神子様の捧げ物が降らす激雨の愛

岡本波瑠

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第一章 ルシュディーと俺

ルシュディーの心と俺の心

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「お、おい!」
「じっとしてください」

 懐から小さな裁縫道具を取り出して、チクチクとほつれを直していく。
 王子が着用するために作られた服だからか、とても手触りの良い布で出来ていた。きっと優秀な服飾家が作ったのだろう。

「終わりました」
「お前……あまり急なことをすれば、近衛が飛びかかってくるぞ。それに使用人のやることを、あまり進んでやるな」
「あ、すんません」

 思わず素で反応してしまった。
 刺繍や編み物は貴族でも嗜む者は多いらしいが、解れの修繕は使用人が修繕し、程度が酷ければそのまま売り払う事もあるらしい。貴族が着用した衣装は、次は平民階級の流行りとなる事が多いかららしい。

 本当に分かっているのか?と、訝しげに見てくるラージフ殿下の視線を交わして立ち上がる。

「それでは俺はここらで失礼します!」

 俺は気まずくなり、脱兎の如くその場を去った。
 近衛が側に居たとは思えないが、心臓がバクバクとうるさい。

 ルシュディーの心が高鳴っているところを察するに、ルシュディー本人はラージフ殿下のことが好きだったのだろう。
 男同士であるとか、そんなの関係ないくらいに惚れていたようだ。
 ルシュディーは俺だから、何となくそう思った。


…………
………
……



……
………
…………

 
 いつもより、あべこべな心と体に酷く疲れた。
 しかし、勢いで逃げてきたこともあり迷子は継続中だ。
 やはり、考えなしではダメだ。
 フリューリくんの申し出を受ければよかったと、今更ながら後悔していた。

 俺は気分を変えるためにも、バカ広い宮殿内をさらに歩き回る。

 暫く歩いていれば、使用人とすれ違う回数が増えてきた。恐らく、ここら辺は使用人の生活エリアなのだろう。

 古びたドアを開ける。すると、宮殿の外につながっていた。
 照りつける日差しが大きな宮殿の影に隠れ、少しだけ涼しく感じられる。

 ベッドシーツやメイド服が干されているところを見るに、ここは洗濯場なのだろう。近くの大きなゴミ箱には、生ゴミが捨てられている。
  もしかしたら、調理場も近いのかもしれない。

 困った、本格的に迷った。
 ウロウロしていると、近くから声が聞こえてくる。
 メイドや小間使い達がこちらに向かってきているのだろう。

 近付いてくる声に嫌な予感を覚え、俺は咄嗟に近くの洗濯物の影に隠れた。

「あー、本当。フリューリったら、いつも神子の近くに侍ってて鬱陶しいったらありゃしない」
「そうよ。仕事が雑だとか、神子様のお心を無駄にするなとか! 神子も神子で私たちのこと見下して。いらないから貰ってくれって、こんなダサい物くれちゃってバッカみたい! 興味があるフリするのもフリューリがいる前じゃ、どんだけ難しい事か知らないのかしら」
「あら、アンタも貰ったの? ソレ」
「ええ、神子サマが手ずからお作りになったネックレス! アハハ! 売れば高くつくかもしれないわよ」
「いや、それはないわ。アクセサリーの売り子を任された子達が言っていたけど、たいして金にならないって」
「なーんだ。じゃあ、いらないから捨てようかしら。ジュエリーボックスの肥やしにするなら、もっと上等な物がいいもの」
「それもそうね。侍従長なんか、お守りみたいに肌身離さず付けてて気味が悪いわ」

 パサリ、パサリと軽い音が近くのゴミ箱から鳴った。
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