1 / 1
シビトの案内人 恋華
しおりを挟む
タイトル:シビトの案内人
シノM:死んだ人間の魂は、輪廻の輪へと送られる。
その生涯の記憶は全て、
生と死を繋ぐ【狭間】の炎に焼かれ、
灰になり、
消え失せるのだ。
今日もまた深い狭間の奥底で、
1人の人間の記憶が燃えつきる。
私は、そんな魂と屍だけになった空っぽの人間の元へと、
足を進めたーー
ーーーー
屍人:ここ、は‥?
シノM:暗闇の中で、不思議そうに辺りを見回す人間の子ども。
どこか懐かしい匂いのするその人の子に、私はそっと近づき話しかけた。
シノ:ねえ、あなた。
屍人:‥だ、れ?
シノ:‥私は‥シノ。
屍人:シ、ノ?
シノ:ええ‥あなたのような、魂と屍だけに成り果てた存在、
そうね‥屍の人間‥。屍人とでも名付けましょうか。
その案内人よ。
屍人:‥‥あんない‥にん‥?
シノ:ええ、あなたは死んだ。
今からあなたを輪廻の輪に案内するわ。
屍人:りん、ね‥?
シノ:屍人は輪廻の輪に飛び込めば、生まれ変わる事ができるの。
ただ最近は、小者(こもの)の妖達が屍人を餌に、こちら側に集まっていてね。
本来なら案内人など必要ないのだけれど、
今回は私が‥あなたを輪廻の輪まで守り、案内するわ。
屍人:‥?
シノ:とにかく、立って。
ぼーっとしていると、お腹を空かせた小者達に食べられちゃうわよ。
屍人:っうわ!!
シノM:私はシビトの腕を掴み立ちあがらせる。
転げそうになりながらも、しっかりと地面を踏みしめたシビトの手を引き、
死臭が漂う不気味な世界を進みはじめた。
0:ここはいったいどこなのか。
なぜ何も思い出せないのか。
自分が何者かさえわからぬまま、屍人はただ、自分の手を優しく握る背中を追いかけた。
こうして2人きりの、道案内が始まったのだった。
ーーーーーーー
0:不気味な暗闇を進む2人。
ところとごろに鳥や動物の骨のようなものが転がっており、屍人はギュッとシノの着物を握りしめた。
シノ:あなた痩せすぎよ‥。まるで骨と皮じゃない。
それに、汚ない‥。
屍人(しびと)はね、魂がもっとも望む生前の姿をしているのだけれど。
あなた‥もう少し小綺麗な格好は無かったのかしら。
0:シノの言葉に屍人は自分の姿を確認した。
所々破けた衣服。ガサガサな触り心地の髪。確かに綺麗とは言い難い。
屍人:う、ん‥なんで、こんなボロボロなんだろう?何も、思い出せないんだ‥。
シノ:‥あなたの記憶は狭間を通る時に燃やされているから、思い出せないのは当たり前よ。
何も感じないでしょ?恐怖も不安も、喜びも‥
そして思い出さえ。
屍人:おもい、で‥
シノ:‥輪廻の輪に入れば、また色んなものが見えるようになるわ。
だから、心配しなくても大丈夫。
屍人:うん‥何も、感じない‥。でも、
シノが‥きれ、い、だってことは‥わか、るよ!
シノ:へ?
シノM:ふわりと微笑む人の子に驚く。
狭間の炎により、記憶を燃やされた人間は、何かを感じることなんて出来ないはずなのに‥。
シビトの身体に染み付いた〝ナニカが、この子を動かしているとでもいうのだろうか?
それとも‥いや、ありえない。
シノ:‥私が綺麗に見えるの‥?
屍人のくせに、変な子ね。
屍人:‥‥シノを、みてたら‥そう、おもった、から‥
シノ:っ、そう。‥ほら、立ち止まらないで。早く行くわよ。
屍人:わかっ、た‥。
シノ:狭間の奥底には屍人(しびと)を狙うコモノの妖がたくさんいるの。
輪廻の輪に入る前に魂を食べられてしまったら、この世から完全に消滅してしまうわ。そうなれば、もう生まれ変わることすらできなくなってしまう。
輪廻の輪はもうすぐよ。
早く飛び込んで生まれ変わってしまいなさい。
屍人:うん‥。でも‥みつから、ない‥
シノ:輪廻の輪は、屍人(シビト)には見えないからね。
屍人:シノ‥ちがう‥みつから、ない、んだ‥。
シノ:‥だから、輪廻の輪は、屍人にはみえないの。
屍人:シノ‥りん、ね‥ちが、う‥
ないんだ‥たいせつな‥
たい、せつ‥?それって、なに?
シノ:‥私に、聞かれても‥
屍人:たい‥せつ‥わから、ない‥。
シノ:ッ私は、知らない!
屍人:ご、ご、めん‥
シノ:‥いいから、黙ってついてきて。
屍人:っ、シノ‥ご‥めん‥
シノ:‥っ、謝らないで。
屍人:‥し、の‥
0:どこか悲しそうな表情でシノをジッと見つめる屍人(しびと)。その瞳は今にも泣きそうだ。その視線にシノは思わず狼狽えた。
シノ:う゛うっ‥
もう!‥なにが、‥ないのよ‥?
屍人:わか、ら、ない‥
シノ:はぁ!?
っ、もう‥あなたと喋っていると、頭がおかしくなりそうだわ。
何度も言うけど、あなたの記憶はすでに狭間の炎で焼き消されているの。
今はそんなものを探すより、新しい人生のことでも考えてみたら?
貧しくなく、平凡な未来の人生を‥。
屍人:‥へい、ぼん‥
シノ:そうよ。自分の畑や家を持ち、家庭を作って100歳まで生きる。
それが人間の平凡な幸せなのでしょ?
昔、ある人間がそう言っていたわ。
屍人:‥シノ‥その人のこと‥好き、なの?
シノ:っ‥別に!‥ただの嘘つきな人の子よ‥。
屍人:そ、なの‥?
シノ:ええ。大口を叩くくせに、約束を守らない人間でね。弱いくせにいつも強気で頑固なやつだったわ。
それに少し抜けてる阿呆(あほう)でもあった。
着物を裏返しに着ていたり、
毒キノコを食べようとしたり、
本当におもしろっ!ッ‥コホンッ‥本当に、呆れた人間だったわ‥。
屍人:シノ、嬉し、そう‥。
シノ:ッうるさい‥あなたが聞きたそうにしていたから、話しただけよ!
シノ:ほら、着いたわよ。
屍人:ッ、
0:ふいに立ち止まったシノの視線をたどり、見えたその景色に屍人は唖然と立ち尽くした。
薄気味悪い景色から一変し、夜空を背に妖艶に咲き乱れる一本の桜。
屍人はただその桜を見つめていた。
ナニカが見つからない‥。そんな焦りを感じながらーーー。
ーーーーーー
シノ:これが‥輪廻の輪よ。
シノM:黄泉(よみ)の木と呼ばれる薄紅色の桜が、私達を歓迎するようにざわめいた。
ふわりと揺れる彼岸花が、その幹の中心にある輪廻の輪を囲んでいる。
シノM:私は、気味の悪いその光景に不快感を覚えた。
ああ、まるで人間の葬式みたい。
私はシビトの細い腕を握って、足早に輪廻の輪へ向かう。
屍人:っシ、シノ‥‥まって‥
まだ‥みつから、な、いんだ‥っ
シノM:俯いてキョロキョロと何かを探すシビトに、私は腹が立った。
この子はどうして諦めないの?
幼いシビトの腕を引き寄せ、無理矢理虚ろな瞳と視線を合わせる。
シノ:‥いい加減にして。
屍人:シ、ノ?
シノ:さっきから何を探しているのよっ!?
屍人:‥わか、ら、ない‥でも、
見つけ、ないと‥
シノ:‥、もういいでしょ‥早く行くわよ‥。
シノM:私はシビトの腕を強く掴み、無理矢理輪廻の輪へと引きずっていく。
必死で抵抗するシビトに、怒りと悲しみと、それに似たいくつもの感情が渦巻いて、胸が張り裂けそうになった。
屍人:い、や、だ!まだ、いきたく、ないっ!
シノ:‥輪廻の輪にさえ入れば、新しい生命として生まれ変われる。
そうしたら、あなたの探し物なんてどうでもよくなる。
屍人:で、もっ!どう、しても!思い出さなきゃ、いけないん、だ!
シノ:無駄よ。あなたの記憶はもう存在しないと何度も言ったでしょ。
屍人:で、も‥
シノ:探しているものだって絶対に見つからない。だから諦めて。
屍人:で、もッ!
シノ:ッ少しは私のいうことを聞きなさいよ!!
屍人:ッ!?
シ、ノ‥?
シノ:ッ‥
訳も、分からない、くせにっ、
‥忘れているくせにっ!
ッ‥もういいでしょ‥お願いだから、行ってよ‥。
屍人:っ‥!
あ‥シノ‥
シノ:?‥なに?
屍人:あ、あれッ!!
シノ:‥だからなによ!
屍人:‥みつ、けた!
シノM:私の後ろを見て、目を輝かせるシビト。
するりと腕をすり抜けて、輪廻の輪の方へ駆けていく。
私はそんなシビトの後ろ姿を、冷たく睨みつけた。
‥ほんとうに
私の話を聞いてくれない‥。
シビトが、何を探しているのか、私には見当もつかない。
だけど、これだけは分かる。
見つからない。
見つかる筈がない。
おかしな人の子。
記憶は全て、灰になって消え失せる。
どんなに辛い出来事も、どんなに大切な思い出も‥。
私は、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくるシビトを、ただただ見つめていた。
屍人:シノ!
シノM:シビトが私を見て笑う。
目的の何かを、得意そうな顔で、私に見せつけてくる。
呆れてシビトに文句の一つでも言ってやろうとしていた私は、シビトの持つそれを見て目を見開いた。
シビトの持つそれはとても、
とても見覚えのある
赤い色だったからだ。
人間達に恐れられた、
血のような赤い色ーーー
それは、私が消し去ってしまうはずだった思い出。
この子と共に‥消し去ってしまうはずだった‥。
屍人:ん‥シノ。これ、あげる‥。
シノM:赤い花を持ち、私に笑いかけるシビト。
その姿を見た瞬間、私は記憶の中にある、ある人物の面影を重ね合わせていた。
屍人過去:これ、お前にやる!ーー
シノ:っ、なん、で‥
屍人:‥ん。
シノ:どう、してっ、
シノM:小さな手が私の腹にそれを押し付けてくる。
差し出された物を、震えた手で受け取る。
私の目と、同じ色の赤い彼岸花(ひがんばな)が、
私の手のひらの上で微笑むように揺れた。
屍人:‥りんね‥
俺を‥よん、でる‥
シノ、もう、行か、なきゃ‥
シノ:っ!?だめッ!?行かないで!!思人(シビト)ッ!!ーー
シノM:私はとっさにシビトの細い身体を抱きしめた。
真っ白なその顔が、不思議そうに私を見つめる。
屍人:シノ?‥どう、して‥?
シノM:急に抱きしめられてシビトは困惑しているようだった。
それもそうだ。先ほどまで、行けとそう言っていたのに、今度は行くなと引き止められているのだから。
シビトが震える私の背に、そっと腕を回して抱きしめてくる。
懐かしい匂いが一層強くなって、私はただ、
大切でしょうがなかった人間の友人、思人の記憶を思い出していた。
ーーーーーーーー
0:桜が咲き乱れる古びた祠。その隅に腰掛ける2人の人物の姿。
思人:なあ、なんでシノは人間を襲うんだ?
シノ過去:なによ?思人もついに私の事が怖くなったの?
思人:はは、どうせ俺はもう長くねえ。
今さら怖いものなんてないさ。
シノ過去:‥っ。
思人:それで?理由はなんなんだよ?
シノ過去:‥そうね。人の命なんて瞬く間(またたくま)に散ってしまうでしょ?
そして覚えの悪い人間達は、死して【狭間】をくぐると、私の事を簡単に忘れ去ってゆくの。
私はこの頭にきちんと覚えているというのに‥。
私を無視して、初めて会ったかのように首を傾げる。
腹立たしい。腹立たしくてしょうがない。
だからね、覚えの悪い馬鹿な人間達に、私のこの強さを、恐ろしさを、体中に刻み込んであげるの。
一生忘れられないようにね!
思人:‥ぷっ、あはは、!!
シノ過去:なっ!なぜ笑うの!?
思人:だって、お前っ!すっげえまぬけなことっ言うから!あはは!
シノ過去:まぬっーー、どこがよっ!?
思人:あははは!
シノ過去:っちょっと!シビトっ!笑わないで!
シノ過去:私はねっ、この森で1番のっ!
思人:大妖、だろ?
耳にタコができるくらい、幼い頃から何度も聞いてるよ。
シノ過去:っ‥あなたも‥どうせ‥死んだら、私を忘れる‥。
思人:はあ‥お前はほんっとに寂しがり屋だな‥。
そんなんだと、妖怪大泣き虫なんてあだ名が村中に広がりそうで俺は心配だよ。
シノ過去:なっ、そう呼んでいるのは貴方だけでしょ!‥はあ‥もう知らない‥。勝手に死んで、勝手に忘れればいいわ‥。
その時は、私もあなたとは他人゛でいてあげるから!
思人:っ、そうかよ‥。なら勝手にしろ。妖怪は気まぐれで有名だからな。
明日になれば、俺も喰われちまうかも、なんて‥
シノ過去:ッ!?ッ~この薄情者(はくじょうもの)!?
思人:いってえ!?なに、すんだよ!
シノ過去:人間は勝手よ!縁も情も無いんだから!!
思人:はあ?!お前が言ったんだろう!?
シノ過去:っもう知らない!たとえあなたが野垂れ死んでいても、私は他人のふりをして素通りしてやるから!
思人:だから勝手にしろよ‥
シノ過去:ッ!?‥ゔぅ!
思人:っ!?ちょ、はあ!?なんでお前が泣くんだよ‥!
シノ過去:ゔ‥グスッ‥しびと‥しびと!いやだ‥死んじゃやだよ思人‥ッふ、うっ‥
思人:おい‥まだ死んでねえんだけど‥妖怪大泣き虫さんよ。
シノ過去:ふ、ぅグスッゔぅ‥
思人:、お前は本当に感情が豊かな妖だな‥。
‥なあシノ。
シノ過去:グスッ‥なに?
思人:今から言うこと、よーく聞いとけよ。
シノ過去:‥?
思人:俺はな、お前のこと‥頭じゃない、魂に刻んでんだ。
シノ過去:たま、しい‥?
思人:ああ。シノの顔や声も、俺のために涙を流す‥このアホズラも。
シノ過去:な゛にいッ!?
思人:はは!冗談だよ。まあ聞けって。
お前と共に生きてきた日々全てが俺の大切な思い出となって、魂へ刻まれていく。
だから、覚悟しておけよ?
俺が死んでも‥お前の言う、世の狭間で、記憶を焼かれたとしても、
俺はお前を忘れてはやらないからな。
約束だーー。
シノ:っ、あなたは!いつもそうよ!簡単に言うけど!狭間を通ってしまったら、本当に全部無くなっちゃうんだから!‥忘れてしまったらどうしようも‥できないんだから‥。
思人:あーくそ、もう泣くなよ‥。
‥そうだな、狭間の炎に全部燃やされちまうんだよな‥。確かに何も思い出せないかもしれねえ。
だけど、全部消えちまったとしても必ず!覚えてるからお前のこと!
どんなことでも構わない。必ずだ。
そしたら、きっと俺はお前に何か合図゛を送る。
シノ:合図を‥?
思人:そうだ。合図を送ったら、俺はお前を忘れてないってことだ。だからもう泣くな!
綺麗な顔が台無しだぞ!
シノ過去:っ‥そ、そんなの‥絶対無理よ。
思人:うるせえ!いいから黙って信じとけ泣き虫!
俺は諦めが悪いんだ。知ってるだろ!
ふはは!その名の通り、何度でもシノを思い出してやるさ!
シノ過去:思人(シビト)。ーーー
思人:~っ‥だから、さ!頼むから‥俺が死んで生まれ変わっても、‥また‥
いや、やっぱなんでもねえ!
シノ過去:‥なによ、言いなさいよ?
思人:だ、だから‥俺がちゃんと約束を守ったらよ、、。
こ、これから先も!生まれ変わっても!
俺のそばにいろ!!
シノ過去:っ!
思人:‥っ、あー!やっぱこういうのはらしくねえ!
お前は泣き虫でしょうがねえ奴だからよ!俺様が側にいねえとだろ!
だからこれは俺が約束を守ったあと、お前が守るべきふたつ目の約束だ!
ぜってえ忘れんじゃねえぞ!
約束だ!シノ!ーー。
ーーーーーーーー
シノM:今でもはっきりとあなたの顔が脳裏に焼き付いている。
思人(シビト)。ーー私の大切な
愛しい人ーー
それはきっともう、私の思い出の中だけの存在で、
生前、シビトが言っていた言葉は、ただの強がりだと思っていた。
シビトは記憶を焼かれ、どうせほか人間達と同じように私を忘れる。
だから私は他人゛のふりをしてやった。
ただの案内人と空っぽな人の子。
ただそれっぽっちの存在。
‥シビトが悲しめばいいと‥
私のように苦しめばいいと‥そう思った。
それなのに‥
シノ:っ‥ああ‥。‥あなたは‥いつもそうだったわね‥。
昔から、弱いくせに諦めが悪くて‥
話を聞かなくて‥本当に世話の焼ける人の子だった‥。
屍人:‥し、の‥?
シノ:いつもいつも笑っていて、
あなたといると、毎日が楽しかった‥。
ずっとこんな日が続けばいいだなんて、
人の短き一生を知っていながら、そう願っていたほどに‥。あなたを‥
屍人:シ、ノ‥ごめ、‥よく、わから、ない‥。
シノ:ふふ‥ごめんなさい。引き止めてしまって‥。
‥ほら、行って‥?
シノM:そっとシビトの身体を離す。
私を心配そうに見つめるシビトに、不思議と笑みが溢れた。
シビトの案内はここまでよーーー。
赤い彼岸花が静かに揺れる。
ボロボロの着物に、幼い容姿。
確か貴方が私を見つけた日もそんな姿をしていたわね‥。
ーーーーーーー
過去)
読まなくていいト書き的な)幼い思人と、シノの姿。シノは古い祠の側に腰かけ、それを不思議そうに思人が見つめている。
屍人過去:なあ、お前も1人なの?
シノ過去:‥私の事が怖くないの?
屍人過去:なんで‥?凄く綺麗なのに。
シノ過去:っ、ふふ。妖の私が綺麗に見えるの?気味の悪るい人の子‥。
屍人過去:へえ、お前妖なのか。凄いな。
屍人過去:でも、想像してたのとなんだか違う‥。
屍人過去:こんなに綺麗だなんて‥
屍人過去:むしろ、俺の方がボロボロで妖怪みたいだ‥。
シノ過去:ふふ、そうね。あなたみたいな小汚い妖がいたら、一生忘れないでしょうね。
屍人過去:あっ!!なんだこの花!すげえ!はじめてみた!!
ほら見ろよ!お前の目の色にそっくりだ!!
シノ過去:なっーー小僧!!それは彼岸花(ひがんばな)よッ!?
私の事を不吉だって言いたいの!?
屍人過去:ん!これ、お前にやる!!
シノ過去:っ!ちょ、ちょっとっ!‥人の話を聞きなさいよ!!ーーー
ーーーーーーーー
シノ:ふふ‥そうよ。私が言ったのよ。すっかり忘れていたわ。
この汚ない小童(こわっぱ)の格好も、あなたからの合図だったのね。
一生忘れない゛だなんて、冗談に決まっているのに‥馬鹿な人‥。
屍人:シノ‥?
シノ:ふふ、私の負けよ。
本当に諦めの悪い頑固者。
誰よ、゛思い人、なんて名前をつけた人は‥。
そんな名をつけるから、私みたいなのを忘れずに‥思い出してしまうのよ‥。
屍人:し、の?泣いて、る、の‥?かな、し、い?だい、じょ、ぶ?
シノ:ふふ、いいえ‥違うわ。違うのよ。嬉しいの。わたし。嬉しくて温かくて涙が出たのよ。
シノM:合図は確かに受け取ったわ。
あなたは約束を守ってくれた。
それだけで十分よ。
屍人:っ、シノ、
シノM:私の側から動かないシビトの背中を、そっと押す。
シノ:さぁ、大丈夫だから行って。
屍人:う、ん‥。
シノ:ふふ、あなたの新しい人生が、
幸多き人生であらんことを‥。
大妖 黄泉先達が、その力を込めて祈りましょう。
屍人:っ‥うん!‥ありがと。シノ。
また、ね!
シノ:えぇ‥また‥。
シノM:あの世の暗闇の中で、
歪んだその輪の中に飛び込む小さな背中を見送る。
ああ、変わらない。
ふと、シビトから渡された彼岸花を見つめる。
シノ:ねえ、思人(シビト)‥
仕方がないから、あなたの約束をきいてあげるわ。
気長に
待っててあげる。
輪廻の先で、また出会える
その時までーーー
ーーーーーーー
0:古びた祠。
黒い制服を着た青年が、そっと足を踏み入れる。
大きな桜が咲き乱れて、その木の上にいた淡い髪のナニカが、ゆっくりと、真っ赤な瞳を見開いた。
思人:なあ、お前も一人なのか?綺麗な妖さん?
シノ:ええ、大切なものがみつからなくてね。だからずっと1人で探しているの。
思人:でももう遅すぎたみたいだな。ちゃんと隅々まで探したのか?痺れを切らして、大切なものから探しにきたみたいだけど?
シノ:ええ‥ええ‥どうやら、そうみたいねッ。
思人:シノ。また会えたな。
シノ:うん!ッやっと会えた!思人ーーー。
おわり。
シノM:死んだ人間の魂は、輪廻の輪へと送られる。
その生涯の記憶は全て、
生と死を繋ぐ【狭間】の炎に焼かれ、
灰になり、
消え失せるのだ。
今日もまた深い狭間の奥底で、
1人の人間の記憶が燃えつきる。
私は、そんな魂と屍だけになった空っぽの人間の元へと、
足を進めたーー
ーーーー
屍人:ここ、は‥?
シノM:暗闇の中で、不思議そうに辺りを見回す人間の子ども。
どこか懐かしい匂いのするその人の子に、私はそっと近づき話しかけた。
シノ:ねえ、あなた。
屍人:‥だ、れ?
シノ:‥私は‥シノ。
屍人:シ、ノ?
シノ:ええ‥あなたのような、魂と屍だけに成り果てた存在、
そうね‥屍の人間‥。屍人とでも名付けましょうか。
その案内人よ。
屍人:‥‥あんない‥にん‥?
シノ:ええ、あなたは死んだ。
今からあなたを輪廻の輪に案内するわ。
屍人:りん、ね‥?
シノ:屍人は輪廻の輪に飛び込めば、生まれ変わる事ができるの。
ただ最近は、小者(こもの)の妖達が屍人を餌に、こちら側に集まっていてね。
本来なら案内人など必要ないのだけれど、
今回は私が‥あなたを輪廻の輪まで守り、案内するわ。
屍人:‥?
シノ:とにかく、立って。
ぼーっとしていると、お腹を空かせた小者達に食べられちゃうわよ。
屍人:っうわ!!
シノM:私はシビトの腕を掴み立ちあがらせる。
転げそうになりながらも、しっかりと地面を踏みしめたシビトの手を引き、
死臭が漂う不気味な世界を進みはじめた。
0:ここはいったいどこなのか。
なぜ何も思い出せないのか。
自分が何者かさえわからぬまま、屍人はただ、自分の手を優しく握る背中を追いかけた。
こうして2人きりの、道案内が始まったのだった。
ーーーーーーー
0:不気味な暗闇を進む2人。
ところとごろに鳥や動物の骨のようなものが転がっており、屍人はギュッとシノの着物を握りしめた。
シノ:あなた痩せすぎよ‥。まるで骨と皮じゃない。
それに、汚ない‥。
屍人(しびと)はね、魂がもっとも望む生前の姿をしているのだけれど。
あなた‥もう少し小綺麗な格好は無かったのかしら。
0:シノの言葉に屍人は自分の姿を確認した。
所々破けた衣服。ガサガサな触り心地の髪。確かに綺麗とは言い難い。
屍人:う、ん‥なんで、こんなボロボロなんだろう?何も、思い出せないんだ‥。
シノ:‥あなたの記憶は狭間を通る時に燃やされているから、思い出せないのは当たり前よ。
何も感じないでしょ?恐怖も不安も、喜びも‥
そして思い出さえ。
屍人:おもい、で‥
シノ:‥輪廻の輪に入れば、また色んなものが見えるようになるわ。
だから、心配しなくても大丈夫。
屍人:うん‥何も、感じない‥。でも、
シノが‥きれ、い、だってことは‥わか、るよ!
シノ:へ?
シノM:ふわりと微笑む人の子に驚く。
狭間の炎により、記憶を燃やされた人間は、何かを感じることなんて出来ないはずなのに‥。
シビトの身体に染み付いた〝ナニカが、この子を動かしているとでもいうのだろうか?
それとも‥いや、ありえない。
シノ:‥私が綺麗に見えるの‥?
屍人のくせに、変な子ね。
屍人:‥‥シノを、みてたら‥そう、おもった、から‥
シノ:っ、そう。‥ほら、立ち止まらないで。早く行くわよ。
屍人:わかっ、た‥。
シノ:狭間の奥底には屍人(しびと)を狙うコモノの妖がたくさんいるの。
輪廻の輪に入る前に魂を食べられてしまったら、この世から完全に消滅してしまうわ。そうなれば、もう生まれ変わることすらできなくなってしまう。
輪廻の輪はもうすぐよ。
早く飛び込んで生まれ変わってしまいなさい。
屍人:うん‥。でも‥みつから、ない‥
シノ:輪廻の輪は、屍人(シビト)には見えないからね。
屍人:シノ‥ちがう‥みつから、ない、んだ‥。
シノ:‥だから、輪廻の輪は、屍人にはみえないの。
屍人:シノ‥りん、ね‥ちが、う‥
ないんだ‥たいせつな‥
たい、せつ‥?それって、なに?
シノ:‥私に、聞かれても‥
屍人:たい‥せつ‥わから、ない‥。
シノ:ッ私は、知らない!
屍人:ご、ご、めん‥
シノ:‥いいから、黙ってついてきて。
屍人:っ、シノ‥ご‥めん‥
シノ:‥っ、謝らないで。
屍人:‥し、の‥
0:どこか悲しそうな表情でシノをジッと見つめる屍人(しびと)。その瞳は今にも泣きそうだ。その視線にシノは思わず狼狽えた。
シノ:う゛うっ‥
もう!‥なにが、‥ないのよ‥?
屍人:わか、ら、ない‥
シノ:はぁ!?
っ、もう‥あなたと喋っていると、頭がおかしくなりそうだわ。
何度も言うけど、あなたの記憶はすでに狭間の炎で焼き消されているの。
今はそんなものを探すより、新しい人生のことでも考えてみたら?
貧しくなく、平凡な未来の人生を‥。
屍人:‥へい、ぼん‥
シノ:そうよ。自分の畑や家を持ち、家庭を作って100歳まで生きる。
それが人間の平凡な幸せなのでしょ?
昔、ある人間がそう言っていたわ。
屍人:‥シノ‥その人のこと‥好き、なの?
シノ:っ‥別に!‥ただの嘘つきな人の子よ‥。
屍人:そ、なの‥?
シノ:ええ。大口を叩くくせに、約束を守らない人間でね。弱いくせにいつも強気で頑固なやつだったわ。
それに少し抜けてる阿呆(あほう)でもあった。
着物を裏返しに着ていたり、
毒キノコを食べようとしたり、
本当におもしろっ!ッ‥コホンッ‥本当に、呆れた人間だったわ‥。
屍人:シノ、嬉し、そう‥。
シノ:ッうるさい‥あなたが聞きたそうにしていたから、話しただけよ!
シノ:ほら、着いたわよ。
屍人:ッ、
0:ふいに立ち止まったシノの視線をたどり、見えたその景色に屍人は唖然と立ち尽くした。
薄気味悪い景色から一変し、夜空を背に妖艶に咲き乱れる一本の桜。
屍人はただその桜を見つめていた。
ナニカが見つからない‥。そんな焦りを感じながらーーー。
ーーーーーー
シノ:これが‥輪廻の輪よ。
シノM:黄泉(よみ)の木と呼ばれる薄紅色の桜が、私達を歓迎するようにざわめいた。
ふわりと揺れる彼岸花が、その幹の中心にある輪廻の輪を囲んでいる。
シノM:私は、気味の悪いその光景に不快感を覚えた。
ああ、まるで人間の葬式みたい。
私はシビトの細い腕を握って、足早に輪廻の輪へ向かう。
屍人:っシ、シノ‥‥まって‥
まだ‥みつから、な、いんだ‥っ
シノM:俯いてキョロキョロと何かを探すシビトに、私は腹が立った。
この子はどうして諦めないの?
幼いシビトの腕を引き寄せ、無理矢理虚ろな瞳と視線を合わせる。
シノ:‥いい加減にして。
屍人:シ、ノ?
シノ:さっきから何を探しているのよっ!?
屍人:‥わか、ら、ない‥でも、
見つけ、ないと‥
シノ:‥、もういいでしょ‥早く行くわよ‥。
シノM:私はシビトの腕を強く掴み、無理矢理輪廻の輪へと引きずっていく。
必死で抵抗するシビトに、怒りと悲しみと、それに似たいくつもの感情が渦巻いて、胸が張り裂けそうになった。
屍人:い、や、だ!まだ、いきたく、ないっ!
シノ:‥輪廻の輪にさえ入れば、新しい生命として生まれ変われる。
そうしたら、あなたの探し物なんてどうでもよくなる。
屍人:で、もっ!どう、しても!思い出さなきゃ、いけないん、だ!
シノ:無駄よ。あなたの記憶はもう存在しないと何度も言ったでしょ。
屍人:で、も‥
シノ:探しているものだって絶対に見つからない。だから諦めて。
屍人:で、もッ!
シノ:ッ少しは私のいうことを聞きなさいよ!!
屍人:ッ!?
シ、ノ‥?
シノ:ッ‥
訳も、分からない、くせにっ、
‥忘れているくせにっ!
ッ‥もういいでしょ‥お願いだから、行ってよ‥。
屍人:っ‥!
あ‥シノ‥
シノ:?‥なに?
屍人:あ、あれッ!!
シノ:‥だからなによ!
屍人:‥みつ、けた!
シノM:私の後ろを見て、目を輝かせるシビト。
するりと腕をすり抜けて、輪廻の輪の方へ駆けていく。
私はそんなシビトの後ろ姿を、冷たく睨みつけた。
‥ほんとうに
私の話を聞いてくれない‥。
シビトが、何を探しているのか、私には見当もつかない。
だけど、これだけは分かる。
見つからない。
見つかる筈がない。
おかしな人の子。
記憶は全て、灰になって消え失せる。
どんなに辛い出来事も、どんなに大切な思い出も‥。
私は、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくるシビトを、ただただ見つめていた。
屍人:シノ!
シノM:シビトが私を見て笑う。
目的の何かを、得意そうな顔で、私に見せつけてくる。
呆れてシビトに文句の一つでも言ってやろうとしていた私は、シビトの持つそれを見て目を見開いた。
シビトの持つそれはとても、
とても見覚えのある
赤い色だったからだ。
人間達に恐れられた、
血のような赤い色ーーー
それは、私が消し去ってしまうはずだった思い出。
この子と共に‥消し去ってしまうはずだった‥。
屍人:ん‥シノ。これ、あげる‥。
シノM:赤い花を持ち、私に笑いかけるシビト。
その姿を見た瞬間、私は記憶の中にある、ある人物の面影を重ね合わせていた。
屍人過去:これ、お前にやる!ーー
シノ:っ、なん、で‥
屍人:‥ん。
シノ:どう、してっ、
シノM:小さな手が私の腹にそれを押し付けてくる。
差し出された物を、震えた手で受け取る。
私の目と、同じ色の赤い彼岸花(ひがんばな)が、
私の手のひらの上で微笑むように揺れた。
屍人:‥りんね‥
俺を‥よん、でる‥
シノ、もう、行か、なきゃ‥
シノ:っ!?だめッ!?行かないで!!思人(シビト)ッ!!ーー
シノM:私はとっさにシビトの細い身体を抱きしめた。
真っ白なその顔が、不思議そうに私を見つめる。
屍人:シノ?‥どう、して‥?
シノM:急に抱きしめられてシビトは困惑しているようだった。
それもそうだ。先ほどまで、行けとそう言っていたのに、今度は行くなと引き止められているのだから。
シビトが震える私の背に、そっと腕を回して抱きしめてくる。
懐かしい匂いが一層強くなって、私はただ、
大切でしょうがなかった人間の友人、思人の記憶を思い出していた。
ーーーーーーーー
0:桜が咲き乱れる古びた祠。その隅に腰掛ける2人の人物の姿。
思人:なあ、なんでシノは人間を襲うんだ?
シノ過去:なによ?思人もついに私の事が怖くなったの?
思人:はは、どうせ俺はもう長くねえ。
今さら怖いものなんてないさ。
シノ過去:‥っ。
思人:それで?理由はなんなんだよ?
シノ過去:‥そうね。人の命なんて瞬く間(またたくま)に散ってしまうでしょ?
そして覚えの悪い人間達は、死して【狭間】をくぐると、私の事を簡単に忘れ去ってゆくの。
私はこの頭にきちんと覚えているというのに‥。
私を無視して、初めて会ったかのように首を傾げる。
腹立たしい。腹立たしくてしょうがない。
だからね、覚えの悪い馬鹿な人間達に、私のこの強さを、恐ろしさを、体中に刻み込んであげるの。
一生忘れられないようにね!
思人:‥ぷっ、あはは、!!
シノ過去:なっ!なぜ笑うの!?
思人:だって、お前っ!すっげえまぬけなことっ言うから!あはは!
シノ過去:まぬっーー、どこがよっ!?
思人:あははは!
シノ過去:っちょっと!シビトっ!笑わないで!
シノ過去:私はねっ、この森で1番のっ!
思人:大妖、だろ?
耳にタコができるくらい、幼い頃から何度も聞いてるよ。
シノ過去:っ‥あなたも‥どうせ‥死んだら、私を忘れる‥。
思人:はあ‥お前はほんっとに寂しがり屋だな‥。
そんなんだと、妖怪大泣き虫なんてあだ名が村中に広がりそうで俺は心配だよ。
シノ過去:なっ、そう呼んでいるのは貴方だけでしょ!‥はあ‥もう知らない‥。勝手に死んで、勝手に忘れればいいわ‥。
その時は、私もあなたとは他人゛でいてあげるから!
思人:っ、そうかよ‥。なら勝手にしろ。妖怪は気まぐれで有名だからな。
明日になれば、俺も喰われちまうかも、なんて‥
シノ過去:ッ!?ッ~この薄情者(はくじょうもの)!?
思人:いってえ!?なに、すんだよ!
シノ過去:人間は勝手よ!縁も情も無いんだから!!
思人:はあ?!お前が言ったんだろう!?
シノ過去:っもう知らない!たとえあなたが野垂れ死んでいても、私は他人のふりをして素通りしてやるから!
思人:だから勝手にしろよ‥
シノ過去:ッ!?‥ゔぅ!
思人:っ!?ちょ、はあ!?なんでお前が泣くんだよ‥!
シノ過去:ゔ‥グスッ‥しびと‥しびと!いやだ‥死んじゃやだよ思人‥ッふ、うっ‥
思人:おい‥まだ死んでねえんだけど‥妖怪大泣き虫さんよ。
シノ過去:ふ、ぅグスッゔぅ‥
思人:、お前は本当に感情が豊かな妖だな‥。
‥なあシノ。
シノ過去:グスッ‥なに?
思人:今から言うこと、よーく聞いとけよ。
シノ過去:‥?
思人:俺はな、お前のこと‥頭じゃない、魂に刻んでんだ。
シノ過去:たま、しい‥?
思人:ああ。シノの顔や声も、俺のために涙を流す‥このアホズラも。
シノ過去:な゛にいッ!?
思人:はは!冗談だよ。まあ聞けって。
お前と共に生きてきた日々全てが俺の大切な思い出となって、魂へ刻まれていく。
だから、覚悟しておけよ?
俺が死んでも‥お前の言う、世の狭間で、記憶を焼かれたとしても、
俺はお前を忘れてはやらないからな。
約束だーー。
シノ:っ、あなたは!いつもそうよ!簡単に言うけど!狭間を通ってしまったら、本当に全部無くなっちゃうんだから!‥忘れてしまったらどうしようも‥できないんだから‥。
思人:あーくそ、もう泣くなよ‥。
‥そうだな、狭間の炎に全部燃やされちまうんだよな‥。確かに何も思い出せないかもしれねえ。
だけど、全部消えちまったとしても必ず!覚えてるからお前のこと!
どんなことでも構わない。必ずだ。
そしたら、きっと俺はお前に何か合図゛を送る。
シノ:合図を‥?
思人:そうだ。合図を送ったら、俺はお前を忘れてないってことだ。だからもう泣くな!
綺麗な顔が台無しだぞ!
シノ過去:っ‥そ、そんなの‥絶対無理よ。
思人:うるせえ!いいから黙って信じとけ泣き虫!
俺は諦めが悪いんだ。知ってるだろ!
ふはは!その名の通り、何度でもシノを思い出してやるさ!
シノ過去:思人(シビト)。ーーー
思人:~っ‥だから、さ!頼むから‥俺が死んで生まれ変わっても、‥また‥
いや、やっぱなんでもねえ!
シノ過去:‥なによ、言いなさいよ?
思人:だ、だから‥俺がちゃんと約束を守ったらよ、、。
こ、これから先も!生まれ変わっても!
俺のそばにいろ!!
シノ過去:っ!
思人:‥っ、あー!やっぱこういうのはらしくねえ!
お前は泣き虫でしょうがねえ奴だからよ!俺様が側にいねえとだろ!
だからこれは俺が約束を守ったあと、お前が守るべきふたつ目の約束だ!
ぜってえ忘れんじゃねえぞ!
約束だ!シノ!ーー。
ーーーーーーーー
シノM:今でもはっきりとあなたの顔が脳裏に焼き付いている。
思人(シビト)。ーー私の大切な
愛しい人ーー
それはきっともう、私の思い出の中だけの存在で、
生前、シビトが言っていた言葉は、ただの強がりだと思っていた。
シビトは記憶を焼かれ、どうせほか人間達と同じように私を忘れる。
だから私は他人゛のふりをしてやった。
ただの案内人と空っぽな人の子。
ただそれっぽっちの存在。
‥シビトが悲しめばいいと‥
私のように苦しめばいいと‥そう思った。
それなのに‥
シノ:っ‥ああ‥。‥あなたは‥いつもそうだったわね‥。
昔から、弱いくせに諦めが悪くて‥
話を聞かなくて‥本当に世話の焼ける人の子だった‥。
屍人:‥し、の‥?
シノ:いつもいつも笑っていて、
あなたといると、毎日が楽しかった‥。
ずっとこんな日が続けばいいだなんて、
人の短き一生を知っていながら、そう願っていたほどに‥。あなたを‥
屍人:シ、ノ‥ごめ、‥よく、わから、ない‥。
シノ:ふふ‥ごめんなさい。引き止めてしまって‥。
‥ほら、行って‥?
シノM:そっとシビトの身体を離す。
私を心配そうに見つめるシビトに、不思議と笑みが溢れた。
シビトの案内はここまでよーーー。
赤い彼岸花が静かに揺れる。
ボロボロの着物に、幼い容姿。
確か貴方が私を見つけた日もそんな姿をしていたわね‥。
ーーーーーーー
過去)
読まなくていいト書き的な)幼い思人と、シノの姿。シノは古い祠の側に腰かけ、それを不思議そうに思人が見つめている。
屍人過去:なあ、お前も1人なの?
シノ過去:‥私の事が怖くないの?
屍人過去:なんで‥?凄く綺麗なのに。
シノ過去:っ、ふふ。妖の私が綺麗に見えるの?気味の悪るい人の子‥。
屍人過去:へえ、お前妖なのか。凄いな。
屍人過去:でも、想像してたのとなんだか違う‥。
屍人過去:こんなに綺麗だなんて‥
屍人過去:むしろ、俺の方がボロボロで妖怪みたいだ‥。
シノ過去:ふふ、そうね。あなたみたいな小汚い妖がいたら、一生忘れないでしょうね。
屍人過去:あっ!!なんだこの花!すげえ!はじめてみた!!
ほら見ろよ!お前の目の色にそっくりだ!!
シノ過去:なっーー小僧!!それは彼岸花(ひがんばな)よッ!?
私の事を不吉だって言いたいの!?
屍人過去:ん!これ、お前にやる!!
シノ過去:っ!ちょ、ちょっとっ!‥人の話を聞きなさいよ!!ーーー
ーーーーーーーー
シノ:ふふ‥そうよ。私が言ったのよ。すっかり忘れていたわ。
この汚ない小童(こわっぱ)の格好も、あなたからの合図だったのね。
一生忘れない゛だなんて、冗談に決まっているのに‥馬鹿な人‥。
屍人:シノ‥?
シノ:ふふ、私の負けよ。
本当に諦めの悪い頑固者。
誰よ、゛思い人、なんて名前をつけた人は‥。
そんな名をつけるから、私みたいなのを忘れずに‥思い出してしまうのよ‥。
屍人:し、の?泣いて、る、の‥?かな、し、い?だい、じょ、ぶ?
シノ:ふふ、いいえ‥違うわ。違うのよ。嬉しいの。わたし。嬉しくて温かくて涙が出たのよ。
シノM:合図は確かに受け取ったわ。
あなたは約束を守ってくれた。
それだけで十分よ。
屍人:っ、シノ、
シノM:私の側から動かないシビトの背中を、そっと押す。
シノ:さぁ、大丈夫だから行って。
屍人:う、ん‥。
シノ:ふふ、あなたの新しい人生が、
幸多き人生であらんことを‥。
大妖 黄泉先達が、その力を込めて祈りましょう。
屍人:っ‥うん!‥ありがと。シノ。
また、ね!
シノ:えぇ‥また‥。
シノM:あの世の暗闇の中で、
歪んだその輪の中に飛び込む小さな背中を見送る。
ああ、変わらない。
ふと、シビトから渡された彼岸花を見つめる。
シノ:ねえ、思人(シビト)‥
仕方がないから、あなたの約束をきいてあげるわ。
気長に
待っててあげる。
輪廻の先で、また出会える
その時までーーー
ーーーーーーー
0:古びた祠。
黒い制服を着た青年が、そっと足を踏み入れる。
大きな桜が咲き乱れて、その木の上にいた淡い髪のナニカが、ゆっくりと、真っ赤な瞳を見開いた。
思人:なあ、お前も一人なのか?綺麗な妖さん?
シノ:ええ、大切なものがみつからなくてね。だからずっと1人で探しているの。
思人:でももう遅すぎたみたいだな。ちゃんと隅々まで探したのか?痺れを切らして、大切なものから探しにきたみたいだけど?
シノ:ええ‥ええ‥どうやら、そうみたいねッ。
思人:シノ。また会えたな。
シノ:うん!ッやっと会えた!思人ーーー。
おわり。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる