進む。


「ひな~…? いる~?」


 声は最小限に。
 何かがそこに居たとして、ひなたとは限らない。

 そして恐る恐る、樹の間から覗き込もうとして


「ニャ~」

「あっ」


 ひなたの声だった。


「ひな!もう、なんで急に…」


 ひなたの姿が現れ始めたと同時、
 善隆はそれ以上、喉に何かが詰まってしまったかの様に言葉が出なかった。

 そこは樹々に囲まれてはいるが、不自然に開けている場所。
 広さで言うと十メートルくらいだろうか。
 そこだけは草も樹も何も無い。
 なぜなら、そこには透き通るように綺麗な水の張った湖が有ったのだ。
 木漏れ日に反射する水面は、どこか神秘的で。
 スクリーンに映った映画のワンシーン、そんな世界の中に入り込んでしまった様な感覚。

 善隆の今の心境は、その神秘的な光景に心を打たれた感動と、ひなたが見付かった安堵と、水場が見付かった喜びと。様々な感情が混ざりあった状態。

 唖然。

 鳥肌が立つ。

 開いた口が塞がらないとはこの事なんだと。


「………………」


 暫くその光景に目を奪われていると、


「ニャ」


 少し離れた位置に居るひなたが短く鳴いた。


「あ、ごめんごめん。ひな、無事でよかっ…」


 そしてまた、言葉を失う善隆。





 善隆が日本で生活していた頃、アニメや漫画、ラノベを読んで過ごしていたというのは何度か話しただろう。

 そういった趣味の有る人の殆どに、「推し」「推しキャラ」と言われる、自分の琴線に触れる見た目や声、性格の登場人物が居ることだろう。

 それに漏れず、もちろん善隆にも推しキャラが居る。
一番好きなキャラクター、というのもあるが、様々な作品で「気に入る」キャラクターの共通点は、

 善隆が今までに楽しんできたオタク趣味、そのどれもで必ず好きになる登場人物の特徴は、


 “銀髪エルフ”


 開けた場所の端、草木の生い茂る場所との境目、丁度 草が生え始めてる場所に、下半身を草に隠すようにして、横向きに。

 そこに、いたのだ。

 木漏れ日が当たり、キラキラと神秘的に輝く銀色の髪。
 その銀色の髪の合間から覗く耳は少し長く、尖っている。
 見た目だけで判断は付かないが、その見た目で十代後半だろうかと推測する。

 よく見ると髪を頭の上の方で一つに結っている。
    ポニーテールというやつだろう。

 来ている服はどこかの民族衣装や和服にも見えるが、その服の上からは胸当てや肩当て等、アニメで見た事のある軽鎧と言われる物を装着している。

 目の色は分からない。

 何故か、その少女は目を瞑っている。
 もっと言えば、眠っているようだった。


「………………」

(……ゴクリ)


 この短時間で二度も目を奪われる事になった善隆だが、
未だに何も喋れないでいる。


(あ…うわ…剣が落ちてる!本物!?初めて見た)


 その少女の横には、物語の中でしか見た事のない。
 輝く金色の柄に、一メートル程の綺麗な刃の付いた直剣が落ちていた。


「………」


 ひなたが善隆に無言で近付いてくる。
驚いているのかは不明だが、善隆の横までチョコチョコと歩いてきてそのままその場に座る。
 ひなたもその少女を凝視しているみたいだ。


(起こしてもいいのかな。敵!っていきなり襲ってこないよね…)


 善隆はそーっと剣に手を伸ばし、少女から離すために持ち上げる。


(ぐっ、結構重い…やっぱ本物か)

「いきなり襲ってこないでね。俺に敵意は有りませんから…」

 小声でそう呟き、その綺麗な剣を少女から離し、自分の後ろにゆっくりと置く。


「ひ、ひなも…静かにね…」
(こういう時は大きな音で起こしちゃダメなんだよね)


 しーっという仕草で人差し指を口に当てひなたに訴える。


「ニャ」

「しーーーーーーーー!!!」


 ひなたの声より大きな゛しーっ゛である。

 ダラダラと、善隆の額から汗が有り得ないほど垂れる。
ここまでの探索や、ひなたを探して走った身体の火照りも有るだろうが、単純に緊張から来るものだろう。
 見た目が好みとはいえ、いや好みだからこそ敵対はしたくない。善隆の心からの願い。

 一応付け加えると、見た目が好みだからという不純な理由だけで敵対したくない訳では無い。
 この世界にきて初めての人との遭遇なのだ。
 慎重にもなるというもの。


(お願いしますお願いしますお願いします。どうか敵対しないで下さい)


 そう祈りながら


「あのぉ…」


 勇気を振り絞りついに声を掛けた。
 声が震えていたかも知れない。
 それを気にする余裕も無いが。


「お~い…」

「………………」

(警戒心無いの?こんな美人が…無防備過ぎるでしょう。でも触って起こす訳にはいかないしなぁ)

「あのぉ!!」


 ビクッ

 少女の身体が一瞬震える。

 ビクッ

 善隆も震える。

 ビクッ  

 更にひなたも震えて少し逃げる。


(剣は後ろ!他には何も無さそう!よし!いける!)

 腰に布袋の様なものを付けてはいるが、武器ではなさそうだ。


 ガッ   と。
 少女が勢い良く身体を起こす。


(治まれ…俺の動悸……!)


 起こすと同時、そのまま少女が目を開くと、
 吸い込まれそうになる程に綺麗な、金色の瞳がそこには有ったのだ。


「…………」


 またも唖然。


「………………」


 なんて綺麗なんだろうと。
 つい見惚れてしまう。

 銀髪に金眼、エルフだ(たぶん)。
 なんて美しいんだと、見惚れてしまっても仕方が無い。

 善隆が無言で見つめていると、少女は何かを探すようにキョロキョロとし始めた。
 どうやら何かに焦っているようだ。苦々しい表情をしている。


(あ、やば。なにか喋らないと…。たぶん、剣探してるよねあれ!良かった…!離しといて!危うくだ!危うくだった!)


「あ、あの…」


 我に返った善隆が改めて声を掛ける。

 ビクッ、と少女は再度身を震わせる。
 それでも金色の瞳は善隆を見据えている。
 目を逸らす様子は無い。

 善隆は敵意が無い事を全力でアピールするため、精一杯の笑顔。
 両方の手の平を開き上にあげる。降参のポーズである。
 肩の傷が痛むので、右肩だけは下がり気味だが。

 ひなたに向ける笑顔と同等の笑顔を作り、少女に向け声を放った。


「アッ…ボク…アッ…敵ジャナイ…デス。デュフッ」


 ――失敗した。


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