猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

文字の大きさ
18 / 34
第一章 冒険の始まり編

第18話 賭け

しおりを挟む


「サティ。……俺を信じてくれる?」

 ヨシタカは正面に立つサティナへ真剣な表情で言葉を投げる。

「ん? どういう事だ? 信じてはいるが……何を言っている?」

 サティナは未だに少し頬を赤く染めながら、戸惑うように答えた。


 今、ヨシタカの視界の端には光の文字が羅列している。


―――――――――――――――
 名前:サティナ・スー
 種族:ハイエルフ
 称号:王級魔導師
 スキル:王級魔法(全属性)
     魔法理解(詠唱省略)
―――――――――――――――


(王級? なんだそれ? 上級の上っぽい感じはするけど……。サティは回復以外の魔法が使えないのでは? 全属性? どういうことだ……?)


 ヨシタカは今までのオタク知識を漁り、相変わらず脳をフル回転させている。
 

「グルルォォ! グルルルルルルルル!」


 だが、目の前には視界を奪われ暴れるワイバーン、それもそのうち視界が回復してこちらに気付くだろう。
 時間が無いのだ。
 再度、魔力の光を当ててもいいが、自分の魔力に限界があるのかも、二度目も効いてくれるのかも、今のヨシタカにはそのどれもが賭けでしかない。

 最悪はヨシタカが身を呈して囮になり、サティナにまた後ろから攻撃してもらう方法がある。が、即死級の攻撃を受けた場合、聞いてる限りでは女神の涙には蘇生効果は無いため、単純な――死――だ。
 それだけは避けたい。


 ひたすらにヨシタカは考える。
 この危機的な状況の打開策を――。


「サティ。君は魔法の勉強をしたって言ってたよね。王級までしてたでしょ?」

「は? なぜそれを……? そうだが……」

(……よしビンゴ! とりあえず魔法の階級なのは分かった。上位っぽいな)


「……わかった。しかも、全ての属性を勉強したでしょ?」

「っ! そうだ。だが初級回復以外は何も使えなかった。初級から王級までのどの属性も全てだ! だから私は……」

「――サティ! 今は俺を信じて。大丈夫だから。俺の言葉を聞いてくれ」

「……わかった。すまん」


 ――時間が無い。

 もう、ワイバーンの視界は回復するだろう。

 ――賭けよう。

 これでダメなら、自分が囮になる。


「サティ。中級だろうと、王級だろうと、あのワイバーンを倒せる程の魔法……すぐに思い付く?」

「何を言っているんだ? ……いやすまない。恐らく上級か王級なら殆(ほとん)ど、どの属性だろうと倒せるだろう。エルフ達は殆どが中級魔法使いだ。そのエルフが五人で倒すのだ。上級か王級なら……中でも効果的なのは……」

「いや、そこまで分かればいい。細かいことはサティに任せる」

「……?」


 ヨシタカは、賭けに出る。
 

 ――もし、サティナが魔法を使えない理由が、適性ではなく、只の魔力不足なら?

 ――もし、自分の体内の魔力、それを空気中に霧散させず、誰かに送る事が出来たら?

 ――もし、魔力をサティナに渡す事が出来たら?


 ヨシタカは昔、ネットゲーム――通称ネトゲを数年間プレイしていた事がある。そのゲームでは、剣士だろうと魔法使い、僧侶だろうと、魔力ゲージが無くなれば魔法は疎かスキルと言われる剣技等も使えなかった。
 
 ネトゲの中では、魔力切れになった魔法使いに、僧侶が魔力を分け与えたりも出来ていた。
 アニメやラノベでも、手を繋ぎあって魔力を渡すシーンだって……と。

 ゲームによっては、それでもそのキャラの最大値までしか回復出来ないパターンもあるが、一時的に最大値を超えて回復するパターンもある。後者であれば――


 ――それを、試す。
 もちろん、上手くいく保証など無い。
 もし失敗すれば、先にも考えた通り自分が囮になる。
 また目眩しをする。襲われても仕方が無い。
 自分が死ぬ前にサティナが倒すと信じている。

 だが、賭けられるチップが有るなら、賭けてみよう――。
 

「その魔法をイメージして。詠唱は……しなくていい。ただイメージして……ヒールを使う時みたいに! んで魔法名を唱えてみて欲しい」

(……たぶん。そんな感じよね? 詠唱省略って、アニメとかだと、イメージと魔法名で出来てるし)



「……は? いい加減、意味がわからんぞ! お前を信じてはいる……が。何度言ったらわかる! 使えないのだ! それに詠唱をするなとはどういうことだ!」


 傍から見れば、ヨシタカの言っている事は、サティナに対する嫌味にすら聞こえるかもしれない。
 魔法が使えないというのが明らかな人に対し、魔法を使ってみろと、そう言っているのだ。


(――もしかしたら、詠唱はした方がイメージは湧くか?)


「……わかった! 詠唱はしてもいい。とにかくやってみてくれ!」

「っ! もうわかった。信じればいいのだな」

「……ごめん。うん。――信じて! でもダメだったら全力撤退だ! 俺が囮になる!」


 ヨシタカの言葉に首肯し、サティナは少し先で未だに暴れ回るワイバーンに向き直る。
 そのままヨシタカはサティナの背中に手を当て、


「……ひぅっ! ……なんだ!?」

「触ったのは素直にごめん。でも許して信じて!」

「わ、わかった……よし、やるぞ……」


 サティナが手を前に掲げ、構えたまま瞳を閉じた。
 合わせてヨシタカは体内の熱に集中し始める。


「――猛る炎の神よ……」


 サティナの詠唱が始まる。
 そしてヨシタカはタイミングを合わせる。ヨシタカは魔力を手の先に移動させる様に集中させ、その熱を手の先から放出させるイメージでサティナの背中へ……。


「――っ!」


 サティナが驚き息を吐く。
 それでも彼女はヨシタカを信じ、詠唱は止めない。
 同時、サティナの身体を白いモヤが包むように、淡く輝き出す。

(お! モヤ……? 光? 成功か? わからん! ……それにサティの反応的に俺の魔力の熱は感じているようだが……あとは撃てるかどうか……)


 それからサティナの詠唱が数秒続いた後……




 ――ボッ……と。

 サティナの前方から熱を感じる。
 ヨシタカが魔力の放出を継続しながら、彼女の肩口から前を見てみると――。




 ――小さな炎が、サティナの手の先に浮いていた。

 それはとても小さかった。だが間違いなく炎だった。
 紅く揺らめくそれは、サティナの詠唱に合わせて物凄い勢いで渦巻くように回転し始めた。


 ――更に数秒後……。


 サティナは詠唱が終わったのか、魔法名を唱える直前に目を開ける。


 そして目の前の光景に、


「……へ? ……あれ? なんで? ……ヨシタカ? 私……魔法…………何十年も……今まで……ずっと……なんでぇ……出来てるのぉ……」

「出来たな!」
(……ん? 何十年……? まぁいいや)


 ヨシタカは少し気になる言葉を耳にした気がするが、とりあえず安堵する。

 ――成功だ。

 同時に、目の前で声を震わせながら涙を浮かべている、そのサティナの瞳を見て笑い掛けた。


「さっすが! サティナ・スー! どんな魔法かわからないけど! やったれぇ!」


 ヨシタカはもう片方の腕で拳を作り、目の前で暴れるワイバーンに向けて吼えた。
 ワイバーンは視界が回復してきたのか、キョロキョロと辺りを確認し、――燃え渦巻く炎と、人の声のする方……二人に気が付いた。

 気が付いた途端、巨体とは思えない速度で体勢を整え、そのまま身体を後ろへ反らせる。
 腹を膨らませ、閉じた凶悪な口からは光が漏れ始めた。
 まるで何かを腹から吐き出そうとする様なその動きは……。


(……え、なにあれ。アニメで見たことあるぞ……? ブレスとか火の玉的な……? まずい!!)


「サティ! ワイバーンが……」


 ヨシタカの言葉を聞くと同時、サティナも前方の状況に気が付いた。
 ズズッと鼻を啜ったサティナは、涙を拭きながら正面のワイバーンを見据える。


「まかせろ。……ありがとう……ヨシタカ! 後で詳しく聞かせてもらうからな! …………《上級火炎魔法》インフェルノ・フレイム!」




 ――一瞬だった。

 小さく渦巻いていた紅く猛る炎が、サティナの声で魔法名が発せられた途端、一瞬にして数メートルの炎の玉へと巨大化した。
 その巨大な炎の玉は、小さかった時と変わらず渦巻いており、周囲に物凄い熱風をうねらせている。



「……熱っつ!! 熱い! これやば! サティやば! かっけえええぇ! 魔法すげぇぇぇ!」


 ヨシタカの叫びを耳にしたサティナは、その金色の瞳を輝かせた。


 
 ――直後、巨大な渦巻く炎の玉はそのまま物凄い速度で、前方に飛び出す。
 その勢いは凄まじく、地面を抉り、地面すらも焦がしながら、ワイバーンに迫る。

 ワイバーンが目の前に迫る炎の玉に気付いた時には、既にもう身体の殆どが巻き込まれている。それ程の速度だ。

 そのまま炎の玉はワイバーンを巻き込みながら、物凄い速度で前方に飛んでいき、数十メートル進んだところで……。


 大きな爆発を起こし、天にも届きそうな火柱を出現させた――。
 その地響きと熱風は、数十メートル離れたヨシタカ達にも届き、二人は唖然としている。




「「………………………熱っ」」




(……これが……オーバーキルというやつか……)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

弓術師テイマー少女の異世界旅 ~なぜか動物系の魔物たちにめちゃくちゃ好かれるんですけど!?~

妖精 美瑠
ファンタジー
高校弓道部の部長・赤上弓美は、大学合格発表の日に異世界クラシディアへ突然転移してしまう。 弓道一筋で真面目な彼女には密かな悩みがあった。それは“動物にだけはなぜか嫌われてしまう体質”――。 異世界で女神様に謝罪されながら三つの能力と「テイマー」という職業を与えられ、さらに容姿まで10歳の赤髪少女に変わってしまった弓美。 それなのに、なぜか動物系の魔物たちにはやたらと懐かれまくって……? 弓術師+テイマーという職業を駆使し、回復・鑑定・アイテムボックスまで兼ね備えた万能少女となったユミは、 この世界で出会いと冒険を重ねながら、魔物たちに囲まれて異世界旅を始めていく! 弓術師&テイマーになった幼女、癒しスキルでモフモフ魔物に囲まれてます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー ※素人ですが読んでくれると嬉しいです。感想お待ちしています。 毎週月曜日12時公開です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

陸上自衛隊 異世界作戦団

EPIC
ファンタジー
 その世界は、日本は。  とある新技術の研究中の暴走から、異世界に接続してしまった。  その異世界は魔法魔力が存在し、そして様々な異種族が住まい栄える幻想的な世界。しかし同時に動乱渦巻く不安定な世界であった。  日本はそれに嫌が応にも巻き込まれ、ついには予防防衛及び人道支援の観点から自衛隊の派遣を決断。  此度は、そのために編成された〝外域作戦団〟の。  そしてその内の一隊を押しつけられることとなった、自衛官兼研究者の。    その戦いを描く――  自衛隊もの、異世界ミリタリーもの……――の皮を被った、超常テクノロジーVS最強異世界魔法種族のトンデモ決戦。  ぶっ飛びまくりの話です。真面目な戦争戦闘話を期待してはいけない。  最初は自衛隊VS異世界軍隊でコンクエストをする想定だったけど、悪癖が多分に漏れた。  自衛隊名称ですが半分IF組織。  オグラ博士……これはもはや神話だ……!

処理中です...