修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮

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3章 ルダマン帝国編

第247話 邪魔なモノの排除

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(剣術では無理か……)

 魔薬によって身体能力の差は埋められている。

 なら――

 琉海は距離を取りつつ剣での防御に徹して、攻撃は風や水の精霊術を放つ。

 精霊術による風の刃と水の弾がディルクスを襲う。

 しかし、ディルクスは被弾しても歯牙にもかけない。

 傷口は即座に癒え、何もなかったかのように傷跡がなくなる。

「はは、これは楽しいな!」

 ディルクスは自分の体から溢れてくるマナに全能感を覚えているのだろう。

 無意識に本能がマナを消費して傷を癒すものだから、死なない体を手に入れたようなものだ。

 そんな体を手に入れれば、神に選ばれたとでも錯覚してもおかしくない。

「これならもっと戦えるな!」

 切断された腕や足から新たな腕と足を生やすほどの再生力だ。

 ある程度のダメージは問題ないと無意識にわかっていたのだろう。

 琉海の攻撃で体へのダメージは回復すると確信したからか、ディルクスの攻撃は苛烈さを増す。

「チッ……」

 琉海はディルクスから聞き出さないといけないことがある。

 それには、生け捕りが必須条件になる。

 殺すなら全力の精霊術と《エンチャント》で跡形もなく殺すことはできるだろう。

 しかし、それではアンリの居場所がわからなくなってしまう。

 唯一の情報源。

 この機を逃したくはなかった。

 琉海はどうやってディルクスの戦意を挫くか考える。

 その間もディルクスの猛攻を琉海は《創造》した剣で防いでいく。

 剣同士がぶつかるたびに琉海の剣は限界に近づいていく。

 ディルクスの攻撃は激しく、新たな剣を《創造》できないでいた。

 そして、パキンッという音がする。

 琉海は再度内心で舌打ちをする。

 対してディルクスの口角は上がった。

 お互いとも《エンチャント》で剣は強化しているが、贋作である琉海の剣は攻撃されるたびに消耗していた。

 琉海は次の攻撃は持ちこたえられないと判断し、大きく距離を開けるために後ろに下がる。

「逃がすか!」

 ディルクスも琉海の剣からした限界の音は聞こえたのだろう。

 ディルクスは大きく前に踏み込む。

(簡単には時間もくれないか……)

 琉海は土の精霊術で地面から棘を生み出した。

 土でできた馬防柵のような棘。

 さらに風の精霊術で土煙を発生させて視界も遮るおまけ付きだ。

 視界が塞がれ、突然現れた棘には、ディルクスも動きを止めた。

 しかし、それは一瞬。

 《エンチャント》された剣の一振りで棘も土煙も吹き飛ばされる。

 それでも琉海にはこの一瞬で十分だった。

「時間は稼げた」

 琉海は剣を捨て、新たに剣を《創造》する。

 そして、いまの出来事で相手の戦意を挫く算段もできた。

「時間稼ぎなんて意味ねぇんだよ!」

 ディルクスは制御しきれていないマナをまき散らしながら襲い掛かってくる。

 多少のけん制になればいいと割り切って、風と水の精霊術を放つ。

 一般人なら何回死ぬかわからないような精霊術の嵐の中、雨の中を駆けるかのように気にせず突っ込んでくるディルクス。

「これぐらいなら突っ込んでくるか……」

 微かにでも集中力を欠けさせれば儲けものぐらいのものだ。

 大した期待はしていなかった。

 それよりもこの一撃をどう防ぐかだ。

 ディルクスは琉海の剣が限界を迎えていると思っているはずだ。

 ディルクスの剣の間合いに琉海を捉えると上段に構え、剣を振り下ろした。

 ありとあらゆるパワーを剣に注いだ一撃なのが自然力の流れで分かる。

 ディルクスの剣から発するマナの量は驚異的だった。

 これも琉海の剣が限界だと思い込んでいるからだろう。

 『この一撃で殺す』と無言の圧力が発せられているかのようだった。

 爆発寸前のマナの塊と化した一撃は琉海へと振り下ろされる。

 しかし――

 《木更流刀剣術》『流蓮りゅうれん』。

 唯一熟知している現世の刀剣術。

 『流蓮』は向かってくる剣に力が乗り切る前に一振りで剣の軌道を変える技だ。

「なッ……!?」

 驚きを隠せないディルクス。

 ディルクスには限界のはずと思い込んでいた剣。

 そんな限界の剣で軌道を変えられたことは予想外だったのだろう。

 お互い強化している身体能力に差はない。

 動体視力も同様だ。

 ディルクスにも琉海の剣筋は見えていたはずだ。

 しかし、その攻撃に対して何も対応しなかったのは、琉海の剣が壊れる寸前だという思い込み。

 おそらく、ディルクスの脳内ではぶつかった瞬間、剣が折れる映像でも流れていたのだろう。

 予想だにしない力が加わった剣は、軌道を変えて琉海の横を過ぎ去り地面に着弾した。

 ディルクスの剣に溜め込まれたマナが爆発し、大きなクレーターができる。

 一瞬、マナが充満して普通の人間には立ち入れない領域と化す。

 そんな中、再び剣を《創造》する琉海。

 琉海は剣の限界ギリギリまでマナを注ぎ、《エンチャント》を施す。

 剣からキーンという甲高い音が聞こえてくる。

 属性は『風』。

 切断に特化させる。

「まずはお前の武器を壊させてもらう」

 琉海は地面に突き刺さっているディルクスの剣身に振り下ろした。

 全力のマナで《エンチャント》されたディルクスの剣。

 しかし、今はそのすべてが開放されて無防備になっている。

 あれだけのマナに耐えられる剣。

 相当な名剣なのだろう。

 それでも今はただの剣。

 《エンチャント》された剣とただの剣では勝敗は明らか。

 パキンという音が二つ鳴った。

 一つはディルクスの剣。

 そして、もう一つは琉海の剣だ。

 一撃で限界を迎え、粒子になって消える。
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