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3章 ルダマン帝国編
第180話 事件記録
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〝剣帝〟のエリ・ルブランシュは店を出て三つ隣の宿へ戻った。
戻った宿は5階建て――貴族御用達の宿だった。
泊まっている部屋は最上階。
部屋に入ると広々とした部屋となっており、寝具以外にもソファや机が置かれている。
「お帰りになりましたか」
副官であるスレイカ・シブラウスがすでに部屋にいた。
他にも部下が2人ほど部屋にいる。
部下2人は横に積まれた羊皮紙を一枚ずつ読んで仕分けをしているようだった。
入室したエリに気づいて立ち上がろうとするが、エリは手で制す。
作業を続けて良いという意図を汲んでくれた部下は再びソファに腰を下ろした。
仕分けしているのは、おそらくデルクライル子爵の事件記録だろう。
「そっちも帰ってきていたのか。これで全部なのか」
先ほどの琉海との会話時の口調とは変わり仕事用の口調でスレイカに聞く。
「はい。デルクライル子爵で保管していたここ1年間の事件記録です。今、内容の確認を行っているところで、もうすぐ確認が完了するかと思います」
「それで、事件内容はどうだ?」
「窃盗の比率が多く、殺人事件や発狂した人間が暴れたような事件はありませんでした」
「そうか」
「すみません。残りの確認も終わりました」
エリとスレイカが会話している間に事件記録の確認が終わったようだ。
「どうでしたか?」
「やはり、スレイカ副長が言われていたような事件は見つかりませんでしたね」
「そうでしたか。ありがとうございます。後は私が引き継ぎますので、お二人は休憩してください」
スレイカが部下二人に指示を出すと、二人は一礼して部屋を出ていった。
部下が部屋を出るのと同時にエリは仕事モードをオフにする。
周囲に部下の目がなく、気を張る必要のない幼馴染のスレイカだけなら気を抜くことができる。
「お聞きになった通り、この町では発狂した人間が襲うような事件は発生していないようです」
ただ、スレイカは上司と部下の関係を崩そうとはせず、口調も変えなかった。
「うまくはいかないわね。まあ、帝都へ向かう間に立ち寄ることになる町もまだある。そのどこかで発生した記録があればいいわ」
「わかりました」
「予定通り、明日の朝には出発しましょう」
「あの、それが気になる記録がありまして……」
「なに?」
「こちらを」
スレイカがエリに数枚の羊皮紙を見せた。
これはデルクライル子爵家で保管されていた事件記録だった。
エリは一通り目を通す。
「なるほどね。デルクライル子爵はこれを隠したかったようね」
スレイカから渡されたのはこの町の死傷者の報告書だった。
詳細に記載されており、衛兵からの報告書だろう。
その中には、死因が餓死となっているのが多かった。
発見されている場所もどれもこの町の裏通り。
ルダマン帝国に滅ぼされたイラス王国の国民が追いやられた場所だった。
元イラス王国の領土はどこも貧富の差や差別意識は生まれていた。
それらをうまく制御して垣根をなくして統治している領土は領主の腕がかなり良いと言わざるを得ない。
しかし、この町は別格のようだ。
それも悪い方に。
餓死者が多すぎる。
「この状況が続くと暴動が起きてもおかしくないかと思います」
「デルクライル子爵はこの状況をどうするつもりなのか」
これでは、反乱の火種ができるだけだ。
他国を攻めて領土拡大なんて考えている場合ではない。
「どうするつもりなのか聞きに行きますか?」
「この資料を返すときに聞けばいいわ」
エリは机に積まれた事件記録の束を一瞥してため息を吐いた。
「では、こちらの記録は片づけますね」
「ええ、でも休憩したあとで十分よ。お昼もまだでしょ」
「はい。これを片づけたら休憩します。エリ様はお昼はとられましたか?」
「この宿から三つ隣にあるお店で食べてきたわ。そこで、良さそうな人材を見つけたのよね」
「引き込めそうですか?」
「どうだろうね。すぐには難しそうだったけど、職業は商人って言っていたから、どこかでまた会うかもしれないわね」
「勧誘相手は商人ですか? 物資の運用でもさせるんですか?」
「いや、騎士として勧誘したわ」
「騎士?」
スレイカは商人が騎士になるなんてと思っているのだろう。
「騎士にしても惜しくない戦闘能力はありそうだったのよね。それに商人って言ってたけど、本当かはわからないしね」
「そうなんですか」
エリとは幼馴染でこれまでの勧誘実績を知るスレイカは特に反対することはなかった。
エリの見る目を信頼しているのだろう。
その後、スレイカが片づけ終わるまで雑談した。
そして、スレイカの休憩後に提供してもらった事件記録を返しにデルクライル子爵の屋敷へ向かった。
戻った宿は5階建て――貴族御用達の宿だった。
泊まっている部屋は最上階。
部屋に入ると広々とした部屋となっており、寝具以外にもソファや机が置かれている。
「お帰りになりましたか」
副官であるスレイカ・シブラウスがすでに部屋にいた。
他にも部下が2人ほど部屋にいる。
部下2人は横に積まれた羊皮紙を一枚ずつ読んで仕分けをしているようだった。
入室したエリに気づいて立ち上がろうとするが、エリは手で制す。
作業を続けて良いという意図を汲んでくれた部下は再びソファに腰を下ろした。
仕分けしているのは、おそらくデルクライル子爵の事件記録だろう。
「そっちも帰ってきていたのか。これで全部なのか」
先ほどの琉海との会話時の口調とは変わり仕事用の口調でスレイカに聞く。
「はい。デルクライル子爵で保管していたここ1年間の事件記録です。今、内容の確認を行っているところで、もうすぐ確認が完了するかと思います」
「それで、事件内容はどうだ?」
「窃盗の比率が多く、殺人事件や発狂した人間が暴れたような事件はありませんでした」
「そうか」
「すみません。残りの確認も終わりました」
エリとスレイカが会話している間に事件記録の確認が終わったようだ。
「どうでしたか?」
「やはり、スレイカ副長が言われていたような事件は見つかりませんでしたね」
「そうでしたか。ありがとうございます。後は私が引き継ぎますので、お二人は休憩してください」
スレイカが部下二人に指示を出すと、二人は一礼して部屋を出ていった。
部下が部屋を出るのと同時にエリは仕事モードをオフにする。
周囲に部下の目がなく、気を張る必要のない幼馴染のスレイカだけなら気を抜くことができる。
「お聞きになった通り、この町では発狂した人間が襲うような事件は発生していないようです」
ただ、スレイカは上司と部下の関係を崩そうとはせず、口調も変えなかった。
「うまくはいかないわね。まあ、帝都へ向かう間に立ち寄ることになる町もまだある。そのどこかで発生した記録があればいいわ」
「わかりました」
「予定通り、明日の朝には出発しましょう」
「あの、それが気になる記録がありまして……」
「なに?」
「こちらを」
スレイカがエリに数枚の羊皮紙を見せた。
これはデルクライル子爵家で保管されていた事件記録だった。
エリは一通り目を通す。
「なるほどね。デルクライル子爵はこれを隠したかったようね」
スレイカから渡されたのはこの町の死傷者の報告書だった。
詳細に記載されており、衛兵からの報告書だろう。
その中には、死因が餓死となっているのが多かった。
発見されている場所もどれもこの町の裏通り。
ルダマン帝国に滅ぼされたイラス王国の国民が追いやられた場所だった。
元イラス王国の領土はどこも貧富の差や差別意識は生まれていた。
それらをうまく制御して垣根をなくして統治している領土は領主の腕がかなり良いと言わざるを得ない。
しかし、この町は別格のようだ。
それも悪い方に。
餓死者が多すぎる。
「この状況が続くと暴動が起きてもおかしくないかと思います」
「デルクライル子爵はこの状況をどうするつもりなのか」
これでは、反乱の火種ができるだけだ。
他国を攻めて領土拡大なんて考えている場合ではない。
「どうするつもりなのか聞きに行きますか?」
「この資料を返すときに聞けばいいわ」
エリは机に積まれた事件記録の束を一瞥してため息を吐いた。
「では、こちらの記録は片づけますね」
「ええ、でも休憩したあとで十分よ。お昼もまだでしょ」
「はい。これを片づけたら休憩します。エリ様はお昼はとられましたか?」
「この宿から三つ隣にあるお店で食べてきたわ。そこで、良さそうな人材を見つけたのよね」
「引き込めそうですか?」
「どうだろうね。すぐには難しそうだったけど、職業は商人って言っていたから、どこかでまた会うかもしれないわね」
「勧誘相手は商人ですか? 物資の運用でもさせるんですか?」
「いや、騎士として勧誘したわ」
「騎士?」
スレイカは商人が騎士になるなんてと思っているのだろう。
「騎士にしても惜しくない戦闘能力はありそうだったのよね。それに商人って言ってたけど、本当かはわからないしね」
「そうなんですか」
エリとは幼馴染でこれまでの勧誘実績を知るスレイカは特に反対することはなかった。
エリの見る目を信頼しているのだろう。
その後、スレイカが片づけ終わるまで雑談した。
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