脱走

ポテトバサー

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脱走

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 都会の真ん中にある動物園で、例の話が進められていた。

「オーイ、オイ。ペリカン、起きてるかい?」

 深夜、アライグマは向かいのペリカンに声をかける。

「うるさいわね…… 起きてるわよ!」

「この間の話、考えてくれたかい?」

「……えぇ、やるわよ。こっちは全員やる気よ!」

「本当に!? よし、これでまた仲間が増えぞ!」

 喜んでいるアライグマを見てペリカンは呆れた様子。

「ねぇ? 仲間が増えるのはいいんだけど、作戦の方はどうなってんのよ? 作戦がしっかりしてなきゃ、仲間を増やしても脱出なんか出来ないわよ?」

「大丈夫だって。これからまたチンパンジーさんのエリアで会議だから!」

 アライグマはニヤニヤしながらオリを抜け、チンパンジーのエリアへと向かう。

「うっ!」

 アライグマはチンパンジーのいるエリアの手前で立ち止まった。飼育員と夜間警備員がいたのである。

「……………………」

 自らのオリからは出られるのだから動物園からも、っというわけにはいかなかった。都会の真ん中に位置するため、動物が逃げ出さないよう警備は厳重。オリから出るのにもかなりの苦労があった。

「ふぅ…… 危うく見つかるところだった」

 周囲を十分に見回し、慎重にチンパンジーのエリアに入っていく。

「リーダー、こんばんは」

「おぉ、アライグマ君。よく来てくれた」

「どうやら全員集まったみたいだな……」

 渋い声を出したのはカピバラ。細い目をさらに細める。

「それでは、脱出作戦の会議をはじめる」

 チンパンジー、アライグマ、カピバラ、タカ、アルマジロ、ワラビーと動物園の各エリアの代表が集まった。

「で、何か良い案は思いついたか?」

「…………」

「……………」

「……」

「………」

 カピバラの問いかけに誰も答えられず、またカピバラ自身もそうだった。

「やっぱり我々の頭じゃ何も思い浮かばないか……」

「すまない……」

 チンパンジーがボソッともらす。

「リーダー、あなたが謝ることないですよ」

 タカがボソッと慰めると、アライグマは空気をかえようと質問をした。

「そういえばリーダー、亀じいには話を?」

「あぁ、聞きにいったよ…… だが亀じいも良い案は思いつかないそうだ。」

「そうですか……」

「動物園の中で長生きしても何も学べないと言っていたよ」

「……」

「…………」

「………」

 またしても黙り込む一同。

「うちの動物園にフクロウでもいたらなぁ、ねぇリーダー?」

「あぁ、全くだ」

 その話題にきたとき、情報収集役のリスが現れ、リーダーの肩に乗り耳打ちをした。

「みんな、たった今、リス君から朗報が入った」

「朗報ですか!」

 小さな手を叩いて喜ぶアライグマ。

「あぁ。今、アライグマ君の隣に新しいエリアを作っているだろう?」

「はい、工事は終わったようですが」

「なんと、そこに新しく入るのは、あのオラウータンだ!」

 の時点で各エリアの代表達はで大喜びしていた。人間に一番近いと言われてるあのオラウータンが来る。『必ずいい計画を練りだしてくれるに違いない!』という思いが代表達の頭をめぐる。

「そこでアライグマ君」

「はい?」

「君に交渉役を頼みたいんだが……」

「もちろん! やります!」

 二日後、そのオラウータンが動物園にやってきた。

「ん? 騒がしいな、オラウータンが到着したのか?」

 アライグマは木陰からヒョイっと出てくると、隣りのエリアに近づいていく。

「ふぁー、ようやく新しい場所に着いたか。車だ列車だ飛行機だ…… 本当に疲れる」

 オラウータンはゆっくり歩き回り、自分の新しいエリアを確認する。

「……随分と狭いな」

「あの、オラウータンさんですか?」

「ん? どこからか声がする……」

「こっちです、こっち」

「ん?」

 オラウータンは声のするほうにノソノソ近づいていく。

「おや、君はアライグマかね?」

「はい。よく知っていましたね。さすがオラウータンさんだ!」

「買いかぶりすぎだよ? 前の動物園にも君のお仲間さんがいたから知っていたんだ」

 アライグマは一度小さく咳払いをしたかと思うと、丁寧に喋りだした。

「先ほど、随分と狭い、そうおっしゃいましたよね?」

「あぁ、確かに」

「そこで一つ相談なのですが‥」

「なるほど…… 脱出計画に参加して欲しいと?」

 アライグマの口は開きっぱなしになっていた。あまりにも凄い頭の持ち主に驚きを隠せずにいる。

「脱出計画には乗るよ。で、何をすればいいんだい?」

「あの、脱出の計画を立てて欲しいんです」

「計画ね……」

「実際の動きは僕たちのほうで何とかするので、計画を……」

「わかった。けど少し時間をくれないかい? 長旅で疲れも溜まっているし、じっくり計画を練りたいからね」

「ありがとうございます! 今日の夜、さっそく皆に知らせます。あと、何か情報を集めたいときは僕かリス君に頼んでください」

「わかったよ。あぁそうだ、一つ質問があるんだ」

「なんですか?」

「脱出した後のことは考えているのかい?」

 アライグマの口は開きっぱなしになっていた。あまりにも凄い頭の持ち主に驚きを隠せずにいる。

「い、いえ…… 全く」

「いや、それならそれでいいんだ。そのことも考えておくよ」

 その日の夜、アライグマは迅速かつ慎重にチンパンジーのもとへ向かった。

「待っていたよアライグマ君! それでどうだった?」

 アライグマはいきさつを全て話した。激しいジェスチャーを織り交ぜながら。

「なるほど。いやぁ、実に頼もしい!」

 カピバラは嬉しさのあまり、さらに目を細めた。

「あっそうだ! あのリーダー!」

「ん? なんだいアライグマ君」

「オラウータンさんが、計画が出来るまでの間、個々のスキルアップ、仲間との連携、団結力を高めておいて欲しいと言っていました」

「一秒も無駄にするなということか。リス君、リス君!」

「はい! ここにいます!」

「今のことを各エリアの動物たちに伝えてくれ! 大至急だ!」

「了解しました!」

 その日から四日後、ようやく脱出計画が完成した。

「皆さん、オラウータンさんをお連れしました」

「どうも皆さん初めまして」

「あなたがオラウータン…… 初めまして私はチンパンジー、一応この脱出計画のリーダーを務めています」

「では早速……」

 脱出の計画会議は連日おこなわれ、計画の手順を暗記し、数回行われた仮想訓練も成功の連続。動物達の団結力はますます強固になり、自信もつき始めた。この脱出計画が失敗しても悔いは無い、そう思う動物たちがほとんどだろう。彼らは脱出に成功しても失敗しても動物界の歴史に消えない足跡が残せる。
 計画完成から三週間、日が昇る少し前の青い世界で、リーダーは声をあげる。

「ついに脱出のときが来た。準備はいいか!」

 リーダーの声に皆が応える。

「よし! 合図を出せ!」

 その日、ニュース番組に速報が届いた。

「えぇ、番組も終わりなのですが速報が入りました。ショート動物園で動物達の大脱走があったようです。えぇ…… しかし、脱走は失敗に終わったようですね。情報によると動物達の脱走に、三週間ほど前にロング動物園からきたオラウータンが気付いたようで、身振り手振りで飼育員に知らせたそうです。ですがコメコメさん、本当ですかね?」

「まぁオラウータンは非常に頭のいい動物で、人間に一番近いと言われてますからね、本当かもしれませんよ」

「そうですか…… ちなみにオラウータンは脱出阻止のご褒美として新しい遊具、高級バナナ、エリアの増築が与えられるようですが、コメコメさん?」

「まぁ他の動物達は脱出に失敗したが、オラウータンは狭い空間から脱出成功、といったところでしょうか」

「えぇ、本当ですね! それではまた明日」  
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