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第1章 良い台待てば当たりやすいのに

中村瑞希の朝

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 月曜日の朝、瑞希はいつも通りに目が覚めた。今日からまた長い一週間が始まる。長いのは平日だけで、土日はあっという間に感じるタイプだけど。だけれども、一昨日、昨日は違った。サイコキネシスが使えるようになったんだ。
 土曜日、12時半頃、昼ご飯を食べずに遊戯していたゲームセンターで、いつも通りに「なんかボール転がらないかな」と思っていたら、本当にボールが転がった。まさかなと思いながらも誰かのジャックポットチャンスで外れに落ちるように願ったら本当に外れた。瑞希は、念力が使えるようになったのかとにわかに思いながらも、そんな非現実的な事は起こらないという冷静な判断をし、ふと後ろのメダル落としをみたら、ここもまたジャックポットチャンスが始まっていた。もし念力が使えるのなら不自然にボールを動かすことができる。瑞希は、一番低い配当にボールが落ちるようボールの軌道もイメージしながら念じると、一瞬でその通りになった。瑞希は、念力が使えることを確信し、速やかに一目散に何も考えないように意識しながら家に帰宅し、文房具を宙に浮かし、本当に念力が使えてることを実感した。
 翌日の朝、とりあえずまだ念力が使えるか文房具で確認した。瑞希は、才能はあったとしてもいずれ必ず枯れる、特別な時間はいずれ必ず終わる、期待はいずれ必ず裏切るという想いを人より濃く持っていて、念力が使えるようになったとしてもいずれ必ず使えなくなるものだと頭では思っていてもかなり嬉しく思っていた。さて、念力でどこまでの事ができるのか試してみよう。習慣通り朝ご飯を食べずに外に出ると、少し人のいそうな場所に向かった。外で念力をする以上万が一に一人で念力をしているところを誰かに見られたくない思い、少し人のいるところで試してみようと思った。駅前のベンチに腰を掛け、目の前の路上駐車された高そうな車を持ち上げようとした。………。持ち上がらない。近くに落ちてた缶を持ち上げようとしたら、不自然に人の腰くらいの高さまで持ち上がった。慌てて念じるのを辞めるとストンと落ち、周囲の人の視線が集まった。瑞希は、気づかないフリをしてもう少し離れた所に落ちてた缶を風で飛ばされるようなイメージを持って念じた。どうやら念力は、自分の力で持ち上げられる
範囲で、自分が目視できる範囲であることが分かり、息が詰まるほどゲームに集中するときくらいに念じれば使うことができるようだ。
 念力が使えるようになったとしても、厳しい学習環境、息のつまる人間関係、とにかく時間の無駄を感じる電車通学、その他etc.、ストレスのかかる一週間が始まった。
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