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3章 ルダマン帝国編
第185話 〝剣帝〟の介入
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琉海がスミリアの家に向かっている頃。
粒子化した状態のエアリスは〝剣帝〟を追った。
エアリスに尾行されていることを知らない〝剣帝〟エリ・ルブランシュは町内が騒がしくなったことに気づき、デルクライル子爵の屋敷に向かった。
(まさか、部隊が町を離れた瞬間に暴動が起こるとはね)
屋敷の門前まで来ると門番がエリに気づく。
「えっと……剣帝様ですよね?」
早朝に町を離れたはずの〝剣帝〟が眼前いることに混乱を隠せない門番。
「ええ、デルクライル子爵と話させろ」
「は、はい!」
エリの有無を言わせない気迫に門番は焦って駆け出した。
慌ただしく門番と執事が一緒に戻ってきた。
「ど、どうぞ。お入りください」
執事が屋敷内を先導する。
エリが急いでいるのをわかっているのか早足で案内してくれた。
「剣帝様がいらっしゃいました」
執事が扉を開けて入室を促され、エリは室内に入った。
「この町の現状を把握しているか」
エリが部屋に入るなり、すぐに問い質した。
「も、もちろんです。そ、それよりも、なぜここにおられるのでしょうか」
デルクライル子爵は動揺を隠せずに目を泳がせる。
「昨日、話した通り、この町の暴動を危惧していたからだ」
部隊だけを朝に出発させ、自分だけこの町に残った。
裏町の状態を確認して反乱の予兆がないことを確認できたら、部隊を追いかける予定だった。
しかし、調査する前に起きてしまった。
「そ、そうですか……」
昨日の今日で暴動が起きたのだ。
暴動を起こす度胸はないと豪語したデルクライル子爵は気まずいのだろう。
屋敷の外が騒がしくなっているのが聞こえてくる。
この屋敷も目標なのだろう。
「暴動は軍事介入が認められる案件だ。私が介入しても問題ないな」
「い、いや、しかし――」
「問題ないな」
数秒ほどの沈黙が流れる。
デルクライル子爵の反論は許さない。
そして――
「…………はい」
絞り出すようにデルクライル子爵が了承した。
「これより、〝剣帝〟エリ・ルブランシュが暴動鎮圧に介入する」
エリはそう言い残して、部屋を後にした。
扉が閉まるとデルクライル子爵は拳を机に叩きつけた。
「くそッ!」
生活環境を削っていけば暴動が起きるのは時間の問題だったのはわかっていた。
暴動を起こさせるために元イラス国民の生活環境を悪化させていたのだから。
降伏して支配されることを承諾したイラス国民を理由もなく根絶やしにしてしまえば、領民に恐怖を植え付けてしまう。
矛先がいつ自分たちに向くのかわからず、恐怖の中で生活することを領民は望まな
いだろう。
すぐに移住してしまうことは目に見えてた。
イラス王国民を根絶やしにしたいだけのデルクライル子爵にとって、それは望まぬことだった。
だから、イラス王国民が暴動を起こし、鎮圧する名目で根絶やしにするつもりだった。
これなら移住してきたルダマン帝国民から反感を買うことはない。
しかし、予定外が発生した。
暴動の起きた日に〝剣帝〟がこの町にいることだった。
〝剣帝〟がいなければ、噂は流れてもいくらでも話をでっちあげることはできたのだが、〝剣帝〟がいることで事の顛末がすべて正確に皇帝の耳に届くだろう。
そうなれば、領地を剥奪され、地位も危うい。
「くそ……」
悪い方向への想像が膨れ上がり、デルクライル子爵はゆっくりと膝から崩れた。
エアリスの侵入に気づいていれば、デルクライル子爵の目的のひとつを達成できたかもしれないが、それを知る者はこの屋敷にはいなかった。
粒子化した状態のエアリスは〝剣帝〟を追った。
エアリスに尾行されていることを知らない〝剣帝〟エリ・ルブランシュは町内が騒がしくなったことに気づき、デルクライル子爵の屋敷に向かった。
(まさか、部隊が町を離れた瞬間に暴動が起こるとはね)
屋敷の門前まで来ると門番がエリに気づく。
「えっと……剣帝様ですよね?」
早朝に町を離れたはずの〝剣帝〟が眼前いることに混乱を隠せない門番。
「ええ、デルクライル子爵と話させろ」
「は、はい!」
エリの有無を言わせない気迫に門番は焦って駆け出した。
慌ただしく門番と執事が一緒に戻ってきた。
「ど、どうぞ。お入りください」
執事が屋敷内を先導する。
エリが急いでいるのをわかっているのか早足で案内してくれた。
「剣帝様がいらっしゃいました」
執事が扉を開けて入室を促され、エリは室内に入った。
「この町の現状を把握しているか」
エリが部屋に入るなり、すぐに問い質した。
「も、もちろんです。そ、それよりも、なぜここにおられるのでしょうか」
デルクライル子爵は動揺を隠せずに目を泳がせる。
「昨日、話した通り、この町の暴動を危惧していたからだ」
部隊だけを朝に出発させ、自分だけこの町に残った。
裏町の状態を確認して反乱の予兆がないことを確認できたら、部隊を追いかける予定だった。
しかし、調査する前に起きてしまった。
「そ、そうですか……」
昨日の今日で暴動が起きたのだ。
暴動を起こす度胸はないと豪語したデルクライル子爵は気まずいのだろう。
屋敷の外が騒がしくなっているのが聞こえてくる。
この屋敷も目標なのだろう。
「暴動は軍事介入が認められる案件だ。私が介入しても問題ないな」
「い、いや、しかし――」
「問題ないな」
数秒ほどの沈黙が流れる。
デルクライル子爵の反論は許さない。
そして――
「…………はい」
絞り出すようにデルクライル子爵が了承した。
「これより、〝剣帝〟エリ・ルブランシュが暴動鎮圧に介入する」
エリはそう言い残して、部屋を後にした。
扉が閉まるとデルクライル子爵は拳を机に叩きつけた。
「くそッ!」
生活環境を削っていけば暴動が起きるのは時間の問題だったのはわかっていた。
暴動を起こさせるために元イラス国民の生活環境を悪化させていたのだから。
降伏して支配されることを承諾したイラス国民を理由もなく根絶やしにしてしまえば、領民に恐怖を植え付けてしまう。
矛先がいつ自分たちに向くのかわからず、恐怖の中で生活することを領民は望まな
いだろう。
すぐに移住してしまうことは目に見えてた。
イラス王国民を根絶やしにしたいだけのデルクライル子爵にとって、それは望まぬことだった。
だから、イラス王国民が暴動を起こし、鎮圧する名目で根絶やしにするつもりだった。
これなら移住してきたルダマン帝国民から反感を買うことはない。
しかし、予定外が発生した。
暴動の起きた日に〝剣帝〟がこの町にいることだった。
〝剣帝〟がいなければ、噂は流れてもいくらでも話をでっちあげることはできたのだが、〝剣帝〟がいることで事の顛末がすべて正確に皇帝の耳に届くだろう。
そうなれば、領地を剥奪され、地位も危うい。
「くそ……」
悪い方向への想像が膨れ上がり、デルクライル子爵はゆっくりと膝から崩れた。
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