猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

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第一章 冒険の始まり編

第16話 初エンカウントは

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 草原を走る二人分の足音。
 その草を踏みしめる音と、二人の息遣いだけが聞こえてくる。

「――一先ず、俺が注意を引き付けて、逃げ回る。それを確認したらサティは攻撃に移る。……それでいいよね?」


「あぁ、それが一番可能性は高い……が、ヨシタカは本当にいいのか? 戦った経験など無いのだろう。怪我だけじゃ済まないかもしれないんだぞ」


 ヨシタカは、隣を走るサティナに確認を取り、同時に覚悟を決めている様子で


「――最悪、女神の涙が有る。量もあるし、異世界の不思議な石にちゃんと効果が有ることを期待するしか無い。サティもいつでも飲めるようにしておきなね。まぁ、出来れば痛いのは勘弁して欲しいけどね……」


 ヨシタカの締まらない言葉の締め括りに、サティナが苦笑する。


「私が必ずお前を守る。死なせはしない……ひなた様と離れ離れになどさせない」


 サティナも前を向き、覚悟を決めたようだ。
 剣の柄を握る手に力を篭める。その白く綺麗な手が、赤く色付く程に。


「……サティを信じてる! 俺はちょっとでも怪我したら、すぐ女神の涙飲むわ!」


「それはちょっと……どうなんだ? 国宝級だぞ」




……………………

………………

…………




「……え? これ……どういうこと……?」


 ヨシタカは目の前の光景に呆然と立ち尽くしている。

 そこは、ヨシタカの胸程の高さまで有る木の柵に広く囲われており、それが続く先に何かの入口らしき門が見えている。

 恐らくここがジッポ村なのだろう。

 村の広さは明確には見えていないが、少なくとも東京ドームよりは広さが有りそうだ。
 一家の人数が四~五人と仮定しても、百人なら二十から三十棟くらいの家の数で、それぞれの家同士の間にはそこそこの距離が有る。
 木造の簡素な作りの家が何棟も見えたのだ。

 その中央に小さな広場のように開けた場所が有り、井戸らしきものが設置されている。
 
 入口から見える範囲に、人が倒れているような光景は見えないが、家の外壁など随所には血が飛び散ったような跡が見える。



「……何もいない……? 逃げた村人は無事なのか、家の中か? ウルフはどこ行った? どこか見えにくいとこに……」


 ヨシタカは立ち尽くしながら小声で、目の前の光景から目を背けるようにサティナへ声をかける。
 それはそうだ、大量の血の跡など、日本でサラリーマンをしていたヨシタカが見慣れているはずも無い。


「……あ……あぁ……あぁぁ……」


 ヨシタカに声を掛けられたサティナは、村の入口から真っ直ぐ正面を見据え、金色の瞳を見開きながら声にならない声を上げている。
 その口元と全身を震わせながら――。


 ジッポ村は井戸のある広場を中心に、十字に道が続いている。
 並ぶ家そのものは木造の簡素な物に見えるが、並び方は街のように綺麗だった。
 それ故に、入口から対面の端、反対側の村の入口付近も見えるのだ。
 だがそれは、眼の良い生き物だけで、ただの人間であるヨシタカにとっては、反対側に人が立っていようが、小さな米粒くらいにしか見えないだろう。


「どうした!? サティ? なんかわかった!?」 


「……………………」


 サティナに釣られてヨシタカも目を凝らして奥を見てみるが、黒色の何かが動いているようにしか見えなかった。
 ただ、確かに何かが動いていること自体は確認が出来た。


「……サティ! 何か動いてる! 人かも! ウルフ? みたいな獣っぽくは無いぞ!」


 走り出そうとするヨシタカだが、咄嗟に腕を掴まれた。


「待て! ………………ワイバーンだ」

「……は?」


 ヨシタカはすぐにオタク知識を漁る。
 日本には居なかった生物だ。
 ウルフと戦うつもりでいたヨシタカは、多少日本のと見た目が違うかもしれないとは言え、狼という日本でも実在した動物は容易に想像できた。

 だが、ワイバーンである。
 耳を疑った。
 第一エンカウントはスライムでも、ウルフでも無かったのだ。


「サティ。ワイバーン……? あの、ドラゴンみたいなやつ……?」


「そう……ワイバーンだ……。ウルフ共はあのワイバーンから逃げたか、喰われたのだろう。そもそも多数で村に来たのも奴から逃げていたせいかもしれん」


 ――ワイバーン。
 ヨシタカにとっては物語の中、架空の生き物である。
 だが、大抵のアニメなどの中では、人々の脅威となっている生き物だ。
 四足ドラゴンの様な見た目だが、背中ではなく腕の下からコウモリのような翼が有るタイプが有名だろう。
 あの翼は鳥の羽毛や、ドラゴンの様に骨格から筋肉、鱗で出来た翼と違い、皮膜で出来ている翼だ。
 その巨体で何故飛べるのかは謎だが、そこは異世界なのだろう。



「まじかよ……」


 その時、ヨシタカ達のいる村の入口から二軒程先、家の小窓から何かがこちらを覗いていた事にヨシタカが気付いた。


「サティ……。たぶん、一部の村人は家の中にいる。今、目が合った。少し遠くて分かりにくかったけど、恐らく子供だ」

「そうか……。やるしか無いな」

「作戦は変えずに行くか」

「……は? ……正気か? ワイバーン相手に囮だと? 私も実際に戦ったことは無いが、聞く限りの強さだと、間違いなく死ぬぞ!」

「女神の涙頼りだ。最初から口に含んでおく! 大丈夫!」

(本当は無理。超怖い)

 だがヨシタカは、村人を助けたい気持ちと、サティナの前で格好付けたい気持ちとで、その挫け掛ける弱い心を無理矢理に奮い立たせる。
 ポケットの中の布袋から、青い石を一つ取り出し、口に含む。

(……ひな。待っててね)


「……それが本物……かどうかはわかったとして。本当に全快するかなんてわからないぞ!」

「……そうなったら……サティの回復魔法で……それでも無理なら、ひなを頼むね」

「馬鹿者! 縁起でもない事を言うな! お前は死なせない。それは決定事項だ!」

「――信じてる! 行こう! サティも死んだら許さないからね!」


 駆け出すヨシタカ。それに続いて、

「ああぁ! もう! わかった!」

 サティナも駆け出す。


(ひのきの棒を持って冒険に出たら、すぐ外に高レベルのワイバーンが居ましたとか。クソゲー過ぎないか。負けイベント?)

 

 ……………………

 ………………

 …………


 
 村の中を突っ切るように駆け出す二人。

 その後ろ姿を草原から見つめる二つの瞳。

 宝石のように綺麗なその瞳は、何を思うのか。



 「ニャ……」


 と、一言。鳴いた。
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