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シビトの案内人 恋華

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タイトル:シビトの案内人 


シノM:死んだ人間の魂は、輪廻の輪へと送られる。

その生涯の記憶は全て、
生と死を繋ぐ【狭間はざま】の炎に焼かれ、
灰になり、
消え失せるのだ。

今日もまた深い狭間の奥底で、
1人の人間の記憶が燃えつきる。

私は、そんなたましいしかばねだけになった空っぽの人間の元へと、

足を進めたーー



ーーーー

屍人:ここ、は‥?

シノM:暗闇の中で、不思議そうに辺りを見回す人間の子ども。

どこか懐かしい匂いのするその人の子に、私はそっと近づき話しかけた。

シノ:ねえ、あなた。

屍人:‥だ、れ?

シノ:‥私は‥シノ。

屍人:シ、ノ?

シノ:ええ‥あなたのような、魂と屍だけに成り果てた存在、

そうね‥しかばねの人間‥。屍人しびととでも名付けましょうか。
その案内人よ。

屍人:‥‥あんない‥にん‥?

シノ:ええ、あなたは死んだ。
今からあなたを輪廻の輪に案内するわ。

屍人:りん、ね‥?

シノ:屍人しびとは輪廻の輪に飛び込めば、生まれ変わる事ができるの。

ただ最近は、小者(こもの)の妖達あやかしたち屍人しびとに、こちら側に集まっていてね。

本来なら案内人など必要ないのだけれど、
今回は私が‥あなたを輪廻の輪まで守り、案内するわ。

屍人:‥?

シノ:とにかく、立って。
ぼーっとしていると、お腹を空かせた小者こもの達に食べられちゃうわよ。

屍人:っうわ!!

シノM:私はシビトの腕を掴み立ちあがらせる。

転げそうになりながらも、しっかりと地面を踏みしめたシビトの手を引き、
死臭が漂うただよう不気味な世界を進みはじめた。


0:ここはいったいどこなのか。
なぜ何も思い出せないのか。

自分が何者かさえわからぬまま、屍人はただ、自分の手を優しく握る背中を追いかけた。

こうして2人きりの、道案内が始まったのだった。




ーーーーーーー



0:不気味な暗闇を進む2人。
ところとごろに鳥や動物の骨のようなものが転がっており、屍人はギュッとシノの着物を握りしめた。


シノ:あなた痩せすぎよ‥。まるで骨と皮じゃない。
それに、汚ない‥。

屍人(しびと)はね、魂がもっとも望む生前の姿をしているのだけれど。
あなた‥もう少し小綺麗な格好は無かったのかしら。


0:シノの言葉に屍人は自分の姿を確認した。
所々破けた衣服。ガサガサな触り心地の髪。確かに綺麗とは言い難い。


屍人:う、ん‥なんで、こんなボロボロなんだろう?何も、思い出せないんだ‥。

シノ:‥あなたの記憶は狭間を通る時に燃やされているから、思い出せないのは当たり前よ。

何も感じないでしょ?恐怖も不安も、喜びも‥
そして思い出さえ。


屍人:おもい、で‥

シノ:‥輪廻の輪に入れば、また色んなものが見えるようになるわ。

だから、心配しなくても大丈夫。

屍人:うん‥何も、感じない‥。でも、
シノが‥きれ、い、だってことは‥わか、るよ!

シノ:へ?

シノM:ふわりと微笑む人の子に驚く。

狭間の炎により、記憶を燃やされた人間は、何かを感じることなんて出来ないはずなのに‥。

シビトの身体に染み付いた〝ナニカが、この子を動かしているとでもいうのだろうか?

それとも‥いや、ありえない。


シノ:‥私が綺麗に見えるの‥?
屍人のくせに、変な子ね。

屍人:‥‥シノを、みてたら‥そう、おもった、から‥

シノ:っ、そう。‥ほら、立ち止まらないで。早く行くわよ。

屍人:わかっ、た‥。

シノ:狭間の奥底には屍人(しびと)を狙うコモノの妖がたくさんいるの。

輪廻の輪に入る前に魂を食べられてしまったら、この世から完全に消滅してしまうわ。そうなれば、もう生まれ変わることすらできなくなってしまう。

輪廻の輪はもうすぐよ。
早く飛び込んで生まれ変わってしまいなさい。

屍人:うん‥。でも‥みつから、ない‥

シノ:輪廻の輪は、屍人(シビト)には見えないからね。

屍人:シノ‥ちがう‥みつから、ない、んだ‥。

シノ:‥だから、輪廻の輪は、屍人にはみえないの。

屍人:シノ‥りん、ね‥ちが、う‥

ないんだ‥たいせつな‥
たい、せつ‥?それって、なに?

シノ:‥私に、聞かれても‥

屍人:たい‥せつ‥わから、ない‥。

シノ:ッ私は、知らない!

屍人:ご、ご、めん‥

シノ:‥いいから、黙ってついてきて。

屍人:っ、シノ‥ご‥めん‥

シノ:‥っ、謝らないで。

屍人:‥し、の‥


0:どこか悲しそうな表情でシノをジッと見つめる屍人(しびと)。その瞳は今にも泣きそうだ。その視線にシノは思わず狼狽えたうろたえた


シノ:う゛うっ‥

もう!‥なにが、‥ないのよ‥?


屍人:わか、ら、ない‥

シノ:はぁ!?
っ、もう‥あなたと喋っていると、頭がおかしくなりそうだわ。

何度も言うけど、あなたの記憶はすでに狭間の炎で焼き消されているの。

今はそんなものを探すより、新しい人生のことでも考えてみたら?

貧しくなく、平凡な未来の人生を‥。

屍人:‥へい、ぼん‥

シノ:そうよ。自分の畑や家を持ち、家庭を作って100歳まで生きる。

それが人間の平凡な幸せなのでしょ?

昔、ある人間がそう言っていたわ。


屍人:‥シノ‥その人のこと‥好き、なの?

シノ:っ‥別に!‥ただの嘘つきな人の子よ‥。

屍人:そ、なの‥?

シノ:ええ。大口を叩くおおくちをたたくくせに、約束を守らない人間でね。弱いくせにいつも強気で頑固なやつだったわ。

それに少し抜けてる阿呆(あほう)でもあった。

着物を裏返しに着ていたり、
毒キノコを食べようとしたり、
本当におもしろっ!ッ‥コホンッ‥本当に、呆れた人間だったわ‥。

屍人:シノ、嬉し、そう‥。

シノ:ッうるさい‥あなたが聞きたそうにしていたから、話しただけよ!

シノ:ほら、着いたわよ。

屍人:ッ、


0:ふいに立ち止まったシノの視線をたどり、見えたその景色に屍人は唖然と立ち尽くした。

薄気味悪い景色から一変し、夜空を背に妖艶に咲き乱れる一本の桜。

屍人はただその桜を見つめていた。

が見つからない‥。そんな焦りを感じながらーーー。





ーーーーーー




シノ:これが‥輪廻の輪よ。

シノM:黄泉(よみ)の木と呼ばれる薄紅色の桜が、私達を歓迎するようにざわめいた。

ふわりと揺れる彼岸花が、そのみきの中心にある輪廻の輪を囲んでいる。

シノM:私は、気味の悪いその光景に不快感を覚えた。
ああ、まるで人間の葬式みたい。

私はシビトの細い腕を握って、足早に輪廻の輪へ向かう。

屍人:っシ、シノ‥‥まって‥
まだ‥みつから、な、いんだ‥っ

シノM:俯いてキョロキョロと何かを探すシビトに、私は腹が立った。

この子はどうして諦めないの?

幼いシビトの腕を引き寄せ、無理矢理虚ろな瞳と視線を合わせる。

シノ:‥いい加減にして。

屍人:シ、ノ?

シノ:さっきから何を探しているのよっ!?

屍人:‥わか、ら、ない‥でも、

見つけ、ないと‥

シノ:‥、もういいでしょ‥早く行くわよ‥。

シノM:私はシビトの腕を強く掴み、無理矢理輪廻の輪へと引きずっていく。

必死で抵抗するシビトに、怒りと悲しみと、それに似たいくつもの感情が渦巻いて、胸が張り裂けそうになった。


屍人:い、や、だ!まだ、いきたく、ないっ!

シノ:‥輪廻の輪にさえ入れば、新しい生命として生まれ変われる。

そうしたら、あなたの探し物なんてどうでもよくなる。


屍人:で、もっ!どう、しても!思い出さなきゃ、いけないん、だ!

シノ:無駄よ。あなたの記憶はもう存在しないと何度も言ったでしょ。

屍人:で、も‥

シノ:探しているものだって絶対に見つからない。だから諦めて。

屍人:で、もッ!

シノ:ッ少しは私のいうことを聞きなさいよ!!

屍人:ッ!?

シ、ノ‥?


シノ:ッ‥
訳も、分からない、くせにっ、
‥忘れているくせにっ!

ッ‥もういいでしょ‥お願いだから、行ってよ‥。

屍人:っ‥!
あ‥シノ‥

シノ:?‥なに?

屍人:あ、あれッ!!

シノ:‥だからなによ!

屍人:‥みつ、けた!

シノM:私の後ろを見て、目を輝かせるシビト。

するりと腕をすり抜けて、輪廻の輪の方へ駆けていく。

私はそんなシビトの後ろ姿を、冷たく睨みつけた。

‥ほんとうに
私の話を聞いてくれない‥。

シビトが、何を探しているのか、私には見当もつかない。
だけど、これだけは分かる。
見つからない。
見つかる筈がない。
おかしな人の子。
記憶は全て、灰になって消え失せる。

どんなに辛い出来事も、どんなに大切な思い出も‥。

私は、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくるシビトを、ただただ見つめていた。

屍人:シノ!

シノM:シビトが私を見て笑う。
目的の何かを、得意そうな顔で、私に見せつけてくる。

呆れてシビトに文句の一つでも言ってやろうとしていた私は、シビトの持つそれを見て目を見開いた。


シビトの持つそれはとても、
とても見覚えのある
赤い色だったからだ。
人間達に恐れられた、
血のような赤い色ーーー

それは、私が消し去ってしまうはずだった思い出。

この子と共に‥消し去ってしまうはずだった‥。

屍人:ん‥シノ。これ、あげる‥。

シノM:赤い花を持ち、私に笑いかけるシビト。
その姿を見た瞬間、私は記憶の中にある、ある人物の面影を重ね合わせていた。



屍人過去:これ、お前にやる!ーー




シノ:っ、なん、で‥

屍人:‥ん。

シノ:どう、してっ、

シノM:小さな手が私の腹にそれを押し付けてくる。
差し出された物を、震えた手で受け取る。

私の目と、同じ色の赤い彼岸花(ひがんばな)が、
私の手のひらの上で微笑むように揺れた。


屍人:‥りんね‥

俺を‥よん、でる‥

シノ、もう、行か、なきゃ‥

シノ:っ!?だめッ!?行かないで!!思人(シビト)ッ!!ーー

シノM:私はとっさにシビトの細い身体を抱きしめた。

真っ白なその顔が、不思議そうに私を見つめる。

屍人:シノ?‥どう、して‥?

シノM:急に抱きしめられてシビトは困惑しているようだった。

それもそうだ。先ほどまで、行けとそう言っていたのに、今度は行くなと引き止められているのだから。

シビトが震える私の背に、そっと腕を回して抱きしめてくる。

懐かしい匂いが一層強くなって、私はただ、
大切でしょうがなかった人間の友人、思人しびとの記憶を思い出していた。


ーーーーーーーー


0:桜が咲き乱れる古びた祠。その隅に腰掛ける2人の人物の姿。

思人:なあ、なんでシノは人間を襲うんだ?

シノ過去:なによ?思人もついに私の事が怖くなったの?

思人:はは、どうせ俺はもう長くねえ。
今さら怖いものなんてないさ。

シノ過去:‥っ。

思人:それで?理由はなんなんだよ?

シノ過去:‥そうね。人の命なんて瞬く間(またたくま)に散ってしまうでしょ?

そして覚えの悪い人間達は、死して【狭間】をくぐると、私の事を簡単に忘れ去ってゆくの。

私はこの頭にきちんと覚えているというのに‥。
私を無視して、初めて会ったかのように首を傾げる。
腹立たしい。腹立たしくてしょうがない。

だからね、覚えの悪い馬鹿な人間達に、私のこの強さを、恐ろしさを、体中に刻み込んであげるの。
一生忘れられないようにね!

思人:‥ぷっ、あはは、!!

シノ過去:なっ!なぜ笑うの!?

思人:だって、お前っ!すっげえまぬけなことっ言うから!あはは!

シノ過去:まぬっーー、どこがよっ!?

思人:あははは!

シノ過去:っちょっと!シビトっ!笑わないで!

シノ過去:私はねっ、この森で1番のっ!

思人:大妖おおあかやし、だろ?
耳にタコができるくらい、幼い頃から何度も聞いてるよ。

シノ過去:っ‥あなたも‥どうせ‥死んだら、私を忘れる‥。

思人:はあ‥お前はほんっとに寂しがり屋だな‥。
そんなんだと、妖怪大泣き虫なんてあだ名が村中に広がりそうで俺は心配だよ。

シノ過去:なっ、そう呼んでいるのは貴方だけでしょ!‥はあ‥もう知らない‥。勝手に死んで、勝手に忘れればいいわ‥。
その時は、私もあなたとは他人゛でいてあげるから!

思人:っ、そうかよ‥。なら勝手にしろ。妖怪は気まぐれで有名だからな。
明日になれば、俺も喰われちまうかも、なんて‥

シノ過去:ッ!?ッ~この薄情者(はくじょうもの)!?

思人:いってえ!?なに、すんだよ!

シノ過去:人間は勝手よ!えにしじょうも無いんだから!!

思人:はあ?!お前が言ったんだろう!?

シノ過去:っもう知らない!たとえあなたが野垂れ死んでいても、私は他人のふりをして素通りしてやるから!

思人:だから勝手にしろよ‥

シノ過去:ッ!?‥ゔぅ!

思人:っ!?ちょ、はあ!?なんでお前が泣くんだよ‥!

シノ過去:ゔ‥グスッ‥しびと‥しびと!いやだ‥死んじゃやだよ思人‥ッふ、うっ‥

思人:おい‥まだ死んでねえんだけど‥妖怪大泣き虫さんよ。

シノ過去:ふ、ぅグスッゔぅ‥

思人:、お前は本当に感情が豊かな妖だな‥。

‥なあシノ。

シノ過去:グスッ‥なに?

思人:今から言うこと、よーく聞いとけよ。

シノ過去:‥?

思人:俺はな、お前のこと‥頭じゃない、魂に刻んでんだ。

シノ過去:たま、しい‥?

思人:ああ。シノの顔や声も、俺のために涙を流す‥このアホズラも。

シノ過去:な゛にいッ!?

思人:はは!冗談だよ。まあ聞けって。

お前と共に生きてきた日々全てが俺の大切な思い出となって、魂へ刻まれていく。

だから、覚悟しておけよ?
俺が死んでも‥お前の言う、世の狭間で、記憶を焼かれたとしても、
俺はお前を忘れてはやらないからな。

約束だーー。


シノ:っ、あなたは!いつもそうよ!簡単に言うけど!狭間を通ってしまったら、本当に全部無くなっちゃうんだから!‥忘れてしまったらどうしようも‥できないんだから‥。

思人:あーくそ、もう泣くなよ‥。
‥そうだな、狭間の炎に全部燃やされちまうんだよな‥。確かに何も思い出せないかもしれねえ。

だけど、全部消えちまったとしても必ず!覚えてるからお前のこと!
どんなことでも構わない。必ずだ。
そしたら、きっと俺はお前に何か合図゛を送る。

シノ:合図を‥?

思人:そうだ。合図を送ったら、俺はお前を忘れてないってことだ。だからもう泣くな!
綺麗な顔が台無しだぞ!

シノ過去:っ‥そ、そんなの‥絶対無理よ。

思人:うるせえ!いいから黙って信じとけ泣き虫!
俺は諦めが悪いんだ。知ってるだろ!
ふはは!その名の通り、何度でもシノを思い出してやるさ!

シノ過去:思人(シビト)。ーーー

思人:~っ‥だから、さ!頼むから‥俺が死んで生まれ変わっても、‥また‥
いや、やっぱなんでもねえ!

シノ過去:‥なによ、言いなさいよ?

思人:だ、だから‥俺がちゃんと約束を守ったらよ、、。

こ、これから先も!生まれ変わっても!
俺のそばにいろ!!

シノ過去:っ!

思人:‥っ、あー!やっぱこういうのはらしくねえ!
お前は泣き虫でしょうがねえ奴だからよ!俺様が側にいねえとだろ!
だからこれは俺が約束を守ったあと、お前が守るべきふたつ目の約束だ!

ぜってえ忘れんじゃねえぞ!
約束だ!シノ!ーー。



ーーーーーーーー



シノM:今でもはっきりとあなたの顔が脳裏に焼き付いている。

思人(シビト)。ーー私の大切な
愛しい人ーー

それはきっともう、私の思い出の中だけの存在で、
生前、シビトが言っていた言葉は、ただの強がりだと思っていた。

シビトは記憶を焼かれ、どうせほか人間達と同じように私を忘れる。

だから私は他人゛のふりをしてやった。
ただの案内人と空っぽな人の子。

ただそれっぽっちの存在。
‥シビトが悲しめばいいと‥
私のように苦しめばいいと‥そう思った。

それなのに‥

シノ:っ‥ああ‥。‥あなたは‥いつもそうだったわね‥。
昔から、弱いくせに諦めが悪くて‥
話を聞かなくて‥本当に世話の焼ける人の子だった‥。

屍人:‥し、の‥?

シノ:いつもいつも笑っていて、
あなたといると、毎日が楽しかった‥。

ずっとこんな日が続けばいいだなんて、
人の短き一生を知っていながら、そう願っていたほどに‥。あなたを‥

屍人:シ、ノ‥ごめ、‥よく、わから、ない‥。

シノ:ふふ‥ごめんなさい。引き止めてしまって‥。

‥ほら、行って‥?


シノM:そっとシビトの身体を離す。

私を心配そうに見つめるシビトに、不思議と笑みが溢れた。

シビトの案内はここまでよーーー。

赤い彼岸花が静かに揺れる。

ボロボロの着物に、幼い容姿。

確か貴方が私を見つけた日もそんな姿をしていたわね‥。


ーーーーーーー
過去)

読まなくていいト書き的な)幼い思人と、シノの姿。シノは古い祠の側に腰かけ、それを不思議そうに思人が見つめている。

屍人過去:なあ、お前も1人なの?

シノ過去:‥私の事が怖くないの?

屍人過去:なんで‥?凄く綺麗なのに。

シノ過去:っ、ふふ。妖の私が綺麗に見えるの?気味の悪るい人の子‥。

屍人過去:へえ、お前妖なのか。凄いな。

屍人過去:でも、想像してたのとなんだか違う‥。

屍人過去:こんなに綺麗だなんて‥

屍人過去:むしろ、俺の方がボロボロで妖怪みたいだ‥。

シノ過去:ふふ、そうね。あなたみたいな小汚い妖がいたら、一生忘れないでしょうね。

屍人過去:あっ!!なんだこの花!すげえ!はじめてみた!!

ほら見ろよ!お前の目の色にそっくりだ!!

シノ過去:なっーー小僧!!それは彼岸花(ひがんばな)よッ!?
私の事を不吉だって言いたいの!?

屍人過去:ん!これ、お前にやる!!

シノ過去:っ!ちょ、ちょっとっ!‥人の話を聞きなさいよ!!ーーー


ーーーーーーーー


シノ:ふふ‥そうよ。私が言ったのよ。すっかり忘れていたわ。

この汚ない小童(こわっぱ)の格好も、あなたからの合図だったのね。

一生忘れない゛だなんて、冗談に決まっているのに‥馬鹿な人‥。

屍人:シノ‥?

シノ:ふふ、私の負けよ。
本当に諦めの悪い頑固者。
誰よ、゛思い人、なんて名前をつけた人は‥。
そんな名をつけるから、私みたいなのを忘れずに‥思い出してしまうのよ‥。

屍人:し、の?泣いて、る、の‥?かな、し、い?だい、じょ、ぶ?

シノ:ふふ、いいえ‥違うわ。違うのよ。嬉しいの。わたし。嬉しくて温かくて涙が出たのよ。

シノM:合図は確かに受け取ったわ。
あなたは約束を守ってくれた。
それだけで十分よ。


屍人:っ、シノ、

シノM:私の側から動かないシビトの背中を、そっと押す。

シノ:さぁ、大丈夫だから行って。

屍人:う、ん‥。

シノ:ふふ、あなたの新しい人生が、
さち多き人生であらんことを‥。
大妖おおあやかし 黄泉先達よもつせんだちが、そのりきを込めて祈りましょう。

屍人:っ‥うん!‥ありがと。シノ。


また、ね!

シノ:えぇ‥また‥。

シノM:あの世の暗闇の中で、
歪んだその輪の中に飛び込む小さな背中を見送る。

ああ、変わらない。
ふと、シビトから渡された彼岸花を見つめる。

シノ:ねえ、思人(シビト)‥
仕方がないから、あなたの約束をきいてあげるわ。

気長に
待っててあげる。

輪廻の先で、また出会える
その時までーーー



ーーーーーーー



0:古びた祠。
黒い制服を着た青年が、そっと足を踏み入れる。

大きな桜が咲き乱れて、その木の上にいた淡い髪のナニカが、ゆっくりと、真っ赤な瞳を見開いた。



思人:なあ、お前も一人なのか?綺麗な妖さん?

シノ:ええ、大切なものがみつからなくてね。だからずっと1人で探しているの。

思人:でももう遅すぎたみたいだな。ちゃんと隅々まで探したのか?痺れを切らして、大切なものから探しにきたみたいだけど?

シノ:ええ‥ええ‥どうやら、そうみたいねッ。

思人:シノ。また会えたな。

シノ:うん!ッやっと会えた!思人ーーー。



おわり。
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