修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮

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2章 スティルド王国編

第92話 試金石

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 次の試合では、《知の騎士》イロフ対エスカレッド公爵家の執事であるイブラスが戦っていた。

 試合は終始イブラスの劣勢だった。

 劣勢の理由は武器の相性だろうか。

 イブラスの武器がナイフに対し、イロフの武器は長剣。

 イロフの懐に入ることができず、イロフの斬撃をナイフで捌くのがやっとのように見える。

 武器のリーチの長さを利用され、イブラスは防戦一方だった。

「執事服なんかで武闘大会に参加するから、こんなことになる。舐めているのかい?」

 イロフはイブラスを追い込みながら、喋り出す。

「舐めるなんてとんでもない。これが私の正装ですから」

 笑みを浮かべて応えるイブラス。

 その表情には余裕が伺えられる。

「そうかい。なら、そろそろ本気でやってくれないかな?」

 イロフが軽い挑発をするが、イブラスは微笑むばかりで挑発には乗らない。

 イロフはイブラスにまだ余裕があることを見切っているようだ。

「いえいえ、捌くので精一杯ですよ」

 イブラスは微笑みを絶やさず、ナイフで捌く。

 お互い本気でやりあっていないことはわかっているのだろう。

(この辺で良いでしょうかね。私自信が次の試合で彼の力量を計りたかったのですが、この方と本気でやりあって、次の試合に全力で挑むのは難しそうですね)

 イブラスはイロフの斬撃を捌きながら、どうやってこの試合を終わらせるか考える。

(この方には彼を計る試金石になってもらいましょうかね。そのためには、私がここで体力を削るのは得策とは言えませんね。決着は早々に付けますか)

 イブラスはこの試合の行く末を決めると行動に移した。

 その後、数回剣を交えて潮時のタイミングでイブラスはナイフを持つ手の力を緩めた。

 ナイフが剣とぶつかると呆気なく弾き飛ばされ、虚しく地面に転がった。

 そして、空手となったイブラスはすぐに両手を上げる。

 その隙を見逃さず、イロフも長剣をイブラスの首元に添えた。

「降参します」

 口元に笑みを浮かべて言うイブラス。

 敗者の表情ではない。

「なんのつもりですか?」

 全く手応えなく勝利を掴んだイロフは、イブラスの行動に疑いの視線を向ける。

「なんでもありませんよ。これが私の全力です」

 イブラスがそう言い終わると、審判がイロフの勝利を宣言する。

 審判の宣言でこの試合は終了した。

 イロフは渋々、長剣をイブロスの首元から下ろし、鞘に収める。

「では、私はこれで」

 イブラスは敗者とは思えないほど軽やかに退場した。

 イブラスの行動の裏を読み取ろうと、イロフはその後、姿が見えなくなるまで睨み続けた。
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