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リリベルのウィルとの出会い

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私がもうすぐ8歳になるという時、
父ニール・オーウェンは
お茶会をしようと私を呼びつけた。




父に言われた通り、
父の書斎部屋の隣にある応接室に向かう。



コンコンと扉を叩くと中から父の承諾する声が聞こえた。







ガチャと扉を開けてる一礼する。

「失礼致します。リリベル参りました。」

顔を上げると中には父の他に父と同じくらいの男性と私と同じくらいの男の子がいた。




「ぁ…遅れてしまい申し訳ございません」


慌ててもう一度礼をする。
私の顔はきっと真っ赤だろう。
顔が熱い。恥ずかしい。



するといつものようにブワッと私の魔力が漏れ出たのに気づいた。


はっとした時にはもう遅い。


どう対応したらいいのかも分からず
おそるおそる顔を上げた。






「あ、あの…。」

焦ってしまい、何から言えばいいか分からなかった。


「っ…。」



すると男の子が私のところに歩み寄り、
私の手を取って目を合わせた。






「私はウィルフレッド・ヴァージルと申します。
リリベル嬢、初めまして。大丈夫ですよ。」


「ぁ…」



ウィルフレッドの少しひんやりとした手が心地よく、大丈夫だという言葉に安心している自分に驚いた。







「リリベル・オーウェンです。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。」

冷静になった私は、ウィルフレッドの手をそっと離し、貴族の手順通りに挨拶をした。


それを見たお客様は胸の前に手を置き
「エメリック・ヴァージルです。」
と軽い一礼をした。



「…。」


ヴァージルという名前は知っていた。

父と一緒で公爵家の爵位を持つ、
魔軍の隊長である。


「ヴァージル公爵様、本日は誠に失礼な姿を見せてしまい、申し訳ございませんでした。」




「いや、構わないよ。君の父君であるニールに少し話を聞いていたものだからね。
むしろ君の綺麗な魔力を見れて嬉しいよ。」



ふふふと軽い笑いが聞こえてきて安堵した。

ヴァージル公爵様と父は幼馴染という話を以前聞いたことがあった。


「リリィ、こちらへおいで。」

「フレッドもこちらへきなさい。」



父とヴァージル公爵様は私とウィルフレッドをテーブルに呼んで侍女にお茶を用意させる。

今日は男性が多いからか、甘くない紅茶が出された。

「リリベル嬢の魔力は凄いですな。
とても8歳とは思えないほどだ。」

「ぁ、そうなのでしょうか。」

「息子であるウィルフレッドも年の割に魔力が大きい方だが、リリベル嬢のは大したものだ。」

こちらを見ているヴァージル公爵は切れ長の目をさらに細めて笑っていた。


「そうですね。僕も驚きました。
同じくらいの年の子に
魔力で劣ることはなかったので。」

少し悔しそうなウィルフレッドだったが、
口元は笑っていて
怒ってはいないことが分かった。








ウィルフレッドの顔は父であるヴァージル公爵様に似ている。

優しく細い目、そして綺麗な青い短髪が落ち着いた雰囲気にとても合っていた。









「リリベル。実はエメリックに
魔力のことを少し話したことがあってね。
同じ魔力が多いもの同士、
少しは何か気づいてもらえるかもと思って
この場を設けたのだ。」


そうだったのか。

今まであまり外に出ることはなく、
友達も多いとは言えない私のことを
父なりに気にしてくれていたのかもしれないと思った。



「ウィルフレッドはリリベル嬢の2つ上だが、いい幼馴染になれそうかな?」


ヴァージル公爵は嬉しそうに私に問うた。


「ぁ、ウィルフレッド様がよければぜひお願いしたいです。」

私は恥ずかしかったが赤い顔を隠すことなくウィルフレッドの目を見て話した。


少し驚いた顔をしたウィルフレッドだったが、間を置くことなく

「ぜひ、よろしくお願いします。リリベルお嬢様。」と笑ってくれた。



「ではそろそろ我々は仕事に戻ろうか。」

ヴァージル公爵は父にそう声をかけた。

「そうだな。君に相談したい事案があるから書斎で話をしよう。」

「フレッド、私たちは少し席を外すからもう少しリリベル嬢とお茶をたのしむといい。」

「そうですね。
ではそうさせていただきます。」







父とヴァージル公爵様が隣の書斎に消えると、ウィルフレッドは話し始めた。

「リリベル嬢、
リリィとお呼びしてもいいですか?」



友人になるのだからそうしてもらえると私自身も嬉しい。そう思ってすぐに頷いて見せた。


「はい。ぜひリリィと呼んで欲しいです。
ウィルフレッド様は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

少し間が空いてウィルフレッドがこちらを見てはっきりと口にした。

「ウィル。…ウィルと呼んでもらいたいです。」

「ウィルですね。分かりました。」

「できるなら2人でいる時だけでも、もう少し気を許した言葉で話したいものなのですが…」

いかがでしょうかという笑顔は
とても10歳とは思えないほど大人びていた。



子供の順応力は高い。
初めて会ったばかりだというのに、
話したいことが止まらなかった。

まあ、それは、今まで友達の1人もいなかったということも関係しているとは思うが、
ウィルはとても話しやすい人だった。


「ウィルはどうやって魔力をコントロールしているの?」


「うーん、口で説明するのは難しいんだよ、気がついたらコントロールしていたからね。」


「そう。大きな魔力をコントロールできるなんて天才なのね。」

少し悔しかった私は唇を突き出してふてくされた。




「リリィの魔力は僕のよりも大きいからコントロールは難しくて当然だと思うよ。
君の魔力はいい香りで色まで見えそうなほど濃いからね。」




私の魔力に香りがあるほどだとは知らなかった。



「え?どんな香りなの?
私も嗅いでみたいわ。」

と笑ってみせると、ウィルは少し考えて

「甘いラズベリーのようなにおいがするかな」

と優しく笑った。





「そういえば、
さっき私の魔力が漏れ出た時、
どうやって鎮めてくれたの?」




私はずっと気になっていたことをウィルに聞いてみた。



「僕は何もしていないよ。
ただ君を安心させたかっただけなんだ。」





「…私。自分の力なのに1人ではどうにもできなくて。」




私は今までの自分の失態が情けなくて少し泣きそうになった。




「それじゃ、僕がいつでもそばにいて魔力が溢れ出ないようにしてあげるよ。」




ウィルはしっかりと私に気持ちを伝えてくれる。



私はそれがとても居心地が良かった。
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