追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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リムス王国へ2

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 数日後。家の前には絢爛豪華な馬車が停車していて、傍にはお兄様やメディと楽しそうに話しているライの姿が。
 王女達の結婚式に向かうために、彼が迎えに来てくれたのだ。
 リムスでの宿泊先や侍女なども全てライが手配済みと聞いている。

「留守中にメディのことをよろしくお願いしますね。セス様」
 私は間隣にいるセス様へと声をかければ、彼は大きく頷く。

「勿論ですよ。ティア様も道中お気をつけて。仕事の事は忘れて久しぶりの祖国を楽しんで来て下さいね」
「……」
 無言のままそっと視線を外した私を見て、セス様は察したらしい。
 苦笑いを浮かべると言葉を奏でる。

「仕事道具も荷作りしちゃったんですね。ティア様らしいです」
「新しく考えていることがあるのでもう少し練りたいなぁと。セス様やメディにも意見を伺いたいので後日お時間を頂けますか?」
「はい。ティア様が考えている新しいことを楽しみにしていますね」
 セス様がふわりと微笑んだ時だった。
「おーい!」という声が遠くから届いてきたのは。

 私とセス様が一斉に視線を向けたのは、声のした通りと家を繋いでいる道路先。そこには手を振りながら、私達の元へ走って来ているコルタが視界に飛び込んでくる。
 彼は私の傍までやって来ると、肩で大きく息をしながら手にしていた荷物を差し出してきた。

「これは……?」
 私は差し出されている水色の布で包まれた四角い物体を受け取りながら首を傾げる。

「レイと俺からだ。中身は姉貴の店の菓子。道中、ライナス様と食え」
「いいの!? ありがとう。コルタのお姉さんのお菓子美味しいんだよね。レイにもお礼を言っておいて貰えるかな?」
「あぁ」
 レイは他国からの使者と謁見予定中のため、今日は見送りには来られない。
 そのため、昨夜わざわざ挨拶に来てくれた。

「ライ、お菓子貰ったよ。一緒に道中食べてって」
 満面の笑みでライへとお菓子を見せれば、彼は目尻を下げながら私の頬を撫でる。

「俺の分もありがとう。ティアからお菓子美味しいと聞いていたから、いつか食べたいと思っていたんだ」
「お口を合えばいいのですが……」
 ライの言葉に対して、コルタは背筋を伸ばした。

「コルタもセス様も留守中、妹のことを頼みます」
 ライが深々と頭を下げれば、セス様達は大きく頷き「勿論です」と言った。

 私が居ない間、メディはお兄様が暮らしている城に滞在することになっている。
 メディは一人でも大丈夫って言っていたけど、彼女の身に何かあれば外交問題に発展してしまうため安全の為に城へ。

 コルタとメディはコルタがメディの事を好きだと知ってから、かなりぎくしゃくした。
 でも、コルタがいつも通りにメディに接しているうちに少しずつぎくしゃくも弱くなっている。

「じゃあ、ティア。そろそろ行こうか」
「うん」
 私が首を縦に振れば、お兄様が不安そうな声で「ティア」と私の名を呼んだため、お兄様の方へと体を向ける。
 お兄様は瞳を揺らしながら、私の両手を取ると唇を開く。

「本当に僕も着いて行かなくても大丈夫かい? 王女殿下とティアが会うなんて心配だよ」
「お兄様、安心して下さい。私、二度とあの女に負けませんわ。今の私を見せてきます!」
「……その発言がもう心配なんだけどっ!?」
 小刻みに震えているお兄様に対して、ライが肩を叩いて慰める。

「俺が一緒にいるから安心してくれ。それよりも、リストは本当にリムスに行かないのか?」
「正直、一緒に行きたい。ティアが心配だからね。リムス王国には失望したし未練はないけど、屋敷のことは気になっているから行きたい気持ちが強いし。でも、こっちでの仕事が山積みだし来客も来る予定あるんだよね……」
「屋敷ですか?」
「そう。ティアと僕達が暮らしていたあの屋敷。僕はね、長年暮らしたあの屋敷が大好きなんだよ。ティアが小さい頃に一緒にタイムカプセル埋めたり……思い出がたくさんあるし愛着があるんだ。もし時間があったら、ティアとライで屋敷を見て来てくれないか? ずっと買い戻したって考えているんだ。まだあの屋敷のままだと良いなぁ」
 お兄様は懐かしさを含んだ表情でリムスがある方向を見つめた。

 私はお兄様が屋敷を気に掛けていた事を始めて知り、少し動揺してしまう。
 屋敷は私達が追放されるときに手放し、今は人の手に渡ってしまっている。

 売却か残すか家族会議で話し合い、エタセルでの生活が安定するまで資金を切り崩さなければならなかったため売却する事に。
 お金はあった方がよかったし、維持費がかかるために諦めることになったのだ。

「ごめんなさい、お兄様……」
「ティアのせいじゃないよ」
 あの王女が私のことを気にくわなかったのも禍根の一つだから、私のせいでもある。
 脳裏に王女達の顔が浮かんで、私は顔が歪んでいくのを感じた。

 裏切られて全て奪われた者の気持ちをあの方達は理解できるのだろうか――



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