6 / 34
第一章 冒険の始まり編
第6話 勇者
しおりを挟む「どういう事ですか? どうして様付けを?」
金色の瞳を見開いたまま固まっている銀髪の少女に、ヨシタカは質問を投げかける。
「…………いや、すまない。ちょっと混乱している。もしかしたら私が気絶していたのも、この御方に飛びつかれて驚いたせいだったかもしれない」
(この御方……? それにさっき襲われたって、攻撃された訳じゃなくて、急に出てきたひなにビックリして気絶したのか)
少女も混乱している様だが、ヨシタカも困惑している。
(何このひなたが巻き起こす混乱の嵐。ただの世界一かわいい茶トラ猫だよ)
足元までテコテコと歩いてきたひなたを、ヨシタカは抱き上げる。
「えっと……俺の家族のひなたです。ひなって呼んで下さい。ただの猫ですよ」
ひなたを抱きながらヨシタカは代わりに自己紹介をする。
「ニャ~」
ひなたも空気を読んでくれたようだ。
「ひなた……様……」
少女の目は見開いたままだ。
ずっとひなたを凝視している。
(瞬(まばた)きして無くない? 大丈夫かな)
「いや、様付けとか要らないですよ。それで言うと何で俺は呼び捨てなんですか」
今までの少ないやり取りで、彼女には敵意が無いと判断した為、少し砕けて接してみると
「…………」
それでも彼女は黙ったままだ。
これでは埒が明かないと、ヨシタカは少し思案する。
「恋人はいますか?」
聞いてみた。
「いな……はっ! いや……待て、今のは無しだ! 何を言わせる!」
少女は顔を、その尖った耳の先まで真っ赤にしながら答え、剣を握っていない方、左手をブンブンと振っている。
「す、すみません。反応が無かったので、つい……」
ヨシタカは小さくガッツポーズをした。
「反応が無いからといって……! いや、まぁいい。とにかく、ヨシタカとひなた様はどういう関係だ?」
「先程も伝えた通り、家族ですよ。ペットと言えばいいかな? 一緒に暮らしてました。日本からここへ来た時も一緒です」
「そうか……。嘘じゃなさそう、か。ふむ、落ち着いて聞いて欲しいんだが……」
「はい?」
少女がそう前置くと、猫好きのヨシタカにとっては悲報となる事実を口にした。
「この世界に猫という種族は存在しない。絶滅した、と言われている」
「え?」
唖然。
異世界なのだから、そもそも゛猫 ゛という動物が存在しない可能性は有った。だが、目の前の少女の言葉からは かつて存在した、という事がわかる。
「伝承されているのは……」
ヨシタカと少女が近くの岩に座る。
ひなたはヨシタカの元まで来て膝に飛び乗る。日本での、いつもの体勢だ。
コホン、と息を整え少女が話し始める。
ちょこちょことヨシタカの質問が入りつつも、話してくれた内容は、
この世界には猫以外……犬や狐、ウサギや鳥など、全てを聞いた訳では無いが、日本にいた動物は大体同じ種族が存在しているようだ。
また、それぞれの血の入った人族、獣人と言われる種が存在する。その中には猫の血が入った猫人族という種族もいるようだが、猫そのものはいないとの事。
他にもエルフやドワーフ、精霊なんかも昔から居るそうだ。精霊だけは人里には来ないみたいだが。
何故、猫だけがいないのか。
その話は千年前に遡る。
かつて、世界は平和だった。
海で分けられた四つの大陸、中央大陸とそれを挟むように東大陸、西大陸、そして北の大陸。
南には海しかない、と言われている。
北以外の三大陸はそれぞれに村や街が栄えており、戦争も無く、皆が平和に暮らしていた。
もちろん、その中でもスラムの様な場所や、犯罪自体は有ったようだが、国同士のいざこざは一切無かった。
(戦争が起きた事ないって、逆にすごいな。信じられん)
そんな折、気候のせいで人が暮らす事の出来ない大陸、常に吹き荒れる雪のせいで魔の大陸と言われている、北の大陸に魔王が生まれた。
(地球でいう北極みたいなものかな。それよりもやばそうだが)
その魔王は百年ほど掛け自分の血族を増やし、大軍でもって人族や獣人族、エルフや精霊達を滅ぼそうとした。
各大陸では阿鼻叫喚、今まで争いの無かった各国に戦闘に長けた者は少なく。精々が犯罪者を取り締まれる組織がある程度だった。
魔王軍の侵攻により、各大陸の人口は半分程にまで惨殺された。
目の前で家族を喰われた者、捕まり奴隷となった者など、その光景は凄まじかったという。
魔王軍には遠慮や手心というものは一切無く、皆笑いながら侵攻をして来たという。遊ぶかのように。
平和から一転、地獄へと変貌を遂げた瞬間だった。
そんな中、中央大陸のとある村の、農奴の家庭で育つ青年が勇者の力に目覚めた。
なんでも、青年の夢の中に女神様が現れ、力を授けたとか。
青年……勇者の力は凄まじく、魔族を次々と倒していく。勇者の持つ武器には太陽の力が宿る゛太陽の加護゛というものだ。
魔族の中でも弱い者であれば触れるだけで消滅した。
魔族が陽の光に当たると少し弱くなる事もそこで判明したらしい。
だが、勇者の体は一つだ。三大陸全てを守る事など出来ない。勇者は直接魔王を討とうと考え、魔の大陸へ向かおうとした。
その時、勇者の存在を自分の血族を通して察知した魔王が、中央大陸へ直接乗り込んできた。
勇者は、これが機とばかりに攻めた。
魔王に直接、その太陽の力が込められた剣を叩き込む。
一瞬だった。魔王は呆気なく消滅したのだ。
魔王の消滅と同時、各大陸に散らばる魔王の血族である魔族達も、一斉に黒い霧のようになって消滅した。
拍子抜け。勇者はそんな心情だっただろう。
魔族が消滅したその後の大陸では、家族や友人、恋人の死に悲しむ者が多く居たが、それでも平和の再来に歓喜した。
だが、話はそこで終わらなかった。
当たり前だ。まだ猫のいない理由には何も触れていない。
魔王を倒したその数日後……
村に戻った勇者が、おかしくなった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~
妖精 美瑠
ファンタジー
高校弓道部の部長・赤上弓美は、大学合格発表の日に異世界クラシディアへ突然転移してしまう。
弓道一筋で真面目な彼女には密かな悩みがあった。それは“動物にだけはなぜか嫌われてしまう体質”――。
異世界で女神様に謝罪されながら三つの能力と「テイマー」という職業を与えられ、さらに容姿まで10歳の赤髪少女に変わってしまった弓美。
それなのに、なぜか動物系の魔物たちにはやたらと懐かれまくって……?
弓術師+テイマーという職業を駆使し、回復・鑑定・アイテムボックスまで兼ね備えた万能少女となったユミは、
この世界で出会いと冒険を重ねながら、魔物たちに囲まれて異世界旅を始めていく!
弓術師&テイマーになった幼女、癒しスキルでモフモフ魔物に囲まれてます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
※素人ですが読んでくれると嬉しいです。感想お待ちしています。
毎週月曜日12時公開です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
陸上自衛隊 異世界作戦団
EPIC
ファンタジー
その世界は、日本は。
とある新技術の研究中の暴走から、異世界に接続してしまった。
その異世界は魔法魔力が存在し、そして様々な異種族が住まい栄える幻想的な世界。しかし同時に動乱渦巻く不安定な世界であった。
日本はそれに嫌が応にも巻き込まれ、ついには予防防衛及び人道支援の観点から自衛隊の派遣を決断。
此度は、そのために編成された〝外域作戦団〟の。
そしてその内の一隊を押しつけられることとなった、自衛官兼研究者の。
その戦いを描く――
自衛隊もの、異世界ミリタリーもの……――の皮を被った、超常テクノロジーVS最強異世界魔法種族のトンデモ決戦。
ぶっ飛びまくりの話です。真面目な戦争戦闘話を期待してはいけない。
最初は自衛隊VS異世界軍隊でコンクエストをする想定だったけど、悪癖が多分に漏れた。
自衛隊名称ですが半分IF組織。
オグラ博士……これはもはや神話だ……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる